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無限転生の召喚士  作者: 阿澄龍之輔
88/115

二章 18 転生者

ストーリー開始します

~死者の大森林~


「ちょっと、ルシアがいない!?」

「は、はい。少し前にリファと一緒だったのですが・・」

「ルシアの寝室は?もしくはリファ達の部屋」

「どちらにもおられません」


建物の外で人間の女性と獣人の1人が慌てた様子で何やら話している

夜中とあって周りに配慮したのか若干トーンは抑え目だが


「どうしましょうカーナ様」

「もう!なにやってるのかしら。ーーあっ」


カーナと呼ばれた人間の女性は苛立ちを抑えきれない様子だったが、何か思い出したのか小さく声をあげる


「もしかして・・ねぇ今日って何日?」

「今日ですか?日にちはすでに変わったので27日ですが・・」


意図がわからないと言う風な表情の獣人だが、逆にカーナはやっぱりと呟くと苦虫をかみつぶしたような表情に変わる


「今日はルシアはしばらく帰ってこれないの」

「あのーーそれはどういうーー」

「理由は今は話してる時間がないから後でね。緊急事態だから私が呼びに行ってくる。それまでみんなで守りを固めておいてもらえるかしら?」

「わ、わかりました」

「くれぐれも無茶しないようにね。戦えない人達は地下に連れて行っていいから」

「わかりました」


カーナの最後の一言でスイッチが入ったのか獣人の男性は短く返事をすると他の建物へ走り出した

それを少し見つめていたカーナはやがて小さかため息をつく


「なんてタイミング悪いのかしら。もしかしてーーーーいや、今はそれどころじゃないわね」


小さく頭を振ると首に巻いていた紺のマフラーを巻きなおし駆け出した






それからしばらくは辺りに静寂が訪れるが、それは突如ドンッと言う音と、草をガサガサかき分ける音が静寂を破った

森林へ続く草むらから何かが飛び出してきて地面に当たるとゴロゴロ数回転がった後動かなくなる

それは獣人で飛び出してきたのではなく、何らかの攻撃を受けて吹き飛ばされたようで体にはいたるところに切り傷などの出血が見られた

その獣人は血に濡れた震える手で懐から小さい笛のようなものを取り出すと口に含み吹いた


「ーーーーーーーー」


それだけで力尽きたのかガックリと地に伏した

どうやら気絶してしまったらしい


そのすぐ後に再び草むらをかき分ける音が聞こえたと思うと1人の人間が現れる

短い黒髪に異国風の顔立ち、まだ十代半ばとおもしき幼い表情は少年から青年の間といった方がしっくりくる

そして着ている衣裳もどこかこの世界のものとはアンバランスでずれている

その一番目を引いたのはこの世界とは違う革製の丈の長い黒い革ジャンのようなものを上に着ている事だろう

かと思えば下はこの世界のごくありふれた布でできた服装だ


その若者の手には先端が少し反った片刃の長剣、良く見ると日本刀にも見えなくもないが柄や、鍔の部分が違うことから日本刀ではないと思われる

恐らく長剣を加工したのだろう

その刀身はすでに血で赤く染まっていて、剣先からは血が滴っている

それが草むらから地面に血の跡をつくっている


