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1円玉を拾った少年と父親

物語は1ページのショートストーリーです。

六歳の少年が道端で1円玉を拾った。


少年は1円玉を握り締めて、近くに居た父の元に走って行った。


「お父さん、お金を拾ったよ!交番に届けようね」


父親は先日、息子に対して「お金を拾ったら持ち主が困ってるだろうし、急いで交番に届けよう」と、話をしていたばかりである。


親の言いつけを守る純粋な少年は、拾った1円玉を父親に見せびらかす様に、交番に行こうと促す。



確かに父はお金を拾ったら交番に届けようと言った。

だが、少年が拾ったのはたかが1円玉である。

持ち主が1円玉を落としたぐらいで困る事もないだろう。

仮に落とし主が困っていたところで、財布でも無いのだから名前が書いてあるわけも無く、落とし主が誰かを特定する術も無い。



たかが1円玉をを交番に届ける。それは果たして本当に正しいことなのだろうか?


交番に勤務している警官だってタダで働いている訳では無い。税金で働いて居るのだ。

拾得物の書類を書く紙だって税金によって得たお金で購入された物。断じてタダでは無い。


1円玉を拾って交番に届ける、それは1円を持ち主に送り届ける事も出来ない上に税金を無駄遣いさせる行為では無いのだろうか?



お金を拾ったからと言って、無闇矢鱈に交番に届ければいい訳ではない。

だからと言って親が子供に1円ぐらいならネコババしろと言うのは教育上、好ましいとは言い難い。


思い悩んだ父は子供にこう話した。


「前にここでお父さんは財布を取り出す時に小銭をばら撒いてね、それはお父さんのだと思うから返してね」


ニコリと笑って息子から1円玉を受け取ろうとするが、子供は訝しげに父を見て1円玉を渡そうとはしない。


「これが本当にお父さんのなら証拠は?」


証拠なんかあるわけが無い。交番に届けるよりか父がネコババした方が手っ取り早いから、自分のだと嘘を吐いたのだ。


「いや、証拠って言われてもね…」


狼狽える父に少年は更に追い打ちをかける。


「じゃあ、この1円玉の年号は何年?それを当てたらお父さんのだと認めるよ」


そう言うと手にしていた1円玉を後ろ手に隠し、父に年号を当てさせようとする。

勿論、父の1円玉では無いのだから分かるわけが無い。

仮に父の物であっても、年号など覚えてる事など皆無。


「あのねぇ、年号なんて覚えるわけ無いでしょ?」


「やっぱりお父さんのじゃないんだ!はい、正解は六十五年でした〜。お父さん、拾ったお金をネコババするのは泥棒のする事なんだよ!」


先日、父に言われたことを少年は勝ち誇りながら父に向かって言った。


だが、父にとってそんな事はどうでも良かった。


「…六十五年?ちょっとまて、それの年号は?」


少年は六歳なので年号は読めなかった。父が年号を見ると「昭和六十五年」と書かれていた。


昭和は六十四年に平成元年となり、昭和六十五年など存在しないのである。

つまり、この1円玉は偽造された硬貨。


父は急いで交番に駆け込み事情を説明。

その時、少年がこの1円玉を父が自分の物だと言っていたなどと、余計な事を言って警官に疑われる一幕もあったが、必死で弁解して事なきを得た。




翌日の新聞には偽造硬貨の見出しが載り、その数日後には近くの金属加工の工場で作られた物だと、警察の調べで明らかになった。


犯人の動機は偽造硬貨を集めているコレクターが高値で買い取ってくれるので、面白半分で作ったのだと。

紙幣と違うので大した罪にはならないと、軽い気持ちで作ったのだと供述するが、たとえ1円玉であっても硬貨の偽造は立派な犯罪である。



犯人が逮捕されると、1円玉を交番に届けようとした少年は、一躍時の人となった。


ニュースなどでも取り上げられ、インタビューに答える少年。

自分は間違って居なかったと、満面の笑みを浮かべながら話す少年とは対照的に、父親はネコババしようとした事をネットで叩かれ散々中傷される事となる。


そしてこの事件を皮切りに、全国で小銭を拾った子供達が交番に届ける現象が流行り出し、拾得物の年間金額が増加する運びとなる。


交番勤務の警察官の仕事が増える事となったので、不満を言う警察官はあとを絶たないが、長い目で見れば拾得物を交番に届ける事を習慣づける事となり、モラルの低下が叫ばれる昨今の日本では歓迎される話ではあった。




たかが1円、されど1円。


道端に落ちている1円玉が国のモラルの引き上げとなる、なんとも珍しいお話にとなりましたとさ。




Fin

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