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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 04 中央アジア内戦突入回避せよ!
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第八話

 銃声は、亞唯と雛菊の耳にも……正確には耳ではないが……届いていた。

 雛菊が、すぐに運転手を起こしに行く。亞唯は半ば引き摺られてきた運転手に、すぐに車を出すように要請したが、運転手は渋った。『取材』には協力するが、戦闘地域へ乗り込むのは契約外だと主張されてしまったのだ。

 亞唯は妥協して、近くまで行くだけでいいと告げた。運転手がしぶしぶヒュンダイ・サンタフェのエンジンを始動させる。

 サンタフェは、街道への出口寸前で停車した。運転手の言い分によれば、これ以上接近すると流れ弾に当たる可能性があるという。仕方なく亞唯と雛菊はここで車を降りると、徒歩で神田元総理らが泊まった村へと向かった。いつの間にか、銃声は止んでいる。

「通信してみるか」

 亞唯は、スカディをコールした。

「こちら、スカディ」

 すぐに、返答がある。

「どうした? 無事か?」

「三体とも、武装勢力に捕まったわ。神田元総理も一緒。山本秘書は死亡。今、トラックに乗せられるところよ」

「武装勢力? どの連中だ?」

「詳細不明。人数は二十五名ほど。武器は旧式な軽火器だけど、錬度は高そうね。山賊野盗の類じゃないわ。とりあえず事態を畑中二尉に報告して」

「了解。機会があり次第報告するよ。他に指示は?」

「とりあえずこちらを追尾して。トラックは二台。型式はGAZ‐53のようね。推測だけど、北へ向かうはずよ」

「判った。では、通信終了」

 亞唯と雛菊は、急いで街道を引き返し始めた。



 走るトラックの荷台で、スカディ、シオ、ベルの三体は、背中を合わせるようにして縛られていた。すでにボディチェック済みで、薄幕太陽電池シートが入ったポーチを含め携行品はすべて没収されている。

「よく聞け。お前らの背中には、爆薬を仕掛けた。少量だが、お前らをスクラップにするくらいの威力は充分にある」

 ターバンを巻いた中年男が、かなり訛っているロシア語で告げる。

「信管には、電波検知器が接続してある。お前らが外部と無線通信を行おうとして発信すれば、爆発する。判ったな」

 三体それぞれの応諾の言葉を聞いた中年男が、満足げな表情を浮かべて荷台の前の方に去る。代わって、若い二人組みがAK47を手に、三体を見張り始めた。

『これを仕掛けられる前に、亞唯と通信できて良かったわ』

 スカディが、赤外線通信でそう言った。多方向対応のために複数の送受信ポートが設けられているので、このような不自由な体勢でも、相互通信は可能である。

『わたくしとしては、仕掛けられている爆薬の種類が気になりますですぅ~。ロシア製の、PVV‐5Aでしょうかぁ~』

『ベルちゃんは置いといて……とりあえずどうするのでありますか、リーダー?』

 ベルは訊いた。

『畑中二尉がなにか手を打ってくれるでしょう。それまでは、大人しくしていましょう。これくらいのロープ、頑張れば切れないこともないですし』

 スカディが、そう言う。幾重にも巻かれているが、ジュート(黄麻)の紐を寄り合わせたロープなので、どこかに擦りつけていればいずれは切れるだろう。

 シオは神田元総理の様子を窺った。荷台にどっかりと胡坐をかき、昂然と顔を上げ、襲撃者たちを見据えている。……怯えや怯みはまったく見られない。

 と、いきなりトラックが停止した。髭の隊長が、身振りで立つように神田元総理に指示する。

「お前らも降りろ」

 SKSカービンの若者が、シオらにそう告げる。

 トラックを降りたシオたち三体と、神田元総理が次に連れ込まれたのは、古いソ連製……ロシア製、ではない……中型バスであった。車体右側、前部と後部に昇降扉があり、車内には二人掛け座席が左側に八、右側に五個ある。最後部は、六人掛けだ。

 シオたち三体は縛られたまま、右側後部の座席に押し込まれた。肘掛などなく、パイプ椅子の方が座り心地が良さそうに思えるほど、硬い座席である。神田元総理が、その斜め前の席に座らされる。



