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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 16 サハラ砂漠国連ロボット捕獲せよ!
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第十六話

 本隊のトラックにMi‐17が迫ってゆくところは、亞唯と雛菊の乗るテクニカルからも望見できた。

「まずい。ロボットを俺たちで阻止するぞ!」

 ディブラ隊長が宣言した。国連ロボット二体に迫られたうえに、上空から武装ヘリコプターに狙われたのでは、圧倒的に不利だ。ここは、こちらが国連ロボット相手に時間稼ぎをして、本隊が対空戦闘に専念できるようにしなければならない。

 とは言え、現状のこちらの戦力だけで、国連ロボット二体と渡り合うのも圧倒的に不利なのだが。

「隊長、あそこに引き込もう」

 亞唯は前方左側、直線距離で一キロメートルほどの位置に見えてきた箇所を指差した。低い丘の周りに、大小の岩がごろごろと転がっている地形だ。おそらくは、元々あった岩の丘が風化によって崩れ、長年かけて周囲にその破片を撒き散らしたものだろう。テクニカルを隠せるほどの大きな岩はないが、AI‐10や人間ならば充分に遮蔽物に使える。

「よし。その案採用だ」

 ディブラ隊長が、運転手に身振りで指示を出す。テクニカルが、国道を外れて砂礫の上を走り出した。

「なんか脆そうな岩やな。ミサイルはもちろん、機関砲弾にも耐えられそうにないで」

 身を乗り出して岩場を観察しながら、雛菊が言った。

「初弾だけ躱せればいい。雛菊、RPGを借りろ。着いたら降りるぞ」

 亞唯がそう言って、HK416F突撃銃を肩に、AT‐4CSを抱えた。


 砂埃を蹴立てて、テクニカルが砂礫の中を疾走してゆく。

 エアレー01は、このテクニカルの行動は、こちらに戦力の分散を強いる戦術であることを正確に見抜いていた。

 だからと言って、これを無視することはできなかった。路上はもちろん、砂漠でも敵の方が優速なのだ。このまま北上を続ければ、引き返して来た敵テクニカルにより、背面または側面より強襲攻撃を受けることになる。

 こちらも戦力を分散するのが最適解であろう。もちろん、最優先目標はエアレー03の破壊である。味方……航空支援があることはあらかじめ教えられていたが、機数や機種、搭載兵装まではエアレー01は知らなかった……のヘリコプターと共同すれば、任務達成は困難ではあるまい。

 エアレー01は、06に対し敵テクニカルの追跡破壊を命ずると、自らは北上を続けた。


「まずいな。追って来たのは一体だけだ。機関砲搭載の奴だな」

 双眼鏡を覗きながら、ディブラ隊長が言った。

 テクニカルは岩場のすぐそばまで来ていた。運転手がブレーキを踏み、速度を落とす。

「行くぞ!」

 亞唯は減速したテクニカルから飛び降りた。雛菊が、続く。

 亞唯の得物はAT‐4CS肩撃ち式使い捨て無反動砲、HK416F突撃銃、

それにLU‐213破片手榴弾二個。雛菊の方は、RPG‐7対戦車擲弾ランチャーと予備弾二発だけだ。

「俺も行くぞ」

 ディブラ隊長が、KSVK対物ライフルを手に飛び降りる。

 二体と一人は岩場の中に走り込んだ。テクニカルの方は、いったん低い丘の向こう側に走り込む。国連ロボットが追ってくれば、好適な位置に誘引して徒歩組に射撃させる。徒歩組と交戦を開始すれば、すぐに引き返して挟撃する、という作戦である。

 亞唯と雛菊は、岩場を走り回って、粗雑ではあるがそこそこ使い物になるレベルの3Dマップを作成しようとした。遮蔽物が多く、見通しの効かない岩場に国連ロボットを誘い込んで仕留めるのがこちらの思惑である。岩の配置をメモリーに取り込んで、亞唯と雛菊でデータ共有すれば、有利に戦えるはずだ。


