一章 30 王都
~とある一室~
薄暗い部屋のテーブルに数人が座っている
部屋は10畳くらいのスペースがあるが殺風景で調度品と言えば中央付近に据えられた椅子とテーブル、燭台くらいなものだ
窓もあるにはあるのだが今は分厚いカーテンが掛かっており外の光は入って来ないため、今が昼間なのか夜なのか判断できない
唯一の明かりは燭台に付けられた明かりのみで、それも部屋を明るく照らし出すには至らない
「どうやらランガルスが死んだようですね・・・」
薄灯りの中テーブルに着いている1人が口を開く
フードを目深に被り薄灯りの為顔は見えないが、丁寧な話し方と声はまだ若く温和な印象を受ける
他のテーブルに座っている数人もフードを被っており顔及び表情は伺いしれないが、その言葉を聞き声音は驚きに満ちていた
「なに!?あそこにはそれ程の手練はいなかったはずだが」
「それに指輪も渡してあったはずだ」
「情報では第三王女が現れたらしい」
「なんと?では一網打尽のチャンスだったのではないか」
「しかし王女一行にランガルスがやられるとは思えん」
「それについても情報があります。青い髪が現れたと」
その言葉でテーブルで1人黙していた男がピクリと反応する、がそれだけだ
「青い髪、レフィルか・・・」
「あいつならたしかにランガルスもやられかねん」
「しかし忌々しい。どこまで我々の邪魔をすれば気が済むんだ」
「ドルバ、あれは恐らく王都まで来るぞ」
「だ、大丈夫だ。対策はしている」
ドルバと呼ばれた男は焦りながらも自信ある表情をする
「しくじるなよ。恐らく王女らも今回の事は感づいてるだろう。必ず殺すのだ」
「わかっている」
「あの薬はもうないのか?」
「ない。造れたのはランガルスだけだったからな」
「惜しいな、未だ解毒法がない毒物など恰好の脅し材料になろうに」
「それでフリッグは死んだのか?」
「・・そちらの情報はまだ錯綜してましてね。死んだともまだ生きているとも」
「どの道死ぬことには変わりないな」
「これでフリッグ領は領主不在でしばらくは外にかまけてる暇はあるまい。あの精強な騎士団が外に出ないだけでも良しとするか」
「最悪ラグアニア王を盾にする事も考えておけドルバ」
「わ、わかった」
「他に何か情報はあるか?」
「・・いえ、今の所は特にありませんね・・・」
「そうか、では解散だ」
そう言うと卓に座っていた姿が霞のように次々に消えていった
「あなたはまだ何かあるのですか?」
卓に残る1人に声を掛ける
先ほどから議論に一切参加せず黙していた男だ
「貴様、何故だまっていた?」
「なんの事でしょう?」
しばらく空気がピリピリと張り詰める
「・・ふん、まぁいい」
「貴方も何か隠してるようでしたが?」
「レフィルか・・」
思わずしらばっくれると思っていたフードの男は思わず目を見開く
「否定はしないのですね」
「いずれバレる事だ」
「何か事情がありそうですが?」
「・・余計な詮索は寿命を縮めるぞ」
「失礼しました。では私もこれで・・」
いうが早いか霞のように消えていき、男はしばらくその場を睨んでいたが
「レフィル・・やはり来たか・・・」
呟き男の姿も霞に消えた
・・・・・・
~ラグアニア王国~
執務室へ続く廊下を歩きながら大臣のドルバは内心焦っていた
「(まさか第三王女のクリスティア様が生きていたとは・・・)」
王都から脱出したものの護衛ともはぐれてしまい、精霊の森に逃げ込んだと聞いた時ドルバは安心していた
侍女が付いてるとはいえ王宮暮らしの女が2人、そうそう森で生きていられるわけがない
ろくに旅もしたことない上に身1つなのだ
森に赤子を放り込むのに等しく、さまよい飢えて死ぬか、森の魔物に食われてしまうだろうとタカを括っていた
さらにアゼルの命令により、追っ手も差し向けた
念には念の入れように、これで九分九厘生きてはいまいと安堵するもしばらくすると驚愕の情報が入ってきた
王女は生きている
そしてさらなる情報に追っ手も撃退され、はぐれた護衛達とも合流したという
さらには王女の側には見知らぬ少年が側におり、その少年がすでに廃れたと思われていた精霊使いだと聞いた時は耳を疑い、ドルバは頭を抱えたくなった
