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ACTion 36 『ピンク・パニック 4』

 互いに顔を見合わせていた。

 そう、この場所でもまた繰り広げられていたのは、振って沸いたような顛末だった。

 買い付けに利用するサスの貨物船、その年季の入ったコクピット内で見合ったサスとデミは、瞬きを繰り返し続ける。

 こうなるに至るまでのいきさつは、こうだ。



 デミの店へつなげた通信より聞かされた話へ耳を傾けること、しばらく。

 やがて超新星爆発に飲まれながらも回収したジャンクの中に、積乱雲鉱石が紛れ込んでいたらしいことを、従い、そうとも知らずそれをデミの店へを卸したアルトはトラブルに巻き込まれているらしいことを理解していた。

 ならデミは、呪いの石と化したそれを今すぐにアルトへ届けたい、と懇願している。

 もちろん石の正体に関しては、ギルドの最終鑑定結果が出たわけでもない代物だ。デミ自身、パニック気味のせいで気づいていないようだが、推測の域を出ない話はだからして鵜呑みには出来ず、サスはそこでデミの店へ向かうことを告げ通信を切っていた。

 光速を使えば『Op1』まで、一万五千セコンド足らずである。

 経て、『アーツェ』の空色に染め上げられたデミの店のドアを開けていた。

 飛びつくデミをなだめすかし、急ぎ石の鑑定作業に取り掛かること、二千セコンド余り。すす払いまでして探った知識の引き出しはサスの中で出尽くすと、手詰まりは訪れていた。同時に結論は、とある一点へ向かい落下を始める。これは恐らくサスがこの仕事を始めて二つ目に目にした代物、 積乱雲鉱石ではないのかと考えは過っていた。

 いや可能性ではなく、これは十中八九、積乱雲鉱石だ。

 そう信じ、それら事実を元に動き出すまでに、どれほどの時間と勇気を必要としたろうか。だがこの奇異なる石は、新素材の気配さえ漂わせるとサスの知識と経験を後押し続ける。

 もちろん己の価値観を刷り込んだつもりはないが、ギルド商人であることに誇りを持つがゆえインチキにサギをサスが心底、嫌うように、アルトもまたジャンク屋として長らく放置されたゴミ同然の船や衛星からのみジャンクを回収する自らを盗人でも強盗でもない、と言い切る職人気質だ。デミにこの石を持っていろ、と指示したところで、大金目当てにチェイサーから石を奪い取って来たことだけは考えられなかった。

 そんなアルトがふいと姿を消した、とトラブルの気配を心配するデミの見解は正しいだろう。なにより語るより先に動き出すのが、アルトの性分だ。そしてトラブルが起きたところで、一人でカタをつけようとする強引さこそ『F7』の件で証明済となっていた。

 裏付けて今回も、以降、連絡は入っていないとデミは話している。

 ならばなおさらサスの眉間は詰まっていた。

 放っておいて、よきに落ち着く話ではなさそうだと、デミの思いとは別の焦りに駆られ宙を見据える。やおらそのヒザ頭を打ち付けた。立ち上がるや否や、デミに店じまいの指示を出し、相変わらず血のつながる方もつながらぬ方も、手を焼かせる子供らだと鼻溜を広げる。

 そんな様子こそこれまでデミから隠してきたものであったなら、思わぬサスの気迫にデミが幼児返りよろしく、たどたどしいままに右往左往したことは言うまでもない。

 かまってやるもひとつだったが、店を持たせたその時から、過剰な子供扱いの一切をやめようとも決めていた。今回がいかに特異なケースだろうとも、でなければこれから先、デミが大なり小なりのトラブルを乗り越えてゆける道理になく、ついて来れぬならおいてゆくぞといわんばかり、船を立ち上げサスは光速へと突入している。

 やがて航行の安定した頃合を見はからい、居場所を問うてアルトの船へ通信をつなげていた。果てに聞かされたのが、携えた意気込みの全てをくじくこのお粗末な顛末だったのである。



『なん、じゃと?』

 見合わせていたその顔を、吐いてサスは音声のみが流されている通信モニターへ向けなおした。なら返される声は、まるで録音でもされているかのように寸分違わぬ調子で、こう繰り返しみせる。

『本船は、x一〇〇四-七四、y八八三、z七六〇八―ss。船舶名、フラジオ内に停泊中です。なお現在フラジオは、当該座標地点にて賭博風俗店舗集合模擬コロニーを形成中。 極端なスタンドアローン状態であることから、賭博風俗店舗は無許可営業の可能性が濃厚であると推測します。ゆえに突発的な警察の介入が生じた場合、本船の停泊地点もまた、このうちではないことをご了承ください』

 しかも、クソがつくほど丁寧ときていた。

 飲み込みきれないのは、デミとて同じ事らしい。その頭をぎこちなくサスへひねってゆく。

『……そこって、おじいちゃん』

 目を合わせれば、お互いどこか情けない。

 押し切りデミは、遠慮がちに鼻溜を振る。

『エッチなお店が、集まってる場所ってこと?』

 その通りと答えること事態が、親子だからこそ微妙そのものではなかろうか。だからして次の瞬間、費やした全てのエネルギーを返せと言わんばかり、サスは鼻溜りを跳ね上げていた。

