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荒んだ世界に花束を(仮)  作者: 那岐
第1章 異世界での覚醒
4/9

村へ

――3日後


 それまでは、午前から森の中で魔法を使いながら狩りをしては保存食を作り、また、寝る前に魔法の練習をみっちりとしてから眠る。そんなとくに何もおこらない、サフェルにとってはゆったりとした生活を送っていた。


 また、日を追うごとに魔力の制御がうまくなっていったのか、森の中という地形に慣れ始めたのか鳥の狩猟数が増えていた。


 そして、サフェルは自分でも気づかないうちにマーロック対して、少しづつ警戒心を解いていっていた。しかし、無意識に距離を置いてしまっている。これはあの日の反動だと考えれば当たり前なのかもしれないが・・・。


 実はあの研究所に来た当初、研究者たちも優しく接して来ていたのだ。しかし、あるときを境に—もしかしたらはじめからで気づかなかっただけかもしれないが—その目はゴミを見るかのように、言葉は心ないものへと変わっていった。


 その記憶が、他人を容易には信用させなくしているのだ。




 そして今日、サフェルは狩った鳥の塩漬けにしたものを近くの村へ売りに行くということで、マーロックと出かける事になっている。今はその準備中だ。


「村へは歩いて1日以上掛かる。食料を少し持っていこう。基本的には森の中で調達するがの」


 サフェルはパンと薄く切り火を通した肉を布に包み、カバンに入れ、肩にかける。また、20羽ほどの鳥の塩漬けを外に出してある荷車に乗せ、藁のようなものを被せる。家の食料庫にはまだ10羽ほどとってある。


 そして、サフェルはマーロックから貰ったフード付きのローブを着て、マーロックと共に出発する。


 荷車はロバのような生き物が引いてくれているので、とても楽だった。


「そうじゃ、サフェル。村に着いたら、小遣いをやる。少しまわってみると良いじゃろ。」

「はい。」

「ここらからそろそろ、普通の森に入る。普通の森に余り魔物はおらんが、代わりに賊が出ることがある。ある意味では魔物より厄介じゃ。充分に警戒するのじゃぞ。」


こっちの森で獲物を狙うには人通りがなさ過ぎる上に



 道のりは順調だった。普通の森に入るまでは時々魔物が現れたが、この時のために弓を持ってきていたので、大した足止めになることは無かった。しかし、相手が賊といった人間ともなれば、飛び道具や罠といったものを使ってくる。そういったものにまで意識を向けなければならないのだ。

 しかも、自分たちを傍から見れば、老人と子供にしか見えないのだから格好の獲物だろう。


「じゃが、普通の森に入るのは明日からじゃ。魔物なら魔術で近づかせないことが出来るが、人には無理じゃ。本能で行動しとらんからの」

「はい。では、食料と焚き木を探してきます。」

「頼んじゃぞ。儂がある程度まで整えておくからの。ここから多少は移動すると思うが、煙を見て来るのじゃぞ。」

「分かりました。」


 そう言ってサフェルは調達へ出かける。



 マーロックは、ちょうどいい場所を探し、邪魔な岩を魔術で取り除き、焚き木を集めてきてから火を起こす。

 森で1人で暮らしてきただけあって手際よく、すぐに終わってしまった。


 サフェルはというと、こっちの方も順調で、身体強化を使い、魔法の練習をしながら食材になりそうなものを選別し採っていく。


これくらいでいいだろう。


 周りは薄暗くなってきているが、陽は落ちていないようだ。割と早く終わったようだった。


師匠のことだ。もう既に、準備など終わっているだろう。ここからじゃ煙が見えないな。木の上に登るか。


 サフェルは、ジャンプし一瞬で木の天辺までくる。そこからは、綺麗な黄昏が見て取れた。本当に綺麗な赤色だった。しかし、一瞬、夢でのあの光景がフィードバックし、気持ちが冷めてしまう。


「チッ」


 舌打ちをして、煙を探すことにした。すると上がっている煙を2つ発見した。1ヶ所はこの森を抜けた、普通の森の中から上がっている。もう一つは、この森の中からだ。こっちの方がマーロックの方だと検討がつく。

 マーロックの方の煙へと向かって移動する。


 案の定、当たりだった。マーロックは倒木の折れた太い枝の上に腰掛けて寛いでいた。


「ただ今もどりました。はい、食材です。」

「おかえり。ありがとうの」


 2人はそのまま夕食をとった。



 陽はとうに沈み。夜が深まっていく。


「明日は朝早い。陽がでる前に出ようと思っとる。じゃから、もう眠るとしよう。」

「はい、師匠。では、おやすみなさい」

「うむ、おやすみ。」



――マーロックが眠った後


 サフェルはそっとその場から離れ、近くの木の上に登る。最近サフェルは夜高い所に登って星を眺める事をよくしていた。地球にいた頃から、星を見たり、天体観測を行うのが密かな趣味だったりした。


