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ACTion 27 『Naturally』

『失って、から?』

 繰り返したなら唐突に、アルトが潜ったゲートは警告ランプを点滅させる。行く手を阻んでバーは飛び出し、何気なく通り抜けようとしていたアルトはそこで足止めを食らわされていた。なら待ちかねていたかのように、拳を開いた警備がアルトの腕を掴み上げる。見上げてアルトは面倒くさげ、何事かを話して口を開いていた。やがて背から、貼り付けていたスタンエアをゆっくり抜き出してゆく。予見していたかのようにリミッターは、かけなおされている様子だ。しかしながら警備の手合いは、そんなスタンエアをもぎ取ると小難しい面持ちで見まわし、 銃床を叩いて装填されていた通常圧のエア弾さえ解放した。 投げるようにアルトへ突き返す。

 そんな警備の種族が判然としないのは、恐らくどこか汚染地域で労働を積んだせいだろう。すっかり異形の者と化してしまった面持ちでバーを解除すると、潰れたアゴを振りアルトへ行け、と促した。

 伴い、利用者たちの足もそぞろと動きを再開させる。

 気をとられて止まっていたネオンもまた、後方からの利用者に押される格好で前進を始めた。

『当たり前すぎて気づけなかったのね』

 傍らから、言うワソランの声が聞こえてくる。

『あまりにもわたしの一部と化していたから。もがれてようやくその存在を知った。もちろん言葉では分かっていたし見聞きしてはいる。そのつもりではいたけれど、そのどれもこれもが愛だったなんて思い知らされたのは、彼がわたしの前から消えてしまったその時からよ』

 一言も聞き逃すまいと聞いてネオンは、楽器ケースを体へ沿わせるように提げなおした。やがてワソランと共にゲートを潜る。その向こう、連なる新たな船へ伸びるボーディングブリッジは、二人が並んでちょうどの幅しかない。その狭い空間へ、色とりどりと明滅する光に音楽が、隣り合う船から流れ込んできていた。

『もうあんなふうに息はできない。自然にも振舞えはしない』

 飲まれることなく、ワソランは続けている。

『その自由こそが彼だった。それが愛しているってことだって……、それほどまでに愛されていたんだって。大事なものほど当然のように横たわっていた。皮肉なものね』

 そうして振り向いたワソランの目が、猥雑なこの空間に穴を開けたようにネオンをとらえる。

『そこまで彼を思う気持ち? そんなことを聞かれても、あなたの想像しているものはどこにもないわ。それは全て後から思い知っただけのこと。そうね、あって当然の永遠を、来ると信じていた明日をなくしたような感覚かもしれない』

 やがて進むボーディングブリッジの果てに、四角く出口は口を開く。

『今は、ただ怖いの』

 とらえ直したワソランの口調に、しかしながら弱さはない。

『当然だった彼を失った。それを認めてしまうことが。まるで自分を殺してしまうみたいで』

 出口を後にした利用者たちはちりぢりと、その向こうへ消えている。

 同様に抜け出しかけたところでアルトは、ネオンたちを探し振り返っていた。その顔はすでに、何をもたもたしてるんだと言わんばかり不機嫌極まりない。

『ここへ来れば、彼の行方ははっきりするかもしれない』

 ワソランが口を開いていた。だからこそ気づいてネオンもまた、反射的に答えて返す。

『大丈夫よ、きっと見つかる』

 だが強調すればするほどそれは、別の結果を意識させて止まなかった。気づいてワソランも小さく首を振ってみせている。

『いいの』

 その視線を睨むように待ち受けるアルトへ、持ち上げていった。

『あのヒトは言ったわ。らしき状況だけを抱えて帰ることも出来る。けれどあえて望まない結末が待っていようとも、事態へ挑む手もあるって。もし……』

 言葉は一度、そこで切れる。おそらくその先を反芻したのだろうワソランに、そこから先、ためらいはなかった。

『もし、彼が死んでいたとしても、それはわたしが彼を失っただけじゃない。彼もまたその瞬間、わたしを失っている。その痛みを分け合ってもいいんじゃないかって。 わたしだけいつまでもその痛みから逃れ続けるなんて、卑怯じゃないのかって』