『てぇいっ! 一体、そんなこところでアルトはなにをしとるんじゃっ?  チェイサーと、もめとる最中ではなかったのかっ?』

『そ、そういう、こと、なの? アルトはぼくに石を預けて、おねーさんたちと遊んでるってこと?  ぼく、こんな怖い思いしたのに……』

 情けなさそうにしぼませた頬でデミもまた鼻溜を振るが、無論、そうらしい、と認めることもまたはばかられてしかり、だった。

『お、お前は、知らんでよろしいっ!』

『……ひどいよ』

 デミは絞り出す。ついで将来女の子になりたいからこそ、やぶ睨みと宙を見据えてこうも付け加えていた。

『やっぱりサイテー』

 しかしながらあくまでも己がペースを貫くのは、あの声である。

『はい。必要なものではなく、欲しいものを手に入れるため逗留中です。そのための船内ナビゲーション済み、店舗名ライトネブライザーへ入店後、通信は断絶。中の様子は現在不明です』

 状況へシンプルにとどめを刺してみせた。

『何もわしらは、そこまで知りとうないわいっ!』

 サスが計器を叩きつける。操縦席へ乱暴に腰を落とした。

『おじいちゃん?』

 だがそれをデミは呼び止める。

『アルトに直接連絡がつながるまでは、周辺海域で待機じゃ。その間、お前はカーゴの整理をしてなさい。話はこっちでつけておくからの』

 目も合わせずサスは指示し、聞いたとしてもデミは首を振り返す。

『違うよ』

 言い分に、組んだ腕でサスは顔を持ち上げていた。

 そこから見下ろすデミの面持ちこそ、神妙を極める。

『だったら、ぼくたちが今、話してるのは……ダレ?』

 鼻溜まりを振った。

 確かに慌てふためいていたせいで、抜けて落ちていた。だからしてサスが瞬き返せば、でしょ、と言わんばかり、デミもまた実に深刻な顔つきでひとつ、うなずき返してみせる。

 次の瞬間、互いは視線を通信モニターへ飛ばしていた。疑うまなこは瓜二つと並び、ウヌハタレソと遥か彼方の話し相手を睨みつける。

『これは申し遅れました』

 などと返された口調は、なおさら改まっていた。

『 父上はただ今取り込み中につき、承諾を得た上で、急遽、対応の代役を務めさせていただいております。わたくしは現在、本船を預かる旧介護プログラム、マルトクバージョン七○四.八蜂八であり、親愛なる父上、セフポド・キシム・プロキセチルの息子であるところの、通称イルサリと申します』

 言われたところで、飲み込めるはずなどない。

『イルサリ……?』

 ひっかかるものを感じてサスは繰り返し、聞き覚えのある言葉にデミもまた首をひねる。

『息子……?』

 そうして同時に互いはエクスクラメーションマークをその頭上に、跳ね上げた。

『そっか!』

『そうじゃっ!』

 モニターへと、指さえ突きつけ合う。

『お前さんが、あのドクターイルサリかっ!』

『きみがアルトの隠し子だったんだっ!』

『隠し子じゃと?』

 聞き及んでいたAIの存在以上、意外な話にサスが目をぱちくりさせてデミを見る。ならアルト怒りだすのも当然だと、今さらデミは鼻溜すぼめて返していた。

『昨日、聞いたんだ。急に現われて困ってるって。ぼくてっきり本物の子供なんだって……』

『なるほどのう。わしには、まだつながりがあるとは話しておったが』

『へぇ。イルサリって、こんなところにいたんだ……』

 音声だけを流すモニター画面を、デミはしげしげと眺め回す。

『はい。息子が父を助けることは存在証明の一環です』

『それにしてもあんまり詳しく言わんもんじゃから、わしはてっきり店へ卸しに来るつもりでタイミングを見はからっておるのかと思うておったわい。それどころか、そのAIに父親呼ばわりされておるとはの。ま、介護プログラムが起源なら、お守りをされておるのはアルトの方かもしれんがな』

 考えれば考えるほど、滑稽でならず、サスの鼻溜から笑いはもれる。そうして引き気味だったその体を、音声のみのモニターへ押し出していった。

『ならば聞くがの、イルサリ』

 相手が分かれば、質問の仕方も変わってくると言うものだ。

『お前さんがアルトをバックアップしておるのは、もしかするとアルトが何かおまえさんに手伝いを求めたからではないかの?』

 遊興に耽けるために、呼び出してまで船を管理させておく理由は得難い。

『はい。サス・フォー』

 案の定、答えるイルサリは従順だった。同時に、名前を言い当てられたことにサスは驚くが、幾度となくアルトの船に連絡をつけていたのならその記録から把握することくらいは容易かろう、と片付けておくこにする。

『つまりヤツは今、何か面倒に巻き込まれておる、ということなのか?』

『はい。状況からしてその判断は正しいと思われます』

 デミがはっと息をのんだように目を見開いていた。すぐさまサスの顔色を伺うが、見向きもせずにサスは鼻溜りを揺すって次なる質問を投げかける。

『入店後、通信はない、と言うことじゃったが、最後の通信はどういうものじゃった?』

 それはまるで誘導尋問をしかける捜査官のようだった。

 ならイルサリはこう答える。

『実弾銃所持者からの追跡あり。取り急ぎ最上層への別ルート検索をせよ。以上です』

『ふむ』

 サスはうなずき、デミだけが体を硬直させていた。

『よく教えてくれたの、イルサリ。本当にたすかったぞ。ありがとう』

 尻目にサスは厚く礼を述べて鼻溜を揺らす。

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