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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 18 西アフリカ邪教国家改革せよ!
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第二十三話

「スカディ。ジョーから無線が入っている」

 アナシュ少佐が、呼ぶ。

 スカディはすぐにアナシュ少佐のあとに付いて行った。古いレンジローバー……初代なので今では『クラシック』という通称で知られている……の後部に積んである無線機のマイクを取り上げる。ジョーはCIAと連絡を取るために、携帯電話の電波が届く村にいるが、そこと襲撃部隊の待機位置とは距離があるうえに、あいだに山があるので、スカディらが内蔵しているFM無線機では通話が不可能なのだ。そこで、AHOの子たちはミディアム・アーミィが持ち込んだ古い軍用無線機を借りて通信を行っている。

「こちらシエラ・ワン。ジュリエット、どうぞ」

 古い無線機なので、当然秘話機能など付いていない。傍受されている可能性は低かったが、スカディらは念のために隠語を多用して通信を行う手筈を決めていた。もっとも、会話は日本語だったので、傍受されたとしても相手側は簡単には内容を把握できないだろうが。

「こちらジュリエット。支援要請は通ったと、チャーリーから連絡があった」

 チャーリーは『C』IAのことである。

「3‐1‐4を、4投入予定とのこと。充分な量と質だね。こちらの要望はすべて伝えた。無線周波数等は後ほど連絡するとのこと。しかし残念なことに、投入準備に時間が掛かるそうだ。投入予定時刻はホテルプラス5。繰り返す、ホテルプラス5だ」

「ホテルプラス5に現着、ということ?」

「その通り」

 ジョーが、肯定する。

 ホテルは、Hアワー……つまり攻撃開始時刻を意味する。それはすでに、現地時間午前五時に設定されていた。プラス5ということは、午前十時。もちろん真昼間だし、基地内の全員が活動中である。

「これは……少し工夫が必要ですわね」

「ボクもそう思うよ」

 ジョーが同意する。

 奇襲効果が失われるのは構わない。しかし、午前十時まで待たねばならないというのは、いかにもまずい。それまでに、ファタウ元副大統領が殺害されてしまったら、作戦は開始前に失敗となる。

「とりあえず、みんなと相談してみますわ」

 スカディはそう答えて交話を終えた。



「……というわけで、時間稼ぎ策はないものかしら」

 AHOの子の面々を前に、スカディが状況を説明する。

 キタウ基地から四キロほど離れた荒地である。荒地と言っても、地面が荒れているわけではなく、厚い砂埃に覆われた固く平らな岩盤が広がっている場所である。砂漠ではないが植生は皆無なので、やはり荒地と呼ぶしかない。

 辺りには、ミディアム・アーミィが持ち込んだ車両が何台も停まっていた。重装備を担いだミディアム・アーミィの兵士たちは、すでにキタウ基地近辺の待機位置に移動中である。時刻は、午前三時少し前。まだ辺りは真っ暗である。

「時間稼ぎか。とりあえず、そのシャウカン兄妹ってのがファタウ氏殺害を担当するというのは、間違いないんだな?」

 亞唯が、確認する。

「ミスター・ナナの情報によれば、ね」

 スカディが、うなずく。

「軍事作戦でも情報工作でも、より単純なものの方が失敗しにくい。ということは、オーブリー・シャウカン曹長とローズマリー・シャウカン軍曹の動きを止めるのが、一番効果的な遅延策だろう」

 亞唯が、そう指摘する。

「どうやるのでありますか? いくら亞唯ちゃんでも、この二人だけを基地外からこっそり狙撃するなんて芸当は、無理だと思いますが!」

 シオはそう言った。

「さすがにそこまでは考えてないよ。スカディ、ミスター・ナナによれば、シャウカン曹長に対し、国家人民憲兵隊隊長のカナエ大佐が、直接命令を与えたらしい、ってことだよな」

