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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 19 カリブ海謎の研究所探索せよ!
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第十話

「この男性たちは、一体どこのお方なのでしょうかぁ~」

 シオが倒した男から、嬉々として手榴弾を回収しながら、ベルが訊いた。

「こいつはガリル……っぽいけどちょっと違うな。R4か? いずれにしても、ロシア陸軍やFSB(ロシア連邦保安庁)やSVR(ロシア連邦対外情報庁)がこんな武器を使うとも思えんー。例の計画絡みの連中だろー。仲間割れか何かかなー」

 手にした突撃銃をざっと調べながら、畑中二尉が答えた。

「シオちゃん、使ってくださいぃ~」

 ベルが、回収した自動拳銃を、二本の予備弾倉と共にシオに手渡す。

「ありがとうなのです、ベルちゃん!」

 こちらは南アフリカ製のベクターSP1自動拳銃だった。グリップに、ベクター社の『V』字のロゴが入っている。

「無線機はどうしますかぁ~」

 ベルが、男から外した無線機を手に訊く。畑中二尉が、首を振った。

「置いておけー。最近はロケーション機能が付いているやつがあるからなー」

「これからどうするのでありますか?」

 自動拳銃を手に、シオは訊いた。

「そのおねーさんを起こせー。あ、一応起こす前にボディチェックはしておけー。武器と電子機器は取り上げるんだー。また変な連中が来る前に、部屋に引き上げるぞー。あたしが先頭、ベルは殿を頼むー。シオ、そのおねーさんを絶対に逃がすなー。その白衣のくたびれ方から見て、おそらくおねーさんは学者か研究者だー。あいつらめったに白衣を洗濯しないからなー。あたしは行方不明になった研究者の顔は全員覚えてきたが、その中に彼女はいないー。つまり、このおねーさんが例の計画に関わっているとすれば、中核の人物である可能性があるー。尋問すれば、有益な情報が得られるはずだー」

 突撃銃を構え、階段の上の方を窺いながら、畑中二尉が言った。

「合点承知であります!」

 シオはへたり込んでいる白衣の女性の身体を調べた。白衣の脇のポケットに小さなノートが、胸ポケットに数本のペンが入っていただけで、怪しいものは何も見つからない。

「おねーさん、起きるのであります!」

 シオは白衣の女性を手荒くゆすった。女性が、はっと目を覚ましてシオを見つめる。

「安心してください、あなたを助けてあげます。こいつらに、追われていたのでしょう? 匿ってあげます」

 畑中二尉が、英語で声を掛ける。

 一瞬、女性が困惑したかのような表情を浮かべた。英語が通じなかったようにも見えたが、戸惑いの色はすぐに消え、畑中二尉を見上げてしっかりとうなずく。

「お願いします」

 シオは女性に手を貸して立たせた。畑中二尉が、ベルに後方の安全を確認させてから、先頭に立って階段を登り始める。



 サスキアの公安警察隊は決して無能ではない。

 市民からの『コーレイン・ホテルにテロリストが乱入した』という通報を受けて、本部は即座に要員を差し向けた。だが、彼らの持つ火器は、オランダ時代からの標準装備であるワルサーP5自動拳銃と、わずかな数のモスバーグM590ショットガンだけである。

 サイレンを鳴らして駆けつけた数台のフォルクスワーゲン・ゴルフと、一台のフォルクスワーゲン・トランスポーターは、待ち伏せていたリハチョフ元上級准尉が指揮する『ラヴァル』から激しい銃撃を浴びた。『ラヴァル』の射撃は巧妙だった。タイヤを狙わず、運転手も狙わず、エンジンルームも避け、車体だけに銃弾を撃ち込む。適当に死傷者を出させ、抵抗は無益だと悟らせて、後退させるのが目的である。下手に動けなくしたり、運転手を殺したりすると、その場に踏み止まって決死の反撃に転ずるおそれがある。火力で大幅に勝っているから、ロシア側が負けることはまずあり得ないが、ルドニコフ元大尉らの目的は警察との銃撃戦に勝利することではない。無駄な戦闘は、避けるべきだ。

 『ラヴァル』の思惑通り、自動火器の激しい射撃の洗礼を浴びた公安警察隊は、すぐに戦意を失い、後退を開始した。



 ……何者なのか、こいつらは?