やっぱり星は見ていていいな。あっちとは違う星空だ。まあ、当たり前かな?でも、思い出すな・・・


 サフェルは星を見ていると、地球にいるような感覚になり、嫌な事も思い出さずに、穏やかな心でいられるのだ。それに、冷静になると今まで見えていなかったことや、これからどうしようかとか、そういったことがよくまとまるのだ。

 まさに星が今のサフェルにとっての道標のようになっていたのだ。


皆もこの星空を見たかっただろうな。あそこでは外に出られなかったしな。


 あの場所にいた仲間達は皆、地球の出身だったのだろう。全員では無いものの、地球での遊びを知っているものもいた。あの場所は、何も無かった。しかし、あの仲間達とだったから、楽しかった。唯一の楽しみでもあった。しかし、実験が行われる度、遊ぶことは少なくなり、死人が出てからはめっきり無くなっていた。


この世界で数少ない、楽しい思い出だな。皆の為にも、強くなって仇を討つんだ。それが出来たら皆に顔向け出来るだろう。だから早く強くなろう。


 その強固な決意を表すように無意識にギュッと手が握られた。その瞬間、手の周りがキラキラと光った気がしたが、もう一度やっても何も起こらなかったので、気のせいだろうと、気にしないことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



―チュンチュン!


 サフェルは鳥の鳴き声に目を覚ました。昨夜のまま木の上で眠ってしまっていた。自分のいる木の枝の先に鳥がいる。

 サフェルがふと、笑顔を向けると飛び立っていってしまった。空は白みがかっているが、陽はまだ出ていない。サフェルは、そこで軽く伸びをする。不思議と今日はあの夢を見なかった。良かったように思いつつも、あの気持ちを忘れてしまうのでは?と思ってしまう自分がいるが考えないようにする。


 木から降り、近くの小川に行って顔を洗う。水綺麗では冷たく、心地よい。


 マーロックの元へ向かうと、出発の準備をしていた。焚き火の跡に、魔術で水をかけ、魔術の結界を解いていた。


そう言えばあそこ魔術の結界外だよな?無事だったのは運の良さなのかなんなのか・・・。


「サフェルはもう準備が出来ておるようじゃの。さっそく出発するぞ。何事も無ければ今日の日没前には村に着くじゃろう。」


 サフェルは頷き、ロバを誘導する。


 朝食は歩きながらパンと鳥肉を食べる。


 いくらか歩いていくと目の前に低木群がみえた。しかし、それはこの巨木の森から見れば低木にしか見えないが一般的な大きさの木である。

 ここ数日はずっと見ていなかった上に、巨木に慣れてしまっていたためにそう思ってしまったのだがそれは仕方のない事だろう。


「さてここらから、普通の森に入るぞ」


 2人は警戒する対象を、魔物以外にも向けるようにした。


「そう言えば、師匠。俺達のいる場所ってなんて言うところなんですか?」

「そう言えば言っとらんかったの。この大陸はグラーエル大陸といってな、大陸全体が一つの国、正確には、グラーエル連邦国となっておる。そして儂等のおるところは大陸南東ルーザイス州の東側で、あの森は・・・」


 マーロックが振り返る。サフェルもまたそうする。目の前には直径十メートル、高さは八十メートルの大木ばかりで構成されている森がある。


「通称、大森林。そう呼ばれておる、巨大で、広大な森での。実は、獣人族もいるのじゃよ。」


獣人族だと?そんなのまでいるのか・・・。


「どうじゃ驚いたろう?」


そりゃあ、そうだよ!こっち来てからだいぶ経つと思うけどそんなの一回も見た事がないよ!


 日本人の、それもラノベの類いを読んでいた自分にとっては一種の憧れや夢に近いものがあった。


「昔は、奴隷として扱われていたが、旧帝国が滅びてからは開放され大森林へと移り住むようになった。最近では、街でも見かけるようになったのじゃ。しかし、差別とは、悲しいことに簡単には無くならんのじゃ。じゃからあの森へ立ち入る事があれば獣人族は襲ってくる時もある。気性の荒い奴に限るがの」

「師匠は住んでいるのに何故問題ないのでしょう?」

「それは、彼らを移り住ませたのが儂じゃからじゃ。帝国が滅び、居場所を帝国に奪われていた獣人族はどこにも意見かった。じゃから、この大森林なら問題なかろうとここを獣人族の地にしたのじゃ。」

