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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 19 カリブ海謎の研究所探索せよ!
452/465

第九話

 時間は若干遡る。

 武装したロシア人部隊を乗せた二台のトラックは、時間通りにコーレイン・ホテルに到着した。主力を乗せたヒノが正面入り口前、ピータービルトの方は従業員入り口と物資搬入口のある裏側にまわる。南アフリカ人たちを乗せたセダンは、ヒノの後ろに停車した。

 ヒノの運転台に座るルドニコフはあたりを見回した。警察車両の姿はない。

「こちらケベック(アジン) サグネ(アジン)、警察はいるか?」

 ルドニコフは、無線の送信ボタンを押して問いかけた。

『視認なし。支障なし』

 裏側からの突入部隊である『サグネ』を率いるブーニン元中尉から、簡潔な返答が返ってくる。

 よし。

「こちらケベック(アジン) 全部隊、支障なしを確認せよ」

 ルドニコフは各部隊長に問いかけた。事前に取り決めた通信規則通り、サグネ1から順に各部隊長の『支障なし』の返答が返ってくる。

「全部隊、作戦開始」

 ルドニコフは、即座に命じた。


 ルドニコフらの作戦は、途中まではほぼ問題なく進行した。

 ホテルのメインエントランスに突入したイサコフ元曹長が指揮する『グランビー』十五名は、驚いて逃げ惑う従業員と客を無視してフロント脇の通路を突っ走った。その奥にある従業員専用の札が掛かったドアが、地下への入り口なのだ。

 ホテルの裏側でも、ブーニン元中尉が指揮する『サグネ』の十五人が、従業員通用口と物資搬入口から二手に分かれて突入する。通用口を警備していた非武装警備員は、突撃銃を手にして走ってきたロシア人たちを眼にした途端、抵抗を諦めて両手を挙げた。『サグネ』の面々は、それを無視して走り続ける。目指すは、『洗濯室』の札が掛かった部屋だ。その奥に、地下入り口が隠されている。

 続いてリハチョフ元上級准尉が率いる『ラヴァル』十人が、退路確保のために展開した。警察部隊が駆けつけた場合に備え、早くも適切な射撃位置の確保に掛かる。

 ルドニコフは、『ケベック』のメンバーと南アフリカ人たちを従えて、正面ロビーに陣取った。ここが、当面指揮所となる。ロビーやラウンジにいた客や従業員は、銃口で脅されて隣接するバーの方へと押し込められた。うろちょろされては、撤退の際に邪魔になる。


 『グランビー』を率いるイサコフ元曹長は、先頭に立って走った。目当てのドアを見つけ、押し開ける。すかさず小部屋の中に部下が走り込み、中にいた武装警備員を制圧した。

「奥の扉を開けろ!」

 英語が得意な部下が、警備員に銃口を突き付けて要求する。

「こっちからは開かない。中に連絡して開けてもらうんだ」

 警備員が早口で説明し、天井に付いている監視カメラを視線で指す。

 別の部下がドアハンドルを試した。当然ながら、ロックが掛かっている。

(トゥリー)!」

 イサコフは部下を呼んだ。ドアが施錠されており、開かないことは想定済みである。

 呼ばれた部下が素早く進み出た。元戦闘工兵のその男が、板状のプラスチック爆薬を手際よくドアに仕掛ける。部下たちが、警備員を引きずるようにして小部屋を出て行った。イサコフも、続いた。

 爆薬を仕掛け終わった部下が、リード線を繰り出しながら出てくる。素早く周囲を見て、他のメンバーがドア前から退去していることを見て取った元戦闘工兵が、無造作にリード線に通電した。

 どん。

 外側の扉が爆風で勢いよく閉まり、さらに耐え切れずに通路側に吹き飛んだ。

 イサコフはR5を構えて突っ込んだ。部下が、続く。

 爆破された扉の向こう側は、コンクリート造りの幅広の折り返し階段だった。見通しが悪く、突入には不安が残ったが、イサコフは思い切りよく駆け下り始めた。強襲作戦では、拙速は巧遅に勝るという金言の通り、とにかく敵に先んじて動くことが大事である。敵に落ち着いて考える時間を与えてはいけない。

 踊り場を過ぎ、駆け下りた先にあったのは、ごく普通の大きなスチール扉だった。さすがにイサコフもここは慎重になり、部下が三名ほど追いつくのを待ってから、姿勢を低くしたうえで扉の正面から離れ、腕だけを伸ばしてドアハンドルを押し下げた。部下の一人が、タイミングを合わせて足先で扉を押し開ける。

 途端に、銃弾が飛来した。かんかんかんと、スチールの扉に当たって跳ね返る。

 銃声からして拳銃。しかも一丁で、射手は相当慌てている。

 イサコフはそう見切った。

「続け!」

 イサコフは肩で半開きになっている扉を押し開け、内側に転がり込んだ。姿勢を低くした部下がR5を単射で撃ちまくりながら、続く。

 スチール扉の奥はコンクリート製の無機質な通路であった。突撃銃で武装した男たちが続々と現れたのを見て取った武装警備員が、慌てて手にした自動拳銃を投げ捨てる。

(ドゥヴァ)、右! 俺は左へ行く」

 起き上がったイサコフは走り出した。部下が速やかに二手に分かれ、イサコフとグランビー2のあとに続く。二名が残って、武装警備員の手首と足首に結束バンドを巻き、自動拳銃を回収した。


