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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 16 サハラ砂漠国連ロボット捕獲せよ!
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第十一話

 スカディとジョーが連れて来られたのは、礫砂漠のなかに忽然と現れたオアシスの街であった。

 戸数は百数十、人口はおそらく千人に満たないだろう。市街地の周りには用水路が張り巡らされ、かなり広い範囲に渡って耕作が行われているようだ。あちこちでアカシアの木が鮮やかな緑色の葉を茂らせており、人工的に植えられたであろうナツメヤシの樹園も何ヵ所か見受けられる。

「ファラーマ、という都市だね! どうやら、USDの拠点のひとつのようだね!」

 内蔵GPSで座標を確認し、メモリー内地図をチェックしたジョーが言う。

 すでに日は相当西に傾いており、アカシアの木が車列が停止した広場に長い影を投げ掛けている。吹いている風も、若干ではあるがひんやりとして来ているようだ。ただし、日中日差しに晒されて充分に熱せられた地面からは、まだ暑熱がじんわりとたち上って来ており、快適とは言えない。

 シメオン・ディブラに促されてZIL131を降りたスカディとジョーは、ヴィオレット・サネに案内されて市街地に入った。ディブラはまだ監督作業があるようでその場に残ったが、AKMを手にした二人の兵士がスカディとジョーのあとに付いて来る。ヴィオレットの護衛兼AI‐10の監視役だろう。

 さすが社会民主連合のお膝元だけあって、ヴィオレットの人気は高かった。歩んでいるだけで、挨拶や応援の声、賞賛などが周りから降って来る。

「凄い人気ですね、副代表!」

 ジョーが、おだて口調で言った。

「フェリシテ人気のおかげですわ。わたしは、フェリシテを支える立場だから、応援してもらえているだけです」

 ヴィオレットが、澄まして答える。

 ほどなく、一行は一軒の焼成煉瓦造りの建物の前に出た。正面で立哨していた若い兵士……どう見てもローティーンだ……が、ヴィオレットを見て居住まいを正す。

「フェリシテは?」

「ご在宅です!」

 ヴィオレットの問いに、兵士がかしこまって答える。

「こちらへどうぞ。少しお待ちいただけますか?」

 ヴィレットが、スカディとジョーを一室に案内した。護衛の兵士を残し、奥の方へと姿を消す。

 待たされたのは五分ほどであった。ヴィオレットが再び顔を見せ、フェリシテが会ってくれると告げる。

 会見の間となっていたのは、ごく普通のリビングルームのようだった。床には厚手の敷物が敷かれ、座布団サイズのクッションがいくつも置かれている。隅の方には、座卓くらいの低いテーブルがあり、ガラスの水差しが載っていた。壁には、大きなマラハ共和国全図が貼ってある。その向かい側の壁にはニッチ(くぼみ)があり、革装丁の立派な本が置いてあった。……もちろん、クルアーンであろう。

 座っていた女性三人が、ヴィオレットを見て立ち上がった。三人とも砂漠迷彩の野戦服姿だったが、武装しているのは両脇の二人だけで、中央の若い女性は非武装であった。その女性……フェリシテ・コナタが、入って来たスカディとジョーを見て、笑顔で歩み寄って来る。

『美人だねー。ハリウッドでも通用しそうだねぇ』

 無線で、ジョーがしみじみと言う。

『ちょっとあざといですけれどね』

 スカディはそう応じた。護衛女性の野戦服はサイズが合っていた……とは言っても乾暑地域仕様でゆとりを持たせてあった……が、フェリシテの野戦服は明らかにオーバーサイズであった。袖など、手首どころか親指の付け根近くまである。……いわゆる『萌え袖』である。全体的に野戦服が似合っておらず、借り物の服を無理やり着ている感が否めない。そこがまた、『萌えポイント』なのだろう。

