表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 15 魔法の島解放せよ!
340/465

第二話

「ただいまー」

 磯村聡史はいつも通りに帰宅した。

「お帰りなさいなのです、マスター!」

 出迎えてくれたシオが、通勤用カバンを受け取ってくれる。

 聡史は上着を脱ぎながら部屋に入った。台所……トイレと風呂への廊下兼用の狭いスペースだが……の方から、ミリンが夕食の支度をしている物音が聞こえてくる。

「お帰りなさいませ、マスター」

 ミリンが、顔だけ覗かせて聡史に言う。

「ん、ただいま」

 聡史は上着をハンガーにかけると、卓袱台の前にどっかりと腰を下ろした。

「シオ。カバンをくれ」

「どうぞ!」

 シオは片付けかけたカバンを聡史に差し出した。聡史が、中から駅前の書店のロゴが入った紙袋を取り出す。

「おおっ! お買い物して来たのでありますか! これはきっと『妖精ブローチ㊙図鑑PART3 サガさんの秘密ばい!』ですね!」

 シオは購入を予定していたムックのタイトルを口にした。

「残念だが違うぞ」

「開けていいでありますか?」

 シオは聡史に許可を貰ってから紙袋を開け、中身を取り出した。

「TMI徹底攻略! 裏技&便利技満載! パーフェクトガイド最新版!」

 シオは帯に記されている文字を読んだ。千葉にある大型テーマパーク、TMI……東京マジカル☆アイランドのガイドブックだ。よく☆の代わりに中黒でマジカル・アイランドと表記されることがあるが、星印を使うのが正式名称である。

「おおっ! これはTMIの解説本! マスターには世界一似つかわしくない場所のガイドではないですか!」

「言い過ぎだぞ、それ」

 聡史は苦笑した。たしかに、縁遠い施設ではある。

「TMIと言えば!」

 シオは片足立ちになると、両腕を斜め下に伸ばして広げた。

「命!」

「……一応突っ込むとそれはTMIじゃなくてTIMの方な。しかしいくらなんでもそのネタ古すぎるだろ」

 聡史が、呆れ顔で言う。

「マサチュー……」

「それはMITな」

 続いてボケようとしたシオの先を読んだ聡史が、ボケの途中で突っ込みを入れる。

「はっと! TMIと言えばTDLやTDSと並んでデートのメッカ! これは、マスターに彼女ができたフラグでは! これは驚天動地の一大事なのです! 明日はきっと関東直下型大地震か富士山大噴火か北〇鮮の弾道ミサイル直撃か何か勃発するのであります!」

 シオはばたばたと腕を振り回した。

「おいおい」

 聡史が、気の無い突っ込みを入れる。

「マスター! 明日は会社をお休みするのであります! これは明らかに破滅フラグが立ってしまったのであります! きっと、家を出た途端にダンプさんに跳ね飛ばされて、異世界転生するかゾンビとしてよみがえるか、あるいは魔法少女に救われて強制筋トレさせられるか、の三択になるのであります!」

「……やな未来だな。言っとくが、デートじゃないぞ」

「男同士でTMI? マスターついにBLデビューでありますか?」

「誰得だ、それ」

「希少な女性読者向け、でありますか?」

「メタな話をするな。まあ座れ。ちゃんと説明してやるから」

 聡史はとりあえずシオを座らせた。

「兄貴から頼まれてな。茉里奈ちゃんを一日預かることになったんだ」

「おおっ! 姪御さんでありますね!」

 聡史にはちょっと歳の離れた兄がいる。ルックスは聡史と同様ぱっとしないが背は高めでスポーツマンでもあり、有名私大を卒業して一部上場企業に就職、学生時代から付き合っていた女性……しかもけっこうな美人……と早々と結婚したという、聡史とは比べ物にならない『勝ち組』寄りの人生を歩んでいる。その兄と義姉との間に生まれたのが、茉里奈ちゃんだ。まだ、小学校五年生だが、父親に似たのか背が高く、身長はもう百五十センチを軽く超えている発育のいい女の子だ。顔は幸いにして母親似なので、結構可愛らしい。

「兄貴の友達が結婚式でね。東京で式を挙げるんだ。俺が茉里奈ちゃんを預かれば、兄夫婦はそっちに専念できる。茉里奈ちゃんはTMIで一日遊べる。俺は茉里奈ちゃんと一緒にいられる。一石三鳥だな」

 聡史がにやけた。日頃女っ気の薄い生活をしているので、小学生とは言え可愛い女の子と遊べるのは嬉しい。茉里奈ちゃんの方も聡史に懐いており、本来ならば『叔父さん』なのだが、聡史のことを『お兄ちゃん』と呼んでくれる。

「なるほど。そこでこれを読んで下調べして、当日は完璧かつスマートにアトラクション巡りをしようという算段なのですね!」

 シオはガイドブックをぱらぱらとめくった。

 TMI……東京マジカル☆アイランドは、千葉県沖の東京湾に作られた人工島にある巨大テーマパークである。駐車場や付属ホテルなどを含めた施設の総面積は約八十万平方キロメートル。『アイランド』と称してはいるが、実際には『アイランズ』であり、六つの島からなる。メインアイランドは頂点を南側に向けた五角形をしており、その各辺それぞれに、底辺をメインアイランドに向けた三角形の小島……各小島の形状面積は同一である……が狭い水路を挟んで付属しているので、全体は五芒星の形状を成している。

