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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 16 サハラ砂漠国連ロボット捕獲せよ!
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第二十話

「少佐。閣下のヘリコプターが五キロメートルの位置に達した模様です」

 UAZ‐469に搭載された無線機をモニターしていた伍長が、立ったまま夜空を見上げていたコーマ少佐に告げた。

 うなずいた少佐は、手にしていたハンドライトを点灯すると左右に振った。その合図を受けて、ヘリパッドの周囲に待機していた四台のウラル375Dトラックが、一斉にエンジンを始動し、前照灯を点けた。かなりクラックが入ったコンクリート製のヘリパッドが、四方から黄色味を帯びた白い光を浴びせられて、闇夜の中にぽっかりと浮かび上がる。

 そこを目指して、輸送型のMi‐17がローター音を響かせながら、ゆっくりと近付いて来た。機首を上げ、慎重に高度を落としてゆく。マラハ空軍の装備には、ナイトビジョンゴーグルなどというハイテク製品は含まれていない。

 ソバウェ基地。ノルウェスト地方にある、元マラハ陸軍基地である。元来は、国境警備を目的とした基地であるが、現在ではバンバ将軍率いる共和国行動軍事部門の訓練基地として機能していた。

 Mi‐17が接地すると、コーマ少佐はすぐに駆け寄った。スライドドアが開き、バンバ将軍直属の護衛を務める曹長が、AKMSを手に降りて、素早く周囲に視線を配って危険がないことを確認した。続いて副官のカミタ大尉が降り、そのあとからヤン・バンバ将軍がのっそりと姿を現した。

「すぐに給油を頼む」

 コーマ少佐を見て、バンバ将軍がそう命じる。

「ただちに、閣下」

 コーマ少佐は腕を振って、待機していた給油班に作業開始を命じた。

「準備は出来ているか?」

 Mi‐17から小走りに離れながら、バンバ将軍が訊いた。

「はい。T‐62四両。BMP‐1三両。BTR‐60十二両を準備しました。閣下には、BTR‐60PBKをご用意しました」

 やや自慢げに、コーマ少佐が報告する。

 BTR‐60PBKは、装輪装甲兵員輸送車BTR‐60シリーズ後期型……オープントップを廃し、武装をKPVT/14.5ミリ重機関銃に強化したBTR‐60PBの、指揮車型である。

「閣下の補佐役に、カノーラ大尉を指名しました。熟練の戦車乗りです。必ずや、閣下のお役に立てるものと信じております」

「結構。早速出発しよう。君がカノーラか?」

 前に進み出て、敬礼した戦車帽姿の大尉を、脚を止めたバンバが見つめる。

「オディロン・カノーラ大尉であります、閣下」

「よろしい。目標はわかっているな」

「はい。承知しております」

「結構だ。先導してくれ。準備が整い次第出発する」

「了解いたしました」

 再び敬礼し、カノーラ大尉がくるりと回れ右をして、駆け足で自分の戦車に戻ってゆく。

 バンバ将軍は、副官と護衛を従えて、BTR‐60PBKに向かった。オリジナルにはないアンテナがいくつも立っているので、他車との識別は容易だ。出迎えた車長に答礼してから、悪名高い乗り込みにくい側面ハッチから、車内へと入る。

 『新鉱山』に置いた警備戦力からの定時連絡が途絶えたことをバンバ将軍が知ったのは、つい三時間ほど前のことであった。

 スリムが属する『エアレー・シリーズ』を運用する謎の組織は、一昨日の朝……いや、もうとっくに日付が変わっているから、三日前の朝か……に、運用基地の撤収と契約終了を連絡して来た。貴重な資金源が絶たれるのは痛かったが、不測の事態が発生した場合は謎の組織の方から一方的に契約を切ることができるという条件だったので、バンバ将軍にはなすすべが無かった。

 問題があるとすれば、運用基地として貸し出した場所が、去年偶然発見された大規模な岩塩鉱床にある岩塩洞窟である、という点であった。バンバ将軍は、岩塩鉱床の発見を公表していなかった。世間に知られれば、現政権たるマラハ愛国運動が法律を盾に乗り込んできて、採掘権を取り上げに掛かるはずだからだ。社会民主連合の連中も、もちろん黙ってはいないだろう。分け前を求めて、ぎゃあぎゃあと喚き立てるに違いない。

 謎の組織に岩塩洞窟を貸し出すにあたって、バンバ将軍はもちろん岩塩鉱床の秘匿を条件のひとつに入れた。謎の組織はそれを忠実に守ってくれたし、連中がマラハを去れば、CIAやDGSEの調査も終了し、岩塩鉱床の秘密は守られるだろう、とバンバ将軍は踏んでいた。

 だが、警備部隊からの定時連絡が突然来なくなり、こちらからの呼びかけにも一切応答がない。。

 無線機は二台持たせてあるので、同時に故障した可能性は極めて少ない。何らかのトラブルが発生したことは間違いない。部隊規模は小さいが、一両だけだが戦車までいる部隊である。砂漠のど真ん中に偶然誰かがやって来たとしても、対処できるはずだ。……相手が素人ならば。

