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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 02 日本大使奪還せよ!
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第十七話

 多田官房参事官が東京に状況を報告し、長浜一佐の指揮する小部隊がニカラグア国内に潜入する作戦が『正式に』承認される。それに際して、人間とロボットが混在するこの奇妙な武装集団に与えられた名称は、『在サンタ・アナ日本大使救出準備情報収集班』という曖昧かつ軍事色を排されたものであった。

「とりあえず、必要な装備は揃えました。足りないものがあれば、仰ってください」

 エルクレス陸軍基地の一郭、兵器庫のひとつで、クレスポ大尉が大きく低いテーブルの上を指し示した。火器を含む装備の数々が、並べられている。

 M‐16A1突撃銃が六丁。予備弾倉が四十個ほど。M60汎用機関銃が一丁。二百発メタルリンク弾帯が二本。M61手榴弾が三十発詰まった木箱。ブローニング・ハイパワー自動拳銃が三丁。予備弾倉が六個。鞘に収まったコンバット・ナイフが六振り。ジャングル用のごついマチェーテ(鉈)が二振り。アメリカ製のコンパクトなPRC‐126無線機が二個。サイン用色紙よりも若干小さい平板型アンテナと、昔の大きな携帯電話を組み合わせたような衛星電話システム。双眼鏡三個。水筒六個。レーションの紙箱がひと山。ファーストエイド・キット。

「被服などは別に用意しました。サイズ合わせが必要ですから」

 どう見ても特殊作戦向きではない日本人四名を見つめて、クレスポ大尉が言う。

「ひとつ注文が。彼女たちのために、9mm×19を少し余分に用意してくれないか。二百発もあれば充分だろう」

 控えているAHOの子たちを指し示しながら、長浜一佐が依頼する。

「お易いご用です」

 クレスポ大尉が、請合う。

「これでは火力不足ね。グレネードランチャーは、無いのかしら?」

 テーブルの上を吟味しながら、スカディが言った。

「そうです! もっと破壊力が必要なのです! ゲリラ退治には地雷が有効なのです! 対人地雷が欲しいのです!」

 シオもそう主張した。この程度の火器でフレンテの根拠地に近付きたくない。

「爆薬が必要なのですぅ~。C4を二十ポンドばかりお借りしたいのですがぁ~」

 ベルも、そう言って恨めしげにクレスポ大尉の顔を見上げる。

「この程度じゃ不安やで。ロケットランチャーは、無いんか?」

 雛菊も、同調する。

「おいおい。我々の任務は偵察だぞ。人質まで吹き飛ばすつもりか?」

 長浜一佐が、苦笑した。

「いや、彼女たちの主張にも一理ある。簡単に撤退回収できる作戦ではないからな。偵察活動がフレンテ側に発覚した場合、拘束されたら全滅しかねない。初期段階で大なる火力で圧倒し、敵との接触を断たなければ無事撤収は難しいだろう」

 後ろで見守っていたデニスが、真面目な表情でそう言った。

「ふむ。あなたがそう仰るのでしたら、アドバイスには従った方がいいですな」

 長浜一佐が、うなずく。

「あ、いいものがあるじゃないー」

 畑中二尉が、いきなり駆け出した。武器庫の隅に置いてあった兵器を、べたべたと触りまくる。全長135センチほどの円筒で、下部にピストルグリップ、上部に光学照準器が付いている。

「M‐67か?」

 長浜一佐が、目を眇めた。

 M‐67無反動砲。口径90ミリの、対戦車無反動砲である。M‐47ドラゴン対戦車ミサイルが導入されるまでは、アメリカ陸軍歩兵部隊でも標準的対戦車兵器として運用されていた代物だ。

