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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 17 北朝鮮拉致要人救出せよ!
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第十五話

「うーむ困ったなー。韓国内に潜伏されたのでは、探しようがないぞー」

 一階の『ラビットマート』で買って来た缶コーヒーをちびちびと飲みながら、畑中二尉が唸る。

 帰国したAI‐10たちは、岡本ビルの会議室で燻っていた。スカディは充電しながら目を閉じているし、亞唯は溜まっていた古新聞を暇そうに拾い読みしている。ベルは近所の『ハー〇オフ』で安く購入して来たパソコンか何かのジャンクパーツをいじり、雛菊はその様子を見物している。シオとジョーだけが、畑中二尉のノートパソコンにデータを表示させながら、額を突き合わせるようにして、ミョン・チョルスの行方を推理しようとしていた。

「イム・ソヒョン部長の行方もまだ判らないのでありますか?」

 ディスプレイに表示された韓国全図を見ながら、シオは訊いた。

「依然行方不明だよ。CIAから韓国大検察庁(最高検察)にも働きかけて、動いてもらったんだけどね。ハンビ・グループが情報開示しようとしないんだ」

 韓国の検察は、法務部に所属する行政機関のひとつでありながら、諸外国に比べて異様に強い権限を持っている。歴代の大統領の多くが、退任後に本人あるいは親族が逮捕投獄されるのも、検察の力によるものだと言われている。韓国の大統領権限はかなり強力なので、在任中は大統領が不正を行っても検察は手出しができず、指をくわえて見ていることしかできないが、退任して報復できない立場になった途端に、今まで押さえつけられてきた報復とばかりに襲い掛かり、逮捕投獄して溜飲を下げるのである。この『強者には逆らわず、無抵抗状態になってから襲い掛かって骨までしゃぶりつくす』ことから、韓国の大検察は一部で『ハイエナ』呼ばわりされることもあるらしい。

「ひょっとして、ミョンはまだ中国に居るのではないでしょうか?」

 シオはそう言ってみた。

「CIAの中国ウォッチャーたちはそのような兆候を察知していないから、もしそうだとすれば中国側に気取られることなく密かに隠している、ってことになるけど……。でもそれだと、密陽での受け入れ準備は何だったのか、ということになるよね。欺瞞作戦だとは思えないし、日程その他の辻褄も合わなくなる。上海から『ハンビ・オライオン』に乗せられたのは、まず間違いないと思うよ」

 ジョーが、答える。

「では、釜山でコンテナ船から降ろされなかった可能性はどうでありますか? ロサンゼルス行きの航路なら、日本の近海を通過したはずであります。小船かヘリコプターで日本に連れてきたのではないでしょうか?」

 シオは思いついた推測を口にしてみた。

「可能性はゼロじゃないけど、かなりハイリスクだよ。事前準備をしていたならともかく、上海近郊で奪還されそうになり、あわてて密陽に連れてくるのをやめたとしたら、日本に代替の隠れ家を手配するのは難しかったんじゃいかな。日本にあるハンビ・グループの施設なんて、名称は研究所だけど実質技術情報収集分析拠点がいくつかある程度で、駐在員も少ないだろうし。韓国国内で代替を探すより、何十倍も難しいはずだ。だから、宮崎県あたりの貸し別荘に隠れている、なんとことは無さそうだね」

「そうなのでありますかー」

 シオは唸った。日本と北米のあいだの北太平洋に、陸地は少ない。航路途中の島に隠れている、という線もたぶん無いであろう。

「ジョー。『ハンビ・オライオン』は今どのあたりにいるのかしら?」

 充電が終わったのか、眼を開けたスカディが訊いた。

「詳しい位置は調べないと判らないけど、ハワイの北東、西海岸のはるか沖合いといった場所を航行中だよ。あと四日か三日くらいで、ロサンゼルス入港かな?」

「今まで、ハンビ・グループがミョンを合衆国に連れてゆくメリットはない、という考え方で、すでに『ハンビ・オライオン』にミョンが乗せられていない、と思っていましたけど、ひょっとして、まだ『ハンビ・オライオン』に乗ったまま、という可能性はないかしら?」

