プロローグ
始まりは、俺の自宅内およそ10畳のリビングルームにて起こった。
「……い、妹を人質にとった?」
俺は携帯を持った手を震わせ、相手が話した一言一言を口にする。
『そうだ……。吉田信長。お前の妹の命は預かった』
『犯人』と思しき人物は、電話越しに口を開く。
声の特色は分からない。変声器を使っているのか妙な違和感を覚える。
「ど、どういうつもりだ! 警察に連絡するぞ!」
俺は焦り、犯人に警告を出す。
しかし、それは無意味な発言だった。
『……分かっていないな』
「な、なに!?」
『通話状態のまま、メール画面を開いてみろ』
「?」
俺は犯人に従って携帯を見てみる。ふと、一件のメールが届いていることに気づく。
「な、なんだこれ?」
『見てみろ』
俺はおそるおそる、届いたメールを開いてみる。
メールには一件の画像ファイルが送られていた。送り主は不明だ。
文字は、一言も打たれていない。
俺は携帯ボタンの『決定』をゆっくりと押した。
「!」
それを見た瞬間、頭に鉄パイプを打ちつけられたかのような衝撃を受ける。
「これは……」
青空に似た透明さを持つ黒髪を背中まで垂れ流し、森と川を織り交ぜたような鮮明な瞳は優しさを醸し出している一人の少女が画像に写っていた。
吉田市夏、俺の妹だ。
『安心しろ。まだ人質にはとっていない。これは監視だ。お前個人への、脅迫材料と思ってもらえればいい』
「な……!」
制服姿で歩いている市夏は、写真の目線に目を向けておらず、隣で歩く友達と楽しそうに談話している。
『もし警察に通報してしまえば、その子の命はどうなるか……。分かるな?」
「ぐ……」
俺は有無も言えない状況の中、拳を握る。
犯人はおそらく、前もって準備をしてきたのだろう。
その場の脅迫なら、わざわざ俺の妹の画像を送りつけたりしない。
狙いを定めた、計画的な犯行だ。
『ただしこちらの要求を飲めば、妹の命は解放してやる』
俺は息を飲む。
はたして、犯人の狙いとは?
「……なんだ?」
『要求は……』
しかし。
視界が暗転するような、驚愕じみた言葉を耳にした。
『揉波高校二年二組、雪葉湊。彼女のパンツを見ろ』
……。
…………。
………………はい?
『おい、聞いているのか?』
「……はい?」
『聞いているのか?』
「いや、ちょっとまてよ!」
急に頭が混乱する。頭の狂った殺人鬼とにっこりスマイルのゆるキャラが、手を繋いで踊っている意味不明さ全開の絵画を見ている気分になった。
ようするに、わけがわからない。
「なにいってんだ! ふざけるな! パンツ? どういうことだよ!?」
『言葉の通りだ』
「言葉の通りじゃねえよ! なんだ、じゃあスカートでもめくれってことか!」
頭を抱える俺は言葉を乱発させる。
しかし、いまだ犯人の様子は冷静だ。
『雪葉湊は知っているな?』
犯人は俺の言葉を無視し、一方的に話を進める。
「あ? ……あ、ああ。俺と同じクラスのやつだろ? いやだから問題はそこじゃなくて……」
『明日、彼女のパンツの特徴を教えろ。用件は以上だ』
「おい! 俺の話を聞けって! なんで雪葉のパンツを覗く必要があるんだ!?」
『もし………要求を達成しなかった場合は、先ほど言った通り、吉田市夏の命はないぞ?』
しかし、犯人が妹の名前を口にした所で、俺は押し黙る。
市夏……それは最大にして最愛の妹だ。
大事な妹の命をとっていると言われたら、一気に反論する気が失せてしまった。
『ではパンツを確認できたら、今かけているこの電話番号に連絡しろ』
犯人は口調を変えることなく、無情にも電源を切った。
何の音もしない部屋は、未だに混乱した空気を見せていた。
「……」
犯人が妹の命をとっていることは、まちがいない。
でも、なぜ女子のパンツを見る必要がある?
あまりにも単語同士が結びつかず、俺の頭部の痛みは治まらない一向だ。
だが……。
「……こうなったら、やるしかねえよな」
俺の、大切で、最も愛している妹が人質にとられている。
俺の両親は揃って県外で働いており、今は俺と妹が一緒に暮らしている。
たとえ両親に知らせたとしても、冗談と思われて信じてもらえないだろう。
なら、俺がやるしかない。
俺はちからいっぱい、携帯を握りしめる。
こうして、俺は犯人の要求を飲み、行動を開始した。
はじめまして! ちぇりおすと申します。
今回、初投稿ということでかなり緊張してます……。
この作品は、シスコン気味の主人公が、無理やり変態的な行為をしなければならない状況に立たされるという、なんというか、ハレンチなコメディ展開です……。
これからも作品を投稿していきますので、よろしくお願いします!