第八話
リュックたちが足代わりに置いていってくれた車両は、カーキイエローに塗装されたオチキス……英語読みではホチキス……M201であった。第二次世界大戦期に大量生産され……その数実に三十六万台以上……軍用ジープの代名詞となった有名なウィリスMBを、フランスのオチキス社がライセンス生産したものである。おそらく、近隣の旧フランス植民地国家の軍隊が使用していた中古品であろう。
「おおっ! これはぜひともM2マシンガンを搭載してラット・パトロールごっこをしたいのであります!」
シオはいきなり喰い付いた。
「かなりくたびれているけど、しっかり整備されているようだな」
エンジンルームを覗き込みながら亞唯が言う。
「じゃあ明日になったらストーンウェッブを敷設するよ! いまのうちに物資を中に運び込もうか!」
「夜間に敷設しないのでありますか?」
シオはジョーにそう訊いた。
「偽装センサーだからね! 一応昼間光下でどのような見え方をするか確認しながら敷設しないとまずいよ! ここまで来たら焦る必要は無いしね!」
「それもそうですわね」
ジョーの言葉に、スカディが納得してうなずく。
スカディ、シオ、ベル、それにジョーの四体は、残る物資……約半分はストーンウェッブが入った箱だったが……を『偽装基地』の中に運び入れた。
亞唯と雛菊は、充電用にガソリン式発電機の準備をした。ちゃんと排気が外に逃げるように簡易ながらダクトが設置されていたので、そこに排気パイプを接続する。
「さて、誰から充電するんや?」
充電用端子を手にした雛菊が、訊いた。
「わたくし、あとでよろしいですぅ~。先に、リュックさんたちが置いていってくれた武器の点検をしたいのですぅ~」
ベルが、言う。
「それもそうですわね。では雛菊、あなたが最初に充電なさい。あとは、適宜順番ということで」
スカディが、そう決めた。さっそく、発電機の脇で座り込んで充電を始めた雛菊を残し、あとの五体は奥にある倉庫区画へと移動した。
「まあ、武器はあまりないね! あくまで捕獲が目的だから!」
ジョーが、武器類を覆っていたビニールカバーを剥がす。
「いや、なかなか充実してるだろ、これ」
亞唯が、感心したように言う。
ずらりと並んでいたのは、HK416F(ヘッケラー&コッホがコルトのM4カービンをベースに開発したアサルトライフルのフランス軍バージョン)が四丁、ミニミのフランス軍バージョンであるAAT‐F1が一丁、PAMAS G1(ベレッタM92自動拳銃のフランス軍バージョン)が三丁、スウェーデン製AT‐4CS使い捨て無反動砲が三基といったところであった。隅には、LU‐213破片手榴弾が二十個入った段ボール箱も置いてある。
「いい物があったのですぅ~」
ベルが、目ざとく爆薬の入った箱を見つける。
「Formex P1ですねぇ~。おフランスのプラスチック爆薬ですぅ~。探せば信管や導爆線もあるはずなのですぅ~」
ベルがいそいそと辺りを探し始める。……起爆し易い信管などは、当然の安全措置として、爆薬本体とは別保管になっているのだ。
「こっちが本命の捕獲用武器だよ!」
ジョーが、木箱から肩撃ち式対戦車ロケットランチャーによく似た物を取り出す。
「これがネットランチャーだ! スチール製のネットを、発射薬によって撃ち出す仕組みだよ! 有効射程は直射で百メートル、曲斜すれば二百メートルは行くよ! 網の直径は約三十フィート。縁の部分が重くなっているから、空中でドーム状に広がり、対象をすっぽりと包み込む仕様だね。多少外れても、脚部や銃塔に絡みつく効果が期待できるから、かなり有効だよ!」
「ネットの強度はどうなんだい?」
亞唯が、訊く。
「ロボット捕獲用だから、太いステンレスワイヤーを使っているから強度は充分だよ! 国連ロボットが暴れたくらいじゃ切れないさ! その分、重量を押さえるために網目は荒いけどね!」
「結構しっかりした光学照準器が付いてますのね」
もう一丁を木箱から取り出し、試しに肩に載せてみたスカディが言う。
「移動目標を捕捉する必要があるからね!」
「どれ。こりゃ、結構重いな」
スカディを見習って、別な一丁を取り上げた亞唯が言う。
「ネット弾が重いんだよ! 弾込みの総重量は、十五キログラムはあるよ! そしてこれが……」
ネットランチャーを木箱に戻したジョーが、別の箱からリボルビング弾倉付きグレネードランチャーに似た兵器を取り出す。ただし、口径はどう見ても六十ミリくらいはある。
「これが硬化剤ランチャーだ! 五連発のダブルアクション式。中に空気中の水分と反応して硬化する薬剤が充填されているよ! 硬化と言っても完全硬化じゃなくて、目標の表面に付着したうえで可動部分の動きを阻害する程度の柔軟性を保ったまま硬化するんだ! 完全硬化させても、ロボットのパワーに負けて割られてしまうのがオチだからね! ねばねばとまとわりつく感じだね!」
