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ACTion 72 『DEAD OR... 5』

『それは愛しているからだとでも言って、あたしに見せつける気かい』

 マグミットの声が嵐と吹き抜ける。

『だから諦めたりしない。そのためなら何だって出来ると、あんたはわたしに説教するつもりかい』

 一瞥くれて、仁王立ちとなったそこからネオンを見下ろした。

『そんなものは、まやかしなのよ』

 細めた目が苦々しい。

『ただの幻なのさ……』

 同様に声もまたかすれると、刺々しくネオンへ刺さった。

『だのにそんなものを信じる馬鹿が、わたしは何より嫌いなんだよ。信じる馬鹿がいる限り、わたしがひとり残らずその目を覚まさせてやるのさ』

 束の間と、再び力を取り戻した声が甲高く響く。

『そうしてこの世から、そのたわけた幻を一掃してやるのさ。こだわりのない世界へ、変えてやるのさ!』

 聞こえていたように、そのとき会場の歓声さえもがピタリ、止んでいた。静寂の中、マグミットの声だけが狂気を朗々と語り続ける。

『そんなものはさっさと捨ててしまいな。捨てればその苦しみも、哀れと何を請う必要もなくなるだろうさ』

『お願いよ。やめさせて』

 だとしてネオンは首を振り続ける。

『しぶとい子だね。それで世界は丸く収まるのさ。あたしはもう、苦しまなくていいんだよッ!』

『お願い、やめさせてっ!』

 吐き合う互いが睨み合う。

『いいさ、だのにしがみつきたいなら望み通りだ』

 その沈黙をギリリ、噛みしめた奥歯で立ち切ったのは、マグミットの方だった。

『死ぬまでくれてやろうじゃないか。あんなものは何の役にも立ちはしないんだよ。幻だってことを、身をもってお知り!』

 突きつけた指を振り払い、両肩をいからせる。

『……違う』

 比べて弱々しかったが、そのとき言葉はネオンの口からもれていた。

『幻なんかじゃ、ない。ないままに生きてゆけるなんてその方が、幻よ』

 言い切れば声は震え、ネオンはひとつ、息を吸いなおす。突きつけられた指の代わりと、そうして芯を取り戻した体で残りを紡いでいった。

『それを一番、知っているのは、本当はあなたよ。あなたがそうやって怒鳴り散らすのも、幻だって暴き立てられるその中に住んでいるからよ。それが怖いから、怖がる自分を誤魔化さなきゃならないから、だから、こんなことするのよ。あたしには、そうとしか見えないっ!』

 それはちょうどと、トラやワソランに問い詰められるたびがむしゃらに地底して、弁解し続けた自分と似ていた。似ていたからこそ、ネオンには言い分に自信があった。

『アルトを、返してっ!』

 叫ぶ。

 呼応するかのように背後で再び歓声は沸き起こり、これまでにないその大きさにネオンは思わず振り返りかける。視界の端で何かが大きく動いたなら、慌てて引き戻していた。

 そこでマグミットは頭を抱え込んでいる。さも苦しげに潰れた背を丸めると、突如と大きく振りかぶってみせた。つき立てた指先がハレモノをかきむしり、地団駄を踏んでまで唸り声を放つとそれきり、動かなくなる。

 やがてうつむいたそこから持ち上げられていった顔は、焦点を定めていなかった。呆けるままにあらぬ方向を見つめると、短い間にも噴き出した汗をヌラリ、光らせる。

『……迎えになんて、こなかった、さ』

 声はことのほか小さいものだった。

 辛うじて拾い上げ、ネオンは眉を詰める。

『来なかったのさ』

 繰り返すマグミットの目が、虚ろの中で何かを探すと動き続けた。

 一部始終に誰もが釘付けとなり、やがてその目はネオンをとらえて焦点を合わせる。

『わたしはあの時、捨てられたんだよ……』

 力なく微笑んだような、緩んだだけにも見えるその顔は、小刻みに震えてさえいた。

『わたしは間違っちゃいないよっ! そんなものはこの世にありはしないのさっ! あったならあたしはあの時、ゴミ同然と捨てられたりしやしなかったんだよっ!』



『右手、奥?』

 お世辞にも小さいと言えない頭へ、とってつけたように引っ掛けた通信機を押さえトラは、デミからの指示に顔を上げる。

『くそ、試合はもう始まってやがるじゃねーかっ!』

 傍らで口走ったスラーも、がらんどうのパドック内に回転するホログラム映像を目にしたとたん、表示されている試合の経過時間にこうも声を上げる。

『一四七セコンド! やるじゃねーか、ジャンク屋』

『あのチケットブースか?』

 トラがそんなパドックからほどなく離れた位置、壁際に設置されたブースへ首を振った。

『その裏にネオンはいるのだな』

 わざと口に出して繰り返し、通信の内容を伝えてライオンへ目配せを送る。ライオンがうなずき返せば、聞きつけたスラーもそこへ加わった。なら日頃のわだかまりなど他愛もない戯言でしかなくなる。