 シオの言葉に苦笑しつつ、亞唯が訊く。

「そう言っていましたわね」

「なら、カナエ大佐から、作戦延期の指示を出させればいいんじゃないか?」

 亞唯が、苦笑をにやにやとした笑顔に切り替えつつ言う。

「どうやるんや? ……あ、スカぴょんの得意技やね」

 首を傾げかけた雛菊が、思い当ってぽんと手を打つ。

「内務省に行った時の会見に、カナエ大佐も居合わせたんだろ? 音声データは採れてるんじゃないか?」

「充分ではありませんが、声真似くらいはできそうですわね」

 亞唯の問いに、スカディがメモリー内ファイルを参照しながら答える。

「よし。あとはアナシュ少佐に無線を借りるだけだ。連中、キタウ基地が使ってる周波数を知っているといいんだけど……」

 亞唯が、辺りをきょろきょろと見回して、アナシュ少佐の姿を探しながら言った。



「カナエ大佐から、直接だと?」

 ゲストルームのひとつで熟睡していたオーブリー・シャウカン曹長は、呼びに来た伍長に不審の眼を向けた。

「はい。直接曹長とお話ししたい、と仰せです」

 シャウカンよりも年上……四十代だろうか……の小太りな伍長が、困り顔で答える。

「よし。案内してくれ」

 シャウカンは、とりあえずそう指示した。痩身の、三十代の男である。アフリカ系らしからぬ、眼光鋭い細い眼が、いかにも近寄りがたい危険な雰囲気を漂わせている。

 シャウカンは伍長のあとに付いて歩みながら、腕時計を見た。午前三時四十一分。

「こちらです」

 伍長が、無線室の扉を開ける。

「使い方は承知している。軍機が関わる通信だと思う。席を外してくれ」

 シャウカンはそう言った。伍長がうなずき、外に出てそっと扉を閉める。

 シャウカンは立ったまま無線機を操作した。マイクを取り上げ、トークスイッチを押す。

「こちらシャウカン曹長です。お待たせしました」

『カナエだ。休んでいたところ、済まない』

 スピーカーから聞こえてきたのは、確かにカナエ大佐の声だった。

『例の件、準備はどうだ?』

 例の件、はもちろんアーチボルド・ファタウ元副大統領殺害計画のことであろう。

「すでに整っています。明日中に決行の予定です」

 シャウカンはそう答えた。先日のミディアム・アーミィによる迫撃砲攻撃で、基地内の建物や構内道路等の施設にはそれなりの被害が出ており、政治犯収容所の収容者たちも国家人民憲兵隊の下っ端兵士や訓練生らと一緒に、その復旧作業に駆り出されていた。それを利用して、シャウカン曹長は殺害を決行するつもりであった。すでに下準備は整えたし、口の堅い協力者も確保してある。殺害方法も高所からの転落、高所からの資材の落下、作業用トラックの衝突と三段構えになっており、確実に『作業中の不幸な事故死』を装えるように整えた。

『そうか。残念だが曹長、指示を変更する。詳しくは話せないが、情勢が変わったのだ。例の件は、延期してくれ。おそらく、四十八時間以内には、実施の指示が出せると思う。了解したか?』

「実施延期、了解しました。……このまま待機でよろしいですか?」

 シャウカンは、当惑が声に出ないように努めながら、そう訊いた。作戦が開始直前に中止されたり、内容が変更になったりすることは、軍隊や準軍隊ならば頻繁にあることである。とはいえ……何があったのだろうか。たぶん、下士官には関係のない政治的な動きが関係しているのだろうが。

『では、よろしく頼む。以上だ』

 交話が終了した。シャウカン曹長は、無線室の扉を叩いて、伍長に交話が終わったことを知らせた。



 キタウ基地への増援部隊を率いてきたオスカー・トンデロ大尉は、夜明けとともに、警戒態勢を緩めて部下の半数に朝食を採るように命じた。

 今のところ、ミディアム・アーミィが襲ってくる気配は無い。兵力に余裕があれば、周辺に偵察隊を出したいところだが、一個中隊ではその余裕はない。一個分隊くらいなら出せないこともないが、その程度だとミディアム・アーミィに遭遇した場合、瞬時に壊滅させられるおそれが強い。迂闊なことはできなかった。

 トンデロ大尉の部下たちに配られたのは、セケティア軍と国家人民憲兵隊で共同採用されている戦闘糧食だった。元イギリス植民地らしく、戦闘糧食もイギリス式で、今朝のメニューはティーバッグの紅茶と粉末スープ、ビスケットとピーナッツバター、トマト味のショートパスタの缶詰といったところだ。数は多くないが、ムスリムの兵士がいるので、ショートパスタにはハムやベーコン、ソーセージの類は入っていない。粉末スープもビーフブイヨン味で、ポークエキスなどは使っていない物だ。



