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ACTion 59 『Ladies ready to go!』

 ワソランが落ち着きを取り戻すまでいくらか。やがて力を取り戻したその手はネオンを、引き離す。

『あなた、無事だった……』

 言うその口へ、ネオンは素早く立てた指をあてがっていた。ままに目で、テーブルの足元に転がるマグミットを指し示す。

『今のうちに、ここから出るの』

 なぞり、のぞき込んだワソランが眉間を詰めていた。

『眠っている?』

 向かってネオンはうなずき返す。

『動ける?』

 確かめた。

『そうね、大丈夫。でも一体、何が? いえあなた一体、何をしたの?』

『分からない。病気なのかも。すごく苦しんでた』

『あの体だもの、そうかもしれない。ジャンク屋の彼は? あれからどれくらい経ってる?』

 すぐにも引き戻した視線でワソランは、まくし立てる。

『もうすぐ上で試合が始まる。どうしよう。アルトはもう、アルトじゃなくなってる。元に戻すせるかもわからないの』

 言葉が、ネオンの表情を崩させた。だからこそ、その目をのぞき込むワソランにかつての芯は舞い戻りもする。

『全てあたあしのせいだわ。ごめんなさい。でもとにかく馬鹿げた取引だけは、絶対にさせてはだめ』

 ネオンへと、強くその首を振った。

『今ならワソランの言ったことがよく分かる。大丈夫なんて信じてたって、何の役にも立たない』

 だからしてネオンが飲み込めたのは、過去の自分だ。

『だから、やらなきゃいけないことがたくさんできたわ』

 真っ直ぐに答えて返す。

『わかってる』

 うなずき返すワソランに迷いはない。

『あたしはダオを、あなたは彼を、全てを手に入れてここから出るってワケよね。扉は開いているのかしら』

 すぐにも螺旋階段へ視線を上げた。

 その傍らからネオンは抜け出す。

『分からない。でも、その前に』

 いまだ眠り続けるマグミットを回り込むと、本棚の一角に据え置かれた端末と向かい合った。

『って、あなたいつの間になんて格好、しているのよ』

『ああ、もうすっかり慣れて忘れてたわ』

 唖然とするワソランを背に、放り込んだプログラムの存在を示して灯るアイコンを手で遮る。

 なら目の前にホログラムスクリーンは立ち上がると、緩慢極まる処理動作を表示する。

 ハズだった。

 でないならホロスクリーンはふたりの背丈を越える大きさで展開すると、サブスクリーンもまた次々、周囲へ連ね始める。

「わ、わわわわっ!」

 そこには溢れんばかり膨大な情報が、画面の下から上へ吸い上げられては放り出され、手前に奥に三次元のサークルとなって幾重にも連なっている。そんなサークルが回転する様は、まるで銀河のようにさえ見えていた。

『なにこれ? わたしの検索プログラムじゃない』

 駆け寄ったワソランも目を丸くしている。

『で、でも……』 

『この中に紛れていても、とにかく大きすぎて拾い出すのはもう無理よ。見つけ出せたとしてもフリーズしているわ。使えたものじゃない』

 伸ばすその手で、再び端末を待機状態へ戻す。

『ワソラン……』

 それが執着していたものへの決別を意味するなら、ネオンはしばし何も言えなくなっていた。ならその代りのように、ワソランの口は動き出す。

『いいえ、まだわたしにはチャンスがあるわ』

 その瞳がネオンをとらえなおした。

『わたしが諦めない限り彼は、じゃないとしても彼の死は、いくらでもわたしを待っていてくれる。会いに行くまで待っていてくれる。だから、こんなところでまごついていられないのよ。なにより、わたしがここを出ないと』

 そこに嘘は欠片もない。決意だけが見つめるネオンを貫いていた。なら待って、などと足を引っ張るようなマネはできやしないだろう。ネオンは探して辺りへ視線を這わせる。着ていた服をクリップハンガーに、楽器のケースをその足元に見つけたなら、剥き出しの足をパンツへ通し、ケースの中から取り出した楽器をストラップにつなげてたすきがけにした。今となってはヒラヒラしたディールが邪魔でしかないブラウスと、持ち歩くに億劫なケースは残してゆくことにして、そのためだけに空いているような胸元へ最後、マウスピースを差し込み仁王立つ。

『準備、完了っ!』

『やだ、それ』

 そんなネオンへワソランが声を上げたのは、アナログ楽器のなんたるかを知っているせいだ。

『素敵なショーに招待してあげる』

 だからして片目を閉じたネオンは饒舌だ。

『これがわたしのビジネスなの。こうしておけば絶対、失くしたりしない』

『なるほど、いかがわしいのは抜きのショーね。ぜひとも参加させて欲しいわ』

 言い合えば、己ず笑みはもれる。その笑みが二人の息を合わせていた。次のの瞬間にも駆け出すと、螺旋階段を駆け上がり、鉄扉の前に立つ。

 マグミットがいるためか、ロックは内側からでも解ける状態になっていた。

 見極めるが早いか、ワソランが手を伸ばす。

『まずどこへ?』

 出撃に前屈みとなったネオンへ問えば、やおらネオンは頬へ、あのいたずらげな笑みを浮かべていった。

『そりゃあ、試合なんていってられないほどの騒ぎをおこしちゃえばいいのよ』

『あなたってほんと、懲りないひとね』

 ワソランが肩をすくめたとして、無理もない。

『あら、ほかに思いつくことがある?』

 切り返すネオンに至っては、至極真面目だ。

『それが……』

 答えてワソランがロックを押しこむ。

『ないのよね!』

 解除音は小さく、引き開けたその向こうをふたりして、睨みつけた。

 はずが、そこにはもう一枚、壁が立ちはだかっている。影に飲まれ、ネオンにワソランは動きを止めていた。

『おそろいで、どちらへ?』

 背に黒服を従えた『ホグス』が首をかしげている。

『ロケットの開閉に慌てて来てみたと思えば』

 振ったアゴが合図だ。黒服たちはそんな『ホグス』の前へ進み出ていた。

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