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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 16 サハラ砂漠国連ロボット捕獲せよ!
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第十八話

 在ニャイオー合衆国大使館が急遽準備した外交伝書使は、日暮れ前にC‐130に乗り込んでマラハ共和国を出た。

 翌朝、ジョーを含むAI‐10たち一行は、大使館が用意してくれた車両二台……ぴかぴかのフォードF‐150ピックアップトラックと、中古のUDクオン大型トラック、いずれも現地民の運転手付き……に分乗し、ノレスト地方に向かった。運転手は合衆国大使館が正規に雇用している者なので、外交特権はもちろん有さないが、国際慣習としてそれに準じた『身分』を保証されているので、各所に設けられている検問も大使館発行の書類を提示するだけでスムーズに通過することができる。

 朝早く出発したこともあり、偽装作戦基地に着いたのは午後三時前であった。

「待ちくたびれましたぁ~」

 出迎えてくれたベルが、開口一番そう言って、AI‐10全員と握手して廻る。

 一同はさっそくストーンウェッブ回収作業に入った。まだ本調子ではないジョーは運転手二人の接待役に回され、亞唯と雛菊がF‐150の運転席に納まる。スカディとシオとベルはGPS受信機と送信機トランスミッターを手にして回収係となった。

 作業は日没後も続けられた。パッシブ赤外線モードなら、砂漠の夜でも活動は可能だし、そもそも視覚に頼って探すわけでもないので、闇夜でも全く問題ない。

 夜半まで作業した四体は、バッテリー残量が乏しくなってきたので作業を打ち切り、偽装作戦基地に戻って充電した。そのまま作業を再開しても良かったのだが、そこはやはりAI‐10である。暗黙の了解で、五体は夜明けまで『節電モード』に入った。人間でいえば、仮眠したというところか。

 翌日の午後遅くになって、ようやく敷設した九百八十三個のストーンウェッブがすべて回収された。ジョーが丁寧に数えて、予備として取っておいた分を加えて箱に収める。

「みんな、ありがとね。一個も欠けていないよ! さあ、あとは残りの物資回収だ。建築資材はあとで回収するからそのままでいいよ」

「その前に充電したいのであります!」

 シオはそう主張した。ジョーも了承し、ガソリン式発電機を動かしての充電タイムと相成る。

 充電が終わると、一同は物資回収作業を開始した。武器、ストーンウェッブのモニタリング機器、通信機、その他小物などをトラックに積み込んでゆく。ガソリンと飲料水は、後の基地そのものの回収班のために残しておく。作業はゆっくりと静かに行われた。どうせ明日の朝にならなければ出発できないのだ。急ぐ必要はない。



 ジョーから送られた一連の情報から、CIAは国連ロボットの『運用基地』をノルウェスト地方の約百平方マイルの位置まで絞り込んだ。……メートル法で言えば、一辺が約十六キロメートルの正方形にまで特定した、というところである。

 武装偵察部隊でも送り込めばすぐに正確な位置を割り出せそうだが、独立国家内なのでそうもいかない。CIAはNRO(国家偵察局)に該当地域の監視を依頼した。

 NROではリアルタイム光学観測衛星のアフリカ通過時に該当地域の映像を撮影し、コピーをCIAに送ることにした。最初に送られてきた動画とスチールをCIA担当者が分析したが、巧妙に隠されているらしく運用基地を発見するには至らなかった。だが、二回目に通過した衛星から送られてきた画像には、先ほどの画像には無かった多数の轍が映っており、これを辿ってゆくことで容易に運用基地らしい場所を特定することができた。

「地下基地ですね、これは」

 アフリカ系の女性アナリストは、ディスプレイの一点をティファニーのボールペンでつついた。

「巧妙だな。だが、こんなものを一から造るのは目立つはずだが」

 中年の上司が、言う。

「推測その1。大した規模じゃない。推測その2。天然洞窟を利用した」

「まあそこは後回しだ。問題は、現状だ。轍の分析は?」

「トレッドパターンは読み取れませんが、輪距トレッドからしてトラックでしょう。全部で五台。いずれも、北に向かっています。往復した跡はない。推測ですが、隠してあった物に乗って北に向かったのでしょうね」

