暴動と魔法
遅くなってしまいました。申し訳ありません
その日は、空が雲に覆われ、星も月の光さえもない。それに何故か空気が重く、まるで夜が何かを隠しているようだった。
その闇夜に紛れ村の中でいくつかの影が怪しい動きをしていた。
それは静かに、されど着実に進行していく。
「うむ。ここまでは手はず通りだな。」
「そうだな。全員揃ったぞ。」
「さて、こっからひと仕事だな。楽しみだ。」
「ここからは、話し合った通りだ。よし、いくぞ。」
ここに来るまではどこか気の抜けたように話していた集団だったが今は獲物を前にただただ隙を伺う猛獣の持つ目にかわっていた。
しかし、その目は猛獣のそれと幾分か異なり、嗜虐的な、また欲に塗れた目をしている。
「「「「「おう!」」」」」
男達は持っていた松明に火を灯して、幾つかのグループに別れて行った。もう既に、隠密行動などとるつもりはないようだった。
その松明の火は、これからおこる事の残虐性を表しているのかはたまた男たちの意気込みを表しているのか、赤々と燃え盛っていた。また、大火となるのを待っているかのように・・・。
サフェルは夜が更けても何故か眠れずにいた。それで宿の屋根に登って来たが、空は曇っていた。
(あーぁ。曇りか。)
サフェルは空を恨めしげに眺めた後、まだ幾つかの光の灯っている村を眺めた。
昼間に比べれば静かだが、それでも村の酒屋のある辺りは遠くからでもわかるほどに爛々と輝いている。
ピィィィィーーーーー!!
「なんだ?」
村の中から警笛が聞こえ、その直後村が物々しい雰囲気へと変わっていく。村の奥の方から煙が上がっているのが見えた。
「ここから割と離れているな。火事か?行ってみるか。」
そう言ってサフェルは、屋根の上を伝って煙の下へと向かった。ただの火事ならいく必要性はなかったが、今夜はいつもと違いどこか不気味な空気があったのも気になっていたために、その確認のついでに
その場所に近づくにつれ、悲鳴や怒声のようなものが聞こえはじめた。
「こりゃ、どうなってんだ?」
そこは、略奪と暴乱の渦中にあった。
「おらおらおら!さっさと出しやがれ!!!」
「この村の貴族をぶっ殺したい奴は俺らと来い!!」
反乱なのか?いや、それにしては人数が少ない。略奪がメインだな。盗賊団が周りの住人達を吸収しているのか。ん?確かあっちの方向は・・・。
サフェルが見た方でも火の手が上がっており、その方角は昼間の少女が帰って行った方だった。
まさか今の俺が他人の心配をしてるなんてな。
自嘲気味にそう内心で呟き、また移動していった。
マーロックも警笛がなった瞬間に目が覚めていた。そして、魔力を使い何が起こっているのかを早くに察知した。
(これは、暴動かの?反乱に見せかけようとしておるがバラバラになっておる。鎮圧部隊も出ておるようじゃし大丈夫かの。そういえばサフェルは・・・)
ふと、サフェルの魔力が、感じられないことに気づいたマーロックはサフェルの部屋へと向かった。
(やはり居らぬか・・・。何事も無いといいのじゃが。一応探して見るとするかの)
あやつは武器も持たんで・・・と溜息混じりにいいながら宿を出て行った。
サフェルは、この村のスラム街へと来ていた。ここは火のがかなり広まっており、ひどい状況だった。元からあまりものがなさそうなところだからだろうか、ただ火をつけて回っているようだ。
目的の人物は割と早く見つけられた。それはソファナだ。ソファナは小さな子供たちを7人程連れて息を切らしていた。
まだ、こちらには気づいていないようなので、サフェルは声をかけようとするが
「おらおらおら!殺っちまうぞ!!」
彼女達の後ろには男達がおり、剣を振り回しながら叫んでいる。そしてその中には弓矢を持った男が数人おり、そのうちの1人が既に弓に矢を番えており、今にも矢を放ちそうだった。
「っ!!」
サフェルは一瞬あの日の光景がフィードバックし、自分を抑えられなくなり次の瞬間には声にもならない声を発し飛び出していた。
「ソファナ姉ちゃんどこに行くの?」
「ここよりも安全なところだよ」
サフェルを探さなくちゃ。
ソファナは不安に駆られながらも、サフェルを探していた。それは、サフェルならなんとかしてくれるかもしれないという気持ちと、安否を心配する気持ちが混ざっていた。
「ほら、とにかく急いで歩くの!」
まだ、スラム街ではあるがここからもう少しのところで商業区に行けるところまで来ていた。
商業区は特に入り組んでもおらず、見通しがいい訳では無いがスラム街よりも圧倒的に敵に見つかりやすかった。
あとは真っ直ぐ進めばすぐのところまできていたが
「おらおらおら!殺っちまうぞ!!」
と、後から叫び声が聞こえ、少し後ろを見ると、剣を振り回している男の隣で矢を放とうとしている男が目に入った。
そしてその男は目の前の獲物に対して矢を放つ。
ソファナはとっさに子供たちを庇った。その場にいる誰もが男の放った矢がソファナに突き刺さるだろうと予見していた。しかし
パキパキッ!!