 スカディが、言う。

「いやいやいや。それは無いよ。ミョン・チョルス本人が書いて北朝鮮に届けられた手紙で、韓国内に居ると明記されているんだから。船に乗っているなんて、あり得ないよ」

 ジョーが、手をばたばたと振って否定する。

「でも、ミョンが監禁状態にある以上、韓国内に居るというのは彼の推測でしょう?」

 スカディが、やや首を傾げながら問う。

「詳しくは話してなかったけど、ミョンの手紙には監禁されている部屋に関する詳細な記述もあるんだよ。韓国内と言うのは確かに彼の推測だけど、船の中というのはあり得ないよ。気付かないはずがない」

「いや、そうでもないだろ。『ハンビ・オライオン』はでかいんだろ? 総トン数九万五千トンなんて、大和型戦艦どころかニミッツ級原子力空母よりでかいじゃないか。台風にでも突っ込まない限りそうそう揺れないだろうし」

 古新聞を放り出した亞唯が、そう口を挟む。

「コンテナ船は重心が高いので荷崩れが怖いですからねぇ~。減揺装置として、フィン・スタビライザー(船底付近に装備される小翼状の装備)とかアンチ・ローリングタンク(水タンクの一種。揺れに応じて水が移動する事象をコントロールして、横揺れを打ち消す装置)を積んでいるのではないでしょうかぁ~」

 はんだ付けを中断して、ベルが言う。

「でも、窓から風が入ってきたとか書いてあったそうだし……」

「送風機があれば風は起こせるやろ」

「ちゃんと夕方には暗くなるし、日差しが赤みを帯びたりとかも……」

「調光装置とカラーフィルターがあれば簡単ですわね」

「サイレンの音が聞こえたとか……」

「スマホがあればOKだな」

 ジョーの反論を、雛菊、スカディ、亞唯がそれぞれ撃ち砕く。

「うーむ。あり得る話だぞー。そうかー。ミョンに手紙を書かせて北朝鮮に届けたことの真の目的は、船に乗せたままだということを偽装するためだったのかー。ちょっと整理するぞー。上海近郊南通市で『北朝鮮特殊部隊』に襲撃され、這う這うの体でコンテナ船に乗り込んで逃げ出すー。当然連中は、次の襲撃を恐れるだろー。北朝鮮の意外に高い情報収集能力にも驚いたに違いないー。そこで韓国内に準備しておいた密陽に連れ込むプランを諦めて、急遽コンテナ船内に押し込めておくことにしたー。それだけでは心もとないので、ミョンに手紙を書かせたー。目的は、ミョンを適切に扱っているから強襲奪還しないでね、というお願いと、監禁場所が韓国内であると誤認させること」

「ということは、ハンビ側の目的は、おそらくミョンを韓国内に置いていなくても達成できる、ということですわね。……単なる情報の引き出し、とかではなさそうですわ」

 畑中二尉のまとめを聞いたスカディが、言う。

「そーだなー。尋問だと専門家やそれなりの環境が必要だからなー。となると、ハンビの目的はミョンをしばらく表舞台から遠ざける、だけなのかも知れんー」

「懐柔、って線もあるんじゃないか?」

 亞唯が、畑中二尉を見て言う。

「懐柔かー。ミョンはそれなりに現実主義者のようだからなー。ハンビ側が、自分たちの悲願である南北統一に協力させようと考えているという可能性は否定できないなー」

「うーん。みんなの意見を聞いていたら、どうもミョンがまだコンテナ船に乗っているような気がしてきたよ」

 ジョーが、苦笑しつつ言う。

「とりあえず、上司に報告してみるよ。『ハンビ・オライオン』を調べてみれば、何か出てくるかもしれないし」



 国際海事機関(IMO)により、旅客船舶や一定以上の大きさを持つ外洋船舶は、自動船舶識別装置(AIS)の搭載を義務付けられている。

 これは無線式自動送信器の一種であり、該当船舶の識別符号、船名、位置や針路、速力といった公開データを他の船舶や陸上の管制当局施設に対して自動通報するものである。

 AISは船舶側の都合で停波することが可能かつ認められており、軍艦などはその任務上から常時切っている場合が多い。沿岸警備隊や洋上警察船舶、漁業取締用の船舶などでも、同様の措置が取られることがある。民間船舶でも、海賊に悪用されないため、好漁場をライバルに知られないため、さらには密漁や密輸を察知されないために、停波されることがある。