「お貸ししてもいいですが、対人用砲弾はありませんよ。対戦車用の、HEATしかないですが」

 困ったような表情で、クレスポ大尉が言う。

「もちろん結構ですよ、大尉」

 なおもM‐67を触りまくりながら、畑中二尉が言う。

「三鬼ちゃん。あんたなら砲弾三発くらい持てるわよねー。うふふ」

 振り返った畑中二尉が、ちょっと気持ち悪さを覚えるほどの怪しげな雰囲気を発散させながら、三鬼士長に微笑みかける。

「うわー。二尉殿は兵器フェチの気があるみたいやなー」

 引き気味に、雛菊が小声で言う。

「ま、この作戦では役に立ってくれそうですわね」

 諦め顔で、スカディが呟く。

「しかし……この中でまともに戦闘経験があるのが、君たちだけというのがなぁ」

 AHOの子たちに向けてぼやきながら、長浜一佐がM‐16を取り上げた。

「射撃には、自信があるんですけどね」

 言葉とは裏腹に、自信なさそうな声音で言いながら、石野二曹も一丁を手にする。

「一応、射撃徽章準特級持ちですから。でも、人を的に撃てるかと問われたら、自信無いとしか言えませんね」

「同感だな。わたしも人を殺すだけの度胸は無いかもしれない」

「大佐。ひとつ提案があるのだが」

 そんな長浜一佐の背中に向けて、デニスが声を掛ける。

「なんでしょうか?」

 長浜一佐が振り返る。

「もしよろしければ、わたしが同行しようか? 詳しく話すわけにはいかないが、それなりに戦闘経験は持っているが」

 デニスの言葉に、長浜一佐が安堵の表情を見せた。

「ぜひ、お願いします。あなたが一緒に来てくれれば、心強いことこの上ない」

「ということなので、わたしの分の被服もお願いできるかな、大尉?」

 デニスが、クレスポ大尉に微笑みかける。



 シオたちAHOの子ロボは、宛がわれていた部屋に戻った。AI‐10専用銃を取り出し、点検する。ベルだけは、工兵部隊のところへ爆破任務に必要な小道具類を調達に行っており不在である。

「しかし、これを使う羽目になるとは思いませんでしたわね」

 二十五発弾倉を検めながら、スカディが言う。

「いや、偵察任務やから使うたらあかんやろ。発砲したときは任務失敗の時やで」

 雛菊が、そう指摘する。

 点検を終えたシオたちは、充電を開始した。予備バッテリーは持ってきていないので、作戦前にはフル充電状態にしておきたい。

 ほどなく、ベルが戻ってきた。重そうな布製のバッグを、テーブルに置く。

「工兵の皆さんのご協力で、装備が整いましたぁ~。参考にしたのは、バンクス軍曹のものですぅ~」

 嬉しそうに言ったベルが、皆と同じように充電を開始する。

 続いてやってきたのは、デニスだった。すでに迷彩戦闘服に着替え、足には黒いコンバット・ブーツを履いている。手には、ブリーフケースを下げていた。

「おお! これは、不用意に開けると催涙ガスが噴出すブリーフケースですね!」

 シオは電源ケーブルにつながれたまま両手を振り回しつつそう叫んだ。

「せやな。ナイフ二本と、金貨が五十枚仕込んであるんや」

 シオのボケに乗っかった雛菊が、そう言う。

「諸君らは映画の見過ぎだよ。ま、ちょっと複雑な仕掛けはあるけどね」

 笑いながら、デニスがブリーフケースを机上に置いた。ばちぱちとあちこちを押したり叩いたりして、二十秒くらい掛けてデニスがロックを解除し、上蓋を開ける。

「すまんが、充電を中断してこっちへ来てくれ。作戦に必要な情報を伝達する」

 中から紙類を取り出しながら、デニスが言う。シオたちは電源ケーブルを抜き、ぞろぞろと机の周りに集まった。

「まず、これが作戦エリアの地図だ。赤い丸がドロップポイント。青い丸がピックアップポイント。それぞれ目標に近い位置から順にP1、P2、P3、P4と呼称する。これが、先ほど届いたほぼ同縮尺の衛星写真だ。そしてこれが、目標近辺の拡大衛星写真。これが、写真をもとに構成した目標の見取り図だ。すべて、記録してくれ」