「師匠はなにをしていたのですか?」

「色々じゃな。」


 サフェルの質問は、マーロックにはぐらかされてしまった。言いたくないのだろうと思い気にしないことにした。



 それからも歩き続け、山の中の果物や木の実で昼食を済ませ、途中見つけた蜂の巣から、ハチミツを採取する事になったが、大方問題なく、進んでいく。


「もうそろそろろ着くぞ。村の名前はラーツ村じゃ。村という割にはかなり大きいのじゃよ。ここは、馬車の終着駅もあるからの。」




 段々と村を守る壁の様なものが見え始める。


「あそこから村に入るのじゃ。さあ、並ぶぞ。」


 門の前に作られている列の最後尾に並ぶ。門の係の人が手際よく次々と手続きを済ませていく。


「身分証明みたいなのって必要なのですか?」

「そうじゃな。普通は必要じゃ。街で発行される住民票が身分証明になる。それが無ければ、その街の住人以外は入れんのじゃ。」

「じゃあ、俺は・・・」

「安心せい。儂がおればなんとかなる。」



 そして自分たちの番がくる。


「次の人。身分証明出来るものを出してください。」

「これで良いかの」


 マーロックは身分証ではなく、何やら紋章の書いてあるスマホくらいの大きさの金属の板を出す。すると、受付の人の顔が動揺をあらわにするのがわかる。


「マ、マーロック様でございましたか!どうか先ほどの軽卒な行動をお許し下さい!!」

「ほれほれ、顔を上げなさい、なにも問題はなかったじゃろうに。そんな事をしておったら仕事が出来んじゃろう。それにあまり目立つのは避けたい。手短に済ませてくれんかの。」

「分かりました。しかしマーロック様ご自身が足を運ばずとも、私どもがお迎えに上がりますものを・・・。」

「いつもの事じゃろうに」


 と、マーロックは苦笑いを浮かべている。


 受付員は、口を動かしつつも、受付を済ませていく。


「ところで、そちらのお嬢さんはどちらでしょう。」

「お、おじょ・・・。」


 サフェルは、フードを被っておらず、それでも間違えられた事があまりにもショックだった。

 そして、あまりの恥ずかしさにフードを被り受付員に見られないようにマーロックに隠れる。受付員からすれば人見知りな娘にしか見えない。


「うっ、嫌われてしまいましたかね。」


 そしてマーロックは受付員に、サフェルに聞こえないようにそっと耳打ちをする。


「こやつは、男じゃ。」

「はあっ!?」

「静かにせい」

「申し訳ありません。」

「とにかく次からは気をつけてやっておくれ。」

「分かりました。」


 そして、今の会話が無かったかのように手続きの話に戻る。


「儂の弟子じゃ。」

「マーロック様の弟子ですか。それは将来がとても楽しみですね。書類には従者として書かせていただきますが問題ありませんね?」

「ああ、大丈夫じゃ。」

「では、これで終了です。村へ入ってどうぞ。」

「ありがとうの。では」


 サフェルは現実逃避から、なんとかもどってきた。


「それじゃ、頑張れよ。゛少年゛!」


 受付員はサフェルに挨拶をする。一部分を強調して・・・。

 それに、サフェルは頷き返しその場をあとにする。


「よし行くかの」


 サフェルとマーロックは門を潜り、村へと入る。


 そこで目に入った光景に息を吞まずにはいられなかった。光景だけではなく村の規模にも・・・。


(は?これが村?どっからどう見ても街だろう!)


「ここって、村、何ですよね?」


「ああ、確かに村じゃな。しかし、元々はダンジョン攻略のために作られた拠点じゃった。州都からは、距離があるし、開拓される機会がなかったのじゃ。そしてたまたま、ダンジョンが近くの洞窟に生成された。その攻略のために、冒険者が集まり、その人間を相手にする商人などが来て、あっという間に村が出来たんじゃ。ダンジョンは攻略されたがここらでしか採れん食材や素材が色々とあり、どんどん発展していったのじゃよ。しかしここは、統治する貴族はおるが公的には、街としても村としても登録されとらん。」

「だからこんなに大きいのですね」

「うむ。とりあえずまずは宿と取りに行くとするかの。」


 2人は”深緑の郷”といる大きな宿に泊まることになった。受付員はやはりマーロックのことを見た時に動揺を露にする。サフェルはマーロックに言われ、荷車を宿の厩へといどうさせ、ロバを外し、厩に固定させる。