「よし。あとは頼んだぞ、ラフシャーン」

 ヌーリは、大きな手で弟の肩を励ますようにぐっと掴んだ。

「任せてください。兄上こそ、お気をつけて」

 ラフシャーンが、笑顔を見せる。

「よし、行ってこい」

 ヌーリは、弟の肩を離した。

「出発する!」

 ラフシャーンが、宣言した。LAZ‐695の周囲を警戒していた戦士数名が、素早く集合してバスに乗り込んでゆく。

 北部地方の大半は、国家再生党に与する武装勢力の実効支配下にある。

 しかしながら、その支配力が及んでいるのは地上だけである。国家再生党側は空軍力を持っておらず、高性能な防空システムも所有していない。したがって、肩撃ち式地対空ミサイルが届かない対地高度一万フィートよりも上の空を支配しているのは、相変わらずホラニスタン空軍なのだ。

 神田元総理の拉致。これを政府軍が知れば、当然空軍機を動員し、空からその所在を突き止めようとするだろう。所在が判明すれば、ヘリコプターと特殊部隊を動員した奪還作戦が企てられるおそれもある。

 これら予想される政府軍の動きを妨害し、混乱させるために、襲撃隊はここで二隊に分かれる手筈になっていた。ラフシャーンが一個分隊と通信技師アールミーンを引き連れ、神田元総理を乗せたバスで街道を外れ、北西へと向かう。ヌーリは残余の人員とトラック二台で、このまま街道を北上する。こちらは、いわば囮である。

 拉致が行われたガッサー村の住人は、トラック二台しか見ていない。当然、政府軍には襲撃部隊がトラックで逃走した、と伝えるだろう。偵察に飛び立った空軍機が、街道を北上するヌーリらのトラックを発見すれば、これに神田元総理が捉えられていると判断するはずだ。政府軍の注意が逸れているあいだに、ラフシャーンが神田元総理を安全な北西部の村まで連行し、監禁する。これが、ヌーリが立案した作戦であった。

「よし、我々も出発するぞ」

 トラックの助手席に乗り込みながら、ヌーリは腕時計で時間を確かめた。あと二時間半ほどで、夜が明ける。おそらくその頃には、ホラニスタン空軍機が飛来し、捜索を開始するだろう。古びたLAZ‐695バスは、北部地方でもよく見かける車種である。早朝から走っていても、単独ならば政府軍の注意を引くことはないはずだ。



 亞唯と雛菊の乗ったサンタフェは、慎重にトラック二台とバス一台の車列の尾行を続けていた。夜間なので交通量はほとんどなかったが、ほぼ一本道なのでかなり車間を開けておけば、追尾していても怪しまれることはない。

 すでに亞唯は、運転手の携帯電話を借りて、小さな街を通過した際に……そこでしか電波が通じないのだ……アラチャ市のホテルに待機している畑中二尉に対し、詳しい報告を済ませていた。

「おっと、バスが脇道に逸れたぞ」

 強化された眼で先行する三台を監視していた亞唯は、そう声を上げた。

「あかん。どの車にスカぴょんたちが乗せられているか、判らんのに」

 雛菊が、顔をしかめる。

 先ほどから何回か、亞唯は無線でスカディらをコールしていたが、返答は皆無だった。おそらくは、無線機を強制的に外されたか、何らかの発信出来ない理由があるのだろう。AI‐10本体そのものが破壊されてしまった、という事態もあり得たが、亞唯はその可能性は低いと考えていた。もし破壊したのであれば、それをわざわざ車に乗せて持ち運ぶ理由がない。たしかにスクラップとして売ればそれなりの値段が付くだろうが、それならば機能しているまま売却したほうがはるかに高額で売れるはずだ。

「弱ったな。神田元総理と別の車に乗せられている可能性もあるし」

 亞唯は唸った。

 困っている二体を救ったのは、運転手の意見であった。脇道の先は人口の少ない山岳地帯で、国家再生党支持者の多い村がいくつかある。道路は比較的良好で、北や西へも通じている。襲撃者の正体が国家再生党側の武装組織の一派であるならば、拉致した人物を隠すには絶好の場所だ……。

「よし。バスを追ってくれ」

 決断した亞唯は、そう運転手に頼んだ。



「まずいことになったなー」

 どう見てもまだ寝足りていない、といったとろんとした眼の畑中二尉が、首筋のあたりをぼりぼりと掻きむしる。ナイトガウンの前は完全にはだけているし、髪もぼさぼさ状態だ。……同室者が三鬼士長しかいないので、油断しまくりである。

