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第11話・セメル、逮捕

 ヒロトが任務中で良かったと思える日がこようとは。運良く、父さんも北闇にいない。だから、タモン様が怒りのままに執務室で爆発しようが問題ない。青島隊長がタモン様に対して大声で反論しようが、一番巻き込まれているであろう俺の腸が煮えくり返ろうが、やはり問題はないわけだ。


 ここで大事なのは、この件についてタモン様が何も把握していなかった事だ。爺ちゃんと重度の繋がりを疑っていたほどだ。当然の反応かもしれないけど、少しだけ安心した。




「なぜタモン様の言い分を王家が受け入れないと、頭から否定するのですか!? まだ調査もしていないのに、結論づけるのが早急すぎます!」

「だから何度も言ってるだろう! そういう人なんだよ、あの老いぼれは!」

「この私が、そんな子供だましな言い方で納得するとでも思っているのですか!? 一刻も早くヘタロウさんを救出しなければ、走流野家に関すること全てが闇に葬り去られますぞ! タモン様が動けないのならば、私が動くまで! もう我慢なりません!!」

「先走るな、青島! セメルが先だ!! 今の状況で同時進行は厳しいとわかっているだろう!? ナオトの事も考えろ!! 疑心暗鬼になっているガキを引っかき回してどうする!」




 言い返そうとした口を、青島隊長は静かに閉じた。




「オウガ様は俺と契約を交わした。特異体質を持つ走流野家に、平等なる暮らしの提供と、身の安全の保証についてだ。これは、他の国よりも優先して物資を供給する事を条件とした、俺からの交渉だ。ないがしろにしているわけではない。王家が相手だぞ。慎重になれ」

「私としたことが……。申し訳ありません」

「とにかく、セメルが戻るまでの間に目前のことを片付ける」




 ずっと息を止めていたのか、イオリが大きく息を吐き出した。大人同士の言い合いだ。こちらは口出しできない。




「まず一つ、ヘタロウへの疑いが晴れた。これは良い収穫だろう。重度との繋がりが選択肢から消された時点で、残るは能力だ。王家は走流野家の体質を調べるためにヘタロウを連れ去った可能性が高いと考える。初めてナオトと会った時、オウガ様は瞳を気にしていたしな」




 そんな些細な出来事を誰か覚えているだろうか。言われて、まじまじと観察されたことを思い起こす。




「二つ、光の柱について。壁にあった文字は光の柱を意味する生き物でまず間違いない。北闇には亀、ジンキが存在する。もうイツキから聞いてるな?」

「はい」

「この流れでいけば、西猛には虎がいることになる。これはコモクを問い詰める」




 何の話しだと、俺とタモン様の顔を交互に見るイオリを無視して、タモン様は話を続けた。




「三つ目に神霊湖。あそこは調査が進んでいない巨大な湖だ。常に霧が発生していて何があるのか、どんな生物が存在するのかもわかっていない謎だらけの場所。そこを指す意味は不明だが、ヘタロウが興味を示すんだ。必ず何かあるだろう」




 そして、最後に。奴が解き放たれるという、どこか恐ろしい言葉。




「おそらく、これはジンキなどとは別の生き物だ。王家がまだ発見できていなければいいが……。それにはまずヘタロウを救出しなければいけない。そして何よりも、なぜセメルがヘタロウを売ったのか。根本的な理由から問いただす必要があるだろう」

「私から提案があります」

「言ってみろ」

「王家内を隠密に調査するのであれば、東昇の五桐ハルイチが適任かと」

「東昇はどの国よりも王家から恩恵を受けている国だぞ。乗るとは思えん」

「そうとも言えません。彼と話す機会は十分にありました。一度、話しを聞かれてはいかがでしょうか。向こうの返事を待っている間に、セメルの件を片付けましょう」




 今の状況で北闇から人員が割けないのはタモン様も承知のはずだ。それに、この人は賢い。青島隊長の言い方で何かを察しているし、青島隊長は駆け引きにでている。


 この人を信用していいのかどうか確かめる気でいるのだろう。




「なるほど。いいだろう。セメルは予定では3日後に帰還する。それまで行動は控えるんだ。絶対に勝手なことはするんじゃないぞ。いいな?」




 そう命令したタモン様の目は俺を捉えていた。




「爺ちゃんが帰ってくるなら俺は何もしません。それよりもヒロトを守ってください。お願いします」

「当たり前だ」







「楽しいお泊まり会のはずが、なんかごめんな」




 トリートメントを拭き落としながらイオリが謝る。




「別にいいよ。家の中が良い匂いになったし」

「んだよ、それ。不安にならねえの? 自分の父親だろ」

「…………父さんは前々から何かを隠していたんだ。それが家族のことだからって不思議じゃない」

「ド陰キャが移っちまったのかな? ちっとも前向きになれねぇわ」

「俺だって前向きなわけじゃない。ただ、あり得るなってこと」

「俺からしたら十分前向きだっつーの」




 それから、3日後がやってきた。


 正門には、総司令官を先頭に精鋭部隊がずらりと並んでいる。父さんの姿が近づいてきた。


 その光景を、青島班と赤坂班は遠目に眺めている。下唇を噛んで涙を流すヒロトと、俯く俺。総司令官の声が耳に届いた。




「走流野セメル、そこで止まれ。他は行ってよし」




 共に任務に出向いていた仲間が去ってから、総司令官が言葉を紡ぐ。




「走流野ヘタロウ失踪事件に関与した疑いで、国帝命令により貴様を連行する」

「…………」




 父さんは否定しなかった。


 この時、俺はユズキのことを少しも考えていなかった。彼女が北闇を去るときに、確かに重度のような生き物を目の辺りにしたというのに、父さんや爺ちゃんのことで頭の中の容量はすでに超えていたのだ。


 奴が解き放たれる――。それが、あの黒い狼を指していると知ったのは、まだまだ先の話になる。

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