二人だけの旅路
すみません
大学の授業とかサークルとかバイトとか教習所で忙しくて書く暇がなくて、投稿がかなり空きました。
まだ太陽が昇るよりも前、サフェルは外にいた。
昨日なんだかんだとあった大掃除が終わり、その日は精神的な疲れからか、風呂に入ることはなく、軽く体を拭き、着替えただけで眠りについてしまっていた。毎晩行っている魔力を使った訓練は中途半端になっていたのだった。そのため、いつもより早めに起き、朝の体術の稽古の前に、魔力の訓練も行っていた。
そしてすでに魔力の訓練を終えていた。今は体術の稽古に入っている。
体が変わっていると思うんだけど以外に違和感がないなぁ
それは悲しいかな、もとのからだと骨格がそこまで変わっておらず、それは元の体つき自体・・・つまりそういうことであった。もともと地球では中学生であり、そのなかでも成長の遅いほうだったのだから仕方がないかもしれないが。また、今のサフェルの体はあまりの魔力の多さゆえなのか成長はするものの不老に近い状態になっていた。しかしそんなことサフェルは気づくはずがないが。
日本にいた頃、サフェル、本名は四宮冰蔵の父、四宮和寿は”人生とは知識と経験がものを言うんだ”といっていろいろなことを経験させていた。そのため、一度やってみて冰蔵が気に入ったものに対して、全力でサポートしていた。そして、和寿自身、昔からいろんなことを習得していたので、家でも冰蔵のことを鍛えたりしていたのだ。そのおかげか、武術だと、空手、柔道、少林寺拳法、合気道が段位を取っている。冰蔵曰く、ひとつ覚えれば他のものに応用を利かせられるところがあるらしく、割とすぐに習得できたそうだ。それから中学の部活では珍しい弓道という新しい道を始めていた。
そんなこんなで、サフェルは格闘技においては知識も技術もあるのだ。そして今、それをさらに昇華させるべく、自分でいろいろな型を組み合わせ、独自の方法でもっとも実用的なものを作り上げている。
よし。ここはこうしたほうが次につなげやすいかな・・・。あぁー、稽古相手になる人が欲しいな。
そんなことを考えながらも集中している。その証拠として、自宅から出てくるソファナの存在に気づかない。そしてソファナがある程度近づいてきたときにサフェルはその存在を視界に入れるためその方向をみる。
「おはよう、ソファナ。割と早いんだね。まだ陽も上っていないよ?」
「それをサフェルが言う?そっちこそどれだけ前からやっているのよ?」
「ま、まぁ。結構前だね。」
「もう終わるの?」
「いやもうちょっと」
サフェルは今の稽古を終わらせると、短剣を取り出し、今度はそれを使って始める。短剣とはいっても、やはり素手のときよりもリーチが伸びる。それをあわせるために踏み込みを少しずらす。この稽古は始めたばかりなのでまだ違和感が残る。
「ねぇ、よかったら私にも格闘技教えて?」
「んー、いいよー」
サフェルは稽古のほうに集中していたので、質問の内容をよく把握しないで答えていた。
ん?ソファナ今格闘技をやりたいっていったよね?