 『ハンビ・オライオン』も、通常通りAISの電波を発信したまま航行していたので、その所在を突き止めるのはものの数秒で済んだ。

 CIAは『ハンビ・オライオン』の調査を合衆国空軍に依頼した。空軍側は、対応可能な数種のオプションを検討したのち、もっとも優れた手段は無人偵察機の使用であると判断する。偵察衛星では細部まで観測するのは難しいし、継続的な監視が難しい。固定翼機なら長時間の監視が可能だが、大きいので気付かれるおそれが強い。

 ということで、ロサンゼルスまで約千六百海里まで近付いた『ハンビ・オライオン』……到着まであと三日というところか……に向け、ネバダ州南部にあるクリーチ空軍基地からMQ‐9リーパー無人偵察機が千ポンド増槽二本装着だけの非武装仕様で夜の滑走路を離陸した。ベルーガを思わせる頭でっかちの機首部、長大な細長い主翼、後部についたターボプロップエンジンとプッシャータイプのプロペラ、Y字形に取り付けられた三枚の尾翼、といったニュース映像などでよく見かける合衆国を代表する中型無人機である。

 十時間近い飛行で『ハンビ・オライオン』の推定位置まで達したMQ‐9は、EO/IR(電子光学/赤外線)センサーですぐに目標を捕捉した。

 MQ‐9は、高度二万五千フィートを保ち、水平方向にも二海里ほど離れた位置を飛びながら、『ハンビ・オライオン』の監視を開始した。時間調整を行ったうえで飛行計画を立てたので、現地時間は早朝であり、周囲は充分に明るい。MQ‐9のエンジン音は通常の単発ターボプロップ機と大して変わらないが、これだけ離れていると船舶上で人間が聞き取るのは難しいし、機影も空に溶け込んでしまうので、相手が対空レーダーでも使わない限り気付かれずにこっそりと監視を行うことができる。

 MQ‐9は、時折撮影角度を変更しつつ、ほぼ日没まで『ハンビ・オライオン』に張り付いたのちに帰投した。



「大当たりだったよ、みんな」

 ジョーが、喜色満面で告げた。

「詳細は省くけど、空軍が無人偵察機を飛ばしてくれてね。『ハンビ・オライオン』をじっくりと撮影したんだ。そうしたら、甲板上を散歩する女性の姿を捉えたんだ。当然、オペレーターはその女性にズームして、詳細な画像を記録した」

 このあたりが、オペレーター操縦型の無人偵察機の強みである。AIによる完全自立型の無人偵察機では、よほど優秀なAIでない限り、事前プログラムに基づいた融通の利かない仕事しか期待できない。

 ジョーが取り出した大判のスチール写真を、AHOの子たちはじっくりと眺めた。緑色の四十フィートコンテナをバックに、褐色の長い髪の女性が手すりを掴んで立っている写真だ。ただし、画素が荒いので目鼻立ちはよく判らない。

「彼女を、イム・ソヒョンだと識別したの?」

 疑わし気に、スカディが訊く。

「CIAの写真/動画解析技術を舐めちゃだめだよ! 影の具合から身長やバストサイズが判るし、データベースを参照すれば肌の色合いから人種も識別できる。腕時計を付けているのが判るかい? これも、データベースを参照して、ソヒョン愛用のブルガリの限定モデルと同一だと推定できた。韓国のテレビ取材を受けた時の映像も入手して、歩き方も比較したよ。まず確実に、この女性はイム・ソヒョンだね! 彼女が合衆国訪問のために乗り組んでいるとも思えないしね。間違いない、この船にはミョン・チョルスも乗ってるよ!」