「いやらしい武器ですわね」
ジョーの説明に、スカディが嫌そうな顔をする。
「しかも、粒状ステンレスを加えてあるから、無理に可動部分を動かそうとすればそれが詰まって、すぐに動けなくなるんだ!」
「あくどすぎるのであります!」
シオはそう言った。
「ネットランチャーも硬化剤ランチャーも予備の弾薬は充分にあるからね。遠慮せずにどしどし撃って構わないよ」
ジョーが、置いてある段ボール箱を指し示す。
「それで、動けなくしたあとはあなたの出番なのね?」
スカディが、訊いた。
「そうだよ! 国連ロボットも標準的なアクセスポートを有しているからね! アクセスハッチを物理的にこじ開けて、ボクがウイルス・プログラムを注入してハッキングするよ!」
ジョーが、得意げに説明する。
「ついでですから、ここで作戦行動時の役割分担を決めてしまいましょう。ジョーはハッキング役として……」
スカディが、担いでいたランチャーを降ろして作戦を立て始める。
「一人はここでストーンウェッブの管制を受け持ってもらうことになるね。あとの五人でM201に乗って、センサーに引っかかった目標に向かう」
「じゃあ、あたしと雛菊で運転役を引き受けるよ」
ジョーの言葉に、亞唯が手を挙げる。
「わたくし、お留守番でいいのですぅ~。今回、爆破はできそうにないのでぇ~」
信管を見つけてご満悦のベルが言う。
「では、わたくしとシオがメインの脚止め役として、ネットランチャー装備。亞唯と雛菊がバックアップで硬化剤ランチャー装備。そんなところでいいかしら?」
スカディが、ジョーを見る。
「それでいいと思うよ!」
ジョーが笑顔でOKを出す。
AI‐10たちは順番に充電をしつつ、省電力モードに入って『休息』した。どうせ暇なので、一体だけが交代で外に出て、周辺の警戒に当たる。
翌朝、さっそくストーンウェッブの敷設作業が開始された。M201に木箱を積み、運転役の亞唯と雛菊、指導監督役としてジョー、それに敷設作業員を買って出たシオが乗り込んだ。念のため、自衛用としてHK416二丁と若干の弾薬も積み込み、第一回目の敷設作業が開始される。
「ストーンウェッブのデータリンク保障有効距離は七百ヤード。センシング有効距離は約五百ヤード。だから、七百ヤードの間隔をあけてグリッド状に敷設していけば、全域をカバーできるよ! そして、作戦基地からも七百ヤードごとに直線状に敷設域まで置いていけば、データをモニタリングできるという寸法さ!」
「七百ヤード。約六百四十メートルだな。雛菊、ブレーキだ」
ハンドルを握っている亞唯が、ペダル操作をしている雛菊に指示を出す。
シオはストーンウェッブをひとつ掴むと、M201から飛び降りた。底部にある隠しスイッチを入れ、タブレットを手にしているジョーがデータリンクの電波を受信した……つまりストーンウェッブが正常に作動したことを確認してから、偽装膜に隠された太陽電池が上を向くように気を付けながら、そっと地面に置く。
「よくできてる。周囲の礫とまったく区別がつかないぞ」
シオがM201に乗り込むのを待ちながら、亞唯が感心したように言う。
シオも改めて自分が敷設したばかりのストーンウェッブを見つけようとしたが、無理であった。敷設前の映像を呼び出し、現在の映像と比較して、ようやく見つけることができる。
「よし、亞唯、出してよ! まだまだたくさん敷設しなきゃならないんだ!」
上機嫌で、ジョーが指示する。
ジョーが準備してくれたストーンウェッブは千個。この敷設には丸二日間掛かった。
CIAが予測した『国連ロボット出没予想域』約四百平方キロメートルは、九百三十個あまりのストーンウェッブによる碁盤の目状の『探知網』により、隈なく監視されることとなった。そこから偽装基地までは、五十個ほどのストーンウェッブによる二本の『通信リンク』が伸び、モニタリング装置へとデータを送れるようになっている。ちなみに、十数個残してあるのは、敷設したストーンウェッブが故障した場合に速やかに交換するためである。
AI‐10たちは、交代でモニタリング装置の前に座って監視を続けた。M201にはすでに必要な装備が積み込んであり、ストーンウェッブが国連ロボットを発見したら即座に出動できるように準備してある。
ぶー。
モニタリング装置が、ブザー音を響かせる。シオは制御装置のボタンを押してブザーを止めると、液晶ディスプレイを見た。……0751番で、音響センサーが非自然音と類別できる音響を捉えた、という表示が出ている。
「またでありますか」
