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ACTion 50 『STEEL ATRACTION』

『って、あなた分かってやっているの?』

『知らないから、いいんじゃないっ!』

 絡むように装置に取り付けられていた計器の針が、また大きく揺れ動く。そうして繰り返され始めた不規則な往復は、まさにネオンの狙い通りだった。

 答えて返すとネオンは、立体パズルよろしく並び、絡んで組み上げられた複雑奇怪な装置の前で、見つけたバルブにボタンを手当たり次第とひねっては押し込み続ける。端末があったなら、そこへ己のスリーサイズなんぞも入力していった。

『そのうち慌てふためいて誰か飛び込んでくるわ。その時が逃げ出すチャンスっ!』

 場所によっては触れないほど熱を持ったパイプが張り巡らされている。その熱を感じたなら屈んで慎重にくぐりぬけ、すねを遮る細い管をまたいでネオンは、また見つけたホロパネルの前に立つ。触れたそこにお決まりの数値を打ち込んでいった。

『そうかもしれないけれど……、これって自分で自分の首を絞めてないかしら?』

 心配げなワソランの手元はネオンを真似こそすれ、動きは鈍い。

 その声はもうネオンの耳へは届かず、いや、たとえ聞こえていたとしても嬉々と駆け回るその足はもはや止まらず、降って来た滴に見上げて新たな計器を見つけ出す。

『やだ、あんな高いところにもある』

 みすえたなら、難易度が高いほどに燃えるゲームそのものだ。両の肩をいからせネオンは装置を、登りだす。

『待ってなさいよ』

 有難いことに巨大パズルかと見まごうそこには、足場になるあれやこれやが満載だ。ただひとつ残る問題点、過剰な熱だけを警戒すると、おっかなびっくり手足を伸ばしていった。

『よっ、ったぁ。それ、ほっ』

 そのたびに、小気味よい掛け声は響く。

『あい、たたた』

 装置のどこかに手を引っかけようとも、やがて計器の前に頭を突き出す。崖っぷちからの奇跡の生還だった。ネオンは渾身の力で上半身を引き上げる。

『あ、あんたたち、何してるの!』

 声はその時、飛び込んできていた。

 マグミットだ。

 パイプへしがみついたままでネオンは、弾かれたように振り返る。わずかに見上げた位置だ。そこに螺旋階段の手すりへしがみつき、身を乗り出したマグミットはいた。

『うあ、来たっ!』

 言わずにおれず、ネオンは同時にマグミットの背後、鉄扉もまた確認する。外側から開けられたきりの鉄扉は、少しばかり浮き上がったままのようだった。

 逃す手はない。ネオンは取り急ぎ目的の計器へデタラメな数値を放り込む。

『よしな!』

 目にしたマグミットは声を上げ、不自由な体を揺らして階段を駆け降り始めた。そのアンバランスな靴音に追い立てられながら、次の瞬間、針が狂ったように踊り狂うのを目にする。

『これで十分っ!』

 体が装置から剥がれ落ちそうになって、慌ててしっかとしがみつく。マグミットが近くに見えたハズだった。見れば知らぬ間にえらく高い所まで登ってきていることに気づく。

『う、うそぉ』

 と見下ろしたその目に、マグミットの声を聞きつけパイプの隙間で忙しく頭をふっているワソランの姿は映る。ふらつく足元へネオンは力を入れなおした。ワソランを呼び止めて声を張る。

『ワソランっ!』

 聞こえたらしいワソランが、実に直線的な動きでネオンへ顔を持ち上げていた。向かってネオンはアゴ先で、すかさず階段方向を指し示す。了解した、とうなずき返すワソランに迷いはなかった。返すきびすで、装置の奥へと潜り込んでゆく。

 見送りネオンも高い場所を、階段側へと移動した。

『……っしょ、あちっ、ほっ』

 おそらくワソランは迂回する格好で、螺旋階段前へと出るつもりなのだろう。遅れまじと、ねおんもまた装置の端までを急ぐ。たどり着いたなら床を目指して降りる前に、そうっと装置の影から辺りをうかがった。

 とたんそれは起きる。

 振るい落とさんばかりの勢いだ。装置が突如、震えだしていた。

『何っ?』

 装置へしがみつく。原因を探してネオンは辺りを見回すが、紛れ込んだワソランはおろか、小刻みと震えるそれ以外は何も見当えない。うちにも巨大な装置は鳴り続けていた音をさらに大きく響かせると、動き出す。

