二章 4 女海賊レイラ
「ーーフィー・・なのか?」
レフィルが小さく呟いた
目の前にいる女性はどう見てもフィーだった
ただし衣装はガラリと変わっており赤を基調とした軽装で、真っ赤な髪は後ろで結い上げられている
「ふふふ、そうさ。驚いたかい?」
口調も変わりニンマリと笑うフィーに未だに状況が理解出来ない一行
「説明してもらおうか」
いち早く我に返ったヴァージルは曲刀に手をかけるとルクスから殺気が漏れ出す
思わずレフィルも戦闘態勢に入った瞬間、フィーはルクスに鋭い視線を送る
それでルクスは殺気を霧散させた
しかしヴァージル達は警戒の色を強くしたままだ
それにフィーは別段動じる様子はまったくなかった
「まずは落ち着いて話そうじゃないか。さっきも言ったとおり危害を加えようと言うわけじゃないからね」
【そう言われてもこの状況ではな。私や狐太郎は信用したいが、こヤツらはそうはいかんだろう。話をしたいのならば隠してる人間、いや獣人もいるか・・そヤツらを遠ざけてほしいな】
この状況を楽しむかのような朱姫の言葉にフィーは一瞬驚くも、すぐに表情を改める
「流石だね。ルクス、武装解除させて持ち場で待機だ」
「しかし・・」
「わからないのかい?あたしら全員が束になったってこの人には適わないよ」
「ーー!?わかりました」
渋りながらもルクスが下がると部屋を覆っていた圧迫感みたいなものも消えた
【なんだ、バレていたのか】
「もちろん。1番敵に回したらいけないからね」
その言葉に朱姫はニヤリと頷く
【ふむ、殊勝な心がけだな】
「部下共は下がらせた、これで少しは信用してくれるかい?」
「・・いいだろう」
フィーに促されてヴァージル達はテーブルに座る
未だ混乱から覚めない狐太郎達を見回しながらフィーはゆっくり口を開く
「まずは騙すような事をして船に連れてきて悪かったね」
いきなり謝罪から始まった言葉に思わずヴァージルも驚く
「さっきも言ったとおりこの船は海賊船であたしは海賊船の頭領をしているレイラ」
「旅の商人と言うのは嘘か」
「嘘じゃないよ。船から陸に上がった時は他所から仕入れた物を売ったりしてるしね」
「襲って奪った物ではないのか?海賊と言うからには船を襲ったりしているのだろう?」
ミレリアは険しい表情でフィーことレイラを睨めつける
「もちろんさ。海賊だからね」
悪びれる事なく言うレイラにミレリアは怒りの表情を浮かべ、ヴァージルの方へ向く
「私は反対だ!海賊などの世話になってはーー」
「帝国の看板に泥を塗る?かい」
「っ!?ーーそうだ!1国の王族が海賊と行動を共にした等と噂が回ってみろ」
「まぁそうだろうねぇ」
「ならばさっさと私達を返せ」
「まぁあんたはそうだろうね、じゃああんたらはどうだい?こっちの王女様みたく海賊とは関わりたくないかい?」
ミレリアはそっちのけでレイラはヴァージル達へ話を振る
「僕はお願いしてもいいと思っている」
「俺もだ」
2人の言葉にミレリアは信じられないといった表情をする
「これは僕の勘だけどね」
「もし歯向かってきたら斬るだけだ」
2人の言葉は違えども結論は同じ
「それにこんな所でもたついてるわけにはいかん」
ヴァージルの決死の表情にレイラはニヤリと笑い強く頷く
「いい表情だねあんた」
そこへ物怖じしないリリアがなんの脈絡もなく話を振った
「ねぇ、あなたって有名な海賊なんでしょ?」
「そうさ、あたしらに勝てる奴なんてそうそういないよ。この海域でだけどね」
自信があるのかニヤリと笑うレイラ
「そう・・じゃあおかしいわ」
「なにがだい?」
リリアの言葉に意味がわからずに首をかしげるレイラ
「だってこの部屋の絨毯やベッド、調度品の類が庶民レベルの物だもの。この部屋はまだそこそこ高級な物があるけれど、ここに来る間も見てたけど他は高級品の類がまったくなかったわ」
「どういう事だ?」
リリアの言葉にレフィルは問い返すがリリアはレイラを見据えたまま話し続ける
「あなたの言うことは間違ってない。たぶん海賊としての実力も力もそうとうなものだと思う」
「そりゃどうも。それで?」
「他の船を襲って資金稼ぎしてるって言ってたけど本当かなって」
レイラは再びニヤリと笑う
「流石は敏腕ギルド職員様だ。だけどそれじゃ50点もあげられないね」
言うとレイラは真面目な表情を作る
「あたしらは無垢な子供や無力な一般市民らの船からは略奪したりはしない。狙うのは主に貴族さ」
一呼吸置いて続きを話す
「といってもまっとうな貴族もパスだ。そんな貴族がいるなら別だけどね。あたしらがもっぱらターゲットにしてるのは民を蔑ろにして悪銭こさえて私腹を肥やす貴族さ」
