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ACTion 77 『DEAD OR LOVE』

 警告通りと黒服が三体、いやでなくともドアをぶち破っての侵入だ、警報に尻を叩かれ通路の向こうへ姿を現す。飛び出してきたのが艦橋だと証明するように、その手は規定に従いスタンエアを握り絞めると、藪から棒と顔を突き合わせることになったトラに驚き、たどたどしくもそこで足踏みしてみせた。

 トラの片側を、デミの教えた入口が天井も斜めにかすめてゆく。

 だとして飛び込むのは目の前の三体へケリをつけたからだと、トラは駆ける足をゆるめることなく踊りかかっていった。

 その外しようのない巨体へ、先頭に立っていた黒服がと背後の一体がスタンエアを振りかざす。むしろ広すぎて定まらぬ狙いのままに銃口をさ迷わせたなら、トラはシワに埋もれた小さな両眼をカッ、と見開く。上げた雄叫びに気圧され黒服たちはトリガーを引き、トラはその巨体を滑らせた。このためにダイエットをしていたのではないかと思えるほどと身軽に、黒服たちの足元めがけ、渾身のスライディングを食らわせる。

 その頭上をエア弾はかすめ飛び、やおら視界から消えた巨体に黒服たちはぎょっとする。かと思えば足を払われ、トラへ覆いかぶさるように転倒した。

 右へ左へ、トラはその体をなぎ払う。立ち上がるが早いか、黒服たちの手もろとも、握るスタンエアをあさっての方向へ蹴り飛ばした。その背に三体目の気配を感じたなら辺りを塗り替え警報音は鳴り響き、重なり耳元でイルサリが読み上げるレポートを聞く。

『父上の生体出力は現在、天然完体に接続。ワイヤースリーブマッチ参戦するも、バイタル低下が深刻』

 その声さえ振り払うように振り返っていた。 

 なら三体目の突きつけるスタンエアと、振り上げたトラの腕は交差する。

 躊躇することなくトラは、振り抜き渾身の平手打ちを黒服へ放った。

 その体は視界から吹き飛び、ゴムマリのように壁で跳ねたならその場へ崩れ落ちてゆく。

『ネオン、ワソランの救出まで、生命維持は不可能と判断しました。ゆえに回避すべく、父上の脳内マップを再構築。システムを稼動』

 その手から、トラはスタンエアをもぎ取っていた。

『父上の接続切断と同時にわたくしが完体操演を続行。時間稼ぎを行います。操演可能な情報を流し込めるだけのラインを至急確保、願います』

 手早く装填状態を確認する。

『何をしている、ジャンク屋!』

 吐き捨てたその足に黒服がまとわりついたなら、見下ろしトリガーを絞った。

 さらに追っ手が押し寄せてくる気配はない。

 トラは通り過ぎた入り口へと振り返る。

『わしの大事な娘を守れぬなら、金輪際、ネオンはきさまに渡さんぞ!』

 巨体を揺らすと、向かって床を蹴りつけた。



 断片と分解され、ネットの狭間に保管されていたアルトの脳内マップはしかしながら、着実に確保された稼働領域の元、イルサリと数個の衛星を介し一つのプログラムへつなぎ直されてゆく。伴い再構築完了のカウントダウンは始められ、前にしたデミとサスをただ驚かせた。

『接続って……』

『それがワイヤースリーブマッチのカラクリじゃったのか』

 デミがこぼし、サスが渋い面持ちで鼻溜を振る。

『カラクリ、って?』

『インナーワイヤレスによるマンマシン・インターフェイスじゃ』

『ええっ』

 問うデミにサスは教えるが、聞いたことはあれどもそれは見たこともないものだ。言葉だけは聞いた事があるデミもまた、有機物と無機物をひとくくりとつなげて操るその技術に、ただ目を白黒させる。