恐らくその少年が王女を救い九死に一生を得たのだろう
やはり悪運が強い・・・
しかし内情を知る王女一行を生かしておいては後々面倒になる
そして恐らく次はフリッグ伯爵領へ行くだろうと予想し、次なる一手を考える
フリッグは真面目で謀りごとが嫌いな性格だ
加えてクリスティア様とは幼少の頃からの面倒もよく見ていてよく懐いていた印象がある
一時期勉強も教えていたらしい
そんなクリスティアが絶大の信頼を寄せるフリッグ伯爵を頼らないわけがない
そしてフリッグ伯爵もクリスティア様の力になるだろうと
ドルバは急ぎフリッグ領へ人を派遣する事に決める
それがランガルスだった
話を聞いたランガルスは薬の実験体にちょうどいいと言ってフリッグ領へ向かった
幽閉されている愚兄のダムルを領主に返り咲きたくはないかと話を持ちかけフリッグを失脚させる
こちらが落ち着くまでダムルに仮の領主をさせて事が済んだら処分するつもりだった
それがどうだ、またしても王女達は全員無事でランガルスは死んだと言う
全てが失敗では無能と処分されてもおかしくない
いや、フリッグ伯爵は葬れたのだからあながち失敗と言うわけでもないのかもしれない
次は王女達は王都に向かうだろう
表立って王女達に味方する勢力はいない
逃げ回っていても状況が悪くなるだけだ
これがフリッグ伯爵が健在であれば、各地の中立の立場の貴族や元はクリスティア寄りでも静観することしかできなかった貴族がクリスティア側に付いたり寝返る可能性もあるが
「アゼル様、ドルバです」
「入れ」
気づけば執務室の前に着いていたドルバは扉をノックすると中からの声で侍女が扉を開ける
ドルバは中へ入ると侍女は入れ替わりで部屋から出ていった
「アゼル様、第三王女が・・・」
「落ち着けドルバ、まずは座れ」
言われてドルバは椅子に座る
アゼルは書類が積み上がった机から立ち上がりドルバと対面になるように椅子へ座る
「話は聞いている。クリスティアが王都へ向かっているのだろう?」
「・・・はい」
「フリッグ領にいたのは察しがつくが、無事だとはな。フリッグは死んだのか?」
「まだ情報は掴めていませんが、死んでるか生きていても死ぬ寸前だろうと言うことです」
ドルバの言葉にアゼルは腕を組み考え込む
腑に落ちないと思った
ランガルスが死んだ時点で失敗だと思って密偵を下げさせたのか?
フリッグの死は重要だ
それも確認せずに帰ってくるのはおかしい
何か隠している、それはドルバではなくアイツらの事だ
こちらに都合の悪い事は隠すに違いない
アゼルは内心舌打ちしたくなるのを我慢すると、顔を上げ不安な表情のドルバを見る
「そう落ち込む必要はあるまい」
「ですが!!」
「こちらも準備はしている。奴らを呼び寄せた」
「--!?まさか転・・」
言葉を続けようとしたドルバだったが扉がノックされたので口を噤む
しかし入ってきたのが先ほどの侍女だった為内心胸をなで下ろす
侍女はトレーに飲み物を乗せて入ってきた
「落ち着けと言っているだろう。この侍女もこちら側だ」
「はい、つい癖で・・」
アゼルの笑みにドルバも幾分落ち着きを取り戻したようで、侍女が用意してくれた飲み物を一口飲むと先程の疑問を口にする
「それで、本当にあ奴らを呼んだのですか?」
「ああ、青い髪がフリッグ領で現れたと聞いた。ならば遅かれ早かれ王都に来るだろう」
「たしかに・・」
「因縁もあるみたいだからな」
ニヤリと笑うアゼルにドルバは内心ギョッとするがなんとか平常心を保つ
「それで・・王の容態はどうだ?」
「はい、まだ大丈夫そうです。見聞きはしてると」
「目は見えなくなったのか?」
「そのようですね」
「それは都合がいい」
アゼルは服の上から胸辺りをゆっくりさする
それを見たドルバは驚愕に目を見開く
「--アゼル様!?まさか」
「ああ、そろそろ服だけでは隠しきれなくなってきた」
見れば手のひらはなんともないが、手首--服で隠れるか隠れないかギリギリの所だが肌が黒くなってるのが見える
「こちらの侵蝕は思ったより早いようだな」
「お身体は大丈夫なのですか?」
「安心しろ。むしろ調子がいいくらいだ」
