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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 02 日本大使奪還せよ!
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第二十二話

「おー、帰ってきたか」

 高村聡史が、笑顔でシオを出迎えてくれる。仕事から帰って間も無いのか、ネクタイは外してあるもののワイシャツ姿だ。

「ただいまなのです、マスター!」

 シオも笑顔で応じた。聡史のアパートにすたすたとあがり込み、さながら初めて入った部屋を検分する猫のように、異常がないかあたりを入念にチェックする。

「ほう! お掃除はちゃんとしていたようですね! きれいに片付いています! 合格なのです!」

 シオはちゃぶ台に近寄った。食事中だったのだろう、食べかけのコンビニ弁当と缶ビール、それにパック入りの野菜の浅漬けが並んでいる。

「……って、この帽子、どうしたんだ?」

 聡史が背後から手を伸ばし、シオが被っていたパナマ帽をひょいと取り上げた。

「お友達からもらったのです! 記念だそうです!」

「パナマ帽か。ふん」

 そう言いながら、聡史がパナマ帽を被る。AI‐10は頭部が大きいから、聡史の頭には少し大きすぎるくらいである。

「お、サンタ・アナの事件ですね!」

 シオはテレビの前に正座した。聡史が食事しながら見ていたテレビ番組は、夜のニュースだったようだ。画面には、大井とヤングの日英両大使が並んで座っている映像が映っていた。今日の昼前……現地時間では夜……にサンタ・アナ内務省で行われた記者会見の模様である。大井大使が途中で怪我をしたとはいえなんとか無事に生還したということで、会見場には祝賀ムードが漂っており、両大使は英語、スペイン語、日本語が頻繁に入れ替わる質問の数々を笑顔で捌いている。

「ゲリラの内紛に乗じて自力で脱出し、パトロール中の陸軍部隊に発見された、とか言ってるけど、なんだかなー」

 ちゃぶ台の前に座り、缶ビールを手にしながら、聡史が言った。

「いくら何でも、大使館占拠を鮮やかに成功させちまった連中がそれほど間抜けには思えないんだがな。本当は、裏で身代金払って解放されたんじゃないのか? サンタ・アナやアメリカの面子を立てて、こんな嘘発表してるだけで」

「なるほど! そのような説もありえますね!」

「別な局じゃ、アメリカかイギリスの特殊部隊による救出説を唱えていた専門家が出てたけどな。でもそれなら、サンタ・アナの連中の手柄にして発表すればいいような気もするが」

 ビールをぐびりとひと口やった聡史が、ちゃぶ台の端の方に缶をことりと置く。空になった時の聡史の癖だと見抜いたシオは、立ち上がると冷蔵庫まで歩んだ。缶ビールを取り出し……指の温度センサーで充分に冷えていることを確かめつつ……ちゃぶ台の上に置く。

「どうぞなのです、マスター!」

「ん、せんきゅ」

 聡史が缶ビールを取り、自分で開栓した。この程度のことは、ロボットにやらせず、自分でやるのが聡史の流儀である。当然のことながら、シオもそのあたりは承知しており、細かいところまでは手を出さない癖がついている。

 テレビの画面では、無事救出された両大使による記者会見のダイジェストが終了し、『今回の事件を振り返る』的な内容が始まっていた。髭を蓄えたハンサムな中米人の顔写真が、大写しとなる。……エミディオ・ナダルだ。

 前回の作戦後、シオのメモリー内からは作戦内容が徹底的に消去されたが、今回の場合消去はなされていなかった。代わりに、詳細を外部に漏らさないように強力なプロテクトが設定されている。

「こいつも哀れな奴だなー。時代遅れの思想にかぶれて、犯罪に走って、撃ち殺されちまう。リーダーシップはあったんだろうから、まともな国に生まれていればひとかどの人物になれただろうに」

 野菜の浅漬けに箸を伸ばしながら、聡史が言う。

 画面に、次々とシオの知る顔が映し出される。ラモンとラファエルの兄弟。ラウール。イグナシオ。カルロス。バシリオ。いずれも大使館で射殺されたメンバーだ。写真は様々だった。比較的最近撮られたと思われる、銃器を手にした記念写真。以前に警察か内務省に取り調べられた時に撮られたと思われる顔写真。そして、まだ少年の頃の写真。

 最後にテレビに映し出されたのは、スサナの写真だった。まだ幼い……十一歳か十二歳頃のものだろう。カラー写真をモノクロコピーしたものらしく、画素が粗い上に白黒だ。淡い色のドレスを着ており、背景にあるテーブルの上には大皿に盛られたご馳走や飲み物を満たしたグラス、飲料の瓶などが映っている。その更に後方には、手作り感に溢れた手書きの横断幕がある。文字は、フェリス・クンプレアニョスと読めた。誕生日パーティの記念写真だ。

