表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 04 中央アジア内戦突入回避せよ!
91/465

第十七話

「また、大勢の人を殺めてしまった……」

 力なく砲手席に戻った神田元総理が、うなだれる。

「落ち込んでいる場合ではないぞ。さっさと後始末をしなければならん」

 愛銃に新しい弾倉をはめ込みながら、ファルリンが励ますように言う。

「雛菊、そのあたりで止めて。近付きすぎると、村人が怯えるわ」

「了解や」

 スカディが命じ、T‐72が停止する。おおよそ、村人たちからは六十メートルほどの位置だ。左右前方には、ヘサール族の死体がいくつも転がっている。

「よし。二体はここに残って、周囲の警戒とNVSTでの援護を頼む。二体は陸軍の連中のボディカウントと、トラックの調査だ。ヘサール族が隠れているかも知れぬから、慎重にな」

 ハッチから半分頭を車内に突き入れたファルリンが、指示を飛ばした。

「HEATをぶち込んだ方が、早いんじゃないか?」

 亞唯が、そう聞いた。ファルリンが、首を振る。

「いや。トラックは、村人に必要だ。我々がずっと守ってやるわけにもいかないからな。ヘサール族の報復を避けるためには、速やかにここを捨てて、移動するしかない。トラック二台ではさすがに村人全員を乗せるわけにはいかないが、子供と老人、妊婦と怪我人くらいは大丈夫だろう。壊すわけにはいかない」

「それは、いい考えなのですぅ~」

 操縦席の奥底から、ベルの声が聞こえる。

「一体はわたしと来てくれ。ヘサール族のボディカウントを行う。神田氏、あんたも来てくれ」

 ファルリンが、続けて言う。

「わたしが?」

 神田元総理が、驚いたように顔を上げる。

「人数が足りない。手伝ってくれ」

 素っ気なくファルリンが言って、顔を引っ込める。

「周辺警戒は任せてくれ。一番眼がいいからね」

 車長用ハッチから這い出しつつ、亞唯が見張り役を志願した。

「では、わたくしが引き続きNSVTを受け持ちましょう。トラックの方は……」

「わたくし、ずっと操縦席の奥で退屈かつ窮屈でしたぁ~。脚を伸ばしたいのですぅ~」

 スカディの言葉に、すかさずベルが名乗りを挙げる。

「脚を伸ばすんやなくて、手榴弾を投げたいの間違いやろ。うちも、操縦は飽きたで。ベルたそに、付き合うわ」

 突っ込みを入れつつ、雛菊がベルに同行を申し出る。

「では、あたいがファルリンさんのお供ですね!」

 シオは嬉しそうに宣言した。

 神田元総理が、いかにも気が進まないと言った風情で砲手用ハッチからのそのそと出てくる。そのあいだに、ファルリンが手をメガホン代わりにして、村人たちにホラニ語を使い大声で呼びかけを行った。……味方なので安心して欲しい。まだ敵が隠れているかもしれないからその場を動くな。などなど。村人たちもまだ警戒気味だが、助けてもらったことは感謝しているらしく、今のところ大人しくファルリンの言うことを聞いていてくれているようだ。

「では、これを頼む」

 ファルリンが、T‐72の車体に縛り付けてあった救急キットのカバンを、神田元総理の肩に掛ける。

「これもだ」

 次いで、これも縛り付けてあった予備のAK74を、手に押し付ける。

「じゅ、銃は持たんぞ!」

 神田元総理が、抵抗する。

「……何十人も殺す片棒を担いでおいて、いまさら銃を嫌がるのもおかしいだろう。身を守るためだ。念のため、持っておけ」

 ファルリンが、諭すように言う。神田元総理が、しぶしぶとAK74を受け取った。

「撃ち方くらいは知っているだろう? しっかりと持って、銃口を敵に向け、引き金を引けばいい。安全装置も外し、セミオートにセットしてある。引き金を一回引けば、弾が一発だけ出る。撃つ直前まで、引き金に指を掛けるな。そして、撃つ場合は、相手の身体のど真ん中を狙え。それと、引き金を引くときに躊躇するな。わかったな」

 ゆっくりと、噛んで含めるようにファルリンが説明する。

「ああ、わかった」

 ぎこちない手つきで、神田元総理がAK74を握る。



 一同は行動を開始した。AK74を抱えた雛菊と、手榴弾が詰まった袋を背負ったベルが、スカディの重機関銃の援護を受けながらトラックの方に向かう。亞唯はAK74を手に、砲塔の上に立って周囲を見張り始めた。