 東洋人女性のあとに付いて階段を登りながら、パウリーナ・ノーウィッキ博士は考えを巡らせた。

 代々軍人を輩出する家系に生まれたので、女性にしては軍事や銃器に関しては詳しい。前を行く東洋人女性の銃の持ち方は、いかにも玄人だ。二体の小柄なロボットも、銃の扱いには慣れていそうに見える。

 気を失う前に、東洋人女性が喋った言葉を聞いたが、それはパウリーナの耳には日本語っぽく聞こえた。少なくとも、中国語や朝鮮語ではなかった。

 とすると、日本の軍か公安関係者だろうか。プロジェクトには、日本人も三人参加している。それを探しに来た連中が、たまたまこのホテルに滞在していたのだろうか。

 それより、これからどうするか。

 とりあえず、彼女ら……ロボットも女性型らしい……と一緒にいれば安全だろう。襲って来たのは、ロシア人たち。ということは、アルチョム・グリャーエフ絡みか。グリャーエフが、プロジェクト乗っ取りを企んで、部下を送り込んできたのだろうか。他の四人を敵に回すことも厭わずに。

 ……ロシア人にデータを渡すのは、まずい。

 グリャーエフの部下(推定)の狙いは、プロジェクトに関するデータの収集だろう。そしてもちろん、その中にはパウリーナの身柄確保も含まれる。とりあえず自分は逃げ出せたが、地下施設にあったデータと他の研究者たちは連中の手に落ちたと考えざるを得ない。

 グリャーエフの最終目的は? 金があるとはいえ、ロシアン・マフィアごときに、このプロジェクトを完遂できるだけの力があるとは思えない。とすると、誰か有力な協力者かスポンサーがいる可能性が高い。あるいは、最初からデータを誰かに売り飛ばすことが目的なのか。

 いずれにしても、グリャーエフからデータを手に入れるのは碌な連中ではあるまい。

 ……なんとかして阻止できないものか……。



 撤退の潮時だと、アキム・ルドニコフ元大尉は判断した。

 収集したデータ類は、すでにほとんどが車両に積み込まれた。捕虜にした人々も同様である。警察の第一波は撃退したとラヴァル1から報告があったが、当然第二波も来るだろうし、より強力な火器を装備した沿岸警備隊に応援を要請したことも確実だろう。

 唯一の気がかりは、逃げた女を追ったサグネ7と8が消息を絶っていることだが、ルドニコフはすでにサグネ1に命じ、捜索のために人員を派出するように命じてあった。作戦で死傷者が出るのは容認できるが、行方不明者を出すのはまずい。サスキア当局に拘束され、尋問されたら困ったことになる。