 デニスが説明しながら、地図や写真、図面を机上に並べてゆく。シオたちは順繰りにそれをスチール撮影し、デジタルデータとしてメモリーの中に取り込んだ。続いて、今回の作戦限りの簡易な暗号表、符牒、通信用周波数などのデータも、取り込んだ。大型の無線機は持ち込まないことになっているが、万が一サンタ・アナ陸軍や空軍と連絡を取る必要が生じた場合の用心である。

「では、目標の見取り図をもう一度見てくれ。敷地はほぼ東西方向に長い楕円形。百二十メートル×五十メートルといったところだな。建物は四棟。いずれも上空から見分けにくいように、緑色の不定形な板らしき物でカムフラージュされている。ほぼ中央に二十メートル×五メートルほどの大きな一棟。ゴールドと呼称する。その東側に八メートル×四メートルほどの一棟。これがブルー。中央西寄りに五メートル×三メートルほどの一棟。これはオレンジ。中央棟の南側、十メートルほど離れたところに三メートル×三メートルほどの一棟。これはホワイト。ホワイトの脇には、車両が二台停めてある。CIAの話では、二台ともM38……いわゆるウィリス・ジープだそうだ。」

「こんな密林の奥、いくら四輪駆動車でもまともに移動できないのでは?」

 スカディが、問う。

「いや。ここも熱帯雨林は北側と西側だけで、東側と南側はむしろ荒地に近い。高木はなく、草地だ。平坦だから、車両の通行は可能だよ。……続けるぞ。駐留しているフレンテ構成員の姿は写真から確認できたが、人数は未確定。ニカラグアからの情報では、十名前後だそうだ。電子的な警戒装置の類は、ないという話だ。人質は建物内と思われるが、どの建物かまでは特定できていない。上空から確認した限りでは、重火器は認められない。武装は、個人携行火器だけのようだな」