 シオは、ファルリンと神田元総理のあとについていった。ファルリンに指示され、もっぱら周辺警戒に当たる。神田元総理は、ヘサール族戦士の死体をファルリンが検めるあいだ、これを援護する役を務めた。

 ファルリンのボディカウントのやり方は、確実かつ早いものであった。映画のように、銃口で突いたりはしない。しっかりと胴体に銃口を向けたまま、原則的に斜め後方から近付き、体重を乗せない程度の蹴りを入れて反応を確かめてから、周辺にある銃器を取り除け、その上で確実に死んでいることを確認する。

 ある死体を蹴ったファルリンの表情が、微妙に変化した。銃口をなおも死体に向けたまま、ちらりと視線を走らせて、周囲の状況……T‐72や村人たちとの位置関係や距離……を把握する。次いで、ファルリンの手が死体を詳しく探り始めた。

「……何をしているのだ?」

 急に丁寧に死体を調べ始めたファルリンの様子を不審に思った神田元総理が、訊く。

「こいつは色々持っていそうだったのでな」

 言いながら、ファルリンが死体からスペアの弾倉二本と、手榴弾一つ、それにナイフ一本を回収した。手榴弾は懐に収め、ナイフとスペア弾倉一本は遠くに投げる。

「こいつは、まだ新しいな」

 死体のチェックを終えたファルリンが、落ちていたAK74を取り上げた。弾倉を外し、コッキングハンドルを引いて薬室の弾薬を取り除いてから、あちこちをいじくりまわす。そして、先ほど回収した弾倉を、しばらくいじってからはめ込んだ。

「うむ。やはりやめておこう」

 ファルリンが、AK74を投げ捨てた。……先ほど詳しく調べた死体から、さほど離れていない位置だ。

 さらに、ボディカウント作業が続けられる。シオは、指示されたとおり周辺警戒を続けた。

 ようやく、すべてのヘサール族戦士……手足が千切れたりして明らかに死んでいる者は除いたが……のボディカウントが終了した。

「よし。村人の負傷者を治療しよう。神田氏、医療キットをくれ。シオは、村人たちの中の負傷者を連れてくるんだ。神田氏、周辺警戒を頼む。一応調べたが、万が一ということがあるからな」

「負傷者なら、わたしが連れてこよう」

 神田元総理が、そう申し出た。

「いや。言葉が通じないと困る。シオ、頼むぞ」

「お任せ下さいなのです!」

 シオは村人を刺激しないようにAK74を肩に掛けると……銃床が地面に引き摺られそうなほど低い位置にあるという無様なスタイルになってしまうが……村人たちに近付いた。ロシア語で、怪我をされた人は治療するから出てきてください、と呼びかける。

 意外に素直に、怪我をした村人たちが名乗り出た。顔面血だらけの青年、脚を引き摺っていた男性……これは、銃創らしい……と、女性二人に抱えられた老人。先ほどヘサール族戦士に蹴られた少女も、姉らしい年上の少女に付き添われて立ち上がった。

 ファルリンは、すでに医療キットの中身を、地面に広げたシートの上に並べて待ち受けていた。シオが連れてきた負傷者の中から、一番重傷と思われる脚を撃たれた男性を指名し、シートの上に座らせる。

「シオ。傷を洗う清潔な水が欲しい。場所を村人に聞いて、持ってきてくれないか。二十リットルもあれば、充分だろう」

「了解なのであります!」

 シオは老人に肩を貸して連れてきた女性二人に、水のありかを尋ねた。……この手の情報は、世界中どこでも地元のおばちゃんに訊くのが常識である。

「では、行って来るのであります!」

 シオはAK74を肩に、勢いよく駆け出した。



 突撃銃を肩に掛けた小さなロボットが、走り去ってゆく。

 ヘサール族戦士は、薄目を開けて状況を再確認した。

 女の方は、怪我人の治療に集中している。突撃銃は、脇に置かれているが、射撃姿勢を取るには結構時間が掛かるだろう。男の方は、見張りを続けているが、銃の持ち方はひと目で慣れていないと判るぎこちないものだ。見張り方も、やたらと視線を左右に転ずるという、素人丸出しのものであった。

 背後に気配はないが、少し離れたところに戦車が居るのはわかっていた。まず間違いなく、車載機銃には誰か張り付いているだろう。横方向へ走って逃げようとすれば、隠れ場所にたどり着く前に撃たれるのは確実だ。そしてもちろん、突撃銃一丁で戦車には勝てない。手榴弾は女に持ち去られてしまったし、今は軽いとは言え榴弾で負傷しているのだから。