 テクニカルから小型のロボットと人が複数降り、岩場に入ってゆくのはエアレー06も捉えていた。

 岩場に誘い込んで攻撃しようという目論見であることは、間違いない。遮蔽物が多い場所であれば、隠れ場所の多い小柄な方が有利である。……充分に迎撃準備する時間があった場合は。

 エアレー06は、逆にこの状況を自己に有利であると判断した。厄介な重機関銃を搭載したテクニカルは、いったん丘の向こうに消えている。徒歩の敵も、岩場に入り込んだばかりで地勢をつかめずに、連携の取れた戦いはできないだろう。つまりは、各個撃破のチャンスである。徒歩の敵相手ならばこちらが優速だし、総合的な火力もこちらが上だ。

 エアレー06は、岩陰にいる敵も限定的ではあるが探知可能なパッシブ赤外線モードを併用しながら、岩場に突っ込んで行った。



「まったく。スカディもシオも冷たすぎるよ!」

 文句を垂れながら、ジョーは対空射撃準備を進めた。

 Mi‐17は、大きく旋回しながら少し高度を上げていた。先ほどと同じく、遠距離から緩降下で迫り、ロケット弾を斉射しようという肚だろう。

 ジョーは有線でコマンドを入力し、国連ロボットの方向を変えた。硬化剤で銃塔が動かないので、こうやって水平面での角度を調節するしかない。仰角の方は、コマンドで調節できるので、おおよその方向を指向させる。銃口に布切れが巻き付いたままだが、発射に支障はないのでそのままにしておいた。

 ジョーは国連ロボットのボディによじ登り、銃塔の後ろに陣取った。目視で照準を調整しなければならないので、目標と銃身と自分の光学センサーが一直線となる方が都合がいい。

 Mi‐17がロケット弾を発射する前に、何とか命中弾を浴びせなければならない、とジョーは確信していた。その為には、有効射程に入ったらすぐに射撃を始めなければならない。初弾で命中するとは、ジョーも思っていなかった。何回か連射を行い、弾着を修正していくしかない。幸い、弾薬はまだたっぷりと残っている。

 Mi‐17の機首がこちらを向いた。距離は四キロメートルほどか。KPVの最大射程にようやく入った、という距離である。

 ジョーは目標に合わせて国連ロボットの向きを若干修正した。銃身も、上向き過ぎたので多少下げる。

 ミルの機速は時速二百キロメートル超、とジョーは踏んだ。毎秒約五十五メートル、といったところである。四キロメートルを飛行するのに、約一分十三秒。二キロメートルの位置でロケットを斉射すると仮定すれば、あと三十六秒以内に命中弾を与えないとまずい。

 KVPの有効射程は約三千メートル。対空射撃の場合は、これより若干短くなる。

 ジョーは、Mi‐17との距離が三千を切ったところで最初の一連射を放った。約一秒の射撃で十発ほどが放たれ、三秒ほどの飛翔時間をかけてMi‐17に迫る。


 対空射撃されているのを見て取ったMi‐17のパイロットは、進路を小刻みに変え始めた。軽装甲なので、たかが機関銃弾と侮るわけにはいかない。一連射喰らっただけで、致命傷となり得るのだ。


 人間であれば、不可能な芸当であった。

 KPVが使用する曳光弾であるBZTの、発光体燃焼時間は二秒ほど。KPVの銃口初速は約千メートル/秒なので、二千メートルほどで燃え尽きてしまうのだ。それ以遠の目標に対し修正射撃を行うには、それまで飛翔した曳航弾の弾道を見て、その先を推測しなければならない。これには、相当な経験とそれに裏打ちされた『勘』が必要である。

 ジョーに、そんなものは無かった。だが、ジョーには赤外線が『見える』というロボットならではの特技があった。

 曳光に頼らなくても、発射時に熱せられ、さらに発熱体の燃焼によっても熱せられている曳光弾は、パッシブ赤外線モードで見れば飛翔距離二千メートル超えてもはっきりと見て取れた。ジョーはこの情報を元に、素早く修正を行って二連射目を放った。目標との距離は、二千七百メートルほどに縮まっている。

