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ACTion 55 『完体完装』

 理解できず、いやそもそも見間違えかとネオンは疑う。

 据え置かれた箱へ振り返りかけ、そんなことなどありえない、と押し止まった。

 だが迎え入れてマグミットは、そのとき嬉々と声を上げる。

『さあ、ショーの始まりだ』

 合図に黒服たちが、ゲージに遮幕と張られていたホログラムの電源を絞り始めた。ともない砂嵐かと幕は透けだし、そこに四肢を持つ何者かをシルエットと浮かび上がらせてゆく。闇雲と動き回るそれはゲージを掴んで激しく揺らしたかと思えば、手放し、のたうち、また起き上がるを繰り返していた。

 見据えて黒服たちが、ゲージから退いてゆく。

 ネオンも気づけば固唾をのんで見守っていた。

 ただ『ホグス』だけが慣れた手つきで装置脇から筒先の長い銃を引き抜くと、見向きもしないマグミットへ手渡す。

『やっぱり違うね。模擬信号で、もうこれだけ動くのかい』

 受け取ったマグミットのそれは、感心したような口調だ。

『締める必要などないのでは?』

 提案した『ホグス』はそこから、一歩、引き下がってみせる。

『チャンピオンをみくびっちゃいけないよ』

 解像度の限界に達した遮幕は今や、シフォンのベールとなっている。やがてそれさえも煙がごとく消えたなら、運び込まれた者の姿はそこに晒されていた。

 思わずネオンは息をのむ。

 棒切れのような裸体だ。そこには『ヒト』の男性に近い生き物が立っていた。だが性器はおろか体毛らしい体毛は見て取れず、貼り付けられた筋肉だけが骨をつなぎ合わせて筋張っている。覆って皮膚は張られていたが、それこそまるでかぶせられた唯一の服か。馴染み悪げと引き吊る様が痛々しかった。

 かまうことなく振り回し、狂ったようにそれはまたもや檻へ体当る。弾き飛ばされて這いつくばり、寝返っては暴れてみせた。動きはゼンマイの切れた玩具のように支離滅裂だ。そこにアルトの面影をうかがうことなど、できるはずもない。

『……これ、が?』

 瞬きさえ忘れてネオンは、ただ見入る。

 と、その体は起き上がっていた。やおら大きく口を開いたかと思うと最初、掠れるような音を吐き出してみせる。やがて聞いたこともないような咆哮を辺りへ放った。

 気圧され黒服たちが身を引いている。

 さすがのマグミットも狼狽した様子だ。

『早すぎるよ! まだ、優位も決まってないってのに、もう喋ろうとしてるのかいッ?』

 まくし立て、手元で二つに折った銃の装填具合を確かめる。再び組み直したその音が、ネオンへ引き金を引くつもりだと、直感させていた。

「やめてっ!」

 だがマグミットが聞き入れるはずもない。両足を肩幅ちょうどに広げて仁王立ちとなる。

『ひとりでふたり分まかなうなんてタフなのは歓迎だけど、余計ごとはごめんだよ! とっとと優位をつけて調整してやるから、待ってな!』

 言って持ち上げた銃を肩へあてがう。

「だめっ!」

 咄嗟にネオンは叫んでいた。背にしていた水槽を押し出す。駆け出しかけたその手を掴まれていた。

 いやそんな気がしたのだ。

 だからして振り返る。それはまだ水槽に触れたままの指先だった。青い水へ影は落ちると、水槽を隔ててそこにアルトの手は添えられていた。

 近づくな。

 伝わる警告が、ネオンの顔を持ち上げさせる。

 瞬間、銃声は鳴っていた。

 弾かれ振り返ったネオンの目は泳ぐ。とらえなおした箱の中に、大きくのけぞるそれを見つけていた。かと思えば咆哮は断末魔のごとく上がり、マグミットのかまえた銃から細く立ち上る煙が全てを決定づける。

 理解を飛び越え、ネオンの中で何かが弾き飛んでいた。気づけば唸り声は上がっている。腹の底から絞り出すと、今度こそ駆け出しネオンは、マグミットの構える銃身へ食らいついていた。残る熱もそのまま胸へ抱えこむと、箱から銃口を押しやり逸らせる。

 勢いに驚いたマグミットが何事かを口走っていた。だがそこまでだ。凄まじい力が振上げた銃身ごとネオンを振り払う。

 どうっと投げ出されて、しばしネオンは声を失っていた。代わりとばかり打ちつけたあちこちから上がる悲鳴を、聞かされ続ける。その痛みが己の無力を告げて止まない。ネオンは床を握り絞め、否応なくこみ上げてくる涙に堪えきれず唇を震わせた。

『慌てるんじゃないよ!』

 言うマグミットが『ホグス』へ銃を投げ返している。そうして繰り出される足は、独得のリズムを刻んでネオンへと近づいてきた。 

『ご覧』

 バカがつくほど優しい声で、ネオンを誘う。

 まみれてネオンはゆっくり顔を上げていった。

 そこであの生き物は、倒れた切りと動かない。光景は全てが終わってしまったかのように色褪せてその目に映り、失いつつある現実感を呼び戻してその時、棒切れ同様と痩せこけた体は床から、持ち上がる。深い眠りから目覚めたように頭を起こし、やがて連なり床から肩を剥がして言った。支えて腕を突き立てたなら、込めた力で上体を押し上げる。それきり腰を落として片ヒザを立て、ヒザ頭へと片方の腕を引っかけてみせた。。

 動作に、ネオンは目を見張る。

 いうまでもない。

 それはアルトの仕草そのものだ。

 見て取りマグミットも、手を打ち鳴らしている。

 その乾いた音へ、起き上がったばかりの体がよじれていった。見定めたなら、少しばかり不安定に揺れながらも、ついに二本の足で立ち上がってみせる。

『アル……、ト?』

 ネオンはその名を呼んでいた。

 隣でマグミットも、こう言ってのける。

『どう? 完体の感触は。思っていたより使い心地のいいもんでしょ?』

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