 先ほど女に身体をまさぐられた時は、もうだめだと覚悟したが、なぜか女はこちらを死体だと勘違いしたようだ。これも、アッラーの思し召しだろう。

 ここで生き延びる方法は、ひとつしかない。見張りの男を倒し、次いで女も殺す。村人の方へ走れば、戦車も射撃をためらうだろう。村人の中に入り込み、適当に人質を取って、トラックの一台で逃げ出す。この男女とロボットどもがどこのどいつなのかは知らないが、敵なのは間違いない。なんとか逃げ延びて、こいつらのことを族長に報告しなければならない。


 いきなり、死体がむくりと起き上がった。

 神田元総理は硬直した。

 死体の手が、すぐそばに落ちていたAK74を拾い上げる。死体……いや、ヘサール族戦士が、それを走りながら肩の高さに持ち上げた。神田元総理の方へ走り寄りつつ、銃口を向けてくる。

 ……まずい。

 神田元総理の硬直が解けた。自分はともかく、その後ろにはファルリンの治療を受けている村人たちがいる。そして、その後ろにはもっと大勢の村人たちが。

 ヘサール族戦士が、必死の形相で駆け寄ってくる。

 ……彼を通すわけにはいかない。そして、撃たせるわけにも。

 神田元総理は、手にしたAK74の銃口を、ヘサール族戦士に向けた。


 男の反応が遅い。やはり、素人か。

 ヘサール族戦士は、躊躇なく引き金を引いた。この距離であれば、走りながらでも、外さない自信はある。

 撃発しなかった。

 ……ここで不発か!

 ヘサール族戦士は、呪詛の言葉を吐きながら、左手を銃身に被せるようにしてコッキングハンドルを引いた。


 神田元総理の発射した銃弾は、ヘサール族戦士の胸板を撃ち抜いていた。被弾の衝撃で半身になった身体が、走ってきた勢いを殺しきれないまま前に倒れ込み、頭から表面が乾いている畑地に突っ込む。

 ばしん、という音とともに、倒れたヘサール族戦士の頭部に止めの一発が撃ち込まれた。神田元総理が振り向くと、膝撃ちの姿勢を取ったファルリンが、褒めるような笑顔でこちらを見ている。

 神田元総理の膝から、力が抜けた。AK74を手にしたまま、うずくまるように座り込んでしまう。

「よくやってくれた、神田氏。命の恩人だな」

 歩み寄ったファルリンが、優しく言葉を掛けてくれる。

「……人を、殺してしまった。村人を守るためとは言え、殺人は殺人だ」

「確かにな。いかなる理由があれ、殺人は殺人だ」

 しゃがみこんだファルリンが、神田元総理の顎をそっとつかみ、強引に村人たちの方を向かせる。

「だが、単なる人殺しとは違うぞ。彼らを見ろ。あの眼が、人殺しを見詰める眼か? あの笑顔が、人殺しに向けられる笑みか?」

 治療を待っている村人たちが、一様に安堵したような笑みを浮かべていた。蹴られて負傷した少女と、その姉が、神田元総理を感謝の表情で見詰めている。ペルシャ系らしい太い眉の下にある黒い瞳は、澄み切っていた。

「だが、ひとの命を奪ったことは、間違いない」

「それがどうした? あんたは今まで、人を救ったことが何度ある?」

「人を救った……?」

「もちろん、数限りなくあるだろうな。あんたは、基本的に善人だ。だが、本気で他人を助けたことはそうはないだろう。おそらく、他人のために努力し、汗を流したこともあるはずだ。他人を庇い、身代わりに心に傷を負ったことも、あるかもしれん。だが、他人を助けるために血を流したり、自らが罪を負ったりしたことはないだろう。他人のために、自らが傷つき、穢れ、場合によっては死ぬことすら厭わないことは、生半可な勇気では成し遂げられないからな。あんたは今、自分が人を殺すという罪を犯した代わりに、他人の命を救ったのだ」