 高度を保ったまま照準を妨害しようと機体を左右に振っていたMi‐17が、飛翔する機関銃弾の流れの中に一瞬だけ入り込んだ。

 二発が、コックピットの風防を突き破って機内に飛び込んだ。一発は計器盤の一部を粉砕しただけにとどまったが、もう一発は副操縦士の下肢にまともに命中した。弾頭重量六十四グラムの大口径機銃弾の威力は、二千メートル以上の飛翔と分厚いアクリル板を貫通したせいでかなり減少していたが、それでも易々と脛骨を撃ち砕いた。

「セルジュ! 来てくれ! エミリアンがやられた!」

 パイロットは急いでドアガナーを呼ばわった。対地攻撃を断念し、右旋回しながら上昇に移る。……上官からは目標の破壊を厳命されてはいたが、友人でもある部下の命の方が、軍命よりはるかに大事である。

 救急箱を手に駆けつけてきたドアガナーの軍曹が、大量出血している副操縦士を眼にして硬直した。

「早く止血しろ、セルジュ!」

 基地へと戻る針路にMi‐17を乗せながら、パイロットはドアガナーを怒鳴りつけた。はっと我に返った軍曹が、救急箱から止血帯を取り出し、気絶している副操縦士の太腿に巻き付ける。次いでハーネスを外し、副操縦士の身体をシートから引きずり出して横たえた。止血包帯バトル・ドレッシングを出し、半分取れかけている脚に押し付ける。

「待ってろ、エミリアン。すぐに医者に診せてやるからな」

 パイロットは意志の力で基地との距離を縮めようとするかのように、真っ直ぐ前方を見据えながら、絞り出すように言った。



「ふう。とりあえず追い払えたようだね」

 ジョーは安堵の表情で額の汗を拭うふりをした。

「お見事でしたわ、ジョー」

 非難していたスカディが、駆け寄って来る。

 Mi‐17は、一目散に遠ざかってゆく。煙も吐いていないし、飛行も安定しているので、大きな損害を与えたわけではなさそうだが、とりあえず攻撃は断念してくれたらしい。

「リーダー! ジョーきゅん! 一難去ってまた一難、なのであります! 南から、国連ロボットが接近してくるのであります!」

 シオは指差した。

「あら。ではジョー、こちらもお願いね」

 スカディが気軽な口調で言って、またもやユーロカーゴから走り去ろうとする。

「ジョーきゅんの腕前なら大丈夫なのであります!」

 シオもそう言い残して、スカディのあとを追おうとする。

「待った! 頼むから、運転席に座っておくれよ!」

 ジョーが、シオをそう言って引き留めようとする。

「あたいが運転するのでありますか?」

 シオは立ち止まると、自分を指差した。

「今度の相手は国連ロボットだ。ヘリコプターに比べれば遅いから、こちらが動くことによって優位に戦えると思うよ」

「それは一理ありますわね」

 戻って来たスカディが、言う。



 ロボットを目視確認したエアレー06は、四十ミリ機関砲弾を見舞った。

 風化で脆くなっていた岩が、榴弾の直撃を受けて粉砕される。

 別方向から飛んできた銃弾が、エアレー06のそばの岩に命中した。センサータワーが、大型の銃器を構えた人間の姿を捉える。脚の動きと銃塔の旋回で素早く狙いを変更したエアレー06は、銃弾が飛来した方向にL70の砲口を向けた。敵がいち早く身を隠す。

 エアレー06も、AI‐10たちと同様戦場の3Dマップ作りを急いでいた。推測に頼る部分が多く、大部分が粗雑な2D状態であったが、そこに判明した敵の位置をプロットし、戦術を組み立てようとする。

 ……敵発見。

 エアレー06のセンサータワーが、もう一体のロボットを発見した。西南西、距離二百八十メートル。近すぎる。

 エアレー06は急いで遮蔽物を探した。近くに手ごろな岩は無かったが、幸いなことに四十メートルほど離れた位置に幅五メートルほどの屏風のような岩があり、数メートル横方向に移動するだけでそのロボットからの射線を封じることができた。これで、時間が稼げる。