 対する三鬼士長は、夜明け前に叩き起こされたにしては小ざっぱりとしていた。さすがにすっぴんだが、髪には櫛が通っていたし、着替えも済ませている。情報畑一筋で過ごしてきた若手幹部と、普通科で部隊勤務経験ありの差、と言ってしまえばそれだけではあるが。

「とりあえず、長浜一佐に報告したからあとはやることがないぞー。偽装身分だからホラニスタン政府軍から情報をもらうわけにはいかないし、あたしたちが現場にのこのこ出かけて行っても事態がこじれるだけだからなー。ここで電話番するしかないー」

「ホラニスタン軍が動いてくれるか、政府経由でロシアに動いてもらうか。それしか対応策はないのでしょうか?」

 三鬼士長が、小首を傾げながら訊く。

「拉致した連中の正体と目的がはっきりしないが、亞唯の報告から推定するに国家再生党に与する一派の武装組織と思われるー。おそらく、北部地方のどこか安全な場所に神田元総理を隠し、それから何かアクションを起こすつもりだろー。亞唯がうまくその場所を突き止めてくれれば、早期救出が見込めるー。幸い、空は政府軍が支配しているからなー。ホラニスタン政府軍の特殊部隊程度でも、奪還作戦は可能だろー。ロシア軍が動いてくれれば、もっと安心だがー」

「日本政府はどう動くでしょうか?」

「与党は積極的に動かんだろうなー。有権者の意向もあるだろうし。今回の事件を受けて、『自業自得』とか『自己責任』とかネットに書き込まれている図が、眼に浮かぶようだー。とりあえず救いなのは、今回神田元総理の身分が、OSCEのオブザーバー、とうことだー。殺害などすれば、中国とインドを除く世界の主要国をすべて敵に廻すことになるからなー。いや、今回は中国も深く関わってるから、北京の面子も潰すことになるー。どの組織か知らないが、度胸のある連中だなー」

 薄笑いを浮かべながら、畑中二尉が言った。



 バスが停止したのは、昼過ぎであった。

「よし、降りろ」

 SKSの青年が、命ずる。シオたちは三体まとめて縛られたまま、バスの後部ドアから車外へと連れ出された。そのあとから、神田元総理も降ろされる。

 バスが停まっていたのは、小さな村の広場であった。面積は、サッカーフィールドの半分、といったところか。

 村は、灰色の山々にかこまれた小さな盆地の真ん中にあった。二十数戸が、広場を取り囲むように並んでいる。いずれも、日干し煉瓦造りの粗末なものだ。隅の方には井戸があり、そこだけ数本の柳の木があって、山から吹き降ろしてくる風に枝を揺らしている。痩せた子供たちと放し飼いの山羊が、一軒の家に連れ込まれるシオたちをぽかんとした顔で見送ってくれた。

「ここで大人しくしていろ」

 シオたち三体を物置のような狭いスペースに押し込めたSKSの青年が、神田元総理を急きたてて別の部屋に押しやる。見張り役の男が、物置の扉をぴしゃりと閉めた。

「さて、どうしますか、リーダーぁ~」

 ベルが、訊く。

「ここのGPS座標を畑中二尉に伝えたいのだけれど……固定電話は通じていないようね」

 薄暗い部屋の中を視線で検めながら、スカディが残念そうに言った。広場で見た限りでは、電柱電線の類は見当たらなかったし、連れ込まれる途中に通った部屋には灯油ランプが置いてあった。となると、電化もされていないようだ。

「亞唯ちゃんと雛菊ちゃんが追ってきてくれていると信じましょう! やればできる子なのです、あの二人は!」

 シオは励ますように言った。

「あの二人もあなたには言われたくない、とか思っているでしょうけど……そう期待するしかないわね。当面、バッテリーを節約して大人しくしていましょう」

 スカディがそう言って、膝を曲げ始める。シオとベルも膝を曲げ、三体で縛られたままタイミングを合わせて板張りの床に腰を下ろした。



 亞唯と雛菊の乗ったサンタフェは、シオたちが監禁された村を素知らぬ顔で通り過ぎた。

 亞唯が右側、雛菊が左側を担当し、それぞれ擬装用に毛布を頭から被り、眼だけを覗かせた状態で窓外の模様を詳細に録画する。充分に村から離れたところで路肩に車を止め、お互いをケーブルで接続してデータを交換し、比較検討する。