サフェルは稽古をやめ、ソファナの方を向いた。その顔は無表情だった。それは、さっきの問いを反芻しているからだ。
「にゃ、にゃに?サフェル・・・」
「ソファナ・・・。一緒にやろう!!」
「う、うん。ありがとう・・・。」
ソファナは若干引いているようで語尾がおかしくなっていたが、その一方でサフェルのその目は輝いており最早、ソファナの語尾がおかしかったことにすら気づいていない。もともと、教えることも考えていたが、父親の教えからか、ソファナ自身やる気がないと意味がないのでは?と思い、口に出さずにいた。しかし、ソファナのほうからやりたいと言ってくれるのだったら話は早い。
「前々からそうしようと思っていたんだ。それに俺も稽古をするのに組み手をする相手が欲しかったんだよ。だから、ソファナがやりたいといってくれてよかった。」
「それならサフェルが言い出しても良かったんじゃ?」
「やっぱり自分で言い出すのといわれてやるのとでは違うと思ってね。」
「なるほどね。じゃあよろしくお願いします。」
「うん。ソファナって体柔らかい?」
「どうだろ?あまり気にしたことないから」
「じゃあいったんここに座って、足をくっつけたまま伸ばして」
「ん。・・・これでいい?」
「じゃあ、体を前に倒してみて?」
「十分柔らかね。じゃあ今度は足を開いて。限界までね」
武術をする上で十分なやわらかさを持っていた。
「うん、じゃあ早速始められるね」
そしてサフェル主体で稽古が始められる。それは一時間ほど続き、空にはすっかり太陽が顔を覗かせていた。
ソファナは覚えがよく、教えたことをまさにスポンジのようにどんどんと吸収し、自分のものとしていった。このままいけば半年とかからずに実践レベルまで到達できるであろう速さであった。
「それじゃあ今日はこのくらいにしようか。」
「うん。ありがとう。汗かいちゃったね」
「まぁ、最初から結構飛ばしたしね。そうでなくとも稽古をやると結構汗かくもんだよ」
「ふぅーん。あ、そういえば昨日お風呂入ってなかったね。」
「もう家に入ろうか」
「ん、そうだね」
ソファナは今回習得したことを頭の中で何度か反芻しつつ、また、サフェルはこれからどういったことを教えていこうかを考えつつ、家に戻った。その後、風呂に入るのだが、この世界においてまだ、湯船というのは普及しておらず、また家が森の中にあるのだからなおさらである。ということで、二人は水を浴びに行く。
「な、なぁ?」
「何?」
「なんで一緒にいるの?」
「だってサフェル一人で何とかできるの?」
「そ、それはできなくもなくもないけど・・・。」
決して失念していたわけではないが、何とかなるだろうという根拠のない、自信といえるまででもないものを持っていた。つまり後回しにして考えていなかったのであるが、ソファナにいわれて考えてみるとできなくはないが、やはり女の子の体に触れることに対する抵抗感がサフェルにはあった。それはソファナからして見てみれば、自分の体なんだからと言いたくはなるものの変化してからのサフェルの様子を見るとやはり心配なところがあったのである。
「ほら、入るよ」
「わ、わかったから引くなよぉ」
サフェルの叫びは虚しく澄んだ空へと響いていった。
「はぁ、なんで稽古するよりも疲れてんだろ」
「まぁ、そんなこともあるよ」
「いや、普通はないからね!?」
ソファナの軽い雰囲気がサフェルのツッコミで鋭く裂かれる。
「二人とも仲がいいな」
「だめだ、師匠の変化が激しすぎて一瞬”誰?”ってなる」
「ほんとだよね。私とサフェルはそこまで変わらないからにゃあ」
「・・・そ、そうだね」
