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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第七話

 五体全員がデータバックアップを終えると、石野二曹が内線電話の受話器を取り上げた。ボタンを三つばかり押してから、喋り始める。

「石野です。準備できました。……お願いします」

 ほどなく、会議室に作業服姿の五名の男性が現れた。細長いスーツケースのようなものを、ひとつずつ持っている。長いテーブルにそれらを置いた男性五名は、無言のままその前に立った。

 石野二曹が、スーツケース状のものを開いた。中に納まっていた全長四十センチほどの黒っぽい物体を、取り上げる。

 シオは、その物体を銃であると認識した。だが、それにしては妙な形状であった。ショルダーストックもピストルグリップも、それどころか引き金すらついていない。

「分隊長。それは、銃器ではありませんか?」

 片眉を吊り上げた表情で、スカディが問う。

「そうよ。九ミリ機関拳銃をベースにした、AI‐10専用銃。みんな、ROMのファイル0127を開いて、メインメモリーに取り込んでちょうだい。取り扱い方法と注意事項を学習して」

「あのー、分隊長。AI‐10は包丁さえ使わせてもらえない家事ロボットなんですけど」

 遠慮がちに、夏萌が質問する。

「包丁どころか、火器を扱えるだけのスペックが十分に備わっているのよ。あなたたちにはね。ロボ法に基づく刃物や火気の取り扱いは、経産省の認可に時間がかかるから、扱えない仕様になっているだけ」

「はあ~。そうだったのでありますか」

 シオは意外な事実を聞いて、口をぽかんと開けた。

「ですが分隊長。わたくしたちに植え込まれているシュープリーム・プログラムの内容からして、銃器は扱えないはずでは?」

 再び、スカディが問う。

 自立行動が可能なスタンド・アローンタイプのロボットが普及し始めた当時、懸念された事態のひとつが、ロボットを悪用した犯罪の増加であった。オーナーの命令に絶対服従のロボットならば、詐欺や窃盗はもちろん、殺人やテロ行為などの凶悪な犯罪を行わせることも容易だからだ。

 ロボットによる犯罪を抑止するために、現在では民生用ロボットすべてのメインメモリー内、しかもオーナーが干渉することができないコア部位に、シュープリーム・プログラムと呼称されるある種の倫理プログラムが組み込まれている。これは主として『対人、対動物保護機能』と『非暴力機能』それに『犯罪行為予測機能』の三者から形成されている。

 『対人、対動物保護機能』は、人間や動物の生命や健康を損なうおそれのある動作等を規制するものである。例えば、ロボットに牛を蹴飛ばすように命じても、シュープリーム・プログラムに基づきオーヴァーライド機能が働くので、ロボットは命令に従うことはない。ただし、保護対象はあくまで生命を持つものに限られるので、家事ロボットに牛肉を調理させることは問題なく行わせることができる。

 『非暴力機能』は武器、凶器の類の使用制限を司っている。重量のある金属棒なども凶器に分類されるので、一般の民生ロボは鉄パイプなどを運搬することはできても、振り回すことはできない。もちろん、包丁を使わざるを得ない家事ロボットや、バールのようなものを振るわねばならない自立作業ロボなどは、制限が緩和されるプログラムが搭載されている。

 『犯罪行為予測機能』は、犯罪行為あるいはその準備行為をロボットにパターン認識させ、同様の行為を命じられた場合に、拒否あるいは確認行為を行ってその実行に歯止めをかける、という機能である。たとえば、オーナーに物を壊すように命じられた場合、ロボットはその物の所有者が破壊を承認したかどうかを確認し、オーナーに壊す合理的な目的は何かを確認し、さらに壊した結果をシュミュレーションし、良好な結果を得られて初めて、命令に従うことになる。

 もちろんこれらは民生用ロボットの場合であり、最初から人間に対する暴力的行為を行うことを前提として製作されている軍用や公安用ロボットは、シュープリーム・プログラムは搭載されているものの、その機能は大幅に異なっている。

「あなたたちに装着してもらった警備用ROMによって、シュープリーム・プログラムの機能の一部に抑止が掛けられているわ。より正確に言えば、警備用ROMの装着によって、本来のあなたたちのシュープリーム・プログラムに加えられていた追加部位が、いったん削除されたといった形ね。銃器はもちろん、もっと剣呑な武器でも扱えるし、場合によってはそれを人に向かって使うことも可能よ。もっとも、そんな事態にはなって欲しくはないけどね」

 微笑みながら、石野二曹が言う。

「では一曹、お願いします」

 銃をケースに戻した石野二曹が、控えていた五人の男性隊員を見やった。相変わらず無言のまま、男性隊員たちが銃ケースを取り上げると、ロボットたちの間に散った。

 シオは傍に立った男性隊員に促され、右腕を上げた。手首と肱のところに、プラスチック製のサポーターのようなものを嵌められる。次いで、ケースから出された銃が、サポーターと結合されるようにシオの右腕の外側に取り付けられた。シオの右腕が、自動的に銃の重さを計る。二キログラム半程度だろう。かなり重い。

 さらに、シオの右手首の銃に触れないような位置に、円筒状の小さなカメラが取り付けられた。男性隊員が、カメラから伸びる細いケーブルと、銃本体から伸びているケーブルとをまとめて、シオの腕に這わせて、二の腕の内側にあるポートに接続する。