『な、流し込めるくらいって、おじいちゃん、それ、一体、どれくらいあればいいの?』

 とにもかくにも、と鼻溜を振り返した。

『最低でも一二八〇Pbpsは必要です』

 『P』の意味合いはペタ、十の十五乗なら、イルサリに告げられて互いに呆然と顔を見合わせる。が緩ませて、ニンマリほくそ笑んでみせたのはサスだった。

『いいや、それなら用意できるわい』

 本当かと、デミの瞬きは止まらない。サスはそんなデミへ、そしてその答えを誰より待ち望んでいるイルサリへ、勢いよく鼻溜を振る。



『警察に通報じゃ!』

 薄暗さに縮んだ瞳孔が開くまでの間、トラは傾いだ天井を手探りで潜りぬけていた。通信機越し、堂々言い放つサスの声にぎょっとする。

『違法営業コロニーの、いや! 船賊の強襲でもなんでもかまわん。救難信号を打ち上げて早急に座標へのアクセスを強行させるんじゃ!』

 その声は、やおらトラへと向けられる。

『ことと次第によっては公安の到着は早いぞ、トラ』

『タッチアンドゴーか』

 行く先で、通路が白く出口を開いていた。



 脳内マップ 再構築完了まで……


 作業が増えれば、イルサリの声はアルトの頭蓋内でさらに分離してゆく。


 サス 公安到着の予想時刻を計算で るか

 五四…… 五三……


 途切れ途切れと頭蓋内でひしめき合うそれらに浸りながら、アルトは残されたパーソナルスペースへ踏み込んでくるチャンピオンの完体を、狭い視界からのぞき込むように見つめていた。


 それは イルサリが得意じゃろ……

 申し訳ありません 脳内マップを走らせれば 他の作業遂行は不可能 す

 デミ!


 呼びつける様が、まるで癇癪を起こしたようだ。

 ならば答えて返すデミも喧嘩ごしと聞こえてくる。


 救難信号 書き換え中 もうやってるってば!

 これでいいんでしょ ぼく表へはいかないよ

 再構築完了 同時の通報を願います

 よっしゃ この際じゃ 船賊 も協力を依頼するぞ


 その通信コードなら、イルサリが把握しているハズだった。



 (はぁ? 何のためやねん)

 だからして藪から棒の通信に、寝際の船内点検を中断させられたテンは、プラットボードへ眉をひそめることとなる。

『何でもかまわん。アルトに借りがあるというのなら、いますぐお前さんが教えた座標の船へ、総動員でアクセスをしかけてくれんかの。それだけであやつは助かるかもしれんのじゃ!』



 だが遮られる、出口の光。

 それが黒服なら、シルエットになったところで何ら違和感こそなかった。

 ままにトラの前へ飛び込んでくる。

 ようやく慣れ始めた目をトラは、細めて奥歯へ力を込める やがて見て取れた『ホグス』の顔に、小さくシワを揺すって身構えた。



 間近と対峙したところで飛び掛ってこないチャンピオンに、しかしながらアルトは戸惑う。どうにか思考を働かせようとするが、モヤのかかったような意識にもはやそれは難しく、途切れさせないだけが精一杯となる。


 父上 聞こ ますか?


 拾い上げる外部音声よりも、電気信号として直接流し込まれるイルサリたちの声を鮮明と聞いていた。


 カウ トゼロと同時に 接続の切り替えを行いま

 衝撃に 備え 下さい


 聞こえたように、ついにチャンピオンの手がアルトへ伸びる。


 優位を認識させる際……


 細いアルトの完体の喉を鷲掴みにした。

 残された腕でアルトは、その手を押さえつけるが、実質、添えただけに等しければ、それ以上、何ら抵抗することすらかなわない。おかげでイルサリの説明も、最後まで聞き取ることができなかった。ただ漠然と、マグミットから食らった目覚めの一発と同等の衝撃が加えられるのかと、経験上から察して補う。

 ……後、お前は……、どうする?