ソファナは、どことなくサフェルに精神的なダメージを与えてしまっているが当の本人はぜんぜん気がついていない上、悪気がないためなんとも言えない。
「しかし、サフェルのあの型は見たことがないな。実用性に重きを置いた動きだな。どこの流派なのだ?」
「・・・流派とかは特にありません。」
「それじゃあ、我流なのか?」
「ま、まぁ、たぶん」
「何だ、煮え切らぬ答えだな。まぁいいが」
そんな曖昧な返答をサフェルは、”しゃべり方、また変わってるよ・・・”と心の中で思いながら返す。また、あの動きは確かに自分で知識から”編み出した”ものではあるので、嘘はついていないわけである。まぁ、実際サフェルからすればいろいろと面倒なので誤魔化したのだ。
三人は、朝食をとっている。今日もいつもとそこまで変わらないようなメニュー(もうじき冬であまり贅沢ができないのだ)が机の上に並んでいる。
「そういえば師匠、今日は俺とソファナで獣人族の里へ行くんですよね。」
「そうじゃ。二人には頼まれて欲しいことがあっての。」
「つまり、お使いというわけですね。」
「まぁ、そうじゃな。獣人族のところに、村で買ってきた調味料、あと食料を持っていて欲しいんじゃよ。」
「それだけですか?」
「いや、後は牙狼族のロウガというやつから、ここに書いてあるものをもらってきて欲しいんじゃよ。」
そういってマーロックは紙を渡してきた。そこには、何かわからない物の名前がいくつか書いてあった。
「わかりました。」
「うむ。二人ともよろしく頼んだぞ」
こうして、朝食の時間は終わり、サフェルとソファナの二人は出発の準備をさっさと進める。マーロックから頼まれたものの量は決して多くはなく、それらをバッグに詰め込んでいく。塩なども入っているのでそれなりの重量にはなっているが、サフェルの筋力なら問題ないし、もし足りなかったとしても、身体強化の魔法を使えるサフェルならば何の問題もない。実はまだ、ソファナにはその魔法を教えていないのだ。割とばたばたとしていたし、今朝は、ソファナが武術に興味を持ってくれたのと、稽古相手ができることにうれしくて、そんなこと思いつきすらしなかったのだ。
「さて、準備はできたし、そろそろ行こうか。」
「うん。・・・わすれものとかないよね」
「もう3回も確認したじゃないか。これでも何か忘れていたなら、それはもうどうしようもないよ。そのときになったら何とかすればいいしね」
「そうだね」
忘れ物に対する不安感というのはいくら確認したところで消えることはない。それはどこかで折り合いをつけるしかないのだ。
二人は一階に降りる。
「「それじゃあ行ってきます。」」
「うむ。これが獣人族の里のある場所の地図じゃ。とりあえず家を出たら、ひたすら東に向かって歩くのじゃ。」
そして二人は、寒空の下、獣人族の里を目指して歩き出した。
そして、5時間ほど二人は歩いた。
「ねぇ、サフェル、どのぐらいかかるとか聞いてなかったね。」
「確かに、森の中だしここら辺の土地勘もないからこの地図の縮尺がわからないな」
「ていうか、森の中で地図なんて意味あるの?それ、獣人族の里の位置しか書いてないんでしょう?」
「ん、たしかに。いま歩いてる方角ちゃんと東であってるかな」
「わかるの?」
「なんとなくね、風や森が教えてくれている気がするの」
「そんなの聞こえる?」
「ちゃんと耳を澄ませば聞こえるよ。サフェルもやってごらん」
そういわれ、とにかくやってみることにする。しかし森や風の声を聴くって・・・と思い無理じゃないかなとすぐにあきらめようとしたところ・・・
(人間が私たちの声を聞いてるよ?)
(ほんとだーー。でも、なんかふつうのにんげんとちがうーー?)