「目が増えたのであります!」

 いきなり視覚映像数が増加したシオは、おもわず叫んだ。シンクエンタを除く他のロボットからも、驚きの声があがる。

「照準用カメラからの映像は、いまのところメインの映像とは別処理しておいてちょうだい。銃の装着が完了したら、ダミーの弾倉を配るから、挿入して。とりあえず、重量に慣れてもらう必要があるから、適当に動き回ってみて」

 石野二曹が指示する。

 男性隊員からダミーカートの入った弾倉を受け取ったシオは、メインメモリーに取り込んだマニュアルを参考にしながら、それを機関拳銃に差し込んだ。

 さらに重くなった右腕をわずかに振りながら、シオはあちこちをぎこちなく歩き回った。マニュアルに従い、銃口を人やロボットに向けないように常に注意する。しばらく歩き回ると、AIが右腕の荷重を適切に処理しつつバランスを取ることを覚え、シオの動きは滑らかとなった。

「マニュアルを参照すればわかると思うけど、この銃は電気発火式に改造してあります。あなたたちの手と腕じゃ、銃を適切に保持して引き金を引くのは難しいですからね。R02ポートのオンオフで発射となります。安全装置も電気式で、R03ポート。単射/連射の切り替えはR04ポート。オフが単射で、オンが連射モード。全員、通電検査をしてみてちょうだい」

 石野二曹が、説明しつつ命ずる。

 シオはポートのオンオフを繰り返した。異常はない。

「では皆さん、移動しましょう。一応、弾倉は抜いてからね」

 シオたちは右腕に機関拳銃を装着したまま会議室を出た。


「なんだか、ボウリング場みたいなところなのですぅ~」

 ベルが、感想を述べる。

「映画で見たのとは、ちょっと違うのです」

 シオは、あたりをきょろきょろと見回した。メモリー内にある画像と比較すれば、そこが屋内射撃練習場であることは明白なのだが、警察物の映画で見たような射撃用の台などは見当たらない。

「五人ともそこに並んで。射距離五十メートルで零点規正を行います。やり方はファイル参照のこと。できるわね?」

 石野二曹が、シオたちからダミーカートの入った弾倉を回収し、空弾倉と実包六発、それにカートキャッチャー(薬莢受け)を配った。シオはメインメモリー内に取り込んだマニュアルを参照しながら、排莢口にカートキャッチャーを取り付け、箱弾倉に9ミリ弾を押し込んだ。右腕の機関拳銃に弾倉を挿入し、石野二曹の発砲許可を待つ。

「全員準備できた? 音声入力は絞っておいた方がいいわよ。では、開始」

 シオは左手で機関拳銃上部のコッキングハンドルを引いて、薬室に実包を送り込んだ。電気信号を送って安全装置を解除し、単射に切り替える。

 標的である黒い円が描かれた四角い紙は、射撃レーンのかなり手前の方に置かれていた。シオのステレオCCDカメラは、すでに標的までの映像をメモリー内に取り込んでいたので、シオの中では詳細な3Dデジタルマップが出来上がっている。

 シオは右腕を持ち上げた。安定するように、左手を添える。

 右手首のカメラからの映像を参照しながら、シオは標的に銃口を向けた。電気信号を送り込み、初弾を放つ。ぱしん、という軽めの音を発して、銃弾が飛び出した。

 シオは同じ状態であと二弾を放った。安全装置だけ掛けてから、CCDカメラをズームモードにして、標的の様子を調べる。

 発射した弾丸は、三発ともほぼ同じ位置に命中していた。狙ったはずの標的の中心からは、右下に六センチばかりずれている。

「素人にしては、上出来なのであります」

 つぶやきながら、シオは右手首カメラの映像を調節した。先ほどと同じように、その映像を参照しながら狙いをつけ、単射で三発撃つ。今度は、ほぼ標的の真ん中に射弾が集中した。

「さすがに高度な学習能力ね。今度は、連射で調整してみてちょうだい」

 石野二曹が、二十三発が納まった箱弾倉を三本ずつ、全員に配った。

 新たな弾倉を差し込んだシオは、連射に切り替えると撃ち始めた。あっというまに、一弾倉撃ち尽くす。反動が累積するために、銃口のぶれが抑えきれず、射弾は標的のあちこちに散らばって着弾していた。

「五発から六発の短い連射を繰り返すと、調子いいのですぅ~」

 隣で撃っているベルが、そうアドバイスしてくれる。

 空弾倉を外したシオは、新たな弾倉を挿入すると、ベルのアドバイス通りに短い連射を繰り返してみた。今度は、それほど射弾が散らばらず、狙った標的の中心部付近に集まる。最後の弾倉を空にする頃には、シオの腕前は連射でもほぼ標的の真ん中を撃ち抜けるようになっていた。


第七話をお届けします。

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[良い点] 今日読み始めた。おもろい! やらかし期待だけど、マジ活躍も大いに期待! [一言] 当方、ミリオタとかメカオタとかではない。 至って順当な老体。 あ〜、でも機械系は好きかも。理路整然の説明は…
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