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最終話・2年後

 取り調べは上層部によって行われた。俺とヒロトは取り調べが終わるまでの間だけ牢屋の中に入れられている。訓練校一の問題児がここにいるからだ。後は、家族ぐるみの犯行、その可能性を除外できないからというところか。


 理由はなんだっていい。どうでもいいんだ。




「ヒロト、起きている?」




 向かい側の牢屋で背中を向けながら横になっている兄に声を投げる。




「眠れるかよ」




 鼻をすすりながら答える。ショックが大きかったようだ。

 



「平気か?」




 むくりとヒロトが立ち上がった。鉄格子を握って俺に叫ぶ。




「さっきからなんでそう平然としてんだよ!! 親父は俺達に嘘をついてたんだぞ!?」

「嘘はついてないよ」




 父さんは俺達に嘘をついたわけでもなければ、騙したわけでもない。最初から爺ちゃんについては触れてなかった。言霊や自己暗示について話した時も、「薄紫色の瞳を持つ者は必ず命を狙われる」と言われた――、それだけだった。




「隠してただけだ。父さんは、いつもそうじゃん……」




 母さんのことも、爺ちゃんのことも、過去については話さない。もうわかりきっていることだ。そういう人なんだ。




「誰も気づかないよな……」

「なんのことだよ」

「爺ちゃんのこと。爺ちゃんの能力をタモン様はすごく褒めてた。でも、能力のせいで、色んな可能性を生んでしまった。タモン様もどれが答えなのかわからなくて捜索は思うように進まなかったんだ」

「そこまで知っていて、冷静でいられるのがおかしいっつってんだよ!」




 父さんは国民から厚い信頼を寄せている。それは北闇に限らず、他国でもそうだ。ハルイチも高く評価していたと言っていた。爺ちゃんは特にそうだろう。自分の息子に裏切られるだなんて思いもしないはずだ。


 だけど、やっぱり関心が湧かない。だってそうだろう?




「俺の態度が気に食わないなら謝る。ただ今回のことも含めて、今まで色んな事があったけど、もう何を信じていいのかわらないんだ」




 最初からそうだ。走流野家の能力から始まって、解決できないことばかりが次々に起きた。いくつもの濡れた服が竿を曲げているみたいに、俺ももう限界が近い。


 答えを握っている爺ちゃんは王家の手中にあり、ユズキは何に関わってしまったのか、それすらも不明だ。まるで不幸のどん底にいる気分だ。




「見つけたと思いきや、また雲隠れして……。何から手をつけたらいいんだよ」




 平然としていられるわけがない。けれど、冷静さを保たないと、頭がどうにかなりそうだから必死に堪えてるんだ。これまでもずっと、そうやって自分に言い聞かせながらやり過ごしてきたんだ。


 大きく深呼吸をした。




「ごめん、なんでもない」

「そんなわけないだろ……。怒鳴っちまってごめんな」




 ヒロトが鉄格子に額を置いた。


 しばらくして、タモン様と総司令官がやって来た。取り調べが終わったようだ。




「待たせたな」

「父さんは、やっぱり爺ちゃんを?」

「…………残念だが、そうだ。王家に引き渡したらしい」

「そう……ですか……」




 改めて突きつけられた現実に言葉が詰まる。




「理由は?」




 ヒロトの掠れた声が響いた。




「家族を守るためだ、と。巨犬の逃走の手引きをした事も吐いた。北闇を襲った猫の重度に関しては否定していたが」

「かなり焦ってたもんな、親父。あれが演技だったら受賞もんだぜ。で、親父の役目はなんだったんですか?」

「重度の逃走経路の確保だけだ。西猛や月夜の件にも関わっているが、あそこまでの被害をだすとは本人も予想外だったらしい。取引では、逃走を手伝えと、それだけだったそうだ」

