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ACTion 45 『スパイシー & リスキー』

『怒鳴ってごめん』

 謝っていた。

『ワソランは悪くない。誰にだって譲れないものがあるんだもの。ワソランにはそれが彼だっただけだよ。守るものをなくしちゃえば、ワソランはワソランでなくなる』

 それはかつての騒動で、ラボの記憶を取り戻したアルトが口にした言葉だ。

『それくらい彼が大事なだけだよ。それくらいワソランは彼を……』

 なぞってネオンは、まつ毛を張り詰めていた。

 なら『F7』だろうと、今この瞬間だろうと、無謀なまでに好戦的なアルトの一部始終こそ、出会ったばかりのワソランに感じた強気が天性だったのかと疑う。それもまた譲れないモノのため突き動かされ続けただけだとするなら、いやアルトこそ失う恐怖に突き動かされていたせいだ、と語っていたのを思い出す。

 果てに紡いだ言葉をネオンはまるで、他人の口から吐き出されたもののように聞いていた。

『彼を、愛してるだけなんだよ……』

 その腕に力はこもる。抱きしめたワソランはそんな腕の中で、アルトと重なり合っていた。向かってバカ、となじったのは、アルトへだけではないだろう。そんなことも気づかず過ごしてきた自分へもだ。

 またジャンク屋に助けてもらうがいい。

 罵ったトラの言葉はここでも何一つ間違っていない。そうしてアルトはここでも再び同じ構図をなぞると引き受け、任せておけと微笑んでいた。そうして踊り込み、果てに摩耗してゆくのは時が経とうと見慣れた背中だ。

 リスク。

 負って過不足ないほどに、大事とされてきたことは気づいているつもりだった。その恩を返したいと思うからこそ演奏だって続けている。

 だが全ては滑稽なまでの勘違いだ。

 やおら引き止めたい衝動が、悔いるネオンの指先まで走る。術などないなら、遠くで誰かのせせら笑う声が聞こえていた。つまりワソランが言う通り、うろたえるならいい頃合だ。けれど、だからこそ、ネオンは詰めていた息を静かに吐き出していった。ゆっくりその身をワソランから引き離す。

 なら今度は、わたしが助ける。

 いや最初から守られるべきは、恐れに駆り立てられていたアルトの方だったのだとさえ思う。暗示していたかのように別れ際、おとなしく待っていて、とアルトへ唇さえ動かしていた。

『行こう』

 立ち上がればワソランが、そんなネオンを見上げていた。

『なんだか、思う気持ちが分かったみたい』

 投げた笑いには、湿っぽさなど欠片もない。

『当然過ぎて甘えてたみたい。わたしにだって譲れないものがあったのに。なくして、しっぺ返しはやっぱり困るよ。だからワソランは彼を、わたしはアルトを、大事なものを全部手にして帰るの』

『あなた……』 

『誰そのためにも今は絶望してる場合でも怖がってる場合でもないってこと。悲しむのも怖がるのも、その後で十分よ』

 そうして放ったウインクに、あっけに取られていたようなワソランの顔へもやがてじんわり、笑みは浮かび上がってゆく。

『気づかせてくれてありがと』

 言えばどういたしまして、というかわりだ。ワソランもまた立ち上がっていた。

『なら、さし当たってここはどこ、ってところね』

 見回す眼差しにはもう、かつての鋭さが舞い戻っている。

『まったくね』

 分かるはずもないなら、そこでネオンは建設的な方へ思考を働かせる。

『ねえ、マグミットはアルトが試合に勝ったら、彼の居場所を教えてやると言ってたわ』

 それはワソランが連れ出されてからの会話だ。

『本当に何か知っているのかもしれない。なら、マグミットから聞かなくても、この船に何か手がかりはあると思うの。それをつまみ出せる手段って、ないかしら? 持ってわたしたちが逃げ出せば、アルトがあんなバカげた取引をする必要もなくなるわ』

 ならすぐにも髪をまさぐりだしたワソランの返事は、こうだ。

『あるには、ある。ただ、これだけの規模の船でどれだけ役に立つのか、かなり不安はあるけど。彼の情報を詰め込んだ検索プログラムよ』

 髪の中から抜き取ったヘアピンを、ネオンの前へ差し出した。飾り部分をスライドさせ、プログラムの仕込まれた光学バーコードを立ち上がらせる。

『やだ、いいものあるじゃない!』

 飛び上がったネオンはワソランを誘う。カウチの向こう、書棚で浮かび上がる端末のアイコンへと駆け出していた。



 そして黒服たちが動き出す。

 その間合いはこれが幾度となく繰り返されてきた作業であることを、アルトへ知らしめていた。

 水槽脇の床を『ホグス』が振り上げた足で踏み込んでいる。合図に周囲の床は抜け落ちると、どうやら水槽は下層を貫いているらしい、開いたその穴へ水槽は束となってすっぽりおさまり、その一本に手をかけ『ホグス』は重たげと回転させていった。

 下層から聞こえてくるのは、その駆動音か。

 耳にしたなら瞬きは止まる。飲まれゆく得体の知れない成り行きに、アルトはただ固唾を飲んでいた。

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