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ACTion 48 『It is family at finaly』

『これでよし、と』

 手をはたく音も軽やかだ。

 ワソランから預かったプログラムを端末に読み込ませたなら、立ち上がったホロタイプのモニター隅に、始まった検索状況は小さく表示される。見下ろせば、ネオンの瞳にその光は白く映り込んでいた。

『って……』

 思わず口を尖らせる。

『ばっ、かみたいに重いわね、これ』

 ワソランはその隣で、プログラムの納められたピンを髪の中へ刺し戻していた。

『放置船へ乗り込んだ時、わたしの探索時間を短縮するため用意したものだから仕方がないわ。正常稼動域はクルーザ船の情報量がせいぜい。こんな大きな船を、ましてやコロニー規模なんて負荷が大きすぎてフリーズしていない方が奇跡よ』

 その通りと、滝と流れ落ちて相当の検索済ファイル名は手仕事並みのスピードで、一文字、一文字と送られている。

『端末が端末だしね。だけどこれじゃ、試合が始まるどころか終わっちゃう』

『おそらくね』 

 言い合ったところで、それこそ冗談になっていなかった。

『それじゃ、困る』

 ネオンは端末のモニターをスリープ状態へ変える。再びそこに起動アイコンは浮かび上がると、ゆったり回転を始めた。

『待ってるのは、あたしじゃないの』

 見届けて振り返る。

 ならワソランが正して笑った。

『いいえ、あたしたちよ』

 確かに数え間違っていたようだ。

『とにかく、ここから出る方法を探さなきゃ』

 ネオンも笑い返すと、辺りへ視線を飛ばした。

『この先に艦橋があると、マグミットは言ってたわ』

 ワソランが教える。

『艦橋か……』

『けれど扉はロックされてるし。軟禁なんて本当にナンセンスよね』

 だからしてネオンが思い巡らせたのは、こんな時、アルトならどうするのか、ということだろう。とたん脱出劇は、すでに終えられたもののように生き生きとネオンの脳裏で再生され、一部始終に苦笑いはぼれていた。

『それとも監禁しないなんて、あたしたちをみくびってるんじゃない? マグミットのおじさまは』

 おかげ出た言葉こそ、アルトの受け売りそのものだ。たくらみに邪な笑みさえ浮かべると、ネオンはさらにその声を弾ませる。

『オッケー。ここから出ることくらいは簡単よ』

 理屈は実に単純なのだ。

『ここに居られなくすれば、いいんじゃない?』

 迫られてワソランが、その目を丸く見開いてゆく。



 そして忘れてならない者は、あとひとりいた。

 愛船『バンプ』のコクピットに響き続けるトラの絶叫にこそ、終わりはない。

 空いた腹を満たすわけでもないのなら、よもや手洗いを借りるために『ペアラウンジ』と類される店に二人が潜り込むハズなどありはしなかった。つまり目的は明確とトラの頭の中で限定されると、そこにトラにとって卒倒しそうなアレにコレを流し始める。

 止めようにも、緊急回避の安全装置などありはしなかった。

 むしろエコーがごとく幾重にも重なって、逃れようなくトラの脳内を席巻してゆく。

 囲まれて、それはいかんとのたうった。

 あってはならん、と悶絶した。

 何しろその相手には、子供がいると知ったのだ。

 どれほど好いていようが、間違っている。

 トラは嘆いた。

 なら心境は、父親がごとく極まってゆく。

 いや、と首を振っていた。

 それは「ごとく」などではない。思えば絶え間なくそうだった。周囲に冷やかされるあまり、その思いを「好いている」からだとひとくくりにしてきたが、生活を共にする事となった現在においてもトラはいまだかつて一度たりとも、ネオンの手すら握ったことがなかったのである。それもこれも、その「好いている」にはなんらセクシャルな思いはなかった。ネオンさえ疑問に思わぬほど、何もない「好いている」だった。

 そう、理解すれば腑に落ちる。

 手元において、その笑顔を何よりのよりの幸せと眺めて暮らしたネオンとは、尽したところでなじられることを恐れ、負わせた借金とモバイロでつなぎとめて外へ放ったことがどれほどひねくれた愛情表現だったとしても、トラにとってハナから珠と匿ったこの世に二人といない娘だったのだ。ネオンが嫉妬だと言い張る口論も、それが娘であるからこそいつか必ず巣立ってゆくだろう喪失感が招いたもので間違いない。だからして今もこうして耐えかねると、絶望の淵でネオンこそ誰よりも幸せでなければならない、と狼狽している。

 解く意欲さえわかぬほどともつれた糸が、この期に及んでいともたやすくほどけてゆくのは、ほどけたからではなく切れたせいか。だからしてトラは、嫉妬だなどと目隠しされてさえいなければネオンを残して帰ったりなどしなかった、とさえ後悔する。

 しかしもうもう、あの時をやり直すことはできない。

 たった一度の過ちにより、決定的とオワリは訪れていた。

 絶叫、続けるトラの意識は、思いと共にやが絶望の彼方へ遠のいてゆく。その目の前にデカデカと「劇終」の文字さえ浮かび上がっていた。

 果てにこと切れる。

 が、つなぎ止めて声は聞こえていた。

『おいちゃん』

 鼓膜が震える。

『おいちゃん!』

 さらにもう一度。

『おいちゃんってば!』

 投げつけられて、トラは仰けとのけ反っていた体を、ピクリと跳ね上げた。

『おいちゃん、ボクだよ!』

 正面を捉えなおせば、通信モニターにデミの顔は映し出されている。トラはこの短時間で憔悴仕切った顔を、豆鉄砲でも食らったかのように伸ばしてのモニターへ身を乗り出していった。

『デミ坊……、デミ坊では、ないか』

 ようやくだ。悲鳴以外の言葉を吐き出していた。

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