『ごめんね。もぐりこめたらぼくがロックなんて解除しちゃうんだけど、イルサリとアルトのオンラインだけで回線は一杯なんだ』

 鼻溜を振るほかなく、デミはしょげ返る。そのコックピットは、奮闘するサスの元、小刻みと揺れ続けていた。

 何しろ混雑する模擬コロニー周辺で要求されたマニュアル着艦は、やはりサスには荷が重すぎる。両手足総動員もぎこちなさの頂点で、上下左右を混乱気味に見回しながらの大奮闘は、自分史に残る大奮闘だった。

 しかしながらどうにも周囲の流れに乗ることがかなわない。他船を避けるだけで精いっぱいのサスの船は、不規則なステップを踏み続ける。

『おじいちゃん、右舷四五!』

 知らぬ間に、船体との間隔を詰めて接近する他船を見つけたデミの鼻溜が、トラとのやり取りの間にも弾ける。

『うぉっと! じゃから、無茶だと言ったんじゃっ』

 フットペダルを踏み込めば、踏み込み過ぎた船体が、またもやあらぬ方向へと傾いでいった。



 コマ落としよろしくスローモーションとなって、チャンピオンの動きが映りこむ。

 フォローを申し出たイルサリにはありがたかったが、アルトは身構え、問題点はそれ以前にあると、言い放っていた。

 フォローするっ、って、俺はそこに、ない、のさッ。

 辛うじて、風に煽られた紙切れよろしく上体を切り返す。チャンピオンの巨体は脇腹を一陣の風となってかすめ、アルトは千鳥足で後じさった。だが読んでいたようなチャンピオンの切り返しにこそ無駄はない。


 どういうことです? それは


 イルサリが問いかけると同時だ。側頭部を狙った蹴りは繰り出される。盾と咄嗟にアルトは左腕を持ち上げていた。十字とチャンピオンのスネは左腕を叩きつけ、堪え切れなかったアルトの腕をなぎ払う。

 左腕があさっての方向へ跳ね上がっていた。引かれて上体もまた仰け反り弾け飛ぶ。連なり足はもつれると、そのまま格子へ倒れかかった。

 だッ。

 それでも立っていられたなら御の字か。背に食い込む痛みと引き換えに、アルトは格子へ身を預ける。

 様子に返答を見限ったイルサリは、どうやら自発的に動き出し始めたらしい。


 ルート 検索中


 イージーの辿った記録から、状況把握を試みる気らしい。声が、アルトの耳元でレポートを読み上げていた。

 聞きながらアルトは、どうにか動く右手で格子を握ると預けた体を支えなおす。ならチャンピオンは放った蹴りに一回転すると、立て続け繰り出す二発目に備え、そこで足を踏み変えてみせた。

 分岐点が、あるだろッ。

 その目が、アルトの完体のこめかみをロックする。


 乖離ルート発見

 プログラムイージーは これより先 模擬コロニー中枢システムへ融合


 システム内を飛び回るイルサリの羽音が聞こえてきそうでならない。

 その先ッ。

 と、チャンピオンがふいと、視線を逸らしていた。格子を掴むアルトの右腕へと据えなおす。

 俺はその先、義体の中だッ。


 これが?


 イルサリが、らしからぬ動揺をみせていた。

 刹那、チャンピオンのつま先が空を切る。

 だが似合わぬ動揺こそ、状況把握に必要だったインターバルだった。


 奪回します


 声に揺るぎはなく、同時にアルトはごく間近で、鈍い音もまた耳にする。

 追いかけ視線を、左腕へ落としていた。

 格子を掴んだままだ。振り下ろされたチャンピオンの足にそこで腕はくの字に折れると、裂けた皮膚から白く骨を飛び出させている。

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