そんな音が聞こえ、ソファナは自分がなんともないことに疑問を抱きながら振り返った。
するとそこには肩で息をしているサフェルがそこにいた。そして、サフェルは地面に手をついており、そこから氷が出ており壁を作っていた。
「サフェル!」
サフェルは返事を返してこなかった。よく見るとサフェルの体から光を発し、キラキラとしたものが漂っている。
「ソファナ、ここから離れるなよ?」
「わかった。でもサフェルは?」
「俺はこいつらを片付ける。怖いなら目を瞑っておけ。」
サフェルはそう言うと氷の壁から飛び出して行った。
サフェルは飛び出した後、全力で魔力を放った。すると驚いたことに氷の壁が瞬時に出来上がったのだ。その壁に矢があたるが、突き刺さる事もなくはじかれて地に落ちる。
「サフェル!」
ソファナがそういったようだったが、サフェルはあまりの驚きに聞こえていなかった。
なんだ?どうなったんだ? まあいい、ソファナ達を守れた。あとはこいつらを殺すだけだ。
「ソファナ、ここから離れるなよ?」
「わかった。でもサフェルは?」
「俺はこいつらを片付ける。怖いなら目を瞑っておけ。」
ソファナや子供たちにとって、目の前でいくらこんな奴らだからといって死を見るのはあまりいいことじゃないだろう。そしてサフェルは、目の前の男達に切れていた。
「お前らは、許さない。全員ここで死ね。」
男達は、目の前のサフェルが言ったことが理解出来なかった。見た目は完全に13か14くらいの少女にしか見えないのだから、こんな相手にそんなのことを言われるとは微塵も思っていなかったのだ。
「ギャハハハ!お前みたいなガキが俺ら全員と?頭でも狂ってんじゃねぇのか!?」
「そうだな。頭に血が登っているからかもな。それでもお前らなんかこれでも十分過ぎるくらいだ。」
「んだと!死ねぇぇ!ガキィィ!!!」
いや短気すぎんだろ、こいつら。
サフェルは体に力を入れ魔力で全身を覆う、身体強化をつかう。するといつもと違って、魔力が青白く光っていた。ソファナを助けた時にも起こっていがその時には気付いていなかったのだ。
腰に挿してある短剣を抜き取り逆手に構える。
「っ!手前ぇ何者だ!!」
「黙れよ」
男たちは、サフェルの放つ殺気に気圧されてしまっていた。それは、サフェル相手には命取りになってしまうのだ。
サフェルは一気に駆け出し、集団の先頭にいる大剣を持った男へ近づき、短剣で手首を切り付け腱を断つ。
しかし、その男は意外にも馬鹿力なようで片手で大剣を操る。
「ぐっ!おい!!ぼーっとしてねぇであのガキ殺るぞ!!」
その声に周りの男たちもはっとして武器を構える。最初に攻撃を仕掛けてきたのは、一番後ろにいる弓矢を持った男たちだ。
サフェルはそれを躱し、弓を持つ男たちが厄介だなと思い潰しにかかる。
「こっちに来たぞ!早く撃て!」
さらにサフェルへと数本の矢が襲い掛かる。そのうちの3本が当たると思われたが、一本は躱し、一本はつかみ取り、また一本は短剣で切り落とした。その間も止まることなく突き進んでいく。
そして、弓を持った男達の真ん中辺りまで来たときサフェルは地面に手をつき魔力を放出すると。地面から氷の刃が突出し男たちの命を奪っていく。
その氷に男たちの血が零れ、一種の幻想的な空間を作り出した。
サフェルは短剣に氷をまとわせ、一振りの氷刀を作り出す。その刀で近くの男から切り倒していく。男たちの血が刀につき凍っていくが、その赤くなった刀は一切切れ味が衰えることがない。
その刀はまるで、人の血を吸う妖刀のようだった。
「ひぃ!」
「化けもんだ!!」
「だ、ダメだ!逃げろ!」
男たちが敗走しようとするが
「言ったろう?逃がさないって。」
サフェルがまた地面に手をつくとそこから氷の膜が一気に広がり、そして男たちの足に触れた瞬間に凍っていき、男たちの動きを止める。
サフェルは首や心臓といった急所を切り、突き、一撃で殺していく。
「なんなんだよてめぇはよぉ!!」