「なんだ、敵対してるから多少はできるのかと思ったらこんなもんか?獣人ってのも案外大した事ないんだなぁ」


誰にともなく呟いた言葉に思えたが、返事は後ろから来た


「この獣人は恐らくまだ成人前の子供でしょう。私も獣人の事は詳しくないのでわかりませんが・・」


その後ろから充分間合いを開けてゆったりしたローブ姿の男性が姿を現した

純白のローブの左右の腕の辺りに縦に青い2本線が下まで入っていて、胸辺りに何かの象徴されたマークが刺繍されている

髪はブラウン系でこちらも短く纏められており、その出で立ちは聖職者然とした雰囲気が漂っている

手には武器はもっていないので、案に青年の邪魔をしないように離れているだけのように見える

そして倒れ伏している獣人の手に持つ物を見つめる


「持ってるのは獣人だけが聞き取れるという特有の笛でしょう。どうやら仲間に知らせたようですね」

「面白い。どの道獣人、魔族、異教徒共は全て殺す予定だ。手間が省けていい」


ある種何かに取り憑かれたような盲目的な言葉を吐いた若者は近づく複数の足音に、文字通り悪鬼のような笑みを浮かべた






・・・・・・・・・・・・・







そして夜の帳が明ける頃、1人の人間の若者と獣人が対峙している


若者の周りには複数人の獣人や魔族が倒れている

正確にはほとんどが半獣人や半魔族といった人種だった

わずかに動く様子から倒れていた獣人達はまだ生きてはいるようだが、そのまま放置すればいずれ死んでしまうだろう


しかし対峙している獣人は動かない、否動けなかった

相対している人間から放たれる圧倒的プレッシャーに下手に動けば殺られると獣人の本能が訴えているのだ


「お仲間達は全員やられたぞ?死んではいないが時間の問題だ。さぁどうする?」


相手を弄ぶような意地の悪い笑みを浮かべた若者に対峙する獣人の表情は硬いままだ

ただ、蛇に睨まれた蛙状態なのかもしれないが


「ーーだんまりか。つまんねぇな」


そう吐き捨てると若者は瞬時に獣人との間合いを詰める

獣人の男性はその速さに瞠目したが、体は体は反応しきれていない

若者は手にした長剣を横凪に振るう

獣人は慌てて間合いを外すべく動くが、若者の動きが圧倒的に速い

長剣をかわしきれずに左腿を浅く斬られてしまう

それでも片足だけで跳躍できるのはさすが獣人というところか


「ふぅん、そこに転がってる奴らよりは多少はできるみたいだけど、もうその足じゃろくに動けないだろ?だからーー」


再び動き出す若者に獣人は警戒を強める、が

その瞬間すでに若者は獣人の目の前に移動していた


「大人しく殺られとけーー」


振るわれる長剣に今度はまったく反応すらできずに長剣をその身に受ける獣人

先程よりも圧倒的に速いスピードに痛みよりも驚愕の表情を張り付かせた獣人はゆっくり前のめりに倒れた


「また仕留め損ねたか・・やっぱり獣人ってのは身体能力高いんだな。おまけに硬いから急所まで届かない。並の奴じゃ苦労するわけだ」


長剣に付いた血糊をはらって鞘に収める若者に離れていた男性がゆっくり近づく


「それでもあなたなら可能でしょう」

「その為に呼ばれたんだろ?この世界に(・・・・・)

