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ACTion 76 『DEAD OR... 9』

『よく、駆けつけてくれた!』

 スラーは声を張り上げる。そして掲げていた両手を、それが降伏のポーズではなく呼び集めるための手招きだったと言わんばかり、下ろしていった。

 前で息を切らせる黒服たちは、種族もバラバラと五体、立っている。倦厭されども歓迎されるなどと夢にも思わず、不意をつくスラーの言葉に、誰もが懐へもぐりこませた手を抜き出すタイミングを失っているようだった。

 などと不意を突かれたのはライオンも同じことだったなら、琥珀色の瞳で何を言い出すのかと、スラーを横目にとらえる。スラーの細い目に同じ芝居を強要されたなら、とにもかくにもうごめいていたその口をつぐんだ。

 見はからったそこからは、スラーの独断場となる。

『すまねー。止めようとしたんだが押し切られた。侵入者だ』

 やおら黒服たちの間に、やはり、という緊張感は舞い戻った。

『そこをどけ』

 ぶっきらぼうと吐きつける。

 だからして、ひとまず通報者と身安全が確保されたスラーは、こう付け加えもする。

『待て。あいつはスリーブマッチでカラケツになったことを根に持ってやがる。試合を邪魔するつもりで飛び込んだって寸法だ』

 もちろんこの情報の真偽を確かめる術は、ない。だからこそつけ入り、スラーは黒服たちをあおりにあおった。

『早く仲間を探しだせ』

 突拍子もない方向から、新たな展開を投げ込んでみせる。

『まだいるのか?』

 返す黒服などまさにいいカモとなり、抱いた妄想を明確にしてやらない手はないと、語るスラーの鼻息も荒くなる。

『会場に紛れ込んでやがる。さっきの輩はただのオトリだ。会場で仲間がガスをまく手ハズらしい』

 その淀みないでまかせに、つぐんでいたハズのライオンの口も、ポカンと開いていた。いや、こうしてはおれまいと、引き締めそこへライオンもまた加わる。

『試合が流れれば、チャンピオンに賭けた大金が水の泡だ。あなたたちが補償しろ!』

 あれほど賭けに拒絶反応を示していだのだから、その絶妙な子芝居がスラーの笑いを誘ったことはいうまでもない。

『ここは俺に任せろ!』

 誤魔化して声を張り上げた。ならその台詞こそ何度目か。今度はライオンが吹きだしそうになる。しかしながらさすがの黒服たちも、その誘いにのるほど馬鹿ではなかった。

『お前たちはここから動くな。後は我々で片づける』

 スラーとライオンへ言い放つなり、懐から実弾銃を抜き出す。その足先が、ワイヤースリーブマッチ会場をとらえた。次の瞬間にも駆け出したなら、ガッテン見送り、スラーも返す。

『わかった、気をつけろー』

 だが口調には、微塵も気持ちがこもっていない。

 背に、こめかみへと手をあてがった黒服は、早くも得たばかりのエセ情報を振りまいてくれた様子だ。

『よっ。せいぜい目をさらにして、仲間探しに張り切れよー』

 止めとこぼしてスラーが振り返る。底でライオンと目と目を合わせた。なら浮かぶのは、してやったりの笑みとなる。次の瞬間、きびすを返していた。互いもまた、トラの消えた通路へと身を躍らせる。



 投げ捨てた腕が重々しく、マットの上を転がってゆく。手のひらを見せ、手首をひねるようにしてまた裏返れば、それはもうただの肉片と化していた。

 これですっきりしたといったところで、なんら言い過ぎではないだろう。だからこそこの体は自分のものではないのだと、単なる道具なのだとアルトは感覚の全てを否定し続ける。


 父上 聞こえま か? 無ち です


 もちろん傍から見ればその行為は、狂気そのものだ。

 示してチャンピオンの目も、初めて不快に細められている。

 ほかに、手は、ねぇッ……。

 果てに途切れはじめたイルサリの声へ、アルトは返した。

 前ではチャンピオンが、これまでにないほどの慎重さで足を繰り出している。行く手を阻んで転がる腕をあさっての方向へ蹴り上げ、さらに互いの間合いを詰めた。


 ほかに手は……


 だと言うのにイルサリは、未だもって可能性を探り続けている。追いつかぬ演算に言葉は途切れ、それきり黙した。

 当然だ。どれほど息子が有能だといおうとも、それはネットワーク世界でのものである。 肉体を持たぬ彼がこれら物理世界において太刀打ちできる術などあるはずがなかった。


 あります!