 プリントアウトした一枚の画像を上司に見せながら、女性アナリストが言った。轍がある処を着色強調してあるので、トラックがいずれもほぼ一直線に走っていることが読み取れる。北から走ってきて、偽装基地内に入ったのであれば、曲がったり切り返したりする跡が残りそうなものだが、そんなものは無い。まず間違いなく、地下の隠し場所から出てきて、そのまま走り去ったのだろう。

「で、どこへ向かったんだ?」

「そっちはヒースが追ってます。ヒース?」

 女性アナリストが、助手を呼ぶ。

「画像範囲を出るところまで確認しました」

 紙にプリントアウトしたマラハ共和国全図を手に、いかにもオタク(ナード)っぽい青年がやって来る。

「この位置まで追跡しました。西北西に真っすぐ進んでいます」

 地図を示しながら、青年が説明した。

「この先にあるのは? 地図だと、砂漠しか無いようだが」

 上司が、訊く。青年が、肩をすくめた。

「手元にある資料はすべて調べました。この先、何もありません。誰も住んでいません。小屋一軒ありません。まったくの、無人地帯ですよ」

「……ということは」

「あるのはマリ共和国との国境線ですね。つまり、五台のトラックは引っ越し用です。奴ら、基地を捨てて逃げ出したんですよ」

 女性アナリストが、断言した。



 翌朝、運転手二名がハンドルを握るフォードF‐150ピックアップトラックと、UDクオン大型トラックは偽装作戦基地をあとにした。だが、いくらも走らないうちに、F‐150の助手席に座っているジョーの衛星携帯電話が呼び出し音を鳴らし始める。

 隠語混じりの英語でぼそぼそと喋っていたジョーが、長い通話を終えると、運転手に車を止めるように言った。運転手がF‐150を路肩に寄せて停車し、後ろに続いていたクオンも同様に停車する。

「みんな、悪いけど降りてくれ。ちょっと、相談だよ」

 ジョーが、後席に座っていたスカディ、シオ、ベルにそう告げる。砂礫の上に降り立ったジョーが、クオンの運転台に乗っている亞唯と雛菊にも、身振りで降りて合流するように伝える。

「何か悪いお知らせですかぁ~?」

 少し離れた位置まで移動したところで、ベルがジョーに訊く。

「新しい任務を命じられたんだけど、手伝ってくれるかい?」

 ジョーが、遠慮がちに訊く。

「任務の内容によりますわね」

 スカディが、そう返答する。

「じゃあ、最初から説明するよ。ボクが送った、国連ロボットから抽出したデータによって、CIAが国連ロボットの運用基地らしい場所を特定したんだ。ノルウェスト地方の東、ノレスト地方にかなり近い場所だよ」

「ARの領域だな、やっぱり、連中はバンバ将軍と組んでたらしいな」

 亞唯が言った。

「ということは、次の任務はその基地にカチコミを掛けるのですね!」

 シオは勢い込んで言った。

「ようやくわたくしの出番が来そうなのですぅ~。お好みの場所を爆破して見せますですぅ~」

 ベルが、指をわきわきさせる。

「いや、殴り込みは必要ないよ。CIAによれば、国連ロボットを運用していた連中はすでにそこを引き払ったらしい」

「なんや。逃げたんかいな」

 雛菊が、拍子抜けしたように言う。

「でも、CIAはまだ何らかの物証やデータがそこに残っていると考えている。数か月にわたって拠点としていたのだから、一日やそこらで完璧に引き払うのは不可能だしね。おそらく主力は逃げたけれど、少数の人員が居残って、証拠隠滅を図ってるんじゃないかな。ということで、速やかに潜入し、調査すべし、という命令を受けたんだよ。CIA要員を送り込むのは時間が掛かるし、特殊部隊の派遣も同様だしね。一番近くにいるまとまった戦力が、ボクたちというわけさ」