 敵はCIAかDGSEかSISか。あるいはそれらが所属する各国の特殊部隊か。いずれにしても、岩塩鉱床の秘密は守り抜かねばならない。

 バンバ将軍は、すぐに部下に命じ、ヘリコプターの発進準備を命じた。新鉱山に一番近いソバウェ基地にも連絡し、動かせるすべての戦車と歩兵戦闘車、それに装甲兵員輸送車の出撃準備を下命する。

 NATOがマラハの内戦に介入したくないことは承知している。たとえ正規軍特殊部隊であっても、少数の偵察隊が撃退されたくらいでは、軍事報復に出ることはないだろう。たとえ合衆国やフランスに恨まれることになっても、まだ名前すら付与されていない新鉱山……将軍は、心ひそかに『バンバ塩鉱』と名付けられることを望んでいたが……の秘密は厳守されねばならない。バンバ将軍の、共和国行動の、そしてマラハ共和国の将来が懸かっているのだから。


 二十分後、給油を終わらせたMi‐17がソバウェ基地を離陸した。バンバ将軍からは、新鉱山……乗員は塩鉱のことは知らなかったので、ただ単に『陸軍の哨戒部隊駐屯地』としか認識していなかったが……に対し、先行偵察を行うように命じられている。ドアガンしか武装のない輸送型なので、対地攻撃は無理だが、上空から状況を窺って報告することは可能だ。

 高度を上げたMi‐17は、先行していたバンバ将軍率いる機甲部隊を追い越すと、爆音をあげて目標へと突き進んだ。



 証拠の収集には時間が掛かった。

 洞窟の中には、大きなものは書類ロッカーから、小さなものはネジ一本に至るまで、多数の遺留品が残されていた。AI‐10たちはそれをいちいち写真に撮り、引き出しやポケットが付いているものであれば中身を調べ、指紋等が検出できそうな小物は収集して持参した容器に収めた。奥の方で見つけた耐火金庫は、ベルが習得した技能を総動員して解錠したが、残念ながら中身は空っぽであった。

「こんなものかしら。では、居住区に移りましょう」

 スカディが、指示を出す。

 居住区……といっても、奥の方にビニールシートで区切られた小区画が並んでいるだけで、なんとなく日本の公園などでもよく見られるホームレスの皆さんのお住まいを彷彿とさせるものであったが……にも、多数の遺留品が残されていた。シオはそのひとつに入り込むと、残されていた毛布をめくりあげてマットレスの上を調べた。

「お、これは!」

 シオはマットレスから一本の髪の毛をつまみ上げた。金色で、長さからして女性の物の公算が高い。

「浮気の証拠品やな。バスルーム探したら髪ゴムがあったり、トイレットペーパーの先が三角に折ってあったりするんやないか?」

 隣の区画を調べていた雛菊が、ビニールシートの隙間から顔を突っ込んで茶々を入れる。

「とにかく証拠品なのであります!」

 シオは証拠品入れのジップロックを取り出すと、髪の毛を収めた。

「これはあたいの勘では重要な証拠になるはずなのであります!」

 シオは腰に付けたポーチの中に、それを収めた。

 と、床に置いてあった有線電話が呼び出し音を鳴らし始める。一番近くにいたベルが駆け寄って、送受話器を取った。

「こちらベルですぅ~。亞唯ちゃん、何か御用ですかぁ~。あらら、それは大変なのですぅ~」

 亞唯と会話を始めたベルが、手まねでスカディを呼ぶ。

「亞唯ちゃんが、ヘリコプターが接近中だと言っているのですぅ~」

「代わって」

 スカディが差し出した手に、ベルが送受話器を渡す。

「……そう。できるものなら、やり過ごしたいわね。支援に行きますわ。攻撃された場合および、着陸しそうな場合は撃墜して。では」

 スカディが、送受話器を有線電話機に戻す。

「ヘリコプターが単機で接近中。機種や武装は不明。戦闘は避けたいから、亞唯には隠れているように命じたけど、向こうが仕掛けてきた場合は反撃します。ジョー、あなたはここで作業を続けて。残りの者は武装して入り口まで戻ります」

 早口で、スカディが命ずる。


 亞唯は、迷彩偽装シートを引っ被ると、砂礫の上に横たわった。

 一応赤外線遮蔽機能もあるシートだが、念のために排熱用排気ファンも止めて、ボディからの赤外放射も一時的に抑えておく。

 FIM‐92スティンガーも、シートの下に隠してある。対地攻撃などが始まった場合は、即座に反撃が可能だ。

 待つうちにローター音が接近し、そして遠ざかって行った。そのまま離れてゆくかと思われたが、再びローター音が大きくなる。どうやら、高度を保ったまま辺りを飛び回っているようだ。



 Mi‐17は、指示された地点の上空を旋回した。

 輸送型のMi‐17で、搭載火器はドアガンのPKM汎用機関銃だけである。装甲強化もされていないので、対空砲火には脆弱だ。機長は充分に対地高度を取って飛行した。

 暗視装置なしで地上を見渡しても、怪しい物は発見できなかった。AHOの子たちが隠したピックアップも目視したが、迷彩偽装シートのおかげで単なる孤立した岩としか認識できなかった。