「バスを道路と空から隠すように停めているね。しばらく動くつもりはないようだ」

 亞唯が、そう判断した。

「襲撃隊らしい連中も、武器を隠して見張りに立っとる。ここで監禁、やね」

 雛菊が同意する。

「神田元総理とスカディたちが監禁されている建物がわからないのは、まずいな」

 メモリー内で簡易な村の見取り図を作成しつつ、亞唯は言った。

「しばらく見張っていれば、わかるんちゃうか?」

 雛菊が、そう言う。

「よし、雛菊。お前はこのまま徒歩で村へ戻って適当な場所に監視所を設けて見張れ。あたしは携帯電話が使えるところまで行って、畑中二尉に報告する」

「わかったで、亞唯っち」

 快活にうなずいた雛菊が、後部ドアを開けるとサンタフェを降りた。



 この頃になってようやく、ホラニスタン政府が正式に『神田元日本国首相の行方不明』と、『武装勢力による拉致の可能性』が高いことを発表した。政府のスポークスマンは当然のことながら、拉致を行った武装勢力が国家再生党側の一派であることを示唆し、声高に非難を行った。

 国家再生党側はこれにただちに反応し、神田元総理行方不明事件に関し一切関わりがないことを言明し、総力を挙げて北部地方で捜索活動を行うことを表明するとともに、捜索救出活動に限り、政府軍が北部地方に進入することを許可すると宣言した。

 一方、すでに夜を迎えている日本では、官房長官がこの事件に対し、神田元総理の無事を願うとともに、犯行グループを厳しく非難するステートメントを発表したものの、報道陣が問うた具体的なリアクションに関しては口を濁した。水面下では、長浜一佐の報告を受けた防衛省から外務省を通じて、ロシア政府への働きかけが行われていたが、ホラニスタンへの直接的介入を行いたくないロシア側は積極的に動こうとはしなかった。ホラニスタン政府は、日本政府の問い合わせに対し、神田元総理の救出に全力を尽くす、と回答していたが、実際のところ犯行グループの正体や推定される監禁場所などの情報はほとんどつかんでおらず、それどころか神田元総理の生死さえわからぬ状況にあった。

 この段階では、マフヤール・シャルバドとその二人の息子が行った作戦は完璧に近い成功を収めている、と言えた。



「合言葉は?」

 前方から、雛菊の声が聞こえた。

「アレン」

 肩をすくめた亞唯は、半ば呆れながらそう答えた。雛菊とは先ほど、隠れた位置を教えてもらうために低出力の無線で交信したばかりである。

「ボウクレア」

 返答が帰ってくる。……正しい合言葉だ。

「デード」

 亞唯はそう返した。

「合ってる。こっちやで、亞唯っち」

 むくりと身を起こした雛菊が、手招く。

 雛菊は、監視所を理想的な場所に設けていた。山の斜面にある岩の陰で、村が収まっている盆地全体が一望できる。道路からそれほど離れていないので、撤退するのも楽だ。緩い斜面を駆け下りれば、下の畑の中に身を隠すこともできる。

 雛菊は、岩の横に太陽電池シートを広げて充電していた。亞唯はさっそく真似をして電池シートを広げた。

「どうだい?」

「馬神田さんとスカぴょんたちが監禁されている建物の予想がついたで。広場の北北西、正面に騾馬が繋いである建物や。常に二人が警備してるし、さっきは村の偉いさんらしい人がAK持ったにーちゃんに案内されて入って行ったで」

 得意げに、雛菊が答える。

「で、畑中二尉はどうやった?」

「ここの座標は、遠まわしにホラニスタン政府に伝えるそうだ。おそらく、防衛省経由でアメリカの偵察衛星情報、とか偽ってね。まあ、救出作戦が行われるとしても、明日以降だろう」

「ホラニスタン軍じゃ、夜間強襲はあかんのやろか?」

「陸軍特殊部隊はあるが、錬度は高くないらしい。とりあえず神田元総理が村の広場で処刑される、なんてことはなさそうだから、拙速である必然性はない。ま、こっちもじっくりと腰を据えて掛かろうじゃないか」

「せやな」

 亞唯の言葉に、雛菊がうなずく。


第八話をお届けします。

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