 だが声は嬉々と響き渡る。

 期待などできる道理がなかったなら、聞き流してアルトは残る右手の感触を確かめた。辛うじて動く筋肉は異物そのもの、アルトへ苦痛と違和感ばかりを流し込む。使えそうになかったなら、チャンピオンに追い詰められるまま、格子へ背をこすりつけた。


 わたしが父 の脳内マップを再構築 

 システ を発動 わたしが完体操 を引継ぎます!


 頭蓋内で、言うイルサリの声を聞く。



 果てに耳にしたクランプ音は、いつも以上に軋みが激しい。言うまでもなくそれは所定位置から少々ずれての着艦ゆえなら、納めるために両手足を突っ張り続けたサスはそこでようやく力を抜いていた。

『ほ。生きとるわい』

 冗談はとうに尽きている。

『おいちゃん! ぼくたちも模擬コロニーに着いたよ! 何か必要なものがあるなら言って』

 鼻溜を揺するデミが補って、動力を絞っていった。続けさま、操縦席の足元に設えられたボックスを引き開ける。量販タイプの通信機を取り出すと、バッテリーの残量をチェックし、その波長をコクピットの空き回線へ合わせた。

『出来た!』

『ならばネオンはわしらがなんとかする。ジャンク屋を頼むぞ』

『うん、分かった』

 返すトラに鼻溜を弾き、その身をひるがえす。

『な、どこへ行く気じゃ、デミ!』

 おかげで驚き慌てふためいたのはサスだ。

『おじいちゃんは大事な操縦士なんだから、ここで休んでて』

 ぴしゃり返すものの、ここがどこであるかを承知しているからこそ、そういうわけにはゆかない。サスは埋まりこんでいた操縦席から背を引き剥がす。

『帰りは任せる。お前はまだ子供じゃ、お前がここで、じっとしておりなさい』

 言葉にデミの足はいっとき止まる。削がれた勢いに、いつもとおりとうなずきかける鼻溜が頼りなくすぼんだ。だが覚えた矛盾が、矛盾させるこの局面が、デミへそうじゃないと言わしめる。

『違うよ、おじいちゃん。ぼくはもう、子供じゃないもん』

 向き合うままにはっきりと、その鼻溜を揺すっていた。

『それは、おじいちゃんがぼくを子ども扱いしてるだけだ』

 そう、誰かを好きになって大人になりたいなら、それがあの事故から守りたかった両親への気持ちに通ずるものなら、自ら店を継ぐことを決めた時のように、いつまでも受ける庇護のまま、手を下さないではいられない。

『なんと、な』

 毅然と見据えるその目にサスこそ、鼻溜を縮めていた。サスの方こそ、それきり動けなくなる。

『ぼくが行ってくる。だってこれはぼくの大事な仕事だもん。それにアルトは、ぼくの仕事の大事なパート-ナーなんだもん』

 果たしてそれきり睨み合えば、流れる沈黙がそれまであったつながりを幻想と崩していった。そこに新たなナニカをのぞかせると。おかげですっかり砕けた腰に、この曲芸に覚えた疲労とはまた別の笑いが不意とこみ上げてくるのをサスは止められなくなってくる。ままにいよいよ本格的に隠居となった己が身を、噛みしめた。

 果たして自分の時はどうだったか。思い出しかけ、さっぱり浮かばず、ただ世話を焼くのもこれが最後になるやもしれない現実に、少しばかりの寂しさを感じてみる。

『報告します』

 断ち切りそこへイルサリの声は、割り込んだ。

『父上の生体出力は現在、天然完体に接続。ワイヤースリーブマッチ参戦するも、バイタル低下が深刻。ネオン、ワソランの救出まで、生命維持は不可能と判断しました。ゆえに回避すべく、父上の脳内マップを再構築。システムを稼動。父上の接続切断と同時にわたくしが完体操演を続行。時間稼ぎを行います』



 ただし 問題点が


 なら、諦めろ。

 間合いを詰めるチャンピオンとの間には、パーソナルスペースだけが取り残されている。

そこを聖域と踏み込もうとしないチャンピオンは、それきり足を止めていた。

 意図など知ったことではない。

 ただ距離に比例したそのわずかな時間を惜しむと問題点を抱えたままでイルサリは、記憶マーカーを仕込むためかつてスキャンし記録したアルトの脳内マップを再構築、稼働させるべく領域確保に奔走し始める。


 父上 あなたは言いまし 

 必要なものは手に入ったが 欲しいものは星の彼方さと

 希望がなければ 生きてはゆけ せん


 ホントに、最後まで記憶力だけはいいヤツだな、オマエは。

 言ってやるがイルサリは、皮肉など意にも介さない。


 いいえ 問題点 至極単純です


 むしろ目的を果たすべく、アルトのみならず通信を介してトラへ、デミへ、サスへこう告げる。


『操演可能な情報を流し込めるだけのラインを至急確保、願います!』

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