「取引ってなんですか?」




 俺の問いかけには総司令官が答えてくれた。




「万が一、ヘタロウさんが王家から脱走することがあれば、代わって始末するというものだ。どうしてそんな取引をしたのか、その理由については黙秘している」

「そんなっ……。だいたい、家族を守るためって、爺ちゃんと父さんの間にトラブルでもあったんですか?」

「我々は、2人の間柄については重要視していない。問題なのは、王家へ引き渡す前に重度と取引をしていた事だ」

「どういう意味でしょうか?」

「そもそも、オウガ様は王であられるというだけで、一連の首謀者なのかも怪しいところなのだ。敵は、王家という貴族を盾にして身を潜めている可能性もある。仮にそうだとしたら、重度と密に繋がっているのは王家内の誰かだ。そして、その誰かが一連の事件の動因というわけだ。もちろん、オウガ様が首謀者である可能性も否めないがな」




 タモン様と総司令官は答える姿勢をみせてくれたけど、俺とヒロトが他のことを質問することはなかった。事の重大さを頭のどこかで理解していても、あまりにも難しすぎて口が開かなかったのだ。


 牢屋を出た後の帰路は、それぞれ違う方向だった。俺は爺ちゃんの家に、ヒロトは自宅へと帰って行く。







 それから2年の月日が流れた――。


 幻惑の森に拠点があるのではないか――。先程、タモン様とツキヒメによりその話しがされた。本部を去って行く闇影隊を見送っていると、久しぶりに会う顔が俺の視界を遮った。




「やあ、久しぶりだね、ナオト君」




 声をかけてきたのはハルイチだ。隣にはネネがいる。




「私はタモン様へご挨拶に行って参りますわ」

「長居するんじゃないぞ。ヘタロウさんの家で待っている」

「わかりました」




 ハルイチと共に帰路を歩く。




「あれから接触はあったかい?」

「いや、なにも。また消えた」

「まさか敵同士になってしまうとはね。親しい仲だったと、イツキ君から聞いたよ」

「邪魔されても、威支の一員になったとしても、友達だ。俺が見つけ出す」

「是非とも説教してやってくれ。彼女のせいで、地下室に辿り着けなかったのだから」




 そう言って、ハルイチは扇子で口元を隠した。




「思い出す度に腹が立つ。あと少しだったのに……」

「あれから地下室はどうなったんだろうな」

「王家はいまだに犯人が俺達だと気づいていない。だが、地下室の存在が知れたことには気づいただろう。もう破壊されているさ」

「だよな。重度も動いていないようだし、今がチャンスなんだろうけど。ニオイや気配がないから、ソウジ達も苦戦してるみたい」




 2人揃って空を仰ぎ、盛大なため息をついた。


 青島隊長がタモン様に提案した、五桐ハルイチに一任するという件を覚えているだろうか。


 タモン様の要請に対して、彼は手筈を整えるとすぐに行動に移った。それまでに費やした時間は数ヶ月にもなる。王家内に侵入するということで、爺ちゃんの捜索も引き受けてくれたからだ。


 地下室へ通じる扉を発見し、侵入。長い階段を降りて、板を剥がす所までいったのに、最深部へ到達する前に予想だにしない人物が現れた。ユズキだ。


 ユズキは重度と手を組んで行動しているどころか、傍らに立つ背の高い男の肩に爺ちゃんが担がれていたという。お決まりのフードで顔までは確認できなかったそうだ。




「君の大切な友達は、君の大切な家族を連れ去った。それなのに友達でいる理由はなんだい?」

「信じるって、そう約束した。変な奴って思われるかもしれないけど、ユズキと一緒なら安心するんだ。絶対に危害は加えないって、そんな感じがして」

「…………まあ、いいでしょう。俺はしばらく北闇に滞在するけど、ナオト君は? 任務があるのかい?」

「2日後に南光に行く。しかもこの任務、タモン様じゃなくて、当主からなんだよな。場所は離島なんだって」

「離島……ですか」




 ハルイチが眉をしかめる。




「知ってるのか?」

「ええ。そこには俺を恨んでいる人が大勢いる」




 離島の名前は幽霊島。14年前の大地震で失われた、東昇の一部が島になった場所らしい。


 それだけ教えてくれると、ハルイチはこの件に触れたくないのか、他愛ない会話へ話しを逸らせた。


 色んな事があったけれど、俺はまだ闇影隊でいる。ユズキが接触してきた時にくれた情報を胸に、ハルイチに心の中で謝りながら、爺ちゃんの家へと歩くのだった。

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