そう叫んだ男は男たちの集団の先頭にいて、真っ先にサフェルの攻撃を手首に受けた男だった。その男は足元の氷を避けていた。
持っていた大剣を投げ捨て、仲間の持っていた片手剣を拾う。サフェルの動きはすばしっこく、また小柄なために大剣のような武器では勝ち目が全くないと思ったのだろう。持ち替えたところで大した意味はないが・・・。
「せっかく、長にまで上り詰めて、やっとこれからだってのに!!んでてめぇみたいなガキに邪魔されなきゃなんねぇんだよ!!」
「知るか。人を殺しているんだ。殺されても仕方ないんじゃないのか?」
「殺される覚悟だぁ!?んなもん知るかよ!!」
「そうか・・・。」
サフェルはそれだけ言うと、男へと駆けていく。男から見れば、あまりの速さに一瞬消えたようにも見えただろう。そしてサフェルは、持っている深紅の刀をしたから切り上げる。
男は辛うじて避けるが太ももを深く切りつけられる。
「へぇ。盗賊団の頭やってるだけあるね。他の奴らよりは強いんだ」
男はそのサフェルの呟きに対して何も反応できなかった。それどころか、今も体を動かせないでいる。既に目と鼻の先にいるのに、だ。
そうしてようやく男に動きが見られる。今度は男のほうからサフェルへと切りかかる。
「おおおぉぉぉぉ!!!」
サフェルは男の攻撃を難なく避ける。
「くそおおぉぉぉ!!」
男が自棄になったのか大振りになった瞬間、サフェルは胴を切り抜ける。
そのまま男は倒れ一生動く事のない木偶へと化した。
「大丈夫かい。ソファナ。」
そういうとソファナはサフェルへと駆けより抱きついた。
「恐かった。サフェルが一人で突っ込んでいって、死んじゃったらどうしようって思って・・・。」
「ごめん。」
「でもこれどうやったの?」
「俺にもわからない。」
「分からない?」
「完全に頭に血が上っててね。頭に思い浮かんだ時に魔力を放出したらこうなったんだ。」
サフェル達の周りには、まだ冷気が漂い、氷も融ける気配がない。
さてどうしたものかなと思っていると
「サフェル!無事じゃったか!」
「あっ、師匠。」
「師匠?サフェルの?」
「まあ、そうだよ、一応。なんていうか、成り行きでね。」
「ふぅん。」
「まったくお前さんは・・・。武器も持たずに飛び出して行くとは・・・。 それよりもこれはなんじゃ!」
「よくわかんないんです。」
「サフェルが私達を助けてくれたんです。」
「師匠、これはおそらく魔法です。どうやったら解けますか?」
「魔法!?この規模で!? まあ、魔法なら融けるはずじゃ。集まった魔力を弾けさせるようなイメージで魔力を放出してみるんじゃ。」
サフェルは言われたとおりに、イメージし、刀を軽く振る。すると
パキィィン!!
甲高い音とともに、周りの氷が一気に弾けて霧散していく。また、氷に突き刺されたままだった男たちも地面になげだされた。
「しかし驚いたのう。氷を作り出すとは。」
「珍しいことなんですか?」
「そうじゃ。基本的に氷は水を作り出し、それを変換し氷にするのじゃ。しかし、魔法では基本的に、火と水くらいしか作り出せないんじゃ。」
「この前はなんでも作り出せるとおっしゃっていませんでしたっけ?」
「それは理論上じゃ」
「今は研究もほとんどされとらんからの、それ以外を作り出せた例は少ないんじゃ。」
「少ないということはゼロではないんですよね」
「その通りじゃが、その例があまりに少なくての、その人だけのユニーク魔法として考えられとるんじゃ」
「あの・・・。」
サフェルとマーロックが話に熱中していると、どこか申し訳なさそうにソファナが話しかけてきた。
「そうじゃな。ここから離れて安全なところにでも行こうかの。それと、鎮圧部隊のおかげでだんだんと収まってきておる。」
「そうか、じゃあ宿にでも帰ろうか。」
「えっ、でも私・・・。」
「ほれ、お前さんも一緒にくるがよい。遠慮はいらんよ」
「師匠もそういってるんだし、ほら、行こう?」
「うん。ありがとう。」
サフェルたちは宿のほうへ向かって歩いて行った。