 互いの間に割り込んでいた利用者たちがいかにも邪魔だ、と往来で立ち止まるアルトをかわしている。

『……アルトがそんなことを?』

 ついぞ驚き、ネオンは確かめていた。

『おかげで覚悟は出来たわ』

 言い切るワソランの表情はむしろ清々しくさえあった。

 と、アルトの声は飛んでくる。

『おまえら、ホントにひとの忠告、聞いてんのかッ』

 その向こうに、未知の世界は虚実共々広がっている。

『離れるな、でしょ? 聞こえてますてっ!』

 ネオンは即座に唸る。それまでの会話などなかったかのようにワソランも、駆け出していた。

『まさか闇雲に嗅ぎまわる、って気じゃないだろうな』

 辿り着いたワソランへ吐くアルトは、なるべく手短に用件をすませたいらしい。

『もちろんよ』

『上等だ』

 ならばとうなずき、こうも続けてみせる。

『だいたいこういうセレブな場所には利用する側にも運営する側にも懐具合のヒエラルキー、ってもんがある。もちろんその階層ごとに蓄えられた情報も質が違うって寸法だ』

『なら、上質なところをひとすくい頂きたいわね』

『だったらチンケな入り口で引っかかってる場合じゃないってことは、承知済みだな』

 腰に手をあてがったワソランのそれは、その準備ならもう出来ている、のポーズだ。

 ならこれで段取りは整った、とネオンもまた楽器ケースを提げなおしていた。

『じゃ、ここに何時集合?』

 とたんアルトの目がすわる。

『だからこれは修学旅行じゃねぇつってんだろうがッ。たく、トラの奴。あとで覚えてろ』

 呪わずにはおれず、羽織る作業着の懐をまさぐった。一本の無煙タバコをつまみ出巣が早いか、火もつけずに噛み潰してやおらその手をネオンへ差し出す。

「そら」

 促した。

「何?」

 見つめたネオン目が瞬きを繰り返す。

「何じゃねーよ。つかめ」

「な、なんでよ」

 言い放つアルトにうなずきかけてネオンは唸り、なら見かねてしゃらくさいと説明もすっぱ抜くいたアルトは楽器ケースに塞がれていない方のネオンの手を、取った。そうして間髪入れず、ワソランへ反対側のヒジを突き出す。

『お前はこっちだ』

「ちょっとぉ」

 無理やりと手をつながれたネオンの声は、居心地悪げだ。

「うだうだ言うな」

 一喝いれて、躊躇するワソランへも振ったアゴで腕を組め、とせかす。

 理由はともあれワソランが従ったのは、そこに確固たる目的があるからだろう。

 さすれば両手に華の完成だ。アルトは大きく吸い込む。くわえた無煙タバコのせいで鼻から息を豪勢に抜くと、なにやらムズ痒そうに歪めた顔で付け焼刃の役作りにいそしんだ。

『お前ら俺がいいと言うまで、余計なことはしゃべるな』

 などと、すごんだところで果たして何の準備が整ったのか。両側のふたりには理解できず、しかしながら伝わってくる意気込みにただのまれる。身構えてワソランが深々と頷き返し、言われて早々、今にも喋り出しそうになったネオンもまた唇をうごめかせた。

 そんな背後からはひっきりなしに、ボーディングブリッジを渡り終えた利用客が今もなお、立ち止まるさんにんを追い越し続けている。気づけばあれほど押し付けがましく思えていた音楽も、妙に高まる緊張と興奮にちょうどのリズムとなっていた。

『なら、行くぞ』

 促しアルトは足を踏み出す。

 とたん視界は極彩色に溶けて流れ出すと、怪しくも淫靡な世界はさんにんの前に、そのの扉を開いてゆく。

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