「趣旨は理解しましたが、この状態では心もとないですわね」

 スカディが言う。手元に残っている兵器は少ない……突撃銃さえ人数分揃っていない……のだ。基地に居残っている人員が少なければなんとか制圧できるだろうが、人数が多かったり、国連ロボットが護衛に付いていたりすると、返り討ちに遭う公算が大だ。

「その辺りは、CIAも考慮してくれたよ。輸送機で装備を持ってきてくれるそうだ。証拠を探すとなると、それなりの道具も必要だしね」

「どういたしますか、みなさん」

 スカディが、他の四体を見る。

「まあ、ここまで来たら最後まで付き合いたい気持ちはあるな」

 亞唯が、言った。

「わたくし、今回活躍の場がなかったのですぅ~。欲求不満なのですぅ~。一回くらいは派手な爆破をやりたいのですぅ~。CIAさんに、C4をたっぷり持ってきてもらうように頼んで欲しいのですぅ~」

 ベルが、期待を込めた視線をジョーに向ける。

「乗りかかった船や。最後まで付き合うで」

 雛菊が、にっと笑う。

「悪い連中はお仕置きが必要なのであります!」

 シオはそう言い放った。

「ありがとう、みんな」

 ジョーがこくこくとうなずきながら言う。

「みなさん。安請け合いしてはいけませんわ。ジョー、離脱の段取りはどうなっていますの?」

 スカディが、冷静に尋ねる。

「車両で脱出だよ。状況に応じて、そのままニャイオーまで南下してもいいし、USDの支配地域へ入って、またヴィオレットさんの手を借りてもいい。仮にARとトラブルとなったとしても、社会民主連合のテリトリーまでは追いかけて来ないはずだからね!」

「でしたら、協力してもいいですわね。ですが、作戦準備に重大な瑕疵があった場合、あるいは想定外の障害が生じた場合は、即座に手を引きますからそのつもりで」

「もちろんそれでいいよ! ボクもこんな地球の裏側でくたばりたくはないからね! 作戦成功の見込みなしとなれば、即座に撤退するよ!」

 ジョーが、請け合った。

「それともうひとつ。逃げた連中の行方を、CIAが追えないのかい?」

 亞唯が、そう訊いた。

「それはもちろん追跡中だよ! どうやら、マリ共和国内へ逃げ込んだみたいだね! DGSEに調査を依頼したそうだけど、マリ北部も砂漠でろくに人が住んでないからね。追跡は難しそうだよ。連中も、それを承知で逃走ルートに使ったんだろうしね」

 『エリザベスカラー』のせいでぎこちない動きとなったが、肩をすくめながらジョーが答えた。



 路肩に停めたF‐150とクオンのあいだで、物資の積み替えを行う。

 AHOの子ロボ分隊の面々が、積み替え……ほとんどが、ピックアップからトラックに不要な物資を移す作業だ……をしているあいだに、ジョーが大使館の運転手に話をして、そのままクオンに乗ってニャイオーに帰ってもらうように説明を行った。もとよりジョーの指示には従うようにと命じられていた二人はそれで納得し、積み込みを終えたクオンに乗って走り去る。

 ジョーが衛星携帯電話を取り出し、在ニャイオー合衆国大使館に掛けた。任務前に与えられていた暗号化プログラムを使い、急いで組んだ暗号……四桁の数字を延々と連ねたもの……を口頭で伝える。主な内容は、作戦遂行に支障がないことと、補給物資に加えて欲しい物のリストである。

 改めてF‐150に乗り込んだ一同は、亞唯と雛菊の運転で北西を目指した。助手席に座ったジョーが、メモリー内蔵地図でナビゲートする。

 やがて出くわした大き目の集落で、F‐150は給油を行い、ついでにジェリカンひとつ分の予備ガソリンも購入した。タンク内燃料だけでも、補給物資受け取りポイントまでは充分行けるが、この先給油できるような場所がないので、念のためである。支払いは、ジョーがユーロ紙幣で行う。