 色が着いていないにも関わらず、シオにはスサナが着ているドレスの色が判った。淡いピンクだ。嬉しそうに思い出話としてスサナが語っていた、きれいな淡いピンク色のドレス。

 ハレの席であるにも関わらず、写真の中のスサナは少しばかり憂いのある表情をしていた。まるで、数年後に自分の身に生じる悲劇を、予見していたかのように。

「マスターは、幸せなのです!」

 唐突に、シオはそう口走った。

「なんだ、いきなり?」

 聡史が、驚く。

「マスターは、とっても幸せなのです!」

 シオは腕を振り回して言葉を強調しながら、繰り返した。

「俺がか? いや、とても幸せとは思えんが。安月給だし、恋人いないし、背低いし……」

 箸を置いた聡史が、指折り自分の『不幸ポイント』を数え始める。

「マスターは幸せなのです! ちゃんと勉強して、学校を出て、仕事も持っているのです! 毎日ビールが飲めるご身分なのです! 世の中には、勉強したくても学校に通わせてもらえない子供たちが溢れているのです! やる気さえあればいくらでも勉強できる日本はいい国なのです!」

「あー、まあ、そういう意味では恵まれてる国だな、日本は」

 なんとなく納得顔で、聡史がうなずく。テレビの画面には、典型的なサンタ・アナの農村が映し出されていた。畑を耕す農民。もの問いたげな視線でカメラを見つめる老人たち。空気が漏れてへこんでいるサッカーボールを蹴って遊んでいる痩せこけた子供たち。埃っぽい通りをうろうろと彷徨っている、毛の抜けた犬。カメラを向けられ、はにかんだ笑みを浮かべる少女と、その背後に隠れてしまう妹らしい幼女。

 スサナの生まれ育った村も、こんなものだったのだろう。ろくに勉強させてもらえず、農作業を強いられる毎日。なまじ向上心があったゆえに、左翼ゲリラに取り込まれて、大人になれぬまま死んでしまった、黒髪の少女。

「どうすれば、こんな国を減らせるのでしょうか」

 テレビ画面に視線を移しながら、シオは訊いた。シオのメモリー内データからは、この答えは導き出せそうにない。

「難しい質問だな。俺にもよく判らん。ま、ひとつだけ言えるのは、国家の改革は欲張りすぎちゃいかん、ってことだな。発展途上国は先を急ぎすぎて、さまざまなことを同時にやろうとする。経済発展、教育改革、政治の安定性、民主化、工業化などなど。そして、いずれもが失敗に終わる。もっと目標を絞り込み、時間を掛けてひとつひとつ課題をこなしてゆくべきなんだな。そのような意味では、まず工業化を押し進め、教育を徹底し、強引な手法で国内政治を安定させ、経済大国にのし上がった中国は成功例だろうな。……最後の民主化で、大失敗をやらかすかも知れないが」

 にやにやと笑いながら、聡史が言う。

「毛沢東主義を捨てて成功した中国と、それを後生大事に抱えている左翼ゲリラが跳梁跋扈している小国ですか」

 困り顔で、シオは言った。

「日本だって、順を追って発展してきたんだ。すでに江戸時代中期以降、経済規模に関してはヨーロッパの強国に準ずるくらいはあったし、都市部を中心に教育程度も高かった。大衆が文盲というのがデフォだった時代に、庶民の子供が読み書き習ってたレベルだからな。明治になって政治が安定してから工業化を進め、民権運動で民主化も徐々に進めた。サンタ・アナなんかももう少しカネがあればなあ。鉱物資源とか出て、外貨を稼げればいいんだが。コーヒー豆やバナナじゃカネにならんし。まあそれでも、中米あたりでも初等教育は完全普及に近いはずだし、時間さえ掛ければいい国になっていくだろ」

 テレビ画面はCMに変わっていた。ハイブリッドカー、ビール、生命保険、健康食品、胃薬、栄養ドリンク……。資本主義社会を象徴するような商品が、次々と宣伝されてゆく。

 聡史が、缶ビールを乾した。まだ被っていたパナマ帽をシオの頭に戻すと、立ち上がる。

「風呂入るから、あと頼む」

「合点承知なのです!」

 シオはちゃぶ台の上を片付け始めた。

「ベルちゃんたちと一緒のときも楽しいですが、やっぱり、マスターのお世話をしているのが、一番楽しいのです!」

 手で空き缶を小さく潰して、缶専用の容器に入れる。弁当や浅漬けの容器やラップ類も、分別する。シオは、久しぶりの細々とした仕事を楽しんだ。



 Mission 02 想定外の大成功!


第二十二話をお届けします。これにてMission02は終了です。次回よりMission03が始まります。舞台はアフリカ、ネタは化学兵器になります。

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