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第4話・最弱、ハルイチに会う

「うへー……、鉄の壁かよ。さすが軍事国家だぜ」



 黒みがかる壁を見上げながら、正門を通過する。どことなく錆び臭い国、東昇。中は北闇と似たような民家の並びがあって田舎の雰囲気ではあるが、振り返ればそびえ立つ鉄の壁。ちぐはぐな世界に迷い込んだみたいだ。


 男性も女性も、東昇の闇影隊である事を示す黒と青の上着を羽織る人達は、皆の目つきが鋭い。よそ者を見るような眼差しではなく、敵を見るかのような警戒した面立ちでこちらを観察している。




「着いて早々、居心地悪りぃな」

「同感」




 とにかく、受付で任務のため訪れたことを伝えた。始めに蒼帝・ジコク様へ挨拶と感謝を、そして青島隊長とイツキの身柄の受け取りという手順があるからだ。




「その件についてはハルイチ様が一任されている。五桐家へ行きなさい」

「ジコク様へ挨拶くらいは……」

「行かなくていい。時間の無駄だぞ」




 地図を渡して、受付の人はそれ以上何も話さなかった。


 赤丸で記された場所は、国の南側。中心街から離れた所であった。お店などはなく、民家がちらほらあるくらいで、一帯に畑ばかりあるような辺鄙な場所だ。角が見えないほど横に広い平屋はそんな中に腰を据えている。一見、新築のように見受けられる。




「五桐ハルイチって試験の時の奴だよな? 髪の長い女みてえな」

「うん。緊張しているのか?」

「いやさ、あいつって俺らとそんなに年変わらないだろ? それなのに、他の誰でもなくハルイチに会えってさ。なんでだ?」

「それは…………」




 答える前に、大きなカゴを背負ったハルイチがやって来た。カゴいっぱいに野菜を採ってきたようで額に汗をかいている。隣にはこちらが思わず目を背けてしまうくらいに露出の激しい年上の女性が歩いている。




「やあやあ。早い到着だったね」

「ハルイチ様、私が持ちますわ! 早く下ろしてください!」

「もう家の前だよ。それよりも客人を案内してくれないかい。光栄なことに、走流野家の息子がこの家を訪ねてくれたんだ」

「ハルイチ様が他人を褒め腐るだなんてっ。さあ、入りなさい。客人」




 申し訳ないと謝るハルイチに、苦笑いを返しておいた。


 聞きたいことは山ほどある。その前に挨拶だ。居間に敷かれた座布団に腰を下ろした。




「青島班所属の走流野ナオトです。仲間を保護して頂き本当にありがとうございます」

「同じく青島班所属の豆乃イオリっす。助かりましたわ」

「五桐ハルイチだ。この国の当主を務めている。堅苦しいのはなしにして、楽にしてくれないかい? まずは茶を飲んで一息つこう。話しはそれからだよ」




 ちなみに、女性の名前はネネというそうだ。ハルイチのお世話係みたいな感じだろう。額の汗を拭ってやり、着物を整え、周りに塵が落ちていないかまで確かめている。




「ネネ、やめてくれ。恥ずかしい」

「興奮しますわ」

「なぜだ。いや、いい。答えるな」




 言い直そう。お世話係ではなく、ただの世話焼きだ。


 ネネを追い出してハルイチが本題へ入った。




「見苦しいところを見せてすまなかった。さて、青島さんとイツキ君についてだが、ここにはいない」

「「え?」」




 イオリと声が重なる。




「保護していないという意味ではないよ。流れ着いた彼らを保護したのは確かだ。ただね、違う場所にいるんだよ。今から案内する。たーだーしっ」




 扇子の先で畳をこつんと叩く。




「手出しは無用です。邪魔しないであげてください。まあ、見たらわかるでしょう」




 外へ出てハルイチの後に続いた。どこへ向かうのか、五桐宅よりももっと南の方へ進んでいく。民家はなくなり、平原地を歩いている。ふと、ここである事に気がついた。




「壁がない……」




 地平線があるだけで、国を囲っているはずの壁が前方に見当たらないのだ。おかしな事に左右にはちゃんとある。




「耳を澄ませてごらん」




 平原を歩いているのに波の音が聞こえてくる。その方を向くと、三角状に割れた大地が。ハルイチが立ち止まったのは、三角の頂点に位置する部分だった。底辺の部分から先は切り落とされたかのように大地そのものがない。まさに断崖絶壁である。




「12年前の大地震で、東昇は国の3分の1を失った。壁がないのではなく、大地ごと海に沈んだんだよ」




 高さは測れない。それくらい高くて、人の侵入を拒むように切り立った岩肌が断崖となって青い海原にそそり立つ。押し寄せる波は、叩きつけられては砕け、白いしぶきをあげるたびに波の音を反響させていた。




「ほらあそこ。青島さんとイツキ君がいるよ」




 扇子で示した方向には確かに2人の姿があった。けれど、声をかけて届くような距離ではない。


 断崖の間に吊されている黒い箱、牢鎖境の上に座っている様子をかろうじて目視できる。箱を縛って断崖に固定しているのはハルイチの言霊らしい。




「縄でいう繊維かな。あれの一本一本が蛇だよ。仮に箱に閉じ込められている重度が逃走したとしても、何千といる我が部下達が捕獲する仕組みとなっている。これで邪魔するなと言った意味は理解してもらえたとして……」




 ハルイチが俺に振り返った。




「何やら聞きたそうだ。なんですかい?」




 岩の上に腰掛ける。時間はたっぷりとありそうだ。

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