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ACTion 65 『ワイヤレスセッション 2/2』

 スタンドアローン甚だしい船で得た成果が、回廊を飛んでいた。そこに探し求めていたものの居場所は記されると、矢尻に結ばれた一筆がごとく、待ち受けるイルサリへ突き刺さる。

 受け取ったイルサリに、迷いや躊躇はなかった。ただレポートを読み上げると共に、あの細いラインへ飛び込む。ナビゲーションを求められて以後、繋がったままとなっているサスの船すら経ると、とイージーが投げてよこした矢の軌跡をたどった。

 父の所持する通信機が無反応となって、すでに数万セコンド。空白を埋めるべく、最初の中継地点へ到達する。そこへアクセスしてくる他の通信に紛れ、コロニー内の通信ランへ潜り込んだ。

 実に単純な情報をつつき合うデータを捨て置き、ひたすらイージーの痕跡を辿る。イルサリ専用ゲートとして随所に残されたイージーの突破口痕を潜り抜けた。

 やがて辿り着いた深き領域に、処理できぬほどの情報を前にしてフリーズ寸前となっている、かつて父が放置船へ放った検索プログラムを見つけ出す。傍らになおイルサリの痕跡をなぞれば、そこにゲートは連なり姿を現した。突破するたびに道は拓け、心地よく加速するまま唐突と新たな領域へ飛び出す。

 それはゲートも障壁もないダイブだった。ほどに、これまで一度たりとも経験のない場所であることを感知する。だからして互換性に不安を覚え、これ以上の追跡に不安を覚えた。しかしながらイージーはその奮闘ぶりを示すと、ヨレながらも掘り進んだルートを確かとそこに残し、なぞるほどにイルサリへこの場所の全体を明かし始める。

 それは接続先が、父の持つ何らかのデバイス、モバイルではないという事を示していた。幾らもゲートをくぐり、やり過ごしてきたゲートが、その全てをバックアップするためのものであったことを、その果てに広がるこの場所こそ、父の神経系であることをつまびらかとしてゆく。

 イルサリに驚きという感情があれば、事実は動作に影響を及ぼすほどのもだった。だが有さぬイルサリは現実を現実のままに理解する。現状、たとえ父へ、その肉体へ直接アクセスしていたとしても、それは単なる結果だと処理した。

 だからしてイージーも聞いたあの声は、イルサリにも届き始める。

 目指す父へのアクセスポイントはつまり、人体の集音デバイス、聴覚器官だ。

 目指しイルサリは尽きることなく流しこまれてくる情報を飲みながら、めざし、一直線と進んだ。そうしてついにアクセスポイントが、コネクターを開き立ち塞がるのを確認する。砕けて父と同化したイージーの骸は、かつてはAIであったことをうかがわせると、達するまでに飲み込み続けた情報に自己改造の痕跡さえうかがわせると、そこで光を放っていた。

 接続したところで正常に働くかどうかは、ここまで健闘したイージーに代わり、イルサリの出番だろう。満を持してイルサリは、そんなコネクターへと飛び込んでいった。



『どこでどうなったのかはしらねーが、チャレンジャーはジャンク屋だ。間違いねぇ』

 刹那、ライオンの足は止まっていた。

『どういうこった、ジャンク屋。あんた、そーとーにヤバイぞ』

 スラーは吐き、その足を霊柩船へ早める。

 パドックに表示されていた試合開始までの時間は、千八百セコンドだ。奪回すると意気込んだところで藪から棒に殴り込めるような場所ではないなら、スラーは真っ先にサスへ助けを乞うべきだと思い浮かべる。エレベータに飛び乗り、混雑極まりない最下層の利用者を押しのけ、頭上で揺れるホログラムがなまめかしい吹き抜けから、入場の際、受けたボディーチェックを横目に格納庫へ息を切らせた。格納庫の歪んだ扉を力任せに引き開けてようやく、後部を納棺スペースとして設えた霊柩船の少々デコラティブなハッチへ手をかける。

 そんなスラーに取り残されまいと、遅れてライオンが格納庫へ飛び込んできていた。何事かを喚いていたが見向きもせず、スラーはコクピットへ向かう。

『あれが! あの、妙な生き物が、ジャンク屋だとあなたはいうのか?!』

 座席へ尻を押し付けたところで、ようやくライオンが何を喚いているのかを耳にしていた。

『疑いてーのは、俺様のほうだ』

 吐き返して通信ウインドを開く。

『確かにジャンク屋は、上に用があると言っていたが……』

 ライオンもモディーの小さな座席へ身を潜り込ませると、語尾を濁した。

『ヤボだと知ったところで、俺たちは首を突っ込みゃーよかった、って寸法よ』

『何を、またか!』

 否やライオンは天を仰ぐ。だが、それもまた慣れからか。諦めという名の切り替えこそ早い。

『どうするつもりだ? あれがこの模擬コロニーの目玉ならば、仕切る奴らはどうせここのモトジメなのだろう?』

 スラーへ投げる。

 受けたスラーこそ、呆れ半分、小さく笑んでみせていた。

『そのとおりってこった。だからして、知恵と情報ならここに限るってもんなんだよ』

 同時に通信は、繋げたはずの店から転送される。サスの船、そのコクピットを通信ウインドへ映し込んだ。そこから見下ろすサスの顔へ、前のめりとなる。次の瞬間にもビンゴ、の声を胸の内に上げる。

