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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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【SIDE】ユズキ

 懐かしい夢を見た。


 あの時、僕は身を任せて来る衝撃に備えた。直後、激しい痛みが幾度となく僕に襲いかかり、背中から地上に激突した。その瞬間、自分の口から血が玉のような形となって吐き出された。


 衝撃の大きさに身体が跳ね上がって、弓のように弧を描いて腹が空を向いた。背骨が折れた。腹の肉が裂け、臓器が宙を舞った。咄嗟に両手で腹を押さえた。再び背中が地上に着いて、状況を理解すると、悶え苦しむほどの激痛が電流のように全身を走った。


 その中で、僕は必死に腸を元に戻そうとしていた。


 叫んでるかのような獣の声を聞いたのは、そんな時であった。



 懸命に身体を動かして声のする方へ向かった。微々たる動きに全く前へ進めてはいなかったが、次第に痛みが引いていった。そして、手の平に違和感を覚えた。押さえ込んでいたはずの臓器の感触がなかったのだ。


 ゆっくりと恐る恐る服をめくり上げた。裂けたはずの腹は元通りに戻っていて、くの字に曲がっていたはずの背中も真っ直ぐになっている。それどころか、至るところにあった傷が蒸気を上げながら治っていくではないか。


 身体が動く。考えるよりも先に僕は声に導かれるように歩みを進めた。そこにいたのは――。




「ねえユズキ、起きてよ。そろそろ任務の時間だよ」




 目を開くと、夢で出てくるはずの本人が僕の顔を覗いていた。癖のある緑色の髪をふわふわとさせながら、眠っていた僕の顔を覗き込んでいる。




「……お前の夢を見ていた。まあ、出てくる寸前で起こされたが」

「懐かしいね。あれからもう4年になる。ってことは、ユズキが俺と一緒に住み始めて4年……?」

「いや、1年は鍛錬場に閉じ込められていたし、もう1年は僕は他国にいた。実際には2年だ」

「なあんだ、意外と短いね。それより、ユズキが寝ているだなんて珍しいね。夜は出かけなかったの?」

「ああ。ナオトは修行のため休暇だそうだ」




 起き上がって背伸びをしたところで、おもむろに自分の背中を確認した。当たり前ではあるが折れていない。




「ついにナオトも言霊を習得するんだね。これで走流野家は皆が有名人になるわけだ」

「今でも十分に有名人じゃないか」




 洗面所に向かいながらそう言うと、顔を洗い始めたというのにイツキは構わずに言葉を返した。




「化け物って意味じゃなくて、何も言われないって意味でだよ。それくらい人って単純じゃん。だからナオトのお父さんは何も噂されてないわけだし」




 言い終えるとタオルを手渡してくれた。気が利く奴だ。


 つまりはあれだ。人間として見られはしないが、守ってもらいたいから口を閉ざす。実に残酷ではないか。


 人間が〝普通〟をこよなく愛する生き物でなければ、ナオトを受け入れられたのだろう。十人十色とはよく言ったものだ。とはいえ、ナオトには複雑な事情がありそうな気もするが。


 頭に友を思い浮かべながら、僕なりに抱く数々の疑問の答えを見つけ出そうとした。その横で、この家の家主・青空イツキが上着を広げる。




「もう12年もたつのにね。ナオトは元々お腹にいませんでした……だなんて、証明しようがないことを今さら誰が気にするんだろう」




 ナオトたちが未だに噂されるのはあいつのせいだ。




「国民の心に自由に割り込める奴がいるじゃないか。そいつの態度が変わらない限り、国民の心に変化は訪れない。人の目とは実に厄介なものだ。無意識に、他人の弱い場所を見てしまうからな」

「タモン様の態度かあ。俺にはよくわからないけど、ユズキはとにかくナオトが心配なんだね」

「まあな。なぜだか守らなきゃいけないって気にさせられるんだ」




 頭に〝?〟を浮かべているだろうイツキを他所に、視線を上着に戻して着替え始める。


 黒と緑を基調とした上着は、北闇の闇影隊であることを示す大事な服だ。一式まとめて戦闘服と呼ばれる。


 鎖帷子(くさりかたびら)の上からジップアップの上着を羽織る。腰袋を装着し、足首まである鉄板仕込みのブーツに足を通す。


 緊急事態に備えて、休日であっても、外出する際には必ず着て出歩かなければならない。




「じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい!」




 さあ、今日は何をさせられるのか。集合場所である正門に歩みを進めながら、体格の良い坊主頭の前で立ち止まった。


 僕とナオトの班の隊長である、青島ゲンイチロウ。筋骨隆々な体格に光る頭が特徴的だ。




「おはよう。相変わらず綺麗な頭をしているな」

「おはよう、ユズキ。相変わらず口が滑らかなことで。もう少し人に優しくなったらどうだ?」




 この僕に人間に優しくなれだと? それは無理だ。なにせ、僕は人間が嫌いだ。心の底から軽蔑している。


 では、ナオトが人間離れしているから友達になったのか――。それは違う。あいつと僕には似た部分が多いこともあって親しくなった。それともう一つ、イツキにも言ったが、複雑な事情を抱えている。その事が気になって仕方ないのだ。