 ラムシュタイン空軍基地。ドイツ南西部、ラインラント‐プファルツ州……おおよそライン川の西側にあり、マインツやコブレンツなどの都市を有する……にある、合衆国空軍基地である。

 その滑走路から、一機のC‐17A輸送機が飛び立った。同機は南向きの進路を取り、アルプスを飛び越えるとリグリア海に出た。そこで針路を南南東に変え、イタリア半島とコルス島のあいだを抜ける。そしてサルディニア島を右手に見ながら飛び続け、約一時間五十分後に、シチリア島西部の軍民共用空港、トラーパニ・ビルギ国際空港に着陸した。

 ここで給油したC‐17は、宵闇迫る中再び離陸すると、アフリカを目指して南下した。チュニジア上空を通過し、さらにアルジェリア領空に進入し、アフリカ大陸内陸部に入り込んだC‐17は、物資投下ポイントを目指して四百五十ノットで突き進んだ。物資を投下したあとは、ガーナ共和国の首都アクラにあるコトカ国際空港で給油し、そこからアセンション島まで飛ぶ予定になっている。



「よーし、亞唯、雛菊、停めてくれ。ここが指定ポイントだよ」

 ジョーが、指示した。F‐150が、ゆるゆると停止する。

 一同は、ピックアップを降りた。

「何にもないところなのであります!」

 ぐるりと三百六十度見渡したシオは、そう感想を述べた。すでに辺りは真っ暗だが、パッシブ赤外線モードで見ても何も熱源は見当たらないし、人工物はいっさいない。目印になりそうな地形すらない。ただひたすら、砂礫の海が広がっているだけである。

「何にもない方が空中投下エアドロップには都合いいだろ」

 亞唯が言って、空を見上げる。乾燥しているうえに、空気の汚染とは無縁な場所なので、星々はいずれも刺すような鋭い光を放っている。

「ほぼ無風だね。これは、幸先いいよ」

 風向と風速を調べていたジョーが、喜ぶ。

「来たようですわね」

 その強化された聴力でエンジン音を聞きつけたのか、スカディが北の方を見上げつつ言う。

「いた」

 亞唯が空を指差した。シオはその指の差す方向を見上げたが、パッシブ赤外線モードで見ても何も見えなかった。視覚関係が改良されている亞唯なればこそ、である。

 やがて、シオにも空を移動する赤外線源が見極められるようになった。ターボファンエンジンの音も、周りが静かなのではっきりと聞き取れる。

「時間通りだね」

 ジョーが、言った。

「投下したぞ」

 亞唯が、再び指をさす。

 パラシュートで投下された補給物資のコンテナには、赤外線を放射する熱源が取り付けてあったので、AI‐10たちにはふわふわと漂い落ちてくるそれの位置がはっきりと見て取れた。シオは一回通常光学モード……光量増幅機能なし……に切り替えて見てみたが、暗緑色のパラシュートとコンテナの姿は夜空に溶け込んで、まったく視認できなかった。仮に、こちらを誰かが見ていたとしても、余程近くにいない限り、何も気づかないであろう。

 大きなラウンド型(円形)パラシュート一個で吊られたコンテナは、待っていたAI‐10たちの北西四百メートルほどの処にどすんと落ちた。空気を孕まなくなった傘体が、乱暴に脱ぎ捨てられた薄手の下着のように、くしゃくしゃになって砂礫の上にふわりと落ちる。

「慌てて近付いたらあかんで。狙撃されるで」

 雛菊が、言う。

「スモーク投げるのがセオリーだな」

 亞唯が、乗っかった。

「M249が入っていたら当たりなのであります!」

 シオはそう言った。

「某ゲームじゃないんだから。さっさと行くよ」

 ジョーが、F‐150に乗り込む。シオはベルと共に荷台によじ登った。


 第十八話をお届けします。

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