(珍しい事に私たちに近しい存在なのかもしれませんね)
その声は、聞こえるというよりも心の中に直接語りかけてきているように感じるのだ。
「君たちは何者なんだい?」
「サフェルもやっぱり聞こえたんだ」
「うん、まあね。この声は一体なんだろう」
それを答えたのは、ソファナではなかった。
(私たちはこの森に暮らす精霊でございます。)
(わたしたちはマナだよーー)
「マナ?精霊?」
(ええ。マナというのはこの森を満たしている、人の言う言葉に置き換えるならば息吹といったもの。精霊とは、その土地や、木々に宿る守り神のようなものでございます。)
マナは精霊のようなものではあるが、実は厳密にいうと少し違ったものなのだ。普通の人間からすれば、どちらも一緒のようにおもえるのだが、意思疎通ができるものならその違いをなんとなく理解できる。そもそも、マナと名乗るものと、精霊と名乗るものの持つ魔力量の差も歴然としているのだ。
(神といっても、名ばかりのものですけれどもね)
精霊はそういうと、ふふふと笑った。
「ねえ、精霊さん、私やサフェルみたいにあなたたちの言葉を聴ける人は珍しいの?」
(そうでございますね。まったくというわけではありませんが、まずおりませんね)
(いないよーー)
(いないのーー)
「せいれ、・・・名前とかってないの?」
(すみません。名前を持っているのは、上位の精霊のみなのでございます)
「あぁ、そうなんだ。まあいいか」
「ところで精霊さんは獣人族の里ってどこにあるかわかりますか?」
(獣人族・・・、ええ、存じております)
「私たちはそこへ向かいたいんだけど、ここからどういけばいいか教えてもらえますか?」
(あなたたちに悪意のようなものは感じられませんし良いでしょう。ここは獣人族の里の西側、距離は歩いて2日ほどのところにあります。)
それを聴いたサフェルはちょっとしたお遣いどころじゃねーぞ!とおもい、師匠にやられたなと恨めしく思った。獣人族の里は距離で言うとラーツ村よりも更に遠いところにある。それに、ラーツ村に向かったときとは違って森の中を歩いていた。道を歩くのに比べたら、森の中は足場は安定しないし、細かい高低さも多くある。それゆえに更に時間がかかるだろう。
このとき、サフェルは身体強化をソファナに教えることを検討し始める。
「まだ、私たち5時間くらいしか歩いてないじゃん。あと2日って・・・」
(そう言えば、あなた方は思念会話ができるのですね。制御はできていないようですが。)
「シネンカイワ?」
「何だそれ?」
”思念会話”という単語に二人は小首をかしげる。
(思念会話自体はご存じないようですね。)
「文字から何となく理解はできるけどな。」
(それでは説明させていただきます。)
思念会話とは読んで字のごとく、人の思念を魔力を用いて直接相手に伝達すると言う技術の事である。これを用いると、言葉が通じる通じない関係なく伝達ができるのだ。しかし技量が足りないと、何となくでしか伝わらなかったり、その人間の感情しか伝わらなかったりするのだ。精霊の言葉をサフェルたちが理解しているのも、精霊が直接二人の思念に伝達しているからなのだ。
(という感じです。)
「そう言う事なんですね。」
「なるほどね。でもさ、これ使うと言葉がなんか、こう、直接頭の中に語りかけられている感じがするよね?」
(直接相手の思念に伝達していますからね。)
「これって人間相手だと絶対不気味がられるよね。」
(私たちは人を理解している訳ではないので、どうも・・・。)
目の前の精霊はどこか申し訳なさそうにしている。
「あ、別にそう言う意味で言ったんじゃないんだ。ただ、人間相手には、あまり使えないなって思ったんだ。ほかに言葉で認識できて、思念会話見たいにちゃんと伝達できる方法とかないの?」
(人にできませんね。)
「ひとには?」
(あっ・・・!)
精霊は失言をしてしまったかのように顔を少々しかめている。
「んじゃあ、方法はあるんだね?」
(まあ、隠している訳ではありませんし、言っても大丈夫でしょう。それをするには、私の知っている限り、加護を受けるしかないですね)
「加護?」
(はい。”英知の加護”というものにそんな効果があったような気がします)
「なんでそんなに曖昧なの?」
(私自身、知識と知っているだけで、持っている人も見た事がなければ、それを与えるものが何なのかのわからないのです。)
「ふ〜ん。そうなんだ。じゃあ自分で探すしかないな。」
「ねぇ、じゃあなんでさっきは失言だった見たいな反応してたんですか?」
(それは、ここ最近加護を狙った組織があるらしく、それだけならまだしもその組織はかなり強引というか、過激なのですよ。だから無闇矢鱈と情報を話して私たち精霊が不利益を被らない様にしようと精霊たちの間で広まっているのですよ。)
加護というのがかなりの力を持っているのだろかと逡巡する。
英知の加護の話を聞く限りかなりの効力を持っているように思える。英知でさえそれなのだ。ほかにも加護があるとして、それが攻撃系統だったりしたらそれはどれほどのものになるだろう。
それを求める理由はいくらでもあるだろう。自分の大切なものを守りたい。自分の国を守るため。侵攻のため。世界侵略のため。力を求めるものはいくらでもいる。しかし、それがどうしようもない悪者で、とんでもない強者だったら・・・
自分は自分の大切なものを一つ残らず、取りこぼす事なく、守りきることができるだろうか?