「ええ、アルス教ではなく他宗教を崇める異教徒を粛清するため、人間以外の種族を絶やす為に」

「はっ!お偉いさんがたも大変だなザッツ」


ザッツと呼ばれた男性は特に返事はせずに倒れている半獣人達に視線を送る


「ところでマサツグ殿、止めは刺さないのですか?」

「ほっといても死ぬだろ。苦しみながらな。異教徒にはおあつらえ向きだろ?」


再び悪鬼のような表情で笑みを浮かべるマサツグにローブの男性は戦慄を覚える


ーパキー


不意に響いた何かを踏み潰した音にザッツとマサツグは音の方へ振り向く


今この場には倒れてる者以外立ってるのはザッツとマサツグしかいない

視線を向けられた人物はその狂気の眼差しにビクリと体を震わせる

黒いストレートの髪に前髪は眉の辺りで綺麗に切りそろえられており肩より長い髪は左右に綺麗に括られており所謂ツインテールという奴である

普段なら可愛いであろうパッチリした目には今は恐怖の色しか浮かんでいない


「ほぅーー獣人のガキか」

「いや、あれは恐らくハーフ(半獣人)でしょうな。忌むべき汚れた血」

「違いがわからんな・・しかし殺るのは変わらんのだろ?」


すでに体をそちらに向けて歩き出し、長剣をスラリと抜き放つ


「ええーー」

「ま、恨むなら産んだ親を恨みな」


悪びれもなくそう言うマサツグは長剣を振り上げた

ハーフの少女は恐怖で硬直して体が動かないのか震えるばかりで逃げることすらできなかった






・・・・・・・・・・・






~死者の大森林のとある場所~


「ーールシア、いるでしょ?」

「ええ、いらっしゃいます。しかし今は何人たりとも通すことはできません」


カーナはルシアがいる場所まで来ていた

そこで精霊?に止められてしまい待ちぼうけをくらっている

カーナを止めているのは身長170前後でスラリとした体型の男性だった

それだけなら人間と思うかもしれないが、その男性はなんと地面から浮いておりさらに体が透けているのだ

精霊に近いかもしれないがどこか雰囲気や仕草が人間臭いのである


カーナはこの精霊?の男性とはルシアを介して知り合っており、顔見知りであるため特に警戒心はなかった

それは男性も同じで、だからこそ押し問答的な感じになっているのであろう

男性がその気になればカーナは平然と佇んでいられないのだから


「だったら呼んで!お願い、緊急事態なの」

「ーーーーわかりました。少々お待ちください」


カーナの切羽詰まった言葉に精霊?は何かを感じたのかルシアに取り次ぐ為に奥に引っ込んでいった


しばらくすると精霊?が手に何かを持って戻ってきた


「ルシアは?」

「戻るにはもう少し時間がかかるそうです。ですが代わりにこれを、と」


そう言うとカーナは精霊?から2メートル弱くらいの真っ白な杖を受け取る

先端には七色に輝く水晶がはめ込まれており、魔力がない者からみてもただならぬ杖だと言うことがわかる


「これーーーーわかった。でも私だけじゃ防ぎきれるかわからないから、なるべく早く戻ってきてって言っておいて」

「わかりました」


それだけ言うと時間が惜しいのかカーナは杖に魔力を纏わせる

杖にはめ込まれた水晶がぼんやりと発光したのを確認したカーナは杖を地面に軽く突き刺した


すると杖を中心に魔法陣が浮かび上がり、光り輝くと辺り一面を一瞬白く染め上げた

それが収まると、魔法陣もカーナの姿もなくなっていた


精霊?はそれを見届けた後奥に入っていく

そしてある小さな広場のような場所へ行き着く

そこには髪が真っ白な一人の人間が背中を向けて座っていた

精霊?はその人間に向けて言葉をかける


「あれでよろしかったのですかルシア様?」

「ああ、カーナなら大丈夫だ。あれでもしっかりした所があるからな」

「いえ、そう言う事ではなくーー」


精霊?は言うべきか逡巡するがルシアは言いたい事がわかったのか苦笑いを浮かべる


「それも大丈夫だ。あいつは後衛に特化した魔術師だからな。回復、防御においては信用できる。余程の手練じゃなければやられはしないさ」


その言葉に精霊?は安心したのかホッと息を吐き、相変わらず背を向けているルシアに一礼すると部屋を出ていった


再びしばらく広場に静寂が訪れるが、すぐにそれはルシアの呟きで破られた


「やれやれ、今日は来客が多いな。一応俺以外は立ち入り禁止なんだが」


その言葉のすぐに黒い装束を身にまとった男が片膝を地面に付いた状態で現れた(・・・)