 もうひとつの地下出入口を襲った『サグネ』の首尾も似たようなものであった。若干の抵抗はあったが、難なく制圧して、負傷者を出さないまま地下への突入を果たす。


 『グランビー』と『サグネ』は、地下の掃討を開始した。

 扉は片端から開け、中に人が居れば連れ出して拘束する。抵抗する奴は即座に射殺するつもりでいたが、そんな者は皆無だった。出会った武装警備員はすでに拳銃を床に置いて両手を挙げていたし、その他の男女も驚いた顔をしていたが無抵抗であった。

 唯一あったトラブルは、サグネ(スェーミ)とサグネ(ヴォースィミ)が出くわした女であった。制止命令を振り切った眼鏡姿の女を追い、7と8はとある事務室に突入した。だが、その部屋に女の姿はなかった。一瞬戸惑った二人だったが、すぐに奥の壁が不自然なことに気付く。

 R5の銃口で突くと、その部分の壁がフェイクであることが知れた。なんと、その奥に上に通じる縦穴が隠れており、中にスチール製の梯子があったのだ。

 7と8は、サグネ1に報告を入れると、すぐさま女のあとを追った。



 銃声が響きわたるのを耳にした瞬間、パウリーナ・ノーウィッキ博士は固まった。

 ……合衆国の特殊部隊か。

 機密保持には気を遣ってきたが、事業が拡大すればするほど……言い換えれば、目的がゴールに近づけば近づくほど、関わる人の数が増え、情報漏洩の確率は高まっていた。やはり、各国の研究者や科学者を勧誘したのは、失敗だったか。しかし、通常のやり方で集めたのでは、機密保持の観点からすればはるかに危険だったのだから……。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 パウリーナは肌身離さず持ち歩いている研究ノートを、白衣のポケットに突っ込んだ。自身の脳味噌の中身と、このノートだけで、この研究施設にあるすべてのデータと資料類よりも、プロジェクトにとっては価値があるのだ。とりあえず、逃げなければならない。突入してきた連中が何者かは知らないが、捕まったらプロジェクトはお終いだ。

 この地下施設にある地表への出入り口は、二つしかない。だが、出口専用……外側からは絶対に開けられない……非常口なら、実はひとつだけある。ファン・デル・フック大統領が来ている時に何かあった場合に備え、ペデルツィーニの提案で設置されたもので、その存在を知っているのはパウリーナと警備隊長くらいの、まさに秘密の抜け穴だ。

 これを使うしかない。

 パウリーナは通路を走った。非常口のある事務室前にたどり着いた時、通路の端から武装した連中の制止の声が掛かる。パウリーナは無視して、部屋に飛び込んだ。壁に隠された扉を開け、中の梯子に飛びつく。タイトミニのスカートに包まれた足を精いっぱい動かして、パウリーナはスチールの梯子を登って行った。



 地下制圧に成功した『グランビー』と『サグネ』は、資料の収集を開始した。

 ノートパソコンやタブレット、外付けハードディスクなどはそのまま網袋に突っ込み、光学ディスクや磁気メモリーの類は、布袋に入れる。紙のファイル、プリントアウト、ノート、メモ類は、内容を精査しないまま袋に詰め込まれた。持ち運びが困難な大型のコンピューターは、分解されてハードディスクやSSDメモリーだけが外される。ホワイトボードに書かれた数式や文字は、デジタルカメラで撮影された。

 捕らえられた人々は、警備員を除きすべてが外で待つ車両に乗せられた。『ラヴァル』のメンバーが、ホテル周辺にいたミニバス二台とタクシー三台を運転手ごと『徴発』したので、主にそちらに詰め込まれる。



 ホテルの一階にたどり着いたパウリーナは、半ば転げるようにしてホテルの通路に飛び出した。

 本能的に正面ロビーの方へ駆け出そうとしたパウリーナだったが、そちらからただならぬ喧騒が聞こえてきたので危険を感じ、逆方向へ駆け出した。うまい具合に、真正面に非常口の表示があった。ここから、外へ出られるはずだ。

 扉を押し開け、非常用照明がついている階段室に入る。目の前の扉を、パウリーナは押し開けようとしたが、びくともしない。引き開ける扉なのかと思って引いてみたが、こちらもまったく動かない。慌てて眼で扉を確かめてみたが、閂やラッチの類は掛かっていない。……どうやら、遠隔操作で開ける電気式の扉のようだ。

