二章 20 因縁
「ル、ルシアーー」
窮地を救ってくれた人の名をカーナは口にした
ルシアは柔らかい笑みをカーナに向けるとすぐに険しい表情になった
「すまないカーナ。遅くなった。怪我させてごめんな」
カーナの言葉にルシアは再び瞬きする間に近くに移動してしゃがみ込むと、カーナの腕にまとわりつく瘴気に一瞬顔を歪めるもすぐに懐から取り出した小さな小瓶の中身を数滴振り掛ける
するとまとわりついていた瘴気が一瞬で蒸発するように消えていった
「ーーなっ!?」
これに眺めていたザッツは驚愕の表情を浮かべた
ルシアはカーナと気絶しているカラネを見て他に怪我を負ってないか調べる
「大丈夫。カラネは魔力使い果たして気絶してるだけだから。それにカラネの瞬間移動がなかったら私達は・・」
「・・そうかカラネには助けられたな」
瞬間移動と言う言葉に驚いた表情を作ったが、すぐにホッとしたルシアへ突如怒声が響く
「「よそ見してんじゃねぇよ!」」
いつの間にか切れた腕をくっつけたマサツグが剣を手に襲いかかってきた
カーナがそれを見て悲鳴じみた声を上げる
「ルシア!」
「「バカが!窮地を救ったヒーロー気取りか?死にやがれ」」
瘴気が吹き出る剣を渾身の力で背を向けているルシアへ叩きつける
「シールド」
「「なにっ!?」」
こちらも見ずに防御魔術を展開し、さらには初級の魔術で防がれたマサツグは驚愕の表情を浮かべる
この初級の防御魔術のシールドは直径一メートル四方の菱形の小さな盾を生み出す魔術で、先ほどカーナが使った全方位を守る水晶の盾とは違い物理攻撃以外は防げない
そして物理攻撃も初級防御魔術と言うだけあって強力な攻撃は防げない
駆け出し冒険者や魔術師が使うのだが、しばらくすると上位の防御魔術を覚える為、序盤で使わなくなる魔術である
術者の魔力量、そして練度により多少は硬度が増すのだがそれでも普通に中級の防御魔術よりは劣る
そしてそんな初級魔術でいとも簡単に防がれたのだから普通は驚いて当然である
しかしマサツグはすぐにニヤリと笑みを浮かべる
「「バカが!それで防いだつもりか!?瘴気を喰らえ」」
物理攻撃を防がれても剣からは瘴気が吹き出しルシアに襲いかかる
同時にマサツグはルシアから間合いをとった
瘴気は先ほどカーナを襲った比ではなく逃げ場がない程放出され、ルシアに覆い被さるように襲いかかった
「ルシア!!」
再びカーナの叫びがこだまする
「「くっくっく。調子に乗りやがって!俺に勝てるヤツなんているわきゃねぇんだ。さてと」」
瘴気が蠢く場所からカーナ達へ視線を移したマサツグは再び下卑た笑みを浮かべる
「「もう正義の味方はいねぇ、残念だったな」」
そういいながらカーナへ歩み寄る
しかしすぐにその歩みは止まり、マサツグは驚愕の表情を浮かべた
ルシアを覆っていた瘴気が吹き散らされたからだ
「ルシア!」
「「ば、ばかな・・あの瘴気に喰われて平然としてるだと・・」」
視線の先には変わらず立つルシアの姿
「残念だったな」
ニヤリと笑うルシアにマサツグはギリッと歯ぎしりする
そしてカーナ達へ向かい一気にダッシュし出した
大方人質にでもするつもりなのだろう
しかしここでも阻まれる
「「げぼぁ・・」」
奇妙な叫び声をあげてマサツグが吹っ飛んだ
カーナの側にはルシアの姿
蹴りを放った格好で止まっていた
「ーーアークエネミー・・・・」
「ん?その言葉、お前アルス教か。と言うことは今の奴が転生者か」
震えるように紡ぎだしたザッツの呟きを目敏く拾ったルシアはその言葉に反応し、ニヤリと口元を歪ませた
しかし等のザッツは内心震えを隠せない
現に冷や汗と言うか脂汗が止まらない
「な、なぜアークエネミーがこんな辺鄙な大陸に・・いや、本当に存在してたとは・・」
「なんだ、お前何も知らないのか?アルス教の中でもまだ新米か?」