 何を恐れ、何を隠しているのか。本人から直接聞いたわけではないが、ナオトの態度がそう物語っている。そして、必死に隠そうとするその態度が周りに誤解を与えている。




「何も言い返さないとは……」

「ああ、すまない。他のことを考えていた」

「もしや、私の言葉が胸に響いたのか? そうだろう!」




 190センチはある身長で、意気揚々と言う。どうやらこの巨体は上手いこと言い返した気でいるらしい。




「お前が日射病になる前にさっさと任務内容を教えてくれ。倒れられても見捨てる事しか出来んのでな」




 青筋を浮かべながら苦笑した青島は、咳払いをして内容を伝えた。




「今日は特別にある場所へ連れて行こうと思う。お前がずっと気にしていた、アレを見にな」

「ナオトの修行か?」

「そうだ。予定では今日が修行の最終日だ。行くか?」

「もちろんだ。タモンの許可は?」

「いいや、秘密で頼む」

「得意分野だ、任せろ」




 とりあえず、先に通常の任務から終わらせることにした。ただの雑草抜きなのですぐに終わる。


 闇影隊には二つの階級がある。僕たちのような新米は下級歩兵隊と呼ばれる。青島は上級歩兵隊だ。青島によると、昇級するには試験を受けなければならないそうだ。


 下級歩兵隊の主な仕事は雑用だ。掃除代行に山菜採りの付き添い、子どもの世話など。稀に、特例任務が下される時もある。未だに経験したことはないけれど、青島曰く、生死を賭ける大がかりな任務となるらしい。




「さて、行くとするか」




 汗で照り輝く頭を拭いながら、青島が歩き始める。報告書には追加で修行と書いておくそうだ。


 青島のおかげで時間は十分にある。正門を出て辺りを警戒しながら進み、人目のつかない場所で森に入った。そこから木壁と距離を取りながら沿うように裏門へ向かう。裏門は山の中腹にあるので、急勾配な道を登山をしなければならない。




「大丈夫なのか? 裏門は本部の直ぐ真後ろだろう」




 平坦な道を歩いているかのごとく山を登る青島。




「鍛錬場が本部の地下にあることはもう知っているな?」

「まあ、そこで〝1年暮らしたし〟、内部の構造は頭に入っている」

「小川に似せた用水路があっただろう。そこに流れる水がどこから引かれていたか覚えているか?」




 言われてみれば、鍛錬場の壁に空いた穴から滝のように水が落ちてきていた。




「なるほど。確かにあの穴からなら鍛錬場内が見渡せる」

「あの場にはナオトとセメルしかいない。精鋭部隊の監視もなく、作業員も出されている状態だ。お前が見たがっているものは、それほどまでに機密情報である事を忘れるな」




 そうして、川が流れている以外になんの変哲も無い場所で立ち止まった。深さのある川で、幅も広く、しかも流れが速い。目を凝らすと、岩陰に穴が空いているのが確認できた。




「あれか……」

「そうだ。お前の能力なら潜って向こうまで行ける。私はここで見張りをする」




 腰袋からロープを取り出した青島は、それを自身と僕の身体に結んだ。


 飛び込む前に、青島に確認する。




「欲しい情報はあるか?」

「気が利くな。ナオトの性質と、段階だ。引っ張ったらすぐに引き上げろ」




 川と距離を取り一気に駆けた。川岸で飛躍した瞬間に能力を発動させる。


 手の甲と手首の間の肉が膨れ、まるで土から植物の芽が生えるかのようにして先端の尖った物が顔を覗かせた。それは瞬く間に成長した。ある生き物の爪だ。両手首に一本ずつ、あまりにも太くて逞しい爪は、黒光りを放ちながら美しい半円を描き、長さにして50センチもある物となった。名は、狼尖刀(ろうせんとう)という。


 川底まで潜り爪を突き刺した。底であっても川の流れは速く、小柄である僕の身体は流れの向きに浮き傾く。


 爪を突き刺しながら、穴を目指して進んだ。すぐ目の前ではあるが、川底にしっかりと突き刺さなければ簡単に流されてしまうため慎重に向かう。そうして、穴を捉えたところで爪を内側に引っかけて顔を突っ込んだ。


 ナオトがいる場所は捜す間もなくわかった。なぜなら、あいつの身体が燃えているからだ。父親が抱きかかえ、すぐさま用水路に沈めた。




「ごめん、父さん」




 用水路から顔を覗かせたナオトは、落ち込んだ様子で父親に謝った。




「いいんだ。扱いが難しいと言っただろ? とはいえ、ナオトは覚えが早い。もうすでに火から炎へ段階を上げられたんだ。あとは、炎の性質を理解し、触れていくしかない。それに、父さんとは性質が違うからこればかりは仕方がないさ」