 午前九時三十分。ジョーからの『作戦は順調に推移中』の連絡が、支援班経由でキタウ基地の至近まで進出したAHOの子たちに伝えられる。

「では、あと十五分待ちましょう」

 スカディが、告げた。

「前進」

 アナシュ少佐が、腕を振って部下に合図を送る。待機していたミディアム・アーミィの支援班が、続々と展開位置に移動を始めた。



 ミディアム・アーミィの動きは、当然キタウ基地側に察知された。夜間ならば気づかれなかっただろうが、警戒中の昼間であれば気付かないはずがない。

 基地司令エドワード・アウハス少佐が、迎撃態勢を命ずる。訓練生を含むすべての国家人民憲兵隊員が武器を取り、その銃口を基地周辺に向ける。無電室からは、襲撃される公算大、至急救援を請うとの無線通信が上級司令部、周辺基地、さらにセケティア陸軍及び空軍に対し行われた。



 午前九時四十五分。

「では、参りましょうか」

 スカディが、促す。

 五体のAHOの子ロボたちは、隠れ場所から出て歩き出した。

 五体とも、奇妙ないでたちであった。ジョーが用意してくれたフード付きのレインコートを着て、水色のサージカルマスクを掛けているのだ、レインコートはオーバーサイズなので、袖はみな『萌え袖』状態だし、裾は十二単のようにずるずると地面を引きずっている。

 一応、変装しているのである。無駄な努力かもしれないが、『ザック・ヴォーン議員代理(中略)調査訪問団』のロボットと同一であることがばれるのは政治的にまずい。

 五体とも、ミディアム・アーミィから借りたビグネロン短機関銃を背中に回して携行していたが、その上からレインコートを着込んでいるので非武装に見えるはずだ。こちらの思惑通り、AHOの子たちが接近するのを見ても、フェンス際に積み上げられた土嚢の陰に隠れている国家人民憲兵隊員たちは発砲しなかった。むしろ、その正体を掴みかねて困惑しているようだ。

 スカディを先頭にしたAHOの子五体は、やや散開しつつ用心してゆっくりと歩んだ。射撃を浴びせられた場合は、隠し持っている発煙手榴弾に点火し、地面に伏せることになっている。同時にミディアム・アーミィの火力援護隊が迫撃砲とMG 710‐3汎用機関銃を、突撃班がRPG‐7と携行火器を乱射してくれるので、そのあいだに逃げ帰る手筈である。

 もうすでにミディアム・アーミィに囲まれていることに気付いているので、慎重になっているのであろう。AHOの子たちがそろそろと近付いても、国家人民憲兵隊側は発砲しなかった。キタウ基地の境界フェンスまで五十メートルほどの位置で、AI‐10たちは立ち止まった。

「キタウ基地のみなさん。よく聞いてください」

 スカディが、音声出力を最大にして呼びかける。声はいつものスカディのものではなく、低めの男性ボイスだ。声量が豊かで、通りやすく、かつ誠実そうに聞こえるということでチョイスした声である。ぶっちゃけ、歌手兼俳優兼声優の、さ〇きい〇おの声をパクったものである。

「我々の目的は、当基地の一時的制圧です。みなさんを傷付けるつもりはありません。武器は手にしたままでよろしいので、演習場の方へ移動してください。ただし、発砲は禁じます。例え威嚇発砲だとしても、敵対行為と看做し、攻撃を加えます。我々は、充分な戦力を投入しています。どうか抵抗せずに演習場へ移動をお願いします」

「抵抗するとバー〇ミサイル撃ち込まれそうやな」

 雛菊が、ぼそりと言う。

「マッチョにM60マシンガンを片手撃ちされるのでは?」

 シオはそう言った。

「空間騎兵隊が駆けつけてくるのではないでしょうかぁ~」

 ベルが、言う。

「喋る車が無人で走ってくるかもしれんぞ」

 亞唯が、笑う。

 スカディの呼びかけに対し、国家人民憲兵隊側は目立った反応を示さなかった。まあ、当然と言えば当然だろう。オーバーサイズのレインコートをまとった怪しげな連中に脅された程度で戦意を喪失するはずもない。