「なるほど、商人と言う肩書きは情報集めるにはうってつけと言うわけか」
「ご名答」
ヴァージルの言葉にレイラは口角を上げる
「でもそれじゃあ、奪ったお金はどうしてるの?」
「そ、それは・・」
珍しくレイラが言い淀む
「はっ!言えないような事をしているのか?さっきのセリフとは真逆だな」
ミレリアの挑発まがいの言葉にもレイラは言い淀んだままだ
「それは私が答えましょう」
すると、ふと声がした方を向けば戸口に1人の女性が立っていた
紺系の動きやすそうな服装でクリーム色の柔らかそうな髪は肩下まで伸びている
レイラと違いギラギラした眼差しはないが、しっかりした印象を持つ女性だ
「持ち場待機だって言わなかったかいカミラ?」
「私の持ち場はレイラ様の傍ですから」
レイラの咎めるような視線をスルーしたカミラと言う女性はそのまま部屋に入ってくるとレイラの後ろに立つ
「この海賊船の会計のようなものをさせて頂いてます。お見知りおきを」
そして手に持っていたファイルを開く
レイラの頬から一筋の汗が流れる
「船を襲った戦利品に関してですが・・まず先月襲ったサンバロと言う貴族から奪った物資は八割方リザールの孤児院へ寄付、先々月に襲った密輸船の商船からの食料はスラム街の炊き出しにてすべて消費、同じく先々月のレングと名乗る貴族から奪った金銀はレング領の民に返還、それからーー」
「カミラ!・・もういい」
カミラはファイルをパタンと閉じる
レイラを見ればバツが悪そうに横を向いている
「また他国からの奴隷を運ぶ密輸船、悪徳奴隷商人とのバトルの詳細はーー」
「カ・ミ・ラ!」
恥ずかしいのか顔を赤くしたレイラは射殺すんじゃないかってくらい苛烈な目をカミラに向けると、今度こそカミラは1度黙る
「と、レイラ様は誰彼構わず略奪を行っているわけではありません」
「信用しろと?証拠がない」
カミラの言葉にミレリアは反論する
たしかに現状では嘘か本当かはわからない
適当にでっち上げた可能性すらあるのだ
しかしレイラの反応を見れば少なくとも嘘ではないことは伺い知れる
「なるほど、そうですね。ではリリアさんに聞いてみましょう」
「ーーえ、私?」
急に話を振られキョトンとするリリア
今の話にどこが自分が答えられる所があると言うのだろうと首をかしげる
「先月ギルドへ海賊討伐の依頼が入ってませんでしたか?」
「え?・・・・あー、入ってたわ。貴族様が海賊に奪われた宝を取り返してくれ?だったかしら。たしか国に献上する為に、わざわざ他大陸から持ってこさせた・・なんだったかな」
リリアは思い出そうと必死に頭を捻る
「それは銀細工じゃないですか?」
「あぁそう、銀細工だ。ーーあれ?」
言われてリリアはポンと手を打つが、答えたのがカミラなのに疑問を持った
「たしか献上品の中身は公表されてないはずだけど」
「それはその船を襲ったのがレイラ達だからだろう」
首を捻るリリアの問に答えたのはレフィルだった
「さっき言った事は証明されたとしても、その情報だけだとサンバロとか言う貴族が悪い奴かはわからんぞ」
ヴァージルの追撃にもカミラは変わらず、レイラも表情は崩さない
カミラは言葉を続ける
「その後一時的に難民が押し寄せませんでしたか?」
「え?ああ、そういえば・・獣人がけっこうな数で・・・・でもそれは直ぐにエルエリア大陸に・・って、え?」
「その難民はサンバロ伯爵が運んできた獣人奴隷です。王に献上する品を積んでると言えば船内は深く検査されませんからね」
「馬鹿な、獣人奴隷は禁止されているはずだぞ!」
テーブルをバンと叩きミレリアが声を上げる
「そんなものは表向きだけだ。裏では現在も続いている。今回は半獣人ばかりだったけどね。きっと獣人達からも敬遠されてたんだろうね。半獣人達は絶望に打ちひしがれていたよ」
「嘘を言うな!」
「ならそのサンバロの屋敷をくまなく調べてみな。そう言った書類がわんさか出てくるだろうね」
ミレリアが唇を噛み締めて黙る
と、そこで狐太郎が手を上げる
『その半獣人はどこに行ったんですか?』
「ん?ああ、成人してた何人かはうちの船で使ってるよ。あたしはそんな偏見ないからね。優秀なら問題ない、もちろん強制じゃないよ。それで残った男達や女子供はエルエリア大陸にツテがあったからそっちに送った。安心しな、そこなら虐待はないと誓うよ」
『そうですか』
ホッとした表情の狐太郎にレイラは目を細める