実際ザッツはアルス教に入って5年と言う浅さだが、異例の出世の速さで司祭まで上り積めた男で所謂エリートなのだが・・
ちなみにアルス教の教えの中で言葉としてアークエネミーと言う言葉は必ず出てくる
アルス教に害となるアークエネミーは滅するべき敵である、と
本当かどうかはもう判断のしようがないが、アルス教創設時からずっと戦い続けてきている敵
髪はこの世の物と思えない程白く、顔は悪鬼の如く
白いローブを見にまとい、手には剣、槍、斧、弓、杖、を持ち、ありとあらゆる魔術、武術に精通する
その尋常じゃない強さから人となりは諸説あり、曰く「死神」、曰く「魔族の王」、曰く「獣人の王」、等々
アルス教に入ったらまず叩き込まれるのがアークエネミーに対する刷り込みである
「「ぐああああぁぁぁ!」」
ルシアの思考を塞ぐように吹き飛ばされたマサツグが茂みから立ち上がり咆哮を上げる
ザッツは驚愕に表情を染め、ルシアは訝しげに首をかしげた
「ーー!?」
「ん?さっきと違うな。もしかして自我を喰われかけているのか?」
立ち上がったマサツグは先程とは若干外見が変わっている
一番は角だろう
一本だった角はいつの間にか左右に二本生えており、真ん中の角は無くなっている
そしてその角は長く、遠目からでも瘴気が漏れているのがわかる
目は焦点が合っていなく、視点もぐるぐるしており意識があるとは到底思えない
そんな状態で戦う事が可能なのかは定かではないが、マサツグは剣を振りかぶりルシアに向かって獣の如く飛びかかった
「まるで魔獣だな」
その動きは速いが直線的でルシアは体を横にずらすことで簡単にかわす
「速い・・が、動きが短調だ」
ルシアの言葉通りマサツグの動きは、目で追うことが難しい程速いのだが、いちいち動作は大きくただガムシャラに振り回しているだけなので、ルシアでなくともかわすのは容易だろう
何度目かの斬撃をかわしたルシアはヒラリと身を翻すと再びマサツグに回し蹴りを放った
「「ぐぎゃああああ」」
悲鳴をあげて吹っ飛ぶマサツグだが、今度は先程と違い途中で大勢を整えて足から着地する
「叫びも動きも獣みたくなってきているな。つか何で転生者が魔族化してんだ」
耳を塞ぎたくなる程の咆哮に顔を顰めながらルシアはどうしたもんかと思考する
チラリと視線をザッツに向けるも彼は青い表情で立ち尽くしているだけだ
「ルシア」
「ん?」
「そいつ、懐から黒い玉を取り出して割ったの。そしたら割れた玉から瘴気が溢れてきてそいつを覆い尽くしたの」
カーナからの言葉で、ふむとルシアは考えた
「その黒い玉とやらに魔族を封じ込めていたのか・・いや、魔族から瘴気を抽出したのかーー」
「「ぐるぅあああああ!」」
ルシアの思考を遮り咆哮を上げながらマサツグが襲いかかってくる
先程よりも外見が禍々しくなり、もはや人だった面影は消え失せてきている
全身から瘴気を溢れさせながら飛びかかってくるマサツグにルシアはひどく無感情な表情を作った
ガムシャラながら速さと重さの乗った剣が振り下ろされルシアに迫る
当たる!その瞬間、ルシアの姿がブレたーーように見えた
「「ぐぎゃあああああ!」」
マサツグが絶叫を上げながら仰け反った
剣を持つ手は何か鋭利な刃で斬られたような断面を見せ肘から先が宙を舞う
「すまんーー」
苦悩の表情を見せ小さく呟くと、ルシアが初めて構えを取った
「ーー白炎ーー」
手に持つ刃の長い刀を居合斬りの構えから一閃
いや、ルシアの姿は構えから動いていない
しかしマサツグの体に切れ目がいく筋かが入ると、白い炎に包まれた
オォォンと断末魔か怨嗟か声にならない叫びは白い炎に飲まれマサツグだった者はその身を崩していった
一瞬目から涙が見えた気がしたがすぐに浄化したためにわからなかった
跡に残ったのは両手で救える程の白い灰だけ
ルシアは数瞬目を閉じていたがゆっくり目を開くと普段通りの表情に戻っていた