 神田元総理の肩を、力強く握りながら、ファルリンが言う。

「……確かに、直接他人の命を助けたのは、生まれて初めてかもしれんな」

 神田元総理の膝に、徐々に力が戻ってきた。よっこいせと掛け声を掛けつつ、立ち上がる。ファルリンも、神田元総理の肩から手を離すことなく、一緒に立ち上がった。

「価値あるもの、大切なものは守らねばならぬ。たとえ、そのやり方が穢れた方法であってもな。きれいごとでは、人は救えない。濡れるのを厭うものは、絶対に溺れている人を助けることはできないし、泥に汚れた人をきれいにしてやるには、自分の手が泥まみれになることを覚悟せねばならない。わたしに言わせれば、常に高みに居て、自ら濡れるのも汚れるのも穢れるのも嫌い、理想論をぶっているだけの紳士は、つまるところ誰一人助けることなく、自慰行為にふけってるだけの夢想家に過ぎん。……おっと。シオが戻ってきたようだ。治療を再開しよう。神田氏、また周辺警戒に戻ってくれ」

 最後に一回ぎゅっと神田元総理の肩を握り締めてから、ファルリンが手を離す。神田元総理は、うなずくと見張りに戻った。

 ……先ほどよりもずっとしっかりした手つきで、AK74を握り締めながら。



 雛菊とベルはトラック二台のみならず村の中までも探したが、ヘサール族も陸軍兵士も発見できなかった。

 ファルリンが村を捨てて逃げるように勧めると、村人たちはさすがに動揺を見せたが、勧めには従ってくれた。危うい所を助けてもらったお礼として、村長が何匹もの家畜を贈ると申し出てくれたが、ファルリンはそんなに戦車に載せられないと言って、山羊一匹だけをもらった。本当はありがた迷惑だったが、心のこもった贈り物を拒絶してしまうのは、イスラム圏においてはかなりの非礼となってしまうからだ。

 慌しく出発の準備を進める村人たちに別れを告げると、T‐72は再び国境線目指して走り出した。

「しかし……戦車の上に山羊なんて、シュールな光景ね」

 先ほどと同じように、砲塔の後ろで見張りの任務につきながら、スカディがぼそっと言う。もらった山羊は、予備の軽油が入ったジェリカンの隣に繋がれ、揺れに抗するために軽く四肢を踏ん張った状態で、きょとんとした顔付きでスカディとシオを眺めている。

「戦車の上に山羊なんて、まるで宮○アニメみたいなのです!」

 シオははしゃいだ。

「ところでファルリンさん」

 スカディが、声を潜めると、車長用ハッチから上半身を覗かせているファルリンに呼びかけた。

「なにかな?」

「うまく神田先生を嵌めましたわね」

「ん? 何のことかな」

 ファルリンが、無邪気そうな表情を作ってとぼける。

「わたくしには、すべて見えていましたわ。一体だけ、やけに細かくヘサール族の死体を調べていましたわね。あれは、武器を完全に取り去りたかったのでしょう? そして、AKも熱心にいじっていた。あそこで、何か細工を施したか、空の弾倉を嵌めておいたのでしょう。生きていることを見抜けなかったり、不用意に銃を近くに放置するなど、あなたらしくありませんわ」

 スカディに指摘され、ファルリンが困ったように頭を掻く。

「それに、治療を始めた場所も不自然。村人たちの中で行っても、まったく問題がないのに。シオに水を取りに行かせたのも、おかしいですわ。村人に頼めばよろしいでしょうに。わざと隙を作って、ヘサール族戦士に神田先生を襲わせたのでしょう」

「頭のいいロボットだな。そこまで読まれていたか」

 ファルリンが、苦笑した。

「死んだふりをしていたヘサール族がいたので、とっさに思いついたのだ。神田氏が、落ち込んでいたのでな。まあ、わたしなりの励ましだ」

「励ましにしては、ずいぶんと過激なようですが」

 シオも声を潜めて言った。

「荒療治であったことは、認めよう。だが、効果はあったろう?」

 女性同士の内緒話のノリで、いたずらっぽく片目をつぶりながら、ファルリンが言う。

「効果は認めますが……なぜそこまで」

「……たぶん、あの男が気に入ってしまったんだろうな」

 スカディの問いに、真面目な様子に戻ったファルリンが答えた。

「思想信条はアレだが、勇気は本物だし、善人だ。本気で、他人を救おうという気持ちを持っている男だ。まあ、酷評されているとは言え一国の首相を務めたほどの男だしな」

 へーくしょい、という派手なくしゃみの音が、砲塔内から聞こえた。

 ひとりと二体が、生ぬるい笑みを浮かべて顔を見合わせる。

「おしゃべりはこの辺にしておこうか。国境まであともう少し。気を引き締めていこう」

 ファルリンがそう言って、砲塔の中に引っ込んだ。


第十七話をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