シオはうんざりしながらディスプレイを見続けた。感度のいいセンサーの常として、ストーンウェッブは頻繁に『誤警報』を発していた。音響以外のセンサーに異常は無いし、端ならともかくセンサー群の只中にある0751番がいきなりロボットの作動音をキャッチするのはあり得ない。……飛行タイプのロボットが空から降って来た、のでない限りは。
ほどなく、0751番の音響センサーが『異常音入力なし』に戻った。周辺のセンサーも、何も捉えていない。シオはキーボードを操作して、センサー発報ログに『異常なし』のチェックを入れ、また通常の監視に戻った。
動きがあったのは、ストーンウェッブ敷設完了から三日目の午前中であった。
「みなさん、来てくださいな」
ストーンウェッブのモニタリング装置の前に座っていたスカディが、大声でみんなを呼ばわる。
ベル、ジョーと共にババ抜きで遊んでいたシオ……リュックたちは、わずかだが娯楽用品も残していった……は、カードを放り出すとモニタリング装置に駆け寄った。ジョーとベルも、それに続く。充電していた雛菊も、ケーブルを引きずったまま近寄って来る。外で見張りを続けている亞唯以外の全員が、スカディの側に集まった。
「国連ロボットでありますか!」
シオは勢い込んで訊いた。
「いいえ。でも、誤反応じゃないわ」
スカディが、ディスプレイを指し示す。
複数のセンサーが、人工物を感知していた。音響特性分析が、『ディーゼルエンジン/トラック/複数 確率97%』という評価を示していた。
「なんや。トラックやないか」
雛菊が、がっかりして背を向けようとする。
「でも、初めてのまともな検知ですわ。ストーンウェッブが、使い物になることがこれで証明されたわけですわ」
スカディが、言う。
さらに複数のストーンウェッブが車列を感知し、詳しいデータが集まって来る。進行方向2‐2‐0、速度時速37キロメートル、トラックの数……四ないし五。
「USDの連中かな。いずれにしても、こちらには近付いて来ないね! ここは無視でいいね!」
ジョーが、そう判断する。
と、モニタリング装置がブザー音を発した。スカディがボタンを押して音を止め、ディスプレイを見て眉をひそめる。
「0398番で反応あり。この車列とは、三キロメートルは離れてますわね」
「また誤反応でしょうかぁ~」
ベルが、言う。
「誤反応では無さそうね。音響、赤外反応、共にあり」
スカディが、ディスプレイの表示を読み取る。
「一番端っこのセンサーなのです! 何かが敷設域に入り込んだのでは?」
シオはそう言った。これは、本物かもしれない。
0399と0368も、すぐに音響を捉えた。さらに複数のウェッブストーンがデータを収集し、目標が解析される。
「振動センサーも検知。『電動/多脚ロボット/単機 確率81%』……これは、国連ロボットですわね」
スカディが、ディスプレイの表示を読み上げつつ言う。
「これ、トラックを狙ってるで」
敷設域全体を表示しているディスプレイを指差して、雛菊が言った。確かに、国連ロボットが進んでいる方向は、先ほど検知した車列が進んでいる方向といずれ交わることになる。双方の速度を勘案すれば、『接敵針路』を採っている、と看做して差し支えないだろう。
スカディが、ジョーを見た。ジョーが、うなずく。
「みんな、出動だよ! トラック隊が都合よく囮になってくれたみたいだ!」
「行くのであります!」
シオはM201に駆け寄った。
「ベル、あとは頼みます」
スカディが、ベルにモニタリング装置の前を譲る。
「お任せくださいぃ~」
「亞唯っち、出動やで。はよ戻ってや」
雛菊が、亞唯に無線を入れながらM201の運転席の下に潜り込む。
シオはスカディと手分けして、積み込んである装備品を手早くチェックした。ネットランチャー二丁と予備のネット弾六発。硬化剤ランチャー二丁と予備の硬化剤弾十発。HK416F三丁と予備弾倉十二個。AT‐4CSが一基。LU‐213破片手榴弾が十個。加えて、あまり役に立つとは思えないが、PAMAS G1自動拳銃が二丁と予備弾倉四個。
「待たせたな!」
駆け込んで来た亞唯が、M201の運転席に飛び乗った。すぐに、エンジンを始動させる。
「スカディ、シオ。入り口を頼むよ!」
助手席でタブレットを操作しながら、ジョーが指示した。シオはスカディと共に飛び降りて、作戦基地の出入り口を隠している偽装幕を引き開けた。すかさず亞唯と雛菊がM201を発進させ、外に出す。シオとスカディは偽装幕を元に戻すと、後部に飛び乗った。
「よし、リンクもばっちりだ。亞唯、北東に向かってよ! 針路0‐4‐0だ!」
ダブレットを注視しながら、ジョーが指示を出す。
「了解! 雛菊、行くぞ!」
「ええで」
M201は、細かい砂礫を蹴立てて勢いよく走り始めた。
第八話をお届けします。