そしてザッツへ視線を向けると彼はマサツグが倒されてしまった事に一層表情を青くさせていたが、ルシアの視線が向くとビクリと体を反応させる
「残るはお前だけだがーー」
「ひっ!ひぃぃぃ」
ペタンと尻餅を着いたザッツはそのまま後ずさる
ルシアは表情を変えぬまま、ザッツにゆっくり歩み寄る
「知ってる事を吐いてもらおうか。殺しはしない」
ザッツは恐怖に震えながらルシアから逃げるべくずりずりと後ずさるが、後ろの木に背中を当ててしまい下がれなくなりさらに怯える
すると今度は慌てて魔法袋に手を入れ出す
おそらく何か逃げる手段を探しているのだろう
袋から何かを取り出しては使えないと放り出すと言う作業を繰り返している
そして何回目かに取り出した物を見て安堵の表情を浮かべたザッツはすぐにそれを起動させた
ルシアは使われた魔道具を見、そして放り出された道具で見覚えのある物をいくつか見つける
「ん?転送魔法陣か?ーーしかも強制の。型はかなり昔だな。あれは発動まで時間がかかりすぎる欠陥品だ」
変わらず歩みを進めるルシア
魔法陣が発動するまでまだかかりそうで、ルシアなら発動前に魔法陣をキャンセルしてザッツを捕まえるのには十分な時間である事には間違いない
ザッツに手を伸ばそうとした瞬間、魔法袋から出されて転がっていた魔道具の一つが淡く光り出す
ルシアはその魔道具を知っており、自分に害をなす物ではないと知っているために放置していたのだが、よもや発動するとは思わなかったのかザッツに向かう手を止めてその魔道具に視線を向ける
《やぁ、久しぶりだね白死神リロイ!いや、今はルシアと名乗っているんだっけ?》
「その声・・コウラントか」
魔道具から声が聞こえた瞬間、ルシアの表情が嫌悪感を帯びたものに変わっていく
《そんな嫌そうな顔することないじゃないか。君と僕の仲だろう?》
再び声が響いた瞬間、魔道具から蜃気楼のように人影が浮かび上がる
身長は170前後で髪は茶色で短くカットされており、動きやすそうな灰色の外套を着ている
痩せてはいるが無駄な脂肪がなく引き締まっていてアスリートのようだった
日に焼けたような濃い小麦色の肌に整った顔は、百人にアンケートをとっても百人ともイケメンだと答えるだろう
そのコウラントと呼ばれたイケメンがルシアに笑みを浮かべている
「殺し合いをする仲だろ」
《相変わらずつれないなぁ》
蜃気楼のように揺らめくコウラントが苦笑いを浮かべながら肩をすくめる
ルシアは警戒度を上げてカーナ達への視線を塞ぐように移動する
「ーーで?わざわざアルス教の大幹部様が何の用だ?」
《いや、久しぶりに君に会いたくなってね》
嫌悪感を顕にしたルシアと変わらぬ笑みを浮かべるコウラント
しかしコウラントの笑みは作り物めいていて、チラッと見たカーナは背筋がゾクッとした
「魔道具を使って安全な所に引きこもってるくせによく言うな。会いたくなったら直接来たらどうだ?」
《そうしたいのはやまやまなんだけど、出向いたら君に殺されるからね》
にこやかに言うコウラントにルシアは苛立たしげに眉を寄せる
「ちっ、用がないならサッサと失せろ。担なる時間稼ぎなんだろうが」
《あれ?さすがにわかったか。さすがは僕の永遠の友だ》
「気持ち悪いから止めろ」
《あっはっは。まぁまだ彼に死なれては困るんだ。うちは人材不足だからね》
「そのくせ転生者は使い捨てか?」
《聴けば向こうの世界は人口過多らしいじゃないか。それを僕達がーー》
声が途切れたと思っていたら、ルシアが刀で魔道具を真っ二つにしていた
「偉そうな口を利くんじゃねえ」
ルシアは語気に怒りを滲ませながら呟く
そしてふとザッツがいた場所へ視線を向けるとそこには魔法袋から引っ張り出した物が散らかっているだけだった
「・・まぁいいか・・・・」
逃がした者など心底どうでもいいような口ぶりでカーナの元へ歩き出した
~インクの港街入口付近~
「気をつけていくのじゃぞ!」
