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第2話・潜入捜査

 砂浜を削りながら海へ帰って行く波。心地よさを感じる音。その音は彼女の耳に届いていない。




「危害を加えるつもりはない。シュウと話したら僕達はここを出て行く」




 波際にいたクロムが僕とリンの間に立った。




「シュウなんて奴、知らねえよ。てめぇの狙いはリンだろ」

「その子に興味はない。言い方を変えようか。ガイス、お前にならわかるはずだ。僕達は地震の根源と話したい」




 ガイスの顔つきが急に険しくなった。心当たりがあるらしい。




「南光でも同じ事が起きたはずだ」

「君みたいなチビッコがどうして奴のことを知っているのかな。名前があるなんて初耳だけど」

「僕に殺意を向けるのは構わないが、ここで殺し合った所で、器は命を狙われるぞ」

「何の話しかな?」




 ガイスへ目を見張らせた。どうやら、土地神を狙う集団がいるとのことは獣が得た情報のようだ。王家が把握していない可能性がでてきた。執務室へ訪れたオウガとかいう爺さん。あいつはただのでくの坊なのだろうか。




「……王家へ連行すると言ったな」

「そうだね」

「いいぞ、連れて行け」




 ナオトを守ると言っていたが、内部を確かめる必要がありそうだ。こんな重要な事を王家が知らないとなると、ナオトどころか、イツキの身も危うくなってくる。どのみちシュウが人に封印されている限り、この国を出ることはない。時間がある内に賭けにでてみよう。




「あらら、気が変わったみたいだね」

「お前には情報が回っていないようだ。王家が信頼していない者にわざわざ情報をくれてやる必要はない。そうだろう、キト」

「間違いないな。下っ端に用はない」

「意見が合致したな。シュウについては直接王家に尋ねてみることにする」




 潔く、揃えた両腕をガイスへ差し出した、その時。


 リンが大きな口を広げた。




「どうしたんだよ、リン!! ここじゃマズイって!!」




 慌ててリンの口を塞ぐクロム。その横で強く耳を塞ぐデス。何事だろうか。


 リンはクロムの手を振り払って、もう一度口を大きく広げた。波の音が聞こえなくなり、向きすらも変わる。砂浜から海の方へ押し返されている。その正体がわかった時、僕は意識の半分以上を持っていかれた。鼓膜を貫通した甲高い音が、直に脳を撫でているような感触がする。


 彼女の口から出た音は超音波だ。さすがのキトも足もとがおぼつかず立ちくらみを起こしている。


 最も近くに立っていたクロムが白目を剥いて砂浜に倒れた。いつの間に耳栓をしたのか、それでもガイスの目はちかちかとしている。


 リンが口を閉じた。




「これで抵抗はできないわけだ。まあ、その意思はもうなかったみたいだけど、ごめんね」




 音が止むと、さわさわとしていた感触が槍のように脳を貫いた。ゆっくりと閉じていく瞼の向こう側で、リンがガイスの腕にしがみついてるのが見えたような気がした――。







 目を覚ますと、薄暗い牢屋の中に放り込まれていた。今にも消えそうな松明だけがほんの僅かに牢屋内を照らしているだけで、向かい側は全く見えない。牢屋は太い鉄格子でいて、腕が通らないほど幅が狭い鉄の棒が並んでいる。とても頑丈に造られているようだ。


 あの後、キトは無事に逃げたようだ。カビ臭い牢屋の中にいるのは僕だけで、他の牢屋に人間の気配はない。かといって、静かに過ごせるわけではなさそうだ。




「なんだ、この声は……」




 どこからか叫び声が聞こえてくる。「失敗だ! 早く別室へ連れて行け!」との指示を出す声も。叫び声は何重にもなっていた。1人ではなく、多くの人が死に絶えているような感じだ。


 そこへ、キトが現れた。




「当初の予定とは違うが、潜入成功だな」

「ああ。それよりも、この声は?」

「人体実験の真っ最中のようだ」

「実験……? タモンがナオトに話していたやつか」




 たしか、北闇からも参加者がでているとのことだった。




「それで、ガイスの神経を逆撫でした理由はなんだ?」

「気になることがある」




 ジンキ達を狙う集団の存在を王家は把握しているのか、彼らにどこまで走流野家を守る力があるのか。それを知りたい。そう説明すると、牢屋にもたれ掛かってキトはため息をついた。




「俺は言ったはずだぞ。闇に触れすぎると飲み込まれる。ナオトの身を心配しているのはわかるが、それなら北闇へ戻るんだ。この世の不条理など無視して、これまで通りの生活を送ればいい」

「僕は言ったはずだぞ。この世界を残す。当たり前の日常を取り戻すためには、集団を始末し、各国の土地神を元に戻す必要がある。それの何が不満なんだ?」

「土地神の件に不満はないが、ナオトに関して俺は手を貸さないぞ。忠告を無視してまでやるというのなら、好きにするがいい。この分からず屋」

「そうさせてもらう。この愚か者」




 鼻で笑ってキトは消えていった。どうせそこら辺で見ているのだ。


 キトが消えた直後、薄暗い牢屋に光が差し込んだ。誰かやって来たようだ。

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