 仕方なく、パウリーナは右側にあった階段を登り始めた。後ろからは、追いかけてくる物音が聞こえる。先ほど見かけた、武装した連中だろう。

 パウリーナは必死に階段を駆け上がった。コーレイン・ホテルは大きなホテルである。なんとか宿泊客の中に紛れ込めれば、逃げられるはずだ。

 だが、彼女の脚は主の思い通りには動かなかった。まだ若い……三十四歳……だが、長年の研究生活に伴う運動不足は、その筋力と持久力を大いに蝕んでいた。二階にたどり着く前に、パウリーナはぜいぜいと息を切らしていた。梯子登り、疾走、そして階段駆け上りで、彼女の体力はすでに限界近くまで減少していた。

 ……このままでは追いつかれる。

 パウリーナは焦った。

 と、まるで天啓のように、二階に通じる非常口がホテル内から開けられ、眩い光が薄暗い非常階段に差し込んだ。パウリーナはすぐさまそちらへと駆け出し、扉を開けようとしていた小柄な東洋人女性にまともにぶつかった。



 シオとベルの対応は素早かった。

 シオは咄嗟に畑中二尉が襲われたとの前提で行動した。右手で飛び出してきた女性を掴み、左手のエレクトロショック・ウェポンを作動させようとする。

 だが、電撃を叩き込む前に、シオは女性が手に何も持っていないことを見て取った。服装も、タイトミニスカートとドレスシャツの上に白衣を羽織っただけで、特殊部隊員にも兵士にもテロリストにも見えない。

 一般人、と判断したシオは、電撃を放つのをやめて、そのまま女性の腰を抱きかかえた。……そのままでは、畑中二尉を押し倒して怪我をさせてしまうだろう。

 一方のベルは、位置的にシオの後ろにいたこともあり、畑中二尉の保護に専念した。女性にぶつかられて倒れそうになった畑中二尉を抱きとめて、床に激突しないようにする。

「プセプラッシャム!」

 シオに捕まった女性が、口走る。

「びっくりしたー」

 ベルに抱き留められた畑中二尉が、心底驚いた表情で言った。

「お怪我はありませんかぁ~」

 ベルが、問う。

「あたしは大丈夫だー」

 畑中二尉が言う。

 と、女性がシオの手を振りほどいた。体勢を立て直し、走り出そうとする。

 非常口の扉が大きく開かれた。中から、突撃銃を手にした二人の男が飛び出す。

「ストーイ!」

「ドーント・ムーヴ!」

 右側の男がロシア語で、左側の男が英語で叫び、突撃銃を構える。

 通路には、何人かの宿泊客の姿があった。銃声を聞きつけ、様子を見に、あるいは避難の必要を感じて出てきた人々だ。そちらへ向けて、ロシア語で喋った方が一発を放つ。

 轟いた銃声に、宿泊客たちは慌てて室内に逃げ込んだ。

 英語を喋った方は、手近にいたシオに銃口を向けた。一番の脅威と判断したのだろう。だが、視線は白衣の女性の方を向いている。

「こっちへ来い。抵抗するな」

 ロシア語で喋った方が、銃口を白衣の女性へ向けてロシア語で言った。女性が、諦めた表情で二人の男性へと近付く。

「こいつらはどうする?」

 英語で喋った方が、シオに銃口を突き付けたままロシア語で訊く。

「無駄に死人を出すなと言われてる。ほっとけ」

 ロシア語で喋った方が、白衣の女性の手首を掴みながら言った。

 突然、畑中二尉が二人の男に哀願口調で語り掛け始めた。日本語なので、意味が分からず男たちが困惑する。だが、その内容は男たちに向けたものではなかった。シオとベルに向けたものだ。

「よく聞け。こいつら正体は判らんがロシア人だー。どう見ても正規軍や公安関係者じゃないー。おそらく軍人上がりの傭兵だろー。よく判らんが悪い連中だー。とりあえず隙を衝いて倒せー。この白衣のおねーさん、あたしの勘だと重要人物だぞー。確保するのだー。とりあえず、あたしが気を引くー」

 そこまで一気にしゃべった畑中二尉が、抵抗するつもりがないといった感じて両手を挙げて後ずさる。

 男二人がほっとしたような表情を浮かべつつ、後退にかかった。白衣の女性を掴んだ方が非常口の扉を肩で押し開け、もう一人が銃口でシオを威嚇しながら下がる。

 そこでベルが動いた。シオを威嚇していた男の銃口が、さっとベルの方を向く。

 シオはその隙に左腕を男の脚に押し当てた。百万ボルトを遠慮なく叩き込む。

 ぎゃっとうめいて男が突撃銃を取り落とした。すかさず、ベルが拾いに行く。

 シオはそのまま二人目の男に向かって突っ込んだ。男が、突撃銃の銃口をシオに向けようとする。だが、その前に白衣の女性が動いた。空いている方の手で、突撃銃を押しやるようにして、銃口をシオから逸らす。

 シオは再び百万ボルトを叩き込んだ。気絶した男が、どうと倒れる。その隣に、白衣の女性がへたり込んだ。……手首を掴まれていたので、一緒に感電してしまったのだ。

「よくやったぞー、シオ。そのおねーさんを逃がすなー」

 倒れた男の身体を調べながら、畑中二尉が言った。取り上げた予備弾倉や拳銃を、ポケットに押し込む。


 第九話をお届けします。

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