「ヴィオレットたちが危なかったところを救っていただいたそうで、改めてお礼申し上げます。どうぞ、お掛けください」

 ロボット相手とは思えぬほど丁寧な口調と物腰で礼を言って、フェリシテが座るように勧める。スカディとジョーは、敷物の上に腰を下ろした。

 護衛の女性兵士が水差しからガラスのコップに水を注ぎ、スカディとジョーに手渡してくれる。

『これは……儀礼的なウェルカム・ドリンクでしょうか』

 スカディは内心首を捻りながら、コップの中を覗き込んだ。

『オアシスとは言え砂漠で水を振舞ってもらえるということは、歓待されていることを表しているんじゃないかな。単なる儀礼以上の意味があるんだと思うよ』

 一口飲むふりをしながら、ジョーがそう返答する。

「ヴィオレットから事情は伺いました。例の武装ロボットにはこちらも悩まされておりますし、協力することに関しては問題ありません。少人数の部隊をお貸ししましょう。もちろん、見返りは求めません。ただし……」

 フェリシテが、スカディとジョーを見据えながら言う。

「例の武装ロボットに関する情報が得られた場合、それを逐一こちらに流して欲しいのです。もちろん、軍事機密ないし諜報関係で秘匿したい情報は除外していただいても構いません」

「……情報? 何のためなのか訊いてもいいですか、代表?」

 訝し気な表情で、ジョーが訊く。

「どうか、フェリシテと呼んでください。それに付いては……」

 フェリシテが、隅に立っている兵士二人……トラックからついて来た兵士だ……に、うなずいて見せた。察した二人が、すぐに部屋を出てゆく。後には、フェリシテとヴィオレット、女性兵士二人、それにスカディとジョーが残された。

「実は、例の武装ロボットに関して、我々はある疑念を抱いています」

 フェリシテが、言いにくそうに続ける。

「疑念、と申されますと?」

 口が重いフェリシテをフォローする意味で、スカディはあえてそう問いを発した。

「……武装ロボットと、ARの関係です」

 ようやくそこまで言ったフェリシテが、助けを求めるかのように上目使いにヴィオレットを見る。

「我々は、AR……共和国行動と、武装ロボットに何らかの関係があるのではないか、という疑いを持っています」

 ヴィオレットが、フェリシテの話を引き取って続ける。

「武装ロボットの動きは断片的にしか捉えられていませんが、分析するとノルウェスト地方から作戦行動を行っている可能性が高そうなのです。ご承知かと思われますが、ノルウェストは全域をARが支配しています」

「ARが武装ロボットを運用している、と疑っているのですか?」

 ジョーが、ヴィオレットとフェリシテの顔を見比べながら訊く。

「いいえ。ARにこのような武装ロボットを組み立てて運用するだけの能力はないでしょう。ですが、どこかの外部勢力……国家なり企業なり非合法組織なりと手を組んで、我が国で運用している可能性はあると思います」

「ですが、国連ロボットは共和国行動の部隊も襲撃しているはずですけれども」

 スカディはそう反駁した。

「たしかに、武装ロボット……国連ロボットはAR、MPM、USDいずれも敵に回しているように見えます。報告された襲撃された回数は、三勢力ともほぼ同等です。ですが、実際に受けた被害……特に人的被害に関しては、大きく異なります。AR側は、兵器と人員の質が高いことを、被害が少ないことの理由としていますが、怪しいものです。我々は、ARが襲撃された回数を水増しして報告していると判断しています」

「共和国行動が国連ロボットを作って運用している連中とつるんでいるねえ……ありそうな話だけど、証拠はあるんですか?」

 ジョーが、訊いた。

「具体的な証拠は何もありませんね。ですから、情報を頂きたいのです。こちらで集めた情報と点き合わせれば、ARの策謀を暴くことができるかもしれません」

「だとすると、ARの目的は何でしょうか?」

 スカディはそう訊いた。

「もちろん、自己の勢力拡大でしょう。国民の支持が得られないことに気付いたバンバ将軍は、最近では全土の支配を諦め、現在の支配地域だけで独立国家樹立を目指しているという噂もあります。どのような相手でも、金銭的、物質的見返りがあれば喜んで手を組むでしょう」