「警告はした。みなさんの賢明な判断を期待する」

 最後にそれだけ言って、スカディがくるりと背を向けると、悠然とした足取りで引き返し始める。他の四体も、その後に従った。



「なんだ、あれは」

 管理棟の屋上から、双眼鏡で状況を確認していたキタウ基地司令、エドワード・アウハス少佐は首をひねった。

 音声も、小さかったがはっきりと聞こえていた。……降伏勧告にしては、妙に中途半端な内容であった。こちらの士気を落そうという目的かも知れないが、それにしては文言がおかしい。何がしたかったのか……。

「射撃させますか?」

 無線機を背負った通信兵を従えた若い少尉が、緊張した面持ちで聞いてくる。

「いや、やめておこう。罠の臭いがする。挑発に乗るべきではない」

 アウハス少佐は首を振った。すでに、救援要請は送った。時間は、こちらの味方である。ミディアム・アーミィが積極的に攻めて来ないのであれば、むしろ好都合。こちらから焦って仕掛けるのは愚かだ。



 AHOの子五体は、無事に遮蔽物の陰へとたどり着いた。

「十時五分前。まずは予定通り進んでいますわね」

 体内クロノメーターで時刻を確認したスカディが、満足げに言う。

「来てくれるんだろうな、助っ人は?」

 アナシュ少佐が、少しばかり焦れた感じで訊く。

「大丈夫。来ますわ。彼は信用できる人物ではありませんが、保身には熱心です。約束は守りますわ」

 にこやかに、スカディが答える。

「動きは無いな。忠告は無視されたようだ」

 キタウ基地を見守りながら、亞唯が言う。

「まあ当然やな。あの程度でびびって逃げ出すような連中じゃないで」

 亞唯の隣で同じように見守りながら、雛菊が言う。

「あれはいわば非常口の在りかを教えて差し上げたようなものですからね。指針がないと、人はとっさに行動できないものですからね。安全な場所に至る何らかの道しるべがあれば、パニックに陥ってもそれに従ってくれるはず。死傷者は、最低限に留めたいですし……おや、来たようですわね」

 スカディが、空を見上げた。

 ほどなく、スカディ以外のAHOの子たちにも、かすかなぶおーんという爆音が聞こえてきた。アナシュ少佐にも聞こえたらしく、視線を上に向けてきょろきょろしている。

「あそこだ」

 亞唯が、指差す。

 真っ青な空に、黒い粒が四つ見えた。

「午前九時五十九分。時間通りですわね。ありがとう、ジェームズ」

 スカディが満足げに言って、現れた『助っ人』に向け敬礼を送った。



「空軍か?」

 管理棟屋上のアウハス少佐は、突如現れた航空機と思しき姿に双眼鏡を向けた。

 救援要請を出してから、まだ三十分と経っていない。空軍機が救援に駆けつけてくれたにしては、早すぎる。そしてもちろん、ミディアム・アーミィは航空機を保有していないから、敵とも思えない。

 爆音が近付いてくる。アウハス少佐は、航空機の姿を双眼鏡で確認しようと悪戦苦闘していた。だが、よほどの高空を飛行しているか、低速で飛行していない限り、空中の航空機を双眼鏡の狭い視野に収めるのは難しい。

「直線翼のプロペラ機のようです! 機数は四機。……空軍の、SF260とは違うようです……」

 傍らにいた少尉の声が聞こえる。

 ようやく、アウハス少佐の双眼鏡が機影を捉えた。砂漠迷彩に塗られた低翼かつ直線翼の単発プロペラ機。全体を白に、翼端のチップタンクをオレンジ色に塗っている、空軍のイタリア製練習機SF260とは、明らかに違う機体だ。胴体下と翼下に搭載しているのは、増槽かあるいは爆弾か。

「二つに分かれた!」

 少尉が叫ぶ。

 アウハス少佐は双眼鏡を下ろした。四機の謎の航空機は、上空で二機編隊に分かれていた。そのうちの一編隊が、大きな旋回を経て機首をこちらに向け、まるで攻撃でもするかのように緩降下でこちらに突っ込んできた。


 第二十三話をお届けします。

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