「RPGに軽迫くらいは持っていてもおかしくないんちゃうか?」

 雛菊が、言う。

「その程度は覚悟しておいたほうがいいな」

 デニスが、うなずく。

「ところで、一佐殿たちは、何してるのでありますか?」

 一通り情報の伝達が終わると、シオはそうデニスに訊ねた。

「射撃訓練だ。腕を磨きなおしているところだよ」

 地図や写真をブリーフケースにしまい込みながら、デニスが答える。

「他に何が入っているんや? やっぱり、組み立て式のライフルとか入ってるんちゃうか?」

 雛菊が、デニスの手元を覗き込もうとする。

「一応、銃は入っているけどね」

 デニスが、ブリーフケースから自動拳銃を取り出した。

「スピットファイアーMkⅡですねぇ~。国産品愛好なのですかぁ~」

 素早く識別したベルが、そう訊ねる。

「まあそうだ。荒事の時には、これを使ってる」

「ここはワルサーPPKを出して欲しかったのです! そしてサプレッサーをきゅきゅきゅっと取り付けてポーズを取って欲しかったのです!」

 シオはそう言い張った。

「ふむ。PPKは持っていないが、こんなものならあるぞ」

 そう言いながら、デニスがもう一丁自動拳銃を取り出す。

「SIGのモスキートですねぇ~。ねじ切りバレル装着モデルだから、サプレッサー装着可能なのですぅ~」

 ベルが、嬉しそうに言う。

 デニスが、左手をブリーフケースに突っ込んで、全長十五センチほどの黒い円柱を取り出した。一端を自動拳銃のネジが切られた銃口にあてがい、くるくると回す。

「こんなもんで、満足かね?」

 サプレッサーを装着した銃口を上に向けた状態で拳銃を持ち、デニスが映画ポスターのようなポーズを取る。

「最高です! これでこそSISのスパイなのです!」

「かっこええで、おっちゃん」

 シオと雛菊は、囃し立てた。

「ま、お遊びはこれくらいにしておこう。実際、こちらの方が役に立ちそうだな。今回は、モスキートを持っていこう」

 サプレッサーを外しながら、デニスが言った。



 午後三時。すべての準備を終えた『在サンタ・アナ日本大使救出準備情報収集班』の面々は、エルクレス陸軍基地の片隅にあるヘリポートに集合していた。

 長浜一佐と石野二曹は、M‐16A1突撃銃と予備弾倉四本、M61手榴弾二発、マチェーテ一振り、PRC‐126無線機、双眼鏡といった装備を身につけている。畑中二尉は小柄な身体に重そうなM67無反動砲を担ぎ、腰にはブローニング・ハイパワーの収まったホルスターを下げている。三鬼士長はM‐16と予備弾倉、手榴弾を装備したうえに、ひとつ4.2kgもある90ミリ無反動砲弾が収まった円筒形コンテナ三本を入れたザックを背負っている。

 デニスが担いでいるのは、M60汎用機関銃であった。二百発弾帯を一本、銃本体に巻きつけるようにして携行している。腰のホルスターには、今のところサプレッサーを付けていないモスキートが入っている。首からぶら下がっているのは、双眼鏡だ。

 その他に五人全員が、コンバット・ナイフ、水筒一個、一日用軍用レーションの箱、水の入ったペットボトルなどを携帯している。

 AHOの子たちは、全員が専用銃を装着していた。予備弾倉は二個。さらに予備として、9ミリ×19が五十発入った紙箱ひとつも携行している。全員、元の服装の上に、裾を切り落として短くした迷彩柄の防水ポンチョを羽織っていた。

 シオはアメリカ製のM18A1対人地雷……通称クレイモアの専用布製ショルダーバッグを肩に下げていた。武器はその他に、M61手榴弾が二個。さらに、M60用の二百発弾帯も腰に巻きつけるようにして持っている。

 ベルは大小の布袋の中に、C4の二ポンド半ブロックを八本、信管類、発火具などを収めていた。道具類を収めたバッグも、もちろん持ってきている。

 スカディが持っているのは、M79グレネードランチャーだった。40ミリ擲弾を使用する、旧式な単発中折れ式発射機である。携行する弾薬は十二発。いずれも、HE(高性能炸薬榴弾)タイプのM381である。

 雛菊は衛星電話を持つ係であった。さらに、救護役として簡易な医療キットの入ったバッグを肩から下げている。M61手榴弾も二個、携帯していた。

「こうしてみると、かなりの戦力ですね!」

 満足げに、シオは言った。

「火力は充分だがな。ひどく見劣りするが」

 ため息混じりに長浜一佐が言って、被っていたブッシュハットを取り、頭を掻いた。視線の先には、同じように待機しているSASチームの姿があった。装備は二人がミニミ・パラ(ミニミのショートバレル・コンパクトタイプ)、ホーン大尉を含む二人がM203グレネードランチャーつきM‐16A2、残る一人がイタリア製のボックスマガジン式の自動散弾銃、SPAS15を持っていた。火力的には日本側の方が上だろうが、いかにも精鋭特殊部隊といった風情の英国側に比べると、女性とロボットが主力となるこちらは寄せ集め感とやっつけ感が半端ではない。

 ヘリポートでは、三機のヘリコプターが待機していた。イギリス陸軍の小型輸送ヘリ、リンクスが二機。そしてメキシコ空軍のMi‐17一機である。先ほどまではシックなグレイ系迷彩だったMi‐17は、急遽水性塗料で緑の濃淡二色と砂色の三色迷彩を施され、すっかり獰猛な感じに仕上がっていた。急いだせいで塗り方も雑であり、それがまた戦場応急的な雰囲気をかもし出し、禍々しさをアップさせている。

 ホーン大尉が、腕時計に目を落とした。

「サー。時間です」

 短く、長浜一佐に呼びかける。

「よし。出発しよう」

 ブッシュハットを被り直した長浜一佐が、手を振って前進の合図を送った。


第十七話をお届けします。

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