 普通こういったことはこの宿でやってくれるのだが、マーロックが拒否しサフェルにやらせたのだ。

 マーロックとしては村への入場の際のことを思い、同じ轍を踏まないようにと気を使ったつもりだっが、サフェルは何故拒否る!?といった感じだった。宿でやってくれるなら任せたらいいのにと。


「サフェルよ。儂は一旦荷物を置いてくる。この後、夕飯の買い物に行くからの、ここで待っているのじゃ。」

「はい。」


 マーロックは奥の階段を昇って行った。サフェルは、この村でマーロックが何故、こんなにも有名なのかを聞いてみることにした。


「あのー、すみません。」

「はい、何でしょう?」

「ししょ、マーロック師匠はこの村では有名なのですか?」

「マーロック様ですよね。そりゃあもう。えっと、サフェル君ですよね?ここが、ダンジョン攻略のために作られたことは知っていますか?」


 受付員は、サフェルが男だと、マーロックから聞いていたが、ごく自然と接してくるのは、宿の質の高さといいさすがだとしかいいようがなかった。それをサフェルが知る事はないが・・・。


「師匠から聞きました。」

「ダンジョンは初めすぐに攻略される予定でした。中に入ってみると入り口付近の道が狭くなっていた為にまだ生成されてから日が浅く、階層もあっても3層くらいだと考えられていました。なので、攻略が始められたのは秋上旬でした。」


 受付員の人はサフェルをフロントのテーブル席へと案内し座らせる。


「しかし、攻略が始まると3階層を越えたあたりから、内部が広がっていて、かなり大きなものだったのです。最終的には、25層までありました。元々ここは、人が来ることがない場所です。なので、ダンジョンが生成された事に気がつかれることなくことがなく、成長し、発見されたものの見掛け倒しに予測を誤った。ダンジョンとは、内部の魔素や魔物の量が増えすぎると、爆発したように地表が弾け、中から大量の魔物がでてくるのです。だから、攻略しなければならないのですが、攻略を始めるとダンジョンはまるで生き物の様に、それに対抗し、魔物の発生量や発生速度が上がってしまうのです。」


「あの、魔素とは何でしょうか?」

「魔素が一体なんなのかは、まだ分かっていません。しかし、魔物が発生する一つの要因として考えられています。」


「話の途中ですみません。続きをお願いします。」

「問題ありませんよ。では・・・、ダンジョン攻略は思った以上に進まなかった。ここは、ほかの街からも離れていますから、物資の補給を安定して行えなかったのです。そしてそのまま、攻略が完了しないまま、冬になってしまいました。その為に、人や物資の補給がほぼ滞りました。その時の戦力だけで、ダンジョンを攻略、維持するのは不可能でした。しかし、逃げることも出来ず、ダンジョンと共に閉じ込められてしまったのです。それから数週間後、ついにダンジョンが爆発してしまいました。その時の攻略は18層、そのしたは手付かず。下の階層の方が魔物が強くなっています。その魔物達が一気に外へと出てきて、数の差で圧倒されていました。その時に我々を救ってくださったのがマーロック様です。」

「儂としては予測しておったからの。仕掛けておいた魔法陣を魔術師組で発動させ、大規模殲滅魔術を使って、一挙に倒したのじゃ。それにダンジョンのボスは儂1人で倒せなくての、近接型の冒険者と協力して倒したのじゃよ。じゃから、儂が救ったわけではないのじゃ。」


 いつの間にか降りてきていたマーロックは自分の話をしていたので、サフェルにまで、この村の者達と同じ目を向けられたくなく、話に混じったのだった。


「ご謙遜を。マーロック様がいらっしゃらなかったら、この村はありませんし、私共も生きてはいません。ですから、この村に住んでいる者達はマーロック様に感謝しているのですよ。それに、マーロック様はお人がよろしく人気がありますからね。」

「まあ、この村では、楽が出来るからこちらとしても感謝しているのじゃ。もういいじゃろう。さあ、買い物へ出かけるぞ、サフェル」

「はい。」


 ダンジョンの事はマーロック自身としては様子見兼もしもの時の防護策として魔術を設置しに来たのであって、1人ではどうしようもなく、周りに頼み、一緒に対応に当たったのだ。なので、自分がそう見られているのは慣れてきたが、こうして目の前で褒められると耐え難いものがあるのだ。

 先ほど懸念していた、サフェルは、あまりにも変わらなかった。逆に何か反応が欲しいとおもったくらいに。


 そうしてマーロックとサフェルの2人は完璧な礼をする宿の受付嬢に見送られながら夕食を取りに屋台街の方へ向かっていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 時間にして一日前、まだ、サフェルとマーロックが大森林で野宿をしている頃――