アゼルの言葉にドルバは安心する
「しかしそのままでは・・・何か隠せる衣装を作らせましょうか?」
「今はおさまってるし、しばらくは大丈夫だろう」
「あまりご無理ならさぬよう」
「わかっている、何かあればお前に真っ先に相談するさ」
「わかりました」
ドルバは飲み物を飲み干す
「それでは私も色々準備します」
「頼む」
立ち上がり一礼し、部屋を出るドルバを視線で見送ったアゼルはしばし椅子によりかかり虚空を見つめる
「ゴホッ」
「アゼル様!!」
急にアゼルが吐血をしたのに驚いた侍女が駆け寄ってくる
顔には汗が浮かび辛そうな表情を浮かべている
「・・薬をくれ・・・」
「は、はい・・・・」
侍女が差し出した薬を飲み、しばらくすると咳もおさまり顔色もよくなる
「徐々に間隔が短くなってくるな・・・」
「アゼル様、少しお休みになられては・・」
侍女は出過ぎた発言だと知りつつも今までのアゼルの多忙ぶりを目の当たりにしているためいてもたってもいられずに声を掛ける
「そうだな・・では少し休む。夕方には起こしてくれ」
「かしこまりました」
そう言うとアゼルはベッドのある部屋へ入っていった
「ふぅ・・」
扉を閉めてひと息つくとベッドへ歩み寄る
そしてそのまま倒れ込むようにして眠りについた
・・・・・・
~クリスティア達一行~
ガラゴロど大きな音を立てて馬車は進む
フリッグ領から王都へは馬車で3日程
街道も整備されており王都へ向かう者、フリッグ領へ向かう者など様々な人が街道をゆく
「なんかこちらに向かってくる人多いですね」
「本当ですね」
デュラインが流れてくる人を見つめながら呟くとクリスティアも同意の相づちをうつ
「そりゃあ、フリッグ様に統治が戻ったからだろうな」
御者台で馬車を走らせながらグリッドは先ほどの疑問に答える
それでもそれが何か関係があるのかと首をかしげている
「兄のダムル、様・・が領主になってからは情報封鎖やら人の出入りも厳しく制限してたからな。もちろん商人もだ」
「なるほど。なのでフリッグ様が領主に戻ったと情報が広まってみな向かってきてるのですね」
納得という風にデュラインが頷く
「それと商人は何か関係があるのですか?」
未だにはてなマークを浮かべているメアリーにクリスティアは苦笑い
「商いの為です。商人と言うのは情報と速さが命で、今回も統治がフリッグ様になったと言う情報をいち早く聴きつけた商人達が真っ先に集まってきてるのでしょう」
クリスティアの説明にメアリーは真面目に聞いている
「フリッグ様の領地はダムル様が封鎖されていたせいか、物資や食料が不足気味なので、そういった物をメインでいち早く運び入れれば・・・」
「不足な物資は瞬く間に売れるでしょうね」
デュラインがクリスティアの言葉を継いで答える
メアリーはほぇーと感心しきりだった
『・・・ん・・』
馬車の音とクリスティア達の話し声で狐太郎は目を覚ました
『あれ?・・ここは?』
「体調はどうですかコタロー様」
クリスティアが魔法袋から水を取り出し狐太郎に差し出す
『ありがとうございます。まだ少しダルいけど大丈夫みたいです』
水を受け取り飲み干す狐太郎にクリスティアはホッと安心する
すると隣で寝ていたウェルキンも目を覚ました
「む・・」
「ウェルキン体調はどうですか?」
起き出したウェルキンに同じようにクリスティアは水を差し出すとウェルキンは一気に目が覚めたようで慌てて水を受け取る
「あ、クリスティア様!?す、すいません」
「謝らなくていいですよ」
「すいません。体調はすこぶる良好です」
受け取った水をグイっと飲み干す
そして落ち着いた2人を見て事情を話す
・・・・
『なるほど。ではフリッグ伯爵は後から来てくれるんですね』
「マキシムら騎士団も後から一緒に来るようですよ」
「・・・いよいよですねクリスティア様」
「ええ・・」
王都の方角を見つめクリスティアは絶対にクーデターを阻止ししてみせると心に固く誓った
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m
次回は登場人物紹介を挟みます
ご了承ください