『こちらサグネドゥヴァ ケベックアジン応答願います』

 ルドニコフの無線に、呼び出しが入る。

「ケベックアジンだ。どうした?」

『サグネスェーミヴォースィミを発見。二階の東側非常階段です。気絶状態でしたが蘇生させました』

「負傷しているのか? 歩行は可能か?」

 ルドニコフは問いかけた。歩けないとなると、撤退が面倒になる。

『歩行は可能です。どうも、エレクトラショック・アロージェ(電気ショック兵器)にやられたようです。サグネヴォースィミによると、小型のロボットに襲われたようです』

 小型のロボット? ホテルの警備ロボだろうか。

「では、女には逃げられたのだな?」

『そうです。追いますか?』

「いや。急いで帰還しろ」

 おそらく、女は宿泊客の中に紛れ込んでしまっただろう。短時間で探し出すのは不可能だ。

『了解。至急戻ります。以上、サグネドゥヴァ

 こちらはとりあえず片付いた。

「こちらケベックアジン ロンゲールアジン、応答せよ」

 ルドニコフは、今度はフローチェ国際空港へ派遣した班に無線で呼びかけた。

『こちらロンゲールアジン

 すぐに、応答が返ってくる。

「状況報せ」

『すべて予定通り。〈カルガリー〉は到着済み。空港警察による滑走路封鎖の試みがありましたが、銃撃で撃退しました』

 ロンゲール1からの報告は、簡潔かつ満足のいくものだった。

「よろしい、待機せよ。以上」

 ルドニコフは、無線の周波数セレクターを全局に切り替えた。

「こちらケベックアジン ケベックアジン これより撤退する。繰り返す。これより撤退する……」



 白衣の女性を伴った畑中二尉一行は、無事に三階の自分たちの部屋までたどり着いた。途中、廊下にいた他の宿泊客に見つかって悲鳴を上げられたり、子供に泣かれたりしたが、無視して部屋の中に逃げ込む。

「どうなってんだ?」

 グロック26を手にした越川一尉が、武装したうえに一人増えて戻ってきた一行を見て呆れ顔で言う。

「詳しくはあとで。あー、シオ。おねーさんを奥の寝室に隠せー。雛菊も付き添えー。絶対に逃がすなー。電話とか、絶対に使わせるなよー。とりあえず話し掛けて、何でもいいから情報を引き出せー」

「まかしときー」

 畑中二尉の指示を受け、雛菊が気安い調子で答える。

「亞唯、こいつをやるー。侵入者に対する警戒を頼むー」

 畑中二尉が、手にしたR5を亞唯に渡し、スペアの弾倉や手榴弾も手渡す。

「ベル、あのおねーさんの顔画像をコピーしろー。長浜一佐にメールで送るんだー。正体が掴めるかもしれんー。あ、ポーランド人の可能性あり、と付け加えろー。あのおねーさんが口走った『プシェプラッシャム』という言葉は、あたしの記憶が確かならばポーランド語で『ごめんちゃい』という意味だー」

「早速メールいたしますですぅ~」

 ベルがR5をテーブルの上に置く。

 畑中二尉が、越川一尉とスカディにエステサロンを出てからの経緯を簡略に説明する。

「なるほど。重要人物らしいな」

 説明を聞いた越川一尉が、うなずく。

「一尉殿、二尉殿! おねーさんが、うちらの正体を知りたがってるで。協力し合えるかもしれない、とか言っとる」

 寝室から出てきた雛菊が、そう報告する。

「話し合いしたいというなら、そうすべきだな。英語で大丈夫なんだな?」

 越川一尉が、訊いた。

「ちゃんと喋れるで。二尉殿よりも上手や」

 雛菊が、笑う。

 寝室に戻った雛菊が、シオに伴われた白衣の女性を連れてくる。畑中二尉が椅子を勧め、白衣の女性がそこに大人しく座った。

 越川一尉と視線で合図を交わし合った畑中二尉が、口を開こうとする。だが、その前にスカディのスマホが鳴る。

「はい、スカディです。……本当ですか。それは、CIAとしての公的な依頼なのですね。上官と相談しませんと……あ、切れましたわ」

 電話に出たスカディが、悔し気に通話を終える。

「なんだー? どうしたー?」

 畑中二尉が訊く。

「ルイスさんからでしたわ。先ほどフローチェ国際空港に大型ジェット輸送機が強行着陸。同時にテロリスト数名が空港内に乱入し、空港警察を排除。実質的に、空港を占拠したとのことですわ」

 スカディが、説明する。思わず、越川一尉と畑中二尉が顔を見合わせた。

「ちなみに、空港関係者によれば、輸送機はIL‐76らしいとのこと」

「おいおい。カリブ海はもとより、北中南米で、IL‐76を使ってる空軍はないはずだぞ」

 スカディの追加情報に、ドア付近で立ったまま話を聞いていた亞唯が、さらに情報を追加する。

「ロシア人にロシア製航空機。偶然のわけはないなー。連中、それに乗って逃げる気かー」

 畑中二尉が、言う。

「IL‐76なら、アラスカからフエゴ島までどこでも好きなところに逃げられる。大西洋を横断することも可能だ。西アフリカやイベリアまで行けるぞ」

 越川一尉が、言った。

「もっと近場に逃げるのではありませんか? キューバとか、ベネズエラとか」

 シオはそう言った。この二国なら、怪しい連中でも受け入れてくれそうである。

「いや、それなら航続距離二千キロメートルもあれば充分だ。IL‐76のような馬鹿でかくて、調達しにくい大型機を用意するまでもない。どこか、遠い所へ逃げるつもりだろう」