ふっ、とあの場所での記憶が、皆の人形の様に無機質で冷たくなった顔が脳内を駆け巡る。
「サフェル顔色があまりよくないようだけど大丈夫?」
ソファナはこういうとき、よく気がつくなぁ
「大丈夫。問題ない。」
最近は少なくなっていたから油断してたな。いつもなら、ここまで思い出す事はなかったのに。
(あなたは、少し・・・いえ、やめておきましょう。しかし、それに完全に染まったなら、あなたはあなたでいられなくなるかもしれませんね。)
ソファナは、精霊の言葉と、サフェルの様子に憂いを隠せないでいる。
「・・・サフェル?」
「ああ、忠告ありがとう。なんとかしてみせるさ。・・・んじゃあ、まあ、いろいろありがとう。もう行くよ。まだまだ道のりは長いしな。」
(この森には決して多くはありませんが魔物もおりますので、十分にお気をつけてください。それでは。)
「ああ、ありがとう」
「ばいばい、精霊さん」
そうして、さっきの精霊はどこかへ行ったのか、気配がなくなった。まあ、マナたちはまだ元気に飛び回っているのだが。そして、ソファナは獣人族の里までの距離を思い涙目で見送っている。
「なあソファナ、もっと速く着ける方法がある。」
「にゃっ!ほんと!?」
ソファナは目を輝かせ、サフェルを見つめる。ソファナは変化してから語尾が”にゃ”となるのを何とか抑えていたが、こういった風に意識が反れてしまうと飛び出してしまう。
「ああ、でも、これが使えるようになるかどうかは、ソファナのセンスと努力しだいかな」
「そこはがんばるよ」
「んじゃあ、教えるよ。だから、今日は進むことよりも、こっちの練習に費やすから、できなかったら、一日無駄になるだけになるからね」
「うん。」
とりあえず、ソファナにどうするのかを教える。
「いまから教えるのは、身体強化って言う魔法だよ」
「身体強化って言うことは、そのままの意味の理解でいいのかな?」
「うん、そうだね。これは魔力を体の表面に纏わせて、それを擬似的な筋肉のように扱うんだ。」
そういって、サフェルは身体強化を行う。そして、そのまま上に軽く跳んでみせる。前は力の加減がわからずに、跳び上がりすぎてしまったが今回はしっかりと調整し4mほど跳び上がった。
「こんな感じかな」
「すごいね、私もやってみよ」
ソファナはサフェルの跳躍を見て、自分もこんなことができるのだと思うとワクワクした。しかし、実際に身体強化を行うその顔は真剣なもので、集中していた。
「体の表面に魔力を纏わせる・・・。こんな感じかにゃ?」
「うん、いい感じだね。初めてだからとりあえず軽く上に跳んでみよう。ここなら上も開けているし、もし、跳びすぎたときは俺が助けるから」
それを聞いてソファナは上へと跳び上がる。ちゃんとアドバイスを聞いて実践したためか、3mほどしか跳び上がらなかった。サフェルのように初めてで何十mも跳び上がらずによかったといえるだろう。それから、少しずつ、力と魔力の加減を調節しながら何回か練習し、身体強化を身につけていく。
サフェルは、もっと時間がかかると思っていたが、案外速くソファナも習得できてしまったので、身体強化は容易に誰でも使えるのだろうと考えていた。しかし、それは間違いで普通は2~3ヶ月を要して習得し、できないものは半年以上掛かる者もいるような代物なのだが、二人が超短期間と言っても足りない― 一日もかかっていないわけなのだから ―で習得できたのは、精霊の言ったことに当てはまることなのだからか、はたまた、偏に才能によるものなのか・・・