 ヴィオレットが言いながら、フェリシテを見やる。フェリシテが、スカディとジョーに見せつけるように深くうなずいた。

『どう思う、スカディ?』

 無線で、ジョーが訊く。

『むしろこちらが訊きたいですわね。バンバ将軍は、そのような裏取引をしそうな人物なのですか?』

スカディはそう訊き返した。

『うーん。どちらかと言えば真面目な軍人タイプで、裏取引とかしなさそうな人物、というのがCIAの評価だけどね。軍人としては有能だけど、政治家としての資質に欠けるから、国民の人気も得られていないみたいだし。もちろん、クーデターを起こした以上、それなりの覚悟でやっているはずだから、どこかのならず者国家や悪徳企業と組んでいる可能性はあると思う』

『共和国行動の現況を鑑みれば、お金でも武器でも情報でも、供与してもらえればありがたいでしょうからねぇ。で、どうするの、ジョー?』

『情報提供だけなら問題なさそうだけど、下手をするとこれをきっかけにボクたちとARが敵対しちゃう可能性が出てくるよね。もし本当に、国連ロボットを運用している連中とARが手を組んでいた場合はそれでも構わないけれど、そうでなかったら非常にまずいことになりかねないよ』

 懸念の色も露わに、ジョーが言う。

『そのあたり、しっかりとフェリシテとヴィオレットに釘を刺しておく必要がありますわね』

『それはもちろん刺すけれど、どうも君たちと一緒に行動していると、意図せずにあちこちに喧嘩売りまくって、派手な戦いに発展しちゃうパターンが多いように思うんだよね! さすがにARと戦うことになるのだけは勘弁しておくれよ!』

『そんなことありませんわ……と自信を持って言えないのが悲しいですわね』



 結局、ジョーはフェリシテとヴィオレットの要請を受け入れ、国連ロボットに関する情報を供与することにした。ただし、自分は現場工作員に過ぎず、その権限には制限があり、上司によって差し止められた情報に関しては渡すことができない、と逃げ道を作っておいた。

「それで結構です」

 フェリシテが、ちらりとヴィオレットに視線を走らせ、同意のかすかなうなずきを確認してから、その条件を受け入れる。

「では、具体的にどのような助力をいただけるのですか?」

 さっそく、スカディは訊いた。

「幾許かの兵力をお貸ししましょう。過大でなければ、そちらの要求通りの人員と装備を揃えましょう。まあ、我々が有している範囲内で、ですが」

 フェリシテが、言う。

「こちらからも情報を提供します。国連ロボットは、おおよそこの辺りから現れると思われます」

 壁に貼られた地図に歩み寄ったヴィオレットが、指で円を描いた。

「ですから、この辺りで待ち伏せれば、捕捉できる可能性が高いでしょう」

 礫砂漠の一点を、ヴィオレットが指で押さえる。

 スカディとジョーは顔を見合わせた。

『情報はありがたいけど……そこじゃストーンウェッブが使えないね』

 無線で、ジョーが言う。

『移設……には時間が掛かり過ぎますわね』

 スカディも思わず唸った。千個近いストーンウェッブを敷設するのに丸二日掛ったのだ。GPS座標はすべて記録してあるとは言え、位置を特定し回収するにはおそらくそれ以上の時間が掛かるだろう。仮に三日掛かるとして、再敷設に二日掛けるとすると、合計五日のロスとなる。

「……よく見ると、それほど離れていないね、ここ」

 ジョーが、壁の地図に近付く。

「ここに道路の表記がある。これは現在どのような状態ですか?」

「それは主要な交易路のひとつですから、状態は悪くありませんよ。一応舗装されていますし」

 ヴィオレットが、そう答える。

「ねえスカディ。ボクたちが展開していた地点と、ヴィオレットさんお勧めの地点は直線距離で七十キロメートルほどしか離れていないよ。この道路を使えば、一時間半程度で移動できるんじゃないかな」