 どこか的ハズレだとしても、そう問い返していた。


 完体機能 限界まで操演 機能停止と同時の消滅が予想され す


 遠く聞こえるカウントダウンは、すでに二〇を唱えている。



 (せやから、あんまりオススメせえへんでと、言うたやないか)

 詳細を聞かねば動けぬほどとヤボでもなければ、テンは察してただ指を折る。

 様子に舵を握るコーダは肩をすくめ、飛び込んできたこの通信をテンへ知らせたクロマとメジャーは、早くも次を見越し、うなずき合う。

 そんなふたりへ案の定と、テンは振り返っていた。

 満を持し、四本の腕を振り下ろす。

 (俺らを名乗ってスキ放題しよった代償や。フリジアにミクソドリアの船も呼び出して 、いや面倒や、全船賊挙げて積もり積もった因縁、ふっかけたれ!)



 AIだろ。ってのに、お前は死ぬ気だってのか?

 言わずにおれないそれは顛末だった。


 くたばるまで ばれる 時間稼ぎが 本ミッションの目的です


 笑わせるな。

 ぴしゃり、アルトはあしらう。

 だがイルサリはうろたえない。


 お言葉ですが父上

 一二セコンド後 肉体を有し 死する機会すら得たわたしは

 もはや生命を模倣するAIでは りません

 完全たる一生命体であることを ここ 宣言します


 ついに来たかと感じていた。

 なら逃げろ。

 それが道理とアルトは告げる。

 この体も、もうそうはもたねぇ。イキモノなら、死を望む馬鹿こそいねぇぞ。

 遠くで続くカウントダウンは着実に時を削ると一〇を告げ、これでもかと喉へ食い込むチャンピオンの指は、完体の骨さえ軋ませ初めている。


 いえ 父上の安全が確認できるまで この場を離れることは きません


 そうしてお前は、どんな未来を得るってんだ。

 望むなら、イキモノとして希望するなら

 もっと、らしいモンにしやがれ。


 違い す 私の希望は


 返されるイルサリの声は、そうして安定せぬ完体の信号に、より不安定とうねりだす。


 あなたです

 あなたさえいれば わたしはまた生み出されるやも知 ない


 生意気を言うな。


 あなたの中にこそ わたしは存在し得る


 なら命の「つながり」とは究極、肉体も遺伝子も越えて存在し得るものなのか。

 お前は俺の、息子なんかじゃ、ねぇ。

 突き放せば救える、考えている地点ですでに、イルサリはアルトの中で生き物と居座っていた。


 なんと言われようとも そこを避けて わたしの存在はあり得ないの す


 訴えるイルサリが、むしろ全てを虚構のように見せ付けてやまない。


 プログラムは点在しています またどこかでお会い きることを


 だというのにこれが現実だといわしめ、勝手と会話を締めくくろうとしていた。

 待て。

 促してカウントダウンが、五を告げている。

 

 なるほど これがそうなのですね?


 瞬間、イルサリの声は明るく跳ねた。それは長きにわたり続けられた演算の答えが、その見通しがおぼろげながらも浮かんだような希望に満ちた響きだ。


 閉じた個 限りあるものにこそ 替わり身はない


 そこに確信をつづってゆく。


 ありがとうございま た 父上

 肉体を得る機会 なければ認識するに至らなかったでしょ


 もうカウントダウンは三だ。


 死が存在を かけがえのないものへ変える


 二のカウントが、そんなイルサリの言葉と重なっていた。


 あなたは最後まで わたしの偉大なる師です


 一体この息子は、どこまで成長するというのか。


 わたしがあなたを かけがえのない存在とし 愛した事実を ここに記録 ます


 言い切ると同時だ。遠くにあるイルサリの声が、一を告げる。柔らかだった口調はとたん、鋭く手のひらを返していた。


 準備下さい!


 襲い来る衝撃を十分、予感させていたなら、もう観念するほかなくなっていた。

 でなければ、機会は二度と訪れないだろうと思う。

 きっと俺もだ。

 アルトもまた呟く。

 彼は確かにここにいる。

 最愛の息子、イルサリ。

 届いたのかどうかななど確かめられない。

 刹那、チャンピオンの一撃など比にもならぬ衝撃がアルトを襲っていた。かりそめの肉体からそのとき再び、意識は遠く彼方へ吹き飛ばされてゆく。

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