「ある程度使えるようになったし、今度は軽く移動しながら今度は目を慣らしていこうか」
この身体強化は知覚の強化は行われていないため、いきなり高速で移動しようとすると、意識が追いつけず、気がついたら目の前の障害物に突っ込んでいる、ということも初心者にはよくあることなのだ。
それはともかく、二人は地面を駆け抜けたり、木々を次々に渡って行ったりと目を慣らしていく。
「サフェル、もっと速くてもいいよ?」
「言ったね?じゃあ行くよ」
そういうとサフェルは一気に速度を倍近くにあげる。
これぐらいでいいかな
さすがについてこれないだろうと思い、見失わないように後ろを確認する。すると、驚くべきことにソファナは着いてきていたのだ。
もうちょっと上げてみるか
身体強化は、魔力を体の表面に纏っているため、物理ダメージを緩和させてくれるのだが、サフェルは知ってか知らずか、はたまたソファナへの信頼か大丈夫だろうと思い、速度をあげる。それにすらソファナはゆっくりと速度を上げついてくる。
今、森の中を駆け抜ける二人の姿をもし、誰かが目撃したのならば、その姿はあまりの速度に霞、それが人だとはわからないだろう。
「もう十分かな」
「にゃ、わかった」
「それにしても、あの速さまで着いてこられるとは思わなかったよ」
「割とぎりぎりだったけどね」
「移動するだけなんだから、十分すぎると思うけどね」
「でもサフェルはまだ上げられたでしょ?」
「まあ、そうだけど、俺のほうがこれを使えるようになってから長いんだから当たり前だろ?」
「まあ、そうだけどさ・・・」
「それよりも、ソファナ体はなんともない?」
「うん、なんともない。さすがにちょっと疲れたけど、魔力もそんなに消費してないし。これって以外と消費が軽い魔法なのかな」
「そうなのかもしれないね」
この二人の認識は当たっているようではずれている。たしかに、この魔法の効果に対する魔力の消費量は確かに少ない。しかし、一般人からすれば、決して少なくない消費なのだ。だが、そんなことを教えてくれる人はここにはいない。
「まあ、体が疲れていなくても、今日始めてやったことだから、精神的に疲労がたまっているかもしれないし、まだ明るいけど今日はここで一泊しよう。あと、もっと体力付けないとね」
「サフェルは体力ありすぎだよ」
「まあまあ、それよりも師匠俺たちの食べる食料入れてくれてないから、今から採りに行こう」
「採りに行こうって言っても、この時期に採れるものなの?」
「木の実とかならあるかもしれないし、探してみればなんか生き物もいるかもしれない。とにかく探してみるしかないだろ?」
「そうだね」
二人は、身体強化を駆使して森の中を駆け回り、食材を探す。結局食べられるようなものはくるみのような木の実がいくつかと熟れた果実が2つだけ採れた。少々物足りない気がしたがそれらを食べ、夜の帳が降り切ったころ、明日朝早くから活動できるように早めに眠りに入った。
この日はソファナにもサフェルがいつも就寝前に行っている、魔力の扱いの練習を行った。知らず知らずのうちに二人のレベルは、この世界の常識から逸れて行くのだった。
そして、サフェルは重要なことをひとつ忘れていたのだった――
まだまだ続きます。
細々と書いていくつもりなので、気が向いたときにでも読んでやってもらえると作者は喜びます。
一章はなんとなく序章に近いかもしれません(序章長っ!)
これからもよろしくお願いします。