「こっちの心配は必要ないからな」
ジンバックとキルエラ、守護隊の一部に冒険者達もが見送りに着ている
「妾がいるかは大丈夫じゃ!」
【うむ、私も大分良くなったしな】
ルシーリアが胸をドンと叩くと冒険者の視線が釘付けになる
それをファムが叩くという構図が出来上がっていて、レイラやリリアは男はしょうがないなと言う表情をしていた
「回復するまで休んでもよかろうに・・」
【そうなんだが、戦闘に関してはルシーリアとイルフリーデもいるし問題ないと思っての】
「たしかに元魔王と側近だから生半可な魔物じゃ意味無いな」
【それにな・・】
朱姫はチラリと視線を向けるとジンバックとキルエラは心配そうな表情になる
その視線の先には切り株に腰掛け俯いた狐太郎がいる
心なしか元気がないように見える
「わしらではどうにもできんからの・・」
「私もだ。力になりたいのはやまやまなのだが・・」
【それは私も同じだ。ただ私では狐太郎を完全に立ち直らせる事はできない】
三人共悔しそうな表情を浮かべる
「ふふ、コタローは愛されているのぅ」
「つか何で凹んでるの?ボルガの幹部を退けたじゃん?」
「俺にもわからん。ルシーリア様はわかるんですか?」
「妾も多少人間と暮らしてきたからのぅ。少しはわかるつもりじゃ。まぁ魔族にはああいった気持ちはないのだろうがの」
イルフリーデとベアトリスはわからないといった表情だ
ルシーリア達魔族も狐太郎を心配しているようだが、ルシーリアはそこまで心配はしていなかった
「ま、婿殿なら大丈夫じゃろう」
「ルシーリア様、その・・婿殿とは」
「あ、あたしも知りたい!ルシーリア様の恋人とか?」
「内緒じゃ。そのうちわかる」
片目をつむり、唇に人差し指を充てる仕草は遠目から見ていた冒険者達をさらに虜にさせるに十分だった
しかし相変わらず背中に背負った巨大な鎌がただのゴスロリ少女ではないと言うのを嫌でも認識させられる
ベアトリスはルシーリアの想い人に会えると楽しはそうに、イルフリーデは逆に難しい表情になっているのをルシーリアは面白そうに見ている
「やはり、仲間はいいのぅ婿殿」
小さく呟いた
「さて、それじゃあまり遅くなるとまずいからそろそろいこうか?」
「食料はあれで足りるか?」
「大丈夫だと思う」
「大飯食らいがいるから過剰に持たせたが・・」
「もし足りなくなったら森の魔物を狩るよ」
レフィルは大丈夫と言うがジンバックとキルエラは苦笑する
「レフィル、大森林は食べれる魔物はいないぞ」
「えっ!?」
「魔獣ならいるがな」
聞けば死者の大森林と言う名だけあり死の、言い換えれば負の感情が色濃く出ているので、魔物も長く住んでいるとそれに取り込まれ魔獣化してしまうのだそうだ
しかも死者のーーと言うだけあって日が暮れるとアンデッドや死霊等がうようよ徘徊しているとの事だった
それを聞いたリリアとミレリアは顔を青くする
「ま、大丈夫じゃろ」
と気楽にジンバックは言うが気休めにもならない
「あまり怯えさせるな。本気で怖がっているではないか」
キルエラがジンバックを窘める
「え、嘘?」
「嘘ではないが、そう怯える程でもあるまい?」
「わっはっは。まぁ行けばわかろうと言うものよ」
「コタロー君、行こう」
『あ、はい』
レフィルに声をかけられ我に返ったように顔をあげる狐太郎にレフィルは一松の不安を覚えたが表情には出さなかった
【それでは行ってくるぞ】
「うむ、戻ってきたらまたジンバックの店に寄るといい」
「その時はまた久々に飲み明かそうではないか」
「妾も参加するぞ!」
【ふふ、それではな】
そう言うと狐太郎ら一行は死者の大森林に向けて歩き出した
リアルで2つ仕事をしているのですが、やはり忙しくてまた2月空けさせて下さいm(__)mm(__)mm(__)mm(__)mm(__)m
本当に申し訳ございません
いつもお読みいただいて、本当にありがとうございます