 サフェルが見つけたもう一つの煙の発生源である焚き火の周りには、5人の男達がいた。


「もうそろそろ冬になる。ここらの5つを合わせると250人くらいになる。お前らの方も冬越は厳しいだろう。だからな、ラーツ村を襲撃しようと思う。そんな理由で今回はこうして集まってもらったわけだ。」


 そう口にした、男はその中では1番歳をとってはいたが、甲冑こそ付けてはいないが装備もしっかりしており、体格もいい。


「アンタ、俺らに襲われるとは思わなかったのか?村襲うよりも盗賊襲った方が後のこと考えても建設的だ。」


 若い男が、煽るように問いかけた。


「お前は頭がある程度働くようだ。それなら分かるだろう。お前らがこの俺に勝てると思っているのか?お前ら盗賊などと一緒にするな。」


 苛立っているのがわかる口調で口にした。


「アンタだって元軍人何だろうが、もう帝国なぞない。今は俺達と同じ盗賊さ。」


 また、別の男が苛立ち口を開く。


「そんな事どうでもいい。俺らの所は今年の冬はかなりキツイ。あんたがラーツ村を襲撃するって言うから来たんださっさと進めてくれないか?」

「ふん。まぁいいだろう。それでだ、お前ら全員参加するのか、しないのかそれを先に聞かせてもらおう。」

「俺はそのつもりで来た。」

「俺も。」

「・・・参加するつもりだ。」


 男達が口々に参加の声をあげるが、あの若い男が発言する。


「俺達は、冬越の準備は上手くいっている。だから。危険を冒す必要が無い。あの村は規模も大きく、壁があるから、侵入も難しい。そんな所に襲撃して成功するはずが無い。だから俺は降りさせてもらう。」


 そう言うと、参加するのに迷いがあったもう1人の男も口を開く。


「確かに。それにお前が言うんだ。お前の言うことは不思議とよく当たる。俺も降りさせてもらう。」


 この男2人はもともと知り合いの様で、立ち上がると協力して乗り越えようと算段を付ける話をしながら去っていく。

 それを見た元軍人の男は、怒りを露にしている。


「何なんだ、貴様らは!この俺様が、協力させてやると言っているのだ。貴様らは黙って従えばいいのだよ!」

「はぁ?アンタ馬鹿?」

「そうそう。俺らはあんたの手下じゃない。そしてあんたはもう軍人じゃない。」

「それに俺らは盗賊だ。俺たちがしたい事をしたいようにする。それだけだ。」


 男2人は、適当にあしらって、面倒だと思い、そそくさと立ち去っていく。さすが盗賊といった感じで、闇に姿が消え、完全に見えなくなる。


「糞がっ!!」


 元軍人の男は拳を近くの木に叩きつける。木が大きく揺れ、枯葉がおちてくる。


「まあ、落ち着きなよ。あそこは規模が小さい。まだ200人はいるんだ。問題ないんじゃないのか?計画はあるんだろう?」

「当たり前だ。」


 まだイラついている様だが幾分か冷静さを取り戻しているようにみえる。


「さっさと話を進めようぜ。元軍人さん。」

「良かろう。あの村には珍しい事に、また幸運なことに地下水路が通っている。あまり大きくないが数人づつなら通れる。そして、村の住人を買収して作らせた出入り口からから、村の中に入る。そして、全員が入ったら行動開始だ。時間帯は夜に行う。」

「夜なら、村の中にいる冒険者も多いんじゃないのか?」

「ここは辺境で、しかももう冬になる。そうなるとここに閉じ込められるからな。力のある奴はこの時期村から離れるのが多い。そもそもラーツ村は公的な村じゃない。噂じゃ今申請をしているようだが、こういう所では自己責任の面が強くなるから腕のある冒険者はあまり入ってこない。そういった理由で討伐軍が組まれることはないだろう。」

「つまり今が1番のいい機会だという事か。」

「そういう事だ。ある程度の人数がいればここの衛兵もなんてことは無いだろう。」

「いいねぇ。で、決行はいつだ?」

「準備時間を入れて考慮すると2日後だ。その日の夜、村の近くの森の中に全員集合だ。」


 こうして夜が更けた頃に男達は火を消し闇に消えていった。



————————————————————————————————————————



—???—


「あいつらはうまく揺動してくれるでしょうか。」

「どっちでもいいさ。これは実験の始まり。最後の仕掛けは大掛かりだその目隠しにさえなればいい。それよりもそっちはどうなんだ?」

「偵察は抜かりなく・・・。」

「そうかならよい。」

「それではそろそろ始めようか。—シンカのとき日のために—」

「—シンカのとき日のために!—」

「「「「「—シンカのとき日のために!!—」」」」」


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