 先ほど機関砲弾を浴びせたロボットが、接近してくる。距離は、四百メートルほど。光学センサーが、このロボットの武器をRPG‐7だと判定した。まだ有効射程外だが、とりあえずこちらを先に仕留めようと、エアレー06は銃塔を旋回させた。


「くそっ」

 亞唯は毒づいた。

 国連ロボットが雛菊とディブラ隊長にかまけているあいだに、こっそりと背後に回り込んでAT‐4の有効射程内に迫ったものの、気付かれて射線を塞がれてしまった。横方向に移動すれば再び射線が通るが、これも国連ロボットが少し移動すればすぐに塞がれてしまう。あの岩が邪魔にならないような位置まで移動するには、たっぷり一分は掛かるだろう。しかも、かなり開けた場所を横断しなければならない。

 ……いっそのこと、このまま前進した方が得策か。

 亞唯はそう考えた。国連ロボットは機関砲の射撃を断続的に行っている。目標は、雛菊であろう。このまま雛菊が敵の注意を引き付けてくれれば、亞唯は自由に動ける。斜め前方に移動すれば、より短い射程で、あの岩にも邪魔されずに射撃できる好適な位置取りができるだろう。

『あかん。ばりばり撃たれとるで。まともに狙えへん。ここらの岩はだめや。脆過ぎて、すぐ粉々になってしまうわ。遮蔽物にならへんで』

 雛菊が、無線で泣き言を言ってくる。

 亞唯は3Dマップ……未だ空白部分が多く、ちゃんと3D化されているのはごく一部だが……で自分と雛菊、国連ロボットの位置関係を確認した。ここから右斜め前方に進み、国連ロボットの背後を衝ければ……。

 いや。待てよ。あの邪魔な岩さえなければ、ここからでも射線は通るぞ。

「雛菊。そこから3‐4‐2、四百三十メートルの位置にある屏風みたいな岩が見えるか?」

『国連ロボットの右手やな。見えるで』

「そいつを撃てるか?」

『ちと遠いけど、やってみるで。国連ロボットより大きいから、当たるやろ』

 雛菊が、応ずる。


 そろそろ移動すべきだ。

 エアレー06はそう考えた。

 前方の敵は射撃で釘付けにしているが、仕留めることはできていない。背後のロボットは、おそらく射撃を諦めて別の場所へ移動を開始しているだろう。人間の方も、今は見失っている。こちらももっと有利な場所に移動して、仕切り直すべきだ。

 と、前方の敵がRPGを発射した。エアレー06は素早く光学とミリ波レーダーでグレネードの飛翔を観測し、最適な回避方向を選択しようとした。

 だが、観測結果は『回避の必要なし』であった。予想される弾頭の最接近位置は、エアレー06から三十メートル以上離れた位置だったのだ。仮にその位置で起爆したとしても、飛来する弾殻や爆風はエアレー06の強度を考慮すれば無視できるレベルである。

 ……それよりも、チャンスである。

 RPGの再装填には時間が掛かる。今のうちに距離を詰めて、より正確な射撃を行えるようにすべきだ。

 エアレー06は3Dマップ上で安全な前進ルートを選定した。背後にいる敵がどの位置に移動していたとしても、射線が通らないエリアを推定し、その中で歩きやすく、また不意を衝かれた場合に逃げ込める遮蔽物が多いポイントを選んでゆく。


 RPGの弾頭が、雛菊の狙い通り屏風のような岩に命中する。

 風化で脆くなっていた岩が、粉々になって吹き飛んだ。

 亞唯はすでに射撃の準備を整えていた。爆発の噴煙と砂埃の中から顕著な赤外線源を見つけ出し、照準器の中に捉える。

 親指で発射ボタンを押し込むと、ずんという発射音と共に白煙と砲弾が飛び出した。

 約一秒後に、エアレー06の銃塔にHEAT弾頭が命中した。あっさりと銃塔が消し飛び、衝撃に耐えきれなかったボディが横倒しとなった。


 第十六話をお届けします。

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