「申し訳ありません」


顔は伏せたままで伺いしれないが、声質からして女性だった


「まぁいい。お前が来たって事は緊急事態なんだろう?何があった?」

「はいーーー」


この後ルシアの表情が怒気で染まり対する女性はその怒気に当てられ全身が震え、冷や汗を流した







・・・・・・・・・・






マサツグが振り上げた長剣を振り下ろそうとした瞬間、突如空に魔法陣が浮かび上がる


「マサツグ殿!」


ザッツから焦りの声が飛ぶがマサツグは構わず長剣を少女目掛けて振り下ろした


「イージスの盾」

「ーー!?」


凛とした声が辺りに響いたかと思うと、少女の前に不可視の六角形のクリスタルが浮かび上がる

それはマサツグが放った長剣の一撃を難なく受け止めた


マサツグはバッと魔法陣があった上空を見上げると一人の女性が紺のマフラーをなびかせてゆっくり下降してくる所だった

その女性が白い杖を振り上げる

マサツグは攻撃が来ると察知し慌てて間合いを開けた


「オーロラヒール」


しかし攻撃ではなかった

女性が唱えた魔術は倒れている獣人達に降り注ぎ、一拍して獣人達がぼんやり淡く光った

それが収まると倒れていた獣人達はゆっくりと起き上がってきた


「ーーなっ!?」


ザッツは起き上がる獣人達を驚愕の表情で見ていた

それはそのはずで、一人一人の回復魔術ならいざ知らず、複数人を一度で回復させる魔術などめったにお目にかかれないし、勿論ザッツも使えない

さらにあれほどの深手だった獣人達を一瞬で全快させる程の魔力、ザッツは戦慄せずにはいられなかった

しかしマサツグはソレには興味無さそうで、見据える目はゆっくり下降してくる女性に注がれていた


「カーナ様・・」


回復した獣人達はマサツグとザッツを警戒しながらもカーナの側まで歩み寄った


「大丈夫よ。あなた達は危険だから地下で待機してて」

「ーー!?わ、わかりました。くれぐれもお気を付けて」


近くに来て普段のカーナと違う雰囲気を感じ取った獣人達は素直に行動に移した


「カラネ、行こう」

「いや」


獣人達は半獣人である少女のカラネも連れていこうとしたのだが、カラネは首を振りながらカーナにしがみついた


「カラネ、カーナ様の邪魔をしてはダメだ」

「ーーいや」


他の獣人が窘めるもカラネは頑として首を振る

どうしたものかと獣人達はカーナに視線を移した


「しょうがないわね。カラネ一人ならなんとかなるわ。カラネ、私から離れたらダメよ?」

「・・うん」


カーナ様がそう言うのなら、と獣人達はマサツグ達を警戒しながら下がる

それをマサツグやザッツは妨害しなかった

いや、妨害できないと言った方が正しいだろう

カーナから視線を外せなかったからだ


「おねえちゃんーー」

「カラネ、もう大丈夫よ。すぐにルシアも来るからね」


恐怖で今にも泣き出しそうだったカラネと呼ばれた少女の頭をゆっくり撫でながらカーナは大丈夫と言い聞かせる

それが通じたのか少女は強ばっていた表情が幾分和らいだ気がした


「それであなた達は何者なのかしら?なんの目的があってこの森に来たの?」

「貴様ら異教徒共と楯突く奴らを殺しに来た」

「異教徒ってなに?」

「アルス教の教えに背く人々、もしくはそれを匿う人々の事です」


ザッツの言葉を聞いたカーナは嫌悪感を露わにし、底冷えする眼差しをザッツ達に向ける


「あなた達、アルス教なのね」


カーナが白い杖を構えた所で思いがけない単語が飛び出した


「お前ーー転生者か?」

「ーー!?」


そのマサツグの言葉にザッツは驚いた表情でマサツグと女性を交互に見た

カーナは一瞬ピクリと表情を動かしただけだが、マサツグは見逃さなかった


「残念ながら違うわよ」

「嘘つくな!イージスなんて単語、転生者じゃなきゃ知らないだろ」

「ーー知ってるわ」

「なに!?」

「でも語源は違うと思うけどね」


現にイージスの盾と言う言葉はこの世界に昔からある

この世界のおとぎ話や英雄譚などにまれに出てくるのだ


「ーーじゃあ、じゃあ貴様は何なんだ!」

「この世界で産まれた普通の人間よ」


先程の余裕もどこへいったのか険しい表情でカーナを見つめるマサツグ

警戒心バリバリのマサツグの様子にカーナは内心ほくそ笑み、さらに時間を稼ぐことにする

彼が戻ってくるまで・・


「そうーーあなたは転生者なのね」

「だったら何だ!?」

「知ってる?今行われている転生の儀は禁術に指定されているのよ」

「それがどうした?」

「何で禁術になったか知ってる?」

「それはーー」

「マサツグ殿!」


2人の会話をザッツが遮ると2人の視線がザッツへ向く

ザッツは若干焦っているのか言葉が早口になっている


「無駄話はその辺にしていただきたい。時間稼ぎしようと言う意図が見えすぎている」

「そんなつもりはないんだけれどね」


カーナはわざとらしく肩を竦める仕草をする


「マサツグ殿」

「・・ふん、俺にはどっちでもいい事だがな」

「恐らく誰かを待っているのでしょう」

「誰が来ても同じ事だ、死ぬ結果には変わりない。俺に勝てる奴なんていやしない」


マサツグは自信満々にそう言うとカーナ目掛けて走り出した


「ちぇっ。時間稼ぎは失敗か・・カラネ、私から離れないでね」

「ーーうん」


凄まじい速さで掛けてくるマサツグに対し、杖を構えるカーナ


「ルシアーー早く戻ってきてよね」




ようやく他の転生者出現です

まぁアレですが・・


いつもお読みいただきありがとうございますm(__)m


寒いので体調には十分気をつけてください


次話も22日(日)午前9時更新予定です

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