「もう一度試してもいい?」

「いいぞ。あまり大きな物をイメージせず、身近な物を頭に思い浮かべるんだ。例えば、マッチとかな」

「でもそれだと殺傷能力がないじゃん」




 ナオトの顔には焦りが窺えた。それに、殺傷能力という言葉。あいつはたった2週間で膨大な力を求めているらしい。


 父親もナオトの胸中を察したのか、優しい口調で咎めた。




「言霊の性質を説明した時に注意したはずだ。力の差を決めるのは感情。それが念となり言霊に影響する。ただのデコピンで人を殺せる代物なんだ。それに、言霊は性質がわかり次第、その物質に触れていく必要がある」

「それは、ここに来た時に聞いたけど……。俺のは火だから、火に触れってことだろ?」

「その通り。父さんのように水だったら良かったんだがな……」




 つまり、ナオトの場合は自傷行為をする他ない、ということだ。それも、自身を火傷させる方法で。想像するだけで吐き気のする習得方法に思わず息を飲み込んだ。マッチで留めておきたい父親の気持ちも分かる。




「父さんから教えられるのは、あの3つの技だけだ。火の性質の能力については、それ以外の技を見たことがない。後は自分で作り上げるか、同じ性質の人に教えてもらうしかない。もうあまり時間もないし、とりあえず二つを集中的に鍛えよう」

「じゃあ、最後の技からやるね」

「ダメだ。よっぽどのことがない限り使用を禁止する。アレの修行はまた今度だ」




 わかったと返事をしてナオトは父親に笑みを浮かべた。父親は気づいていないけれど、あれは作り笑いだ。修行を盗み見に来たはずが、まさかあいつの心情を知ってしまうとは。嫌な予感がする。


 ロープを引っ張って、こちらから青島に合図を送った。川の流れよりも速く引き上げられる。それから瞬時に場所を変え、日の当たりの良い所で休憩した。




「性質はわかったか?」

「火の性質だった。しかも、炎に段階をあげる事も出来ている」




 青島の眉がピクリと動く。




「まさか、そんなはずは……。ナオトは火傷したことがあったか?」

「僕と知り合ってからはないが、それ以前のことは聞いたことはない」




 空を仰いで、息を漏らす青島。こいつはなぜここまでナオトを気にかけるのだろうか。




「……気になるか?」




 僕を横目に見ながらそう問われる。




「当然だ。言うなれば、お前は自ら僕の罪に荷担した。機密情報だとわかっていながら、どうして玄帝に背いたんだ?」

「走流野家に関する情報は全てが機密扱いだ。それを定めたのは王家で、皇帝も一目置いているほどの存在……。その1人が私の部下になった。だがな、ナオトに関する情報まで機密にされては班として機能しなくなる」




 青島が僕を見据えた。




「それはそうと色々と話しは聞いているぞ。お前はタモン様に歯向かってばかりだそうだな」

「僕も色々と聞いているぞ。やけに走流野家に執着しているらしいじゃないか」




 青島は大きな口を開いて笑った。




「気が合いそうだな。初めてお前を可愛い部下だと思えたぞ」

「失礼な奴だな。実は、もう一つ報告しておきたい事がある」




 こいつがナオトに関してきちんと考えている事は伝わった。そこで、僕なりに把握しているナオトの性格を青島に話した。訓練校でのナオトを見ているわけではないため、青島にとっては信じ難い情報だろう。案の定、緩んでいた表情が硬くなった。




「それは厄介だな……。女の子については、確かに聞いたのか?」

「ああ。ナオトに用があって帰り道を追ったんだ。その時に、卒業試験を受けさせるよう仕向ける発言をしていた。しかし、あの子はただの人間だ。当然のごとく死んだ。担架に運ばれていく様を見たナオトは……」




 神頼みなんてするもんじゃないと言って、口元に弧を描いていた。


 あの子は確かにしつこい子ではあった。気味が悪いと罵りながらも、顔を会わせる度にヒロトに必ずラブレターを手渡せと伝えるほどだ。


 ナオトは僕に言った。「自分で渡す度胸がないなら、そんな無駄なことやめておけばいいのに」、と。しかし、ナオトにとっては本人に伝えるまでもなくどうでもいい存在だ。だから、わざとヒロトで釣って試験を受けるよう仕向けた。




「たったそれだけで、その子を死へ誘導したのか?」

「断言は出来ないが……。ただあの日、気味が悪いけど良い奴だと彼女は褒めた。ナオトを受け入れ始めてたんだ」

「つまり、自分の領域に踏み込もうとしたから、追い出そうとした……」

「多分な」

「いったい何を抱えているというのだ……」

「それが僕にもわからないから困っているんだ。よっぽどの事がない限り絶対に口にしないはず。無理矢理にでも聞き出そうとすれば最後だ。もう本音では接してくれなくなる」




 夕暮れ時、北闇に歩みを進めながら話を続けた。




「そういえば、訓練校の同期だけでなく、本人も自分のことを最弱だと言っていた」

「最弱、か。セメルやヒロトと比較したところで、あの子はあの子だろう」

「まあな。僕からすれば、ナオトは走流野家の中で一番最強だと思うんだが」




 そうして今夜、きっと待っているだろう最強に僕は会いに行く。

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