 五つの小島はそれぞれ『ファイブ・エレメンツ』の地・水・火・風・空に対応……半ばこじつけだが……しており、北側にあるメインエントランスやショッピングモールのある『風の島』、東側にあるほぼ丸ごと駐車場の『空の島』、南西側にあるシーサイドリゾート風の『水の島』、南東側にある宿泊施設が集中する『地の島』、そして西側にある管理施設が設けられ、ゲスト立ち入り禁止の『火の島』となっている。

 広い園内なので、移動に便利なようにメインアイランドの外周を巡る形で地下鉄……といっても、蓋を被せた溝の中をトラムが走っているだけだが……が運航している。メインアイランドにも、島内を縦断、横断するように十文字にトラムが走っており、こちらは雰囲気を損ねないように蒸気機関車風に見せかけた電動車が客車を引っ張るようになっている。

 TMIのメインテーマは、ずばり『魔法』である。何が何でも、魔法、である。例えば、島内を走る蒸気機関車だが、これも実は『魔法』で動いているという設定であり、運転士……完全自動運転なので、『運転台』にいるのは魔法使いの衣装を着たアルバイトの男女だが……が火室にくべるのは石炭ではなく、『マナ』である。『マナ』に魔術で着火し、燃焼させ、蒸気を作って機関車を動かす……こうすると、直接魔術を使って『マナ』を消費し、機関車を動かすよりもエネルギー効率がいいというのが、TMIにおける魔法体系の公式設定である。ガラス張りになっている運転台をゲストが覗き込むと、黒いローブを着た『運転魔術師』が、呪文を唱えながら小さな火室に半透明の小さな『マナキューブ』を放り込んでいる姿が見える。……実際には、固形燃料を燃やしてお湯を沸かし、機関車の煙突から煙っぽく見える水蒸気を噴出させているだけなのだが。

 そのようなわけで、園内は魔法だらけである。中央にある魔術機関車の駅は『マジカルステーション』、その背後にそびえているランドマークは『マジカルキャッスル』 各エリアも『マジカルタウン』『マジカルスクエア』『マジカルマウンテン』『マジカルフォレスト』『マジカルコースト』『マジカルランチ』『マジカルレイク』『マジカルヴィレッジ』等々、しつこいくらいに『魔法』である。

「よし! それでは忙しいマスターに代わって、あたいがこのガイドブックを徹底研究しましょう! 当日はあたいが完璧なガイド役をこなして見せるのであります!」

 シオはどんと胸を叩いた。

「……おいおい。お前も行くつもりか?」

「もちろんであります! お供するのであります」

「却下だ。兄貴から、軍資金は頂戴できるはずだが、お前の入場料までは出せんぞ」

 にべもなく、聡史が言う。

 入場料を徴収する施設で、自立ロボットの扱いをどうすべきか?

 世間では、身体障害者の介護・補助ロボットを除き、基本的に自立ロボットに対しては、成人と同様の入場料を徴収するのが常識となっている。営業する側にしてみれば、通常の客と同様に扱わねばならない対象である以上、料金を取るしか選択肢はないのだ。

 いや、むしろテーマパークなどでは『ゲストとしてのロボット』は邪魔者でしかない。飲食はしないし、土産物もろくに購入しないから、儲けには繋がらないし、その場に『溶け込めない』から非日常空間を売りにしているテーマパークとしては『要らない』存在でもある。今はどこのテーマパークでも禁止行為となっているが、民生用ヒューマノイドロボットが普及し始めた頃には、アトラクションの行列に並ばせて順番取りをやらせる、という行為が頻発したことも、これらテーマパークにおけるロボットの入場が歓迎されない理由のひとつであろう。

「お前も子供料金じゃなく、正規の大人用パスを買わなきゃならんのだぞ」

 聡史が、少しばかり厳しい表情で言う。

「うー」

 シオは唸った。小遣いを貯めてあるから、自腹を切れば行けないこともないが、マスターが駄目だという以上勝手についてゆくわけにもいかない。

「まあ、何か土産を買ってきてやるから、それで我慢しろ」

 表情を緩めた聡史が、シオの頭を撫でながら言う。

「それなら、リーゼロッテちゃんのとんがり帽子がいいのであります!」

 シオはそう言った。リーゼロッテは、TMIの公式マスコットキャラクターの一人で、美少女魔術師と言う設定である。いかにも魔法使いっぽい黒いとんがり帽子と、長い金髪がトレードマークで、公式グッズとして金色の人造毛髪が付いたとんがり帽子が販売されており、TDLにおけるミッ〇ーマウスの帽子のように、園内を被って歩いている若い女性は多い。