「閣下。ダコノ中尉より報告です。『指定座標に到達。周辺偵察を試みるも敵影、異常ともに発見できず。指示を請う』以上です」

 BTR‐60PBKの通信兵が、バンバ将軍にそう報告する。

「抜かったな。歩兵を乗せて飛ばし、着陸させるべきだった」

 バンバ将軍が、副官にだけ聞こえる声で言う。

「閣下。今からソバウェ基地まで戻しても、まだ我々よりも先に着きます」

 カミタ大尉が、そう指摘した。

「そうだな。……伍長、ダコノ中尉に通信。速やかにソバウェ基地に帰還せよ。以上」



「どうやら諦めて帰ったようね」

 スカディが言って、入り口を隠してあった偽装幕をめくって外に出た。他の面々も、続く。

「亞唯。大丈夫?」

 スカディが、低出力無線で亞唯の様子を尋ねる。

『問題ない。ヘリは帰って行ったよ。Mi‐17だったね。アウトリガーは付けてなかったから、輸送タイプだと思う』

 亞唯が、返信をよこす。

「最悪のケースを想定すると、あのヘリコプターは先行偵察で、このあと複数の兵員輸送ヘリの降着や地上部隊の接近があり得ますわね」

 スカディが、返した。

『そうだな。あたしはこのまま見張りを続けるよ。みんなは、そろそろ離脱の準備をした方がいい』

「お願いね。……では、作業を急ぎましょう。あと二時間もすれば、明るくなってきますわ。それまでに、撤収しましょう。時間節約のために、武器はこの辺りに隠しておきましょう」

 通信を終えたスカディが、指示を出す。一同はそれぞれの武器をまとめて置くと、急いで洞窟の奥へと戻った。



 バンバ将軍から完全武装の一個分隊……RPG‐7を装備させることと念押しされた……を準備するように命じられたコーマ少佐は、用意万端整えてヘリポートで待っていた。

 例によってトラックの前照灯で照らされたコンクリートの上に、Mi‐17がそっと着陸する。クラッチを切られたローターが、ゆるゆると回転数を落して行った。ターボシャフトエンジンは回したままで、給油班が近付いて給油を開始する。

 機長以下乗員がトイレを済ませているあいだに、機内に一個分隊十名の兵士が乗り込んだ。

 トイレから戻って来た機長と副操縦士が、コーマ少佐の前で敬礼する。コーマ少佐は答礼した。

「将軍閣下からの命令を伝達する。ダコノ中尉機は指定座標に速やかに進出、航空偵察を実施。異常の有無を報告。異常無き場合は安全と思われる任意の降着地点を選定し、マジカ軍曹以下十名の陸軍分隊を降機展開させること。事後は上空よりマジカ分隊を援護。以上だ」

「承知いたしました、少佐殿」

「それと、これを持っていけ」

 コーマ少佐は、従卒に包みを渡すように合図した。中身は、三人分の戦闘糧食とペットボトル入りの水だ。

「ありがとうございます」

 ダコノ中尉が、嬉しそうに包みを受け取った。



 証拠品の収集がほぼ終わりかけた頃、再び有線電話機が呼び出し音を響かせた。

「なんや、亞唯っち?」

 今度は、雛菊が送受話器を取る。

「げ、まじかや。スカぴょんと代わるで」

 内容を予測し、厳しい表情で走り寄って来たスカディに、雛菊が送受話器を渡す。

「……そう。では、先ほどと同じ手でいきましょう。何かあれば、あなたの判断で撃墜して構いません。では」

 早口で喋ったスカディが、送受話器を戻す。

「皆さん。またヘリコプターが来たそうよ。先ほどと同じ機の可能性あり。とりあえず、最重要の証拠品だけ持って出口に向かいましょう。ヘリが去ったら、ピックアップを洞窟の中に入れて証拠品の積み込みを行います。では、作業開始」

 一同は洞窟の中に散った。集めた証拠品は、すぐに持ち出せるように、証拠品の価値に応じて分類及び等級付けがなされて、まとめて置かれている。AI‐10たちは、それらが収められた布袋や網袋を担いだ。


 まだ夜明けまでには間があったが、墨で塗りこめた様な硬質な夜空は、ほんのりと柔らかさを帯び始めていた。

 旋回するMi‐17のスライドドアを開き、双眼鏡を使っていた歩兵分隊長のマジカ軍曹は、砂礫の中にぽつんと突っ立っている岩に注目した。対象物がないのでサイズはよく判らないが、差し渡し数メートル程度の岩だ。高さは、人の身長よりも高そうに見える。角ばった長方形で、真ん中あたりが盛り上がっており、何となく人工物っぽく思える。

「中尉! 二時の方向に見える岩、怪しくありませんか?」

 軍曹は声を張り上げた。

「近付いてみよう」

 コックピットから、ダコノ中尉が応じる。


 第二十話をお届けします。

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