 写真に指を突き付けながら、ジョーが断言した。

「おおっ! ならば、ロサンゼルス港に着いたところで、FBIに乗り込ませれば、万事解決でありますね!」

 シオは喜んでそう言った。

「あー、そうはいかないんだ。これが。CIAとしては、あんまりFBIを絡ませたくないんだよね」

「なんや。縄張り争いなんか?」

 雛菊が、訊く。

「それもあるけど……大きな声じゃ言えないけど、やっぱりFBIは警察組織なんだよね。こういう……外国の国益に関わる事案に絡ませると、色々と融通が利かないんだ」

 歯切れ悪く、ジョーが言う。

「つまりは、CIAみたいに裏でこそこそやるのが性に合わない連中、ってことだな」

 亞唯が、半笑いで言った。

「それと、ロサンゼルス港で大捕物なんてやったら、地元のケーブルテレビとかが、生中継始めちゃうだろ? スマホで撮影する奴も大勢出てくるだろうし、あっという間に全米トップニュースになっちゃうよ。そうしたら、隠蔽は不可能だ。CIAとしては、こっそりとやりたいんだよね」

 ジョーが、若干声を潜めて言う。

「では、どうやるのですかぁ~」

 ベルが、訊いた。

「洋上でインターセプトしようと思うんだ。ミョンを救出し、イム・ソヒョンや護衛連中は逮捕。コンテナ船の乗員は充分に脅しつけてから、そのまま航海させる」

「とすると、北朝鮮特殊部隊のふりをするのは無理があり過ぎますわね」

 スカディが、言った。

「そうだね。乗員に余計なことを喋らせないためにも、合衆国の作戦だとはっきり判るように、ある程度派手にやった方がいいと思う。問題は、いかにしてミョンの身柄を押さえるか、だね。『ハンビ・オライオン』の進路にフリゲートを突っ込ませて、停船を命じた途端に、簀巻きにされて鉄アレイを重しに付けられたミョンが北太平洋に投げ込まれたんじゃ、元も子もないからね」

「はっと! ならば、事前に誰か乗り込んでミョンを守ってやる必要があるのでは?」

 シオはそう発言した。

「それしか手は無いと思うよ。ということで、みんな、インド洋で中国のコンテナ船に飛び降りた作戦は覚えてるかな?」

 ジョーが、いたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。

「『ゼロ・ハリバートン』を使った作戦ですわね。では、今回もそれで『ハンビ・オライオン』に潜入させようという気ですの?」

 スカディが、やや驚いた表情で言う。

「そうだよ! 『ハンビ・オライオン』はあの時のコンテナ船よりもはるかに大きいし、中国陸軍の特殊部隊がのっているわけでもないからね! ずっと容易だと思うよ! 任務は、こっそりと乗り込んでミョンを保護し、合衆国が行う臨検まで守ってやること。後のことは、たぶん合衆国海兵隊と海軍に任せればいい。やってくれるよね?」

 ジョーが、期待に満ちた笑顔を皆に向ける。

「二尉殿? どうなんだい?」

 亞唯が、見守っていた畑中二尉の意向を確認する。

「ここまで来たら、止めても無駄な気がするなー。ま、中国国内での作戦に比べれば危険は少ないだろー。一佐殿にはあとで報せとくから、行ってこいー」

 あまり乗り気がしないのか、めんどくさそうに畑中二尉がゴーサインを出す。

「あー、それと、ちょっと気になる報せが長浜一佐経由で届いているから言っとくぞー。北朝鮮当局が、非公式に韓国政府に対し、拉致したミョン・チョルスを速やかに返還するように強い調子で申し入れた、とのことだー」

「北朝鮮が今更? しかも、なんで韓国政府に申し入れるのでありますか?」

 シオは戸惑ってそう訊いた。

「北朝鮮も、独自にミョンの行方を捜していたんだろうなー。色々頑張った末に、韓国による拉致、という結論に達したんだろー。ま、当たらずといえども遠からず、ってとこだなー。すぐに返還しないと、報復すると脅しつけられたらしいー。韓国政府側は、困惑したあげく事実無根の言いがかりだと反論したらしいが、当然北朝鮮が納得するわけがないー。ということで、南北間の緊張は水面下で結構高まっているらしいー。おまいら、早いとこミョン・チョルスを見つけて、北に返してやれー」

 畑中二尉が言って、早く行け、と言わんばかりにぱたぱたと手を振った。


 第十五話をお届けします。

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