 越川一尉が、首を振りつつ言う。

「ルイスさんによれば、CIAはテロリストと直接対決できるだけの人員も装備もないので、せめて逃走を阻止しようとIL‐76の離陸阻止を行いたいそうです。サスキアの沿岸警備隊が駆けつけてくれれば、テロリストを制圧できるだけの戦力が整いますから。ですから、離陸阻止をわたくしたちにも手伝って欲しいとのこと」

 スカディが、続けた。

「あー、おねーさんが事情を知りたがってるんやけど、通訳してもええかな?」

 雛菊が、口を挟む。

「おねーさんはロシア人たちとは仲が良くないようだー。とりあえず、IL‐76が来ているくらいは説明してやれー。敵の敵は友、ということで、何か話してくれるかもしれんー」

 畑中二尉の許可を得て、雛菊が早口の英語で状況を説明する。

「メールを送信終わりましたぁ~」

 ベルが、報告する。

「それから、推定ロシア人の皆さんがお帰りになるようですぅ~」

 窓の外を指差しながら、ベルが続ける。

 すぐさま、越川一尉と畑中二尉が窓にへばりついた。シオも並んで窓の外を見た。トラックとミニバス、それにタクシーが、表通りの方へ走ってゆく。

「あの方角は空港だー。やはりIL‐76で逃げるつもりだなー」

 畑中二尉が、言う。



 ……まずい。

 ロボットの通訳で状況を知ったパウリーナは、焦った。

 大型のジェット機なら、捕まえた科学者たちもデータ類と一緒に連れ去ることもた易いだろう。しかも、IL‐76と言えば、ロシア製の軍用輸送機だ。

 グリャーエフのバックにロシア政府がいるとしたら……。

 絶対に阻止しなければならない。あのプロジェクトが、ロシア政府によって引き継がれ、完成するような事態になれば、暗黒時代の到来となる。……少なくとも、パウリーナの祖国であるポーランドと、その友好国にとっては。

「みなさん」

 パウリーナは立ち上がると、英語で喋り始めた。

「事情は彼女から聞きました。ロシア人たちは、貴重なデータを奪取して逃げるつもりです。絶対に阻止しなければなりません。協力してください」

「データ? まず、あなたの素性から聞きたいですね」

 いかにも軍人らしい、東洋人にしては背の高い男が訊く。

「時間がありませんよ、一尉。連中が空港に着いたら、IL‐76が飛び立ってしまうー。いいでしょう、協力しましょう。ですが、知っていることは洗いざらい喋ってもらいますよ。いいですね」

 前半は日本語で越川一尉に、後半は英語で白衣の女性に向け、畑中二尉が言った。

「わかった。急ごう」

「それでいいです」

 越川一尉がと白衣の女性が、同時にうなずく。

「よーし、まずは車の確保だー。たぶん駐車場に客のレンタカーが停まってるだろー。一尉、頼みますー」

 畑中二尉が、言う。

「任せろ。亞唯、雛菊。一緒に来い。フロントで鍵を『強奪』するぞ」

 越川一尉が、グロック26を構えたまま慎重にドアを開けた。異常がないことを確認してから、二体を連れて走り出す。

「よし、スカディはあたしのグロックと予備の銃弾を持てー。ベル、先導しろー。シオはおねーさんから目を離すなー。では、出発……おっと、これも持って行こう」

 畑中二尉が、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを二本出した、一本をポケットに押し込み、もう一本を白衣の女性に渡す。

「ありがとう」

 白衣の女性が、ボトルを白衣のポケットにねじ込んだ。

「ニェ・マ・ザ・ツォ(どういたしまして)」

 畑中二尉が返し、にっと微笑んだ。


 第十話をお届けします。

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