「二か所で待ち伏せるつもりですの?」

 ジョーの言葉に、スカディはそう問うた。

「基本的に、こちらで待ち伏せを行う」

 ジョーが、ヴィオレットお勧めの地点を指差した。……背が届かないので、指で押さえることはできない。

「もしSWストーンウェッブで国連ロボットを捉えたら、すぐにそちらに向かう。で、どうかな?」

「一時間半、逃げずに待っていてくれるでしょうか?」

 スカディは首を傾げた。

「そこは、囮をうまく使ってだね……」

 ジョーが、自分の考えた作戦を披歴する。

 部下が囮役になる、という点で懸念を覚えたものの、ヴィオレットの説得もありフェリシテはジョーのプランを受け入れてくれた。提供される兵力は、機動性を重視して、『テクニカル』五台と決まった。囮役として、汎用機関銃搭載車が二台、攻撃役として重機関銃搭載型が三台。それぞれ、四名の乗員が搭乗するので、合計二十名となる。この他に、指揮官としてシメオン・ディブラが愛用のKSVK対物ライフルを携えて加わり、さらにM201の運転役も一人借り受けることとなる。これで、亞唯と雛菊も運転役から解放され、攻撃に参加することができる。

 とりあえず『作戦本部』に戻って他のAI‐10との打ち合わせ、装備の準備などを行わねばならないが、すでに日没後であり、今から砂漠の中を走るのは甚だ危険である、ということでスカディとジョーはここで一晩泊めてもらうことにした。もちろん、食事も寝床も必要としないから、部屋の片隅を借りるだけである。ただし、充電はしたかったのでその旨申し出ると、女性兵士の一人が別の家に案内してくれた。そこで、ガソリン式発電機から充電させてもらう。

 充電を終えて戻ってくると、リビングではヴィオレットが低いテーブルに向かって一人で仕事をしていた。ノートを開き、ボールペンを手に古そうな電卓を叩いている。

「手伝おうか? 計算は得意だよ」

 ジョーが、そう声を掛ける。

 ヴィオレットが笑って、ノートを閉じた。

「いや、結構です。社会民主連合の懐事情が厳しいことを外部に知られるわけにはいきませんからね」

「この街は豊かそうに見えましたけど」

 スカディはそう言った。ちょっと見ただけだが、畑には様々な作物が育っていたようだし、その広さも街の人口を支えるに充分なものに思えたのだが。

「社会民主連合だけではありません。とっくにご承知でしょうが、この国全体が貧しいのです。わたしが若い頃は、そうでもなかったのですけれど」

「フェリシテの曾お爺さんとお爺さんの時代だね」

 ジョーが、言う。

「典型的な発展途上国型の、資源切り売りによる繁栄ですが。それでも、インフラ整備と教育の充実で、慎ましやかな農業国家としてなら地下資源なしでもやっていける目途は立っていたのです。おそらく、二十一世紀を迎える前には」

「でも、その前に地下資源が尽きてしまった、と」

 スカディの言葉に、ヴィオレットがうなずく。

「金鉱はともかく、ヤヤアマ塩鉱が尽きたのが痛かったですね。あそこさえもう少し操業出来ていれば、ソビエト連邦崩壊に引きずられることなく、安定状態が続いたでしょう。……今の政治的混乱も、主たる原因は経済の低迷にあります。各派とも、自分たちを支持する市民に少しでも富を還元しようと、少ないパイを奪い合っている状況です。また新たに塩鉱でも発見されれば、少しは状態改善に寄与すると思うのですけど……そう都合よくはいきませんよね」

 そう言ったヴィオレッタが、少し寂し気に見える笑顔をスカディとジョーに見せた。


 第十一話をお届けします。

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