『え、ええっ、ちょっとっ!』

 まるで深呼吸でもしたかのように、幾つかの部位に別れると四方へ離れ始めていた。

『ワソランっ』

 押し潰されてはいないかと気が気でならない。探して体をひねり過ぎたか、手元が滑りかけて握りなおした。

『……とっ!』

 だがそれは不注意のせいではなかったことを知る。 握り絞めていた手元のパイプだ。ネオンの 真正面で、左右に別れはじめていた。

『えぇっ?』

 だとして離せないそれは、引き戻せるようなシロモノでもない。パイプを掴んだままで、ネオンの両手は左右へ泣き別れてゆく。

『ウソでしょっ!』

 言っっている間にも両手は、リーチ一杯、限界へと近づいていった。

『やだやだやだっ!』

 耐え切れず左手を離す。

 いちにのさん、で右手のパイプへ飛びついた。

 つけたその勢いに足が滑る。

 体は宙へ投げ出され、掴んだ両手にやおら全体重はのしかかった。予期してしっかり握っていたのならまだしも、どさくさに紛れに掴みなおしたその手は、己の体重を支えるにはあまりに心もとない。しかも動き続ける装置揺れて、ネオンへ落ちろと囁き始める。歯を食いしばり、ネオンは足場をとにかく探った。見つからないのは、その振り方が控えめだからか。むしろ近づく限界に足場どころではなくなってくる。

 せめてパイプを握りなおせれば、いくらか時間は稼げるだろう。

 過り顔を上げていた。

 目に頭上を真一門を過るパイプは映り、狙い定めてネオンは震えるそれを睨む。

 ええいままよだ。

 反動をつけ、めがけてえい、と伸び上がった。

 浮いた瞬間、左手で、しっかとパイプを握りなおす。

 いや握りなおせたはずだった。

 それはまるでパイプにその手を離されたようだった。感じ取れるほどにツルリ、滑って、勢いに右手も離れる。

 正真正銘、体が宙に浮いていた。

 やおら全身へ、絶望的な戦慄は駆け巡る。

『……やっ!』

 声とも息ともつかぬ音は漏れ、視界が一気に遠のいた。

 すぐにも遮る何かに体をぶつけ、それきり全ては閉じた幕の向こうへ隠れる。

 痛みすら覚えることなくネオンはただ、落下していった。



『まったく、少しは大人しくしてもらいたいもんだね』

 扱いは慣れを越し、マグミットにとって無意識の一部と成り果てていた。 部屋へ入るなり装置へよじ登る『ヒト』と、アナログゲージの青い警戒色を見つけたマグミットは、 すぐにも彼女たちが何やらそおへ手を加えたらしいことを察する。

 転げるように三周、螺旋階段を駆け降りるとそのままの勢いで、いつもと変わらず回転するホロスクリーン上のアイコンを手のひらで遮ると、デスクトップが立ち上がるのを確認するまでもなく管理パネルを呼び出し、 いつも以上、素早い手つきで情報を要求した。

 たちまち単調極まるセルに納められた数値データは、ずらりマグミットの前にポップアップされ、睨みつけて顔を潰すような瞬きを繰り出しマグミットは、その隅から隅までをなめ回してゆく。ネオンの放り込んだ意味不明な数字の羅列にハレモノを跳ね上げていた。

『なんなの、これは?』

 だからして急ぎ取りかかるのは、修正だ。

『冗談でしょ。どっちも殺したりなんかしたら、ウチの信用、台無しじゃない』

 迷いのない手つきで元へと戻してゆく。

 伴い再調整されて装置は、ブロックごとに微震を伴い動き始めていた。

『接続中だってのに、上のタンクは大丈夫だろうね』

 呟き、頭上を仰ぐ。

 ままにデスクトップの下部へ手のひらを滑り込ませると、広げていたホロスクリーンを落とした。一仕事終えたそこにわずかなランプを灯し、二次元アイコンを再び立ち上がらせる。

『一体どこまでわたしを邪魔すりゃ、気がすむのさ』

 そこに仕込まれたものがあることには、気づくことなく。

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