「よしよし。お土産はそれにしよう」

「まあ。何のお話ですの?」

 夕食の支度として、卓袱台を拭きに来たミリンが、話に加わって来る。シオが、ガイドブックを指し示しながら、事の次第を早口で説明した。

「まあ。姪御さんですか。わたくしはお目に掛かったことはないですわね」

 ミリンが、言う。

「ミリンちゃんがウチに来てからは一度も来ていませんからね! かなりの美少女なのです! マスターの姪には見えないのです!」

 ずけずけと、シオが言う。……事実だから仕方がない。

「そうですマスター! ミリンちゃんにもお土産を買ってきてやるべきなのです!」

 シオが唐突にそう言いだした。

「もちろん買ってくるつもりだよ。ミリン、お前はなにがいい?」

「マスターが選んでくださるものなら、何でも結構です」

 ミリンが、微笑んで言う。

「あたいはリーゼロッテちゃんのとんがり帽子を買ってきてもらうのであります! はっと! ならばミリンちゃんはアーデルハイトちゃんのとんがり帽子でいいのでは?」

 アーデルハイトはリーゼロッテ同様、TMIの公式マスコットキャラクターで、リーゼロッテの親友かつ相棒の美少女魔法使い、という設定である。リーゼロッテの物と形は同じで色違いの赤いとんがり帽子がトレードマークだ。付いている髪は黒髪なので、グッズとしての売れ行きは被った姿が『写真映え』するリーゼロッテの方が上である。ただし、アーデルハイトはリーゼロッテよりも清楚な雰囲気で、しかも胸が大きいという設定なので、『大きいお友達』にはこちらの方が人気である。

「センパイと色違いでお揃いですね! 嬉しいです」

 ミリンが、嬉しがる。

「おおっ! これでザビーネ姫救出作戦のアトラクションごっこができるのであります! マスター、カールマインツ伯爵のコスプレをしてもらえますか?」

 シオはそう要請した。

「……それ、たしか悪役だよな。ザビーネ姫を誘拐した……」

 聡史が、ガイドブックをシオから取り戻してぱらぱらとめくり始める。

「センパイ、いくらなんでもマスターに悪役を振るのはまずいです」

 ミリンが、抗議する。

「そうでした。では、ヴィムくんで」

「ウサギじゃないですか」

 ヴィムはリーゼロッテの使い魔だ。純白のアンゴラウサギである。

「ならばエッカルトくんでは?」

「……ヤドカリですね」

 エッカルトはアーデルハイトの使い魔。黄色い身体と虹色の殻を持つ大型ヤドカリである。

「まあいい。そんなことより腹が減ったぞ。ミリン、今日のメシはなんだ?」

 ガイドブックをぱたんと閉じた聡史が、ミリンを見る。

「今日はお寿司です」

 ミリンが、にこりと微笑んで言う。

「おお、手巻き寿司か。久しぶりだな」

 手巻き寿司は、磯村家の夕食としてたびたび食されるメニューである。ネタはスーパーの鮮魚売り場で売っている『手巻き寿司セット』を買ってくるだけ。あとは、炊飯器でご飯を炊いて酢飯を作り、こちらも買って来た『手巻き寿司用』の海苔を準備し、あとは醤油とチューブ入りの山葵を出せば準備は整う。ガスコンロも包丁も使わないから、AI‐10でも作れるメニューだ。

「手巻き寿司ではないのであります!」

 シオが、若干得意げに言った。

「じゃ、ちらし寿司か」

「違うのであります! 握り寿司なのであります!」

「スーパーの特売品か?」

 若干テンションの落ちた聡史はそう訊いた。近所のスーパーの握り寿司は、味自体は悪くないのだが、ネタが芸術的なほど薄く、ちょっと残念な作りなのだ。もちろん、その分安いのだが。

「違います!」

「じゃあ、はらくま寿司か?」

 聡史は、テイクアウトもしている近所の回転寿司の名前を出した。

「違うのであります!」

「エータ寿司か?」

「そこも違うのであります!」

「じゃ、どこのだ?」

「聞いて驚くのであります! あたいとミリンちゃんとで握ったお寿司なのであります!」

 シオが、寿司を握る手つきをしながら、自慢げに言い放つ。

「へー。お前らが握ったのか」

「どうぞ、マスター」

 ミリンが、台所から大皿を運んできた。

「おお。見た目はそれっぽいぞ」

 ネタは、スーパーで買って来た『握り寿司セット』だろう。鮪の赤身、イカ、甘海老、サーモン等々、それなりの握りずしが皿の上にみっしりと並んでいる。イクラの軍艦巻きもあった。

「山葵は入ってますから!」

 シオが説明しつつ、小皿に醤油を注いでくれる。

「ではさっそく」

 聡史は箸で鮪をつまむと、醤油を少しだけ付けて口に入れた。

「おお。握り具合もちょうどいいぞ」

「センパイと一緒に練習しましたから」

 ミリンが嬉しそうに言って、グラスにビールを注いでくれる。

「上出来だ。これからもたびたび作ってくれ」

 ビールを美味そうに飲みながら、聡史は上機嫌で告げた。


 第二話をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひょっとして今回は、日本国内でテロが起こる話ですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