『取り込み中じゃ。後にしてくれ、スラー』

 おかげで先を越され、開口一番、サスに鼻溜を振られていた。

『わかってらー。そいつの件で話だ!』

『あ、スラーおじさん』

 とたんサスの表情は一変し、誰の目にも疲れた様子のデミが顔をのぞかせる。

『たく、そんなにビビッてやがるのなら、ジャンク屋の援護は誰が勤めるってんだ。その仕事は売ったり買ったりのママゴトだけじゃねーだろ。覚えとけ、デミ!』

 スラーもまた、サスが引退した今、ジャンク屋がデミの店と取引していることを知っていたなら、頼りなさげなその面持ちに一喝、浴びせる。デミがそれこそ泣き出しそうに鼻溜を縮めたところで、まったく、としかめっ面を緩めて告げた。

『ジャンク屋を見つけたぞ!』

 だとしてサスにデミはまだ一言も、ジャンク屋を探している、などと明かしてはいない。

『なるほど、風俗の模擬コロニーじゃったからの。まだそっちの仕事を引き受けておったのか、スラー。なんの、わしとて知らなんだぞ』

 からくりを埋めたのは、それこそ経てきた長い付き合いだ。

『ひとには言いたくねーこともあるってハナシだ。俺様のライフワークは俺様だけがやってりゃいいのよ。何もふれ回る必要こそねぇ』

 スラーはかわし、それどころじゃない、と声色を変えた。

『今さら奴が転職したって冗談はよせ』

 言いように、サスの目に力はこもる。

『どこに、おった?』

『賭け試合の駒になってやがるぞ』

 迷うことなくスラーは告げた。

 とたんデミは眉を跳ね上げ、しておる場合かと、早くもサスがその尻を叩く。トラとイルサリを呼び出せと、指示を繰り出した。

『そっちは今、どの辺りだ?』

 またもや一足飛びと、問いかけるスラーには、なにもかもがお見通しらしい。

『もう、トラが乗りこんどるわい』

 負けじとサスも教える。

『おせーっつうんだ。あの腐れテラタンが。言ってやれ、奴は最上階のワイヤースリーブマッチ会場だ』

『それが賭け試合の名か? 初めて聞くがの』

 スラーは舌打ち、いぶかるサスが鼻溜を撫でた。

『おねえちゃんは? おねえちゃんも、一緒のはずだよ』

 デミもすかさず鼻溜を揺する。

『いたにはいたが、あの様子では心配だとしかいいようがないな』

 向かってライオンは返し、スラーがワイヤスリーブマッチについてをかいつまんでサスへと説いた。

『違法の天然完体ってやつよ。そいつに闘技者をつないでヤリ合わせる。無種族、無性別、無階級のデスマッチだ』

『その、デキレースの駒というわけか?』

 早くもデキレースなどと問う辺り、さすがサスは鋭い。

『それはわからねー。だが俺様の知る限りじゃ、チャンピオンの連戦連勝ぶりに賭けすら成立しなくなりかけているのが現状だ。デキてようがデキてなかろうが、昨日今日、飛び込んだ輩に勝ち目があるとは思えねーな』

 そこへトラのダミ声は重なる。

『わしだ! 何か分かったのかっ?』

『おいちゃん! 今、同じ模擬コロニーに、スラーおじさんも来てるんだ』

 デミの説明は間違っていない。だが展開は唐突が過ぎ、トラは頭上に疑問符を打つばかりだ。押し切りデミは、この通信をそんなスラーにも解放する。とたん挨拶も何もかもをすっとばし、スラーは口を開いていた。

『テラタン! あんたと俺様は、最上階のワイヤースリーブマッチで合流するぞ』

『……すまんな、またボイスメッセンジャーも同行中となっている。最上階で会おう』

 すかさず付け加えるライオンも、もうすっかり一員だ。

『ワ、ワケが、わからんぞ! わしは葬儀屋に会いたいのではない、ネオンを探しておるのだ! それに、わしもそこに二人が上がったことは確認した。言われずとも、今、向かっておる!』

 その声の向こうには確かと、位置を示してスラーにも聞き覚えのある音楽に、話し声が響いていた。

『スラーがアルトを見つけたと言うてきおった。しかも、賭け試合の駒になっとるとまで言いおる』

 向かってサスは付け加える。

『な、なんだと! ならばネオンは今、このような場所に一人きりでおるということなのかっ!』

 トラが跳ね上がった瞬間、イルサリを呼び出そうとしたデミが伸び上がった。何しろ自発的に船へ絡んできたイルサリを呼び出すコマンドなど、もとよりない。

『うん? え? えぇっ?!』

『うるさい、もう時間がねー。全部、上で聞いてやるっ!』

 一蹴して、スラーが立ち上がった。

『イルサリ、イルサリってば!』

 アナログ方式も常套だ。デミもイルサリの名を連呼する。ならイルサリはヒステリックなその声に呼び出されたからではなく、またもや自ら船へ現れていた。

『報告します。父上を発見』

 声は、解放されていた通信を通してスラーの船へ、『バンプ』を経てトラの耳にかけられたワイヤレスへ、その時、流れ出す。だからしてサスとデミは互いを見合い、トラは慌ててワイヤレスを耳にかけなおし、呼び止められたに等しい勢いでスラーとライオンは振り返っていた。

『接続に成功。ただちに呼びかけを行います』

『接続って?』

 デミが鼻溜を揺らす。

『切れたと言っておった無線、かの?』

 サスが呟いていた。トラもまたシワを波打たせた。そして完体につながれた状況がどういうものかを知るスラーだけは、眉間へ深いシワを刻んでゆく。

『んな、わけ……、ねーだろ』

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