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第9話・作戦会議

 なんの策も練らず、しかも備えもなしに突発的な行動に出るのは青島班にあってはならない作戦だ――。この言葉は、強化合宿の時に青島隊長が俺達に言ったものだ。王家へ反逆に出ると知ったハルイチが両手を挙げて舞い上がると、青島隊長はあの台詞で釘を刺した。彼は喉まででかけていた言葉をグッと飲み込んだ。


 聞けば、彼の妹は俺達と同じ年なんだそうだ。誕生して数ヶ月後に地震の被害に遭い、両親や仲間を亡くしたハルイチは生き残りと共に妹を育てた。


 彼はとても正直だった。「こいつさえいなければ」だとか、「どうして自分が」だとか、何度も同じ事を思っては悔い、その度に王家を恨んだそうだ。


 地震の日から髪の毛を切ったことがないらしく、頭頂で束ねられた長い髪は目的を果たした時に切るらしい。


 彼の気持ちが本物だとわかったところで、ハルイチは懐に隠し持っていた情報を提供してくれた。




「そもそも、王家への反逆は俺の父上から計画されていることでした。当時、西猛を治めていた白帝・ラオ様と手を組み、ある人を捜していたようです」

「その者とはいったい誰だ?」

「行方不明になられたエイガ様です。父上とラオ様は数少ないトア派でした。ラオ様が亡くなられてからは父上は信頼できる仲間を捜していたようですが、その父上も地震で亡くなりました。死ぬ直前、父上はネネ達にこんな言葉を残しているそうです」




 ラオの遺産を守れ。決して王家の手に渡すな。いざという時は、コモク様のお力になるのだ――。


 青島隊長が目を見張った。




「まさか、ライマルを逃がしたのはハルイチ殿の父上か!?」

「その通りです。王家ともあろう貴族がこの事を公にするはずがありません。歴史に泥を塗るようなものです。おそらく、王家は知っていたのでしょう。地震での態度は罰といったところでしょうか」




 話しを理解できずにいる俺達に、青島隊長はこう説明してくれた。


 ライマルには他の混血者にない言霊の能力がある。それを得たのは、雷に打たれて一度死んだからだ。王家はこの力を解明しようとライマルを引き取ったが、彼は脱走し、ラオ様が身柄を保護した、と。




「王家に追われた父上は、西猛の領土内にライマルを隠し、東昇へ帰っています。必ずラオ様が通る道に置いたのですから、彼はその後きちんと保護された。王家のプライドを利用した父上の作戦は見事に成功したわけです」

「しかし、それとエイガ様にいったい何の関係があるのだ?」




 ネネが一つ前へ出る。




「オウガ様の奇行はエイガ様が行方不明になられてから始まりました。それほどまでに我が弟を恐れている……。先代がエイガ様を捜していたのは、彼自身に何か秘密があるのだと踏んでいたからですわ。王家が目をつけた者全てに関して、先代は度重なる情報収集に励んでおりました。そこで、気づいたのです」




 そう、何も出てこない。




「政策には失敗がつきものです。必ずしも全部が上手くいくはずはない。ですが、今の王家に目立った穴は見当たりません。王家は私たち混血者にとって重要なことを必ず隠している。青島様が話されていた地下室、とても気になりますわ」




 人間の誰よりも混血者を理解し、歩み寄ろうとしていたエイガ様。彼に対して心を開いている混血者も多かったそうだ。ネネは、今の時代があるのは、エイガ様の行いのおかげだと言った。だが、それを語る者は少ない。


 俺自身、青島隊長から話しを聞くまで、オウガ様に弟がいるだなんて知らなかった。




「コウマという巨犬、あの子の記憶もきっと関係しているでしょう。俺達は王家が隠蔽した情報の一部だとみています」

「…………過去に戦争があったと?」

「ええ。それも、経験した者がいない時代に。これで教科書に記載されていない理由と合致します。俺達が知らないはずだ」

「なるほど。その答えも地下室、か」




 ここで、青島隊長は地下室を発見したのが、月夜の国の当主・天野カケハシだと話した。


 彼らの気持ちを十分に理解した上で教えたのだろう。人間にも味方はいるのだ、と。ラオ様だけではないとわかってほしかったのだ。




「カケハシ殿の勇敢な行いに心から感謝してほしい。私の無謀な頼みに乗り、そして我が子を守って英雄となられた立派なお方だ。お前達の記憶にしかと刻み、何世代先まで語り継ぐと、今ここで約束するのだ」




 言い方に思わず背筋が伸びた。当主を相手にして「お前達」という言葉を使ったからだ。青島隊長の思いは、約束は、本気だ。


 ハルイチは青島隊長に深く頭を下げ、畳に額をつけた。




「なんて優しいお方だ。そのお言葉、我が混血者の繁栄と、良き未来を願ってのものだとしかと受け止めました。東昇の混血者を代表し、必ず成し遂げると誓いましょう」

「では、地下室の件、そちらに一任する。青島班は重度と走流野家に関する情報収集に勤める。連絡担当はネネだ」




 ハルイチが頭を上げる。




「ありがとうござます。父上から受け継いだこの力がきっと役に立つはずです。俺達は姿を眩ます天才ですから」

「だから東昇は敵に回したくないのだ」




 青島隊長の冗談で、室内はやっと新鮮な空気を取り戻したかのようだった。


 それからというもの、拍車がかかったかのようにハルイチの尋問はヒートアップした。だが、コウマは相変わらず叫び散らかすだけで、当初と違った情報を口にする事はなかった。


 もしかすると、月夜の件を知らされていないのではないか。そうハルイチに言うと、彼は次なる作戦へ出た。


 イツキはそれも一つの手だと納得しているが、イオリは猛反対だ。




「わざわざ逃がす奴がいるか!? とんだお馬鹿さんじゃん、こいつ!」

「だけど、タモン様も言ってたじゃないか。重度は手を組んでいるけど目的は違うって。これはフードの男に限ったことじゃないかもしれない」

「あの猫野郎か」

「目的を調べるためには泳がせるのも一つの作戦だよ。だから俺はハルイチの案に賛成かな」

「イツキはそれでいいかもしれねえけどよ、俺はイヤだからな。またどこかで誰かが死ぬかもしれねえ。子どもみたいな姿してるけど、殺人鬼だってこと忘れるんじゃねえぞ!」




 荒々し足取りで部屋を出て行くイオリ。ついでに尋問部屋に立ち寄ったようで、「人間はお前より激弱だっつーの!」と大きな捨て台詞が聞こえてくる。


 こうして、わかりやすく拘束を緩めたハルイチ。見張りは寝たふりをして、作戦通りコモクは一目散に東昇から逃げていった。


 翌朝、青島班は北闇へ帰国するため正門へやって来た。




「実行日は追々連絡いたします」

「こちらも随時報告する」




 去り際に、ハルイチが俺を呼び止めた。




「大丈夫かい?」

「まあ、なんとか」

「高く評価していただけに、セメルさんの件は俺も残念に思う。事実解明を急いだ方がいいだろう」

「そうするよ。こればかりはタモン様に報告しなきゃな」

「俺達は味方だ。何かあれば東昇へ逃げてこい」

「ありがとう」




 内通者の可能性もある。考えたくはないけれど、もしそのせいでウイヒメ達が死んだなら、俺は一生父さんを許すことはできないだろう。


 一歩一歩、踏みしめる度に、強くそう思うのだった。

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