「あんたも変わってるね。この大陸では獣人迫害が無くなったとは言え、未だに忌避する奴らは多い。できるだけ獣人には関わりたくない奴らばかりなのに、あんたは今の話で心底ホッとしていた」
『ーー昔、獣人の仲間がいたんですよ』
そう言った狐太郎の声は、懐かしいと言う響きと寂しさが言葉尻に含まれていた
それを無言でしばらく見つめたレイラは今まで見せたことない優しい笑顔を作る
「そうかい。きっとその獣人は幸せだったんだろうねぇ」
しみじみと呟いたレイラの言葉は優しかった
その表情を見たミレリアは流石に反論はできずに沈黙する
「さて、少し話が逸れちまったがまだ質問はあるかい?なければあたしらがあんたらに接触した理由を話させてもらいたいんだけどね」
「レイラ様、それはーー」
「いいんだよカミラ。こっちは信用してもらわなきゃならない。それにどうせすぐバレる」
カミラの咎めるような言葉にレイラは真っ直ぐな返事を返すとカミラはおとなしく引き下がった
「理由だと?」
「そうさ、魔族が押し寄せているエルエリア大陸に渡るんだ。危険は承知の上だろう?」
「当たり前だ」
「ふふ、気持ちいいくらいの即答だね」
ヴァージルの答えにレフィルや狐太郎達も強く頷くとレイラはニヤリと笑う
「何、簡単な仕事さ。船で移動中に魔族が襲ってくるからそれを追っ払っう仕事さ。簡単だろう?」
「たしかに簡単だな。言うだけならな」
「あんたらの実力があれば楽勝だと思うけどねぇ」
「規模がわからん事には何とも言えんな」
「そりゃそうだね。それじゃちょっと話を聞いておくれ」
そう言うと後ろのカミラがテーブルに地図を広げる
「ここが今あたし達がいる港街リザール、んでここから、エルエリア大陸唯一の港街インク。ここに行く手前に必ず魔族に襲われる」
「必ず?」
「ああ、あたしたちもエルエリア大陸に用事があるから月に何度か行くんだけど、最近は魔族の妨害が入って近寄りさえできないのさ。あたしらも多少は腕に覚えがあるものの相手が魔族じゃね。それに船を守りながらじゃまともに戦えない」
お手上げと言う仕草をレイラはする
「街で大陸に渡る冒険者はいなかったのか?」
「ギルドから魔王を筆頭に魔族が押し寄せてるなんて情報が出回ってて、今街は逃げ帰って来た奴らがほとんどさ。新しく街に来た奴らも行くなんて酔狂な奴はいないさ」
「たしかに少しギルドで仕事手伝ってたけどみんなエルエリア大陸から来た冒険者ばかりだったわね」
「それに、腕に覚えがある冒険者は向こうに残ってるだろうしね」
レイラとリリアが話す
「なるほど、そこで俺達が街に来たと言うわけか」
「そう、念入りに調べさせてもらってから接触したけどね」
「船が必ず襲われるならそりゃエルエリア大陸行きの船はすべて欠航になるね」
「そういう事」
レイラの言葉にヴァージルはしばし目を瞑っていたが、すぐに目を開いた
「いいだろう。どの道あっちに渡る船は他にはない。魔族が妨害しようが蹴散らすしかあるまい。ミレリアもそれでいいか?」
「・・・・ああ」
不承不承と言う形でだがミレリアは頷く
「感謝するよ。それじゃ今日はもう遅いから休んでもらうとして、カミラ」
「客室に案内すればいいんですね」
「頼むよ、あたしはーー」
その時船が騒がしくなり、大きく揺れた
「きゃあっ!」
「なんだ?」
しばらくすると揺れは落ち着いたが、廊下が騒がしくなる
「頭!街の憲兵隊に見つかった」
「ちっ、船をすぐに出しな」
「すでに準備に入ってます」
そう言うと慌ただしく出ていく船乗り達
「すまないね、このまま街から出るよ」
「それは構わんが、大丈夫なのか?」
「今回の客はあんた達で最後だ、問題ない。カミラ、今月の警備隊はどこの貴族だ?」
「サンバロ伯爵です」
「道理でしつこいわけだ」
「おい!」
チッと舌打ちするレイラにヴァージルが声を掛ける
「俺達にもできる事はないか?」
その言葉にレイラは目を丸くするが、すぐにニヤリと笑う
「船の事は船乗りに任せときな。あんたらは有名人だから見られたら不味いだろう?気持ちだけもらっとくよ」
特にミレリアを見ながら言うレイラは、あとから入ってくる船乗り達にテキパキと指示をだすと自らも部屋を出る
「カミラ、客人を部屋へ案内しな。何、すぐに静かになる」
「わかりました」
そう言うと、カミラが返事をするより早くレイラは部屋を飛び出していった
「それでは部屋へ案内しましょう。付いてきてください」
8月はもしかしたら更新が遅くなるかもしれませんm(__)m
が、なるべく定期更新できるように頑張ります
次は8月7日(日)午前9時を予定しています
いつもお読みいただきありがとうございます




