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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 14 国宝『黒松』確保せよ!
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第二十一話

 空軍大尉への尋問は難航した。

「拷問でもなんでもするがいい。俺は絶対に大統領を裏切らん。何があっても喋らんからな」

 後ろ手に縛られ、キャビンの床に座り込んだ状態で、空軍大尉がイルキンを睨みつける。

「味方識別コードが判らないと、空域進入できないー。なんとかならんかー」

 見守っていた畑中二尉が、小声でスカディとシオとベルに相談する。

「時間があれば説得できるかもしれませんが……」

 スカディが、珍しく語尾を濁す。

「どんなに強気な奴でも弱点はあるのであります! そこを衝けば喋るはずなのであります!」

 シオはそう提案した。

「あの大尉さんの弱点はなんでしょうかぁ~」

「ははあ。どうやらどうすれば喋るか相談しているようだな」

 空軍大尉が、こそこそと日本語で話し合っていた畑中大尉と三体のAI‐10を、嘲りの色を見せて睨む。

「いいことを教えてやろう。俺の弱みは女房だ。あいつが喋れと命じたら、逆らえないだろうな。アデリーナを連れてくるがいい。できるものならな」

 空軍大尉が言って、下手な芝居じみた乾いた高笑いをする。

「さて、どうするか」

 イルキンが、後ろを振り返ってアスミルとズラータを見る。

 副操縦士の少尉の方もなかなかに頑固で、大尉と同様何も喋ってくれそうにないうえに、味方識別コードは大尉しか知らないらしい。大統領専用機の本日のコールサインや、別荘の航空管制との交信方法などは、命が惜しいアバソフ副大臣とその秘書官の証言から確定できたが、肝心の味方識別コードが判らないのでは作戦の進めようがない。二十桁近い数列、ということは過去の例……アバソフとその秘書官は何度もこの機を利用して別荘に行っている……からして確実なのだが。

「アサドフ大尉。どうしても喋ってくれんかね」

 アバソフ副大臣が、訊いた。

「お断りします」

 空軍大尉が、きっぱりと拒絶する。

「仕方がない。わたしは死にたくないからな。諸君、アサドフ大尉の所持品を検めてくれ。あの長い数列、記憶だけに頼るのは難しい。どこかにメモしてあるはずだ」

「閣下!」

 空軍大尉が、アバソフを睨みつけた。

 『СС』のメンバーが、空軍大尉から没収した手帳を精査する。別のメンバーが、コックピット周りを探した。もう一人が、再度空軍大尉のポケットの中を探す。

 見つかったそれらしい数列は、手帳に書き込まれたものが十四個であった。そのうち十一個は古い書き込みなので、除外できる。残るは、三つ。

「どれが本物かな」

 イルキンが、首を捻る。

「任せて下さいー」

 畑中二尉が、イルキンから手帳を借りた。スカディに目配せしてから、一つ目の数列を読み上げる。

「これが本日の味方識別コードか?」

「知るか」

 畑中二尉の問いかけに、空軍大尉が憤然として答える。

 同様にして残り二つの数列も読み上げた畑中二尉は、それぞれに音声での『反応』を得ることに成功した。にやにやしながら、スカディを見る。

「どれだー?」

「最初の数列ですわね。間違いありません」

 スカディが、きっぱりと答える。



「亞唯、雛菊。Mi‐24の兵装は使えそう?」

 スカディが、内蔵無線機で訊く。低出力なので、他所で傍受される可能性は少ないし、よしんば聞かれても日本語なので、作成意図がばれるおそれもほとんどないだろう。

『何とかなりそうだよ。対戦車ミサイルの発射誘導手順はマスターした。ロケット弾と機関砲も撃てるけど、こっちはパイロットの腕に命中精度が依存されるから、あんまり当てにしない方がいいね』

 亞唯がそう返答する。

『こっちも同様やね。慣れてへん機体やから、ホバリングも難しいと言っとるで』

 雛菊が、言う。

「そう。作戦が決まったわ」

 スカディはMi‐24の役割を説明した。まず最初に潰さねばならないのは、二両の2K22ツングースカ自走対空車両である。搭載する9M311地対空ミサイルは、最大射程八キロメートル。有効射高は十五メートルから三千五百メートルなので、低空飛行するヘリコプターにも有効だ。この高性能ミサイルにも弱点はあり、近距離……二千五百メートル以内では、発射直後の空力的制御が不十分なので、誘導できない。

 この欠点を補ってくれるのが、二門搭載している2A38/30ミリ機関砲である。最大有効射程三千メートル、レーダーによる自動照準と、バックアップの射手による光学照準の組み合わせで電子的妨害にも強く、一回当たりの標準的射撃弾数二百発……一門当たり百発……を三秒ほどで発射する能力がある。

 まさに攻撃ヘリや固定翼近接航空支援機殺しのための兵器である。これをまともに機能させたら、素人が飛ばすヘリコプター三機など、一分と掛からずに叩き落とされてしまうだろう。

 次に危険なのは、T‐90MBTである。名戦車T‐72をベースに、種々の新機軸を盛り込んで造られたこの戦車は、RPGだけで相手するには少々手強すぎる。100ミリ低圧砲、30ミリ機関砲、9M117対戦車ミサイル、さらにPKT機関銃三丁と盛りだくさんの兵装を備えたBMP‐3も、歩兵相手なら無双できる強力な兵器だ。これも空から叩かねば、『СС』側に勝ち目はあるまい。

 歩兵部隊も、9K38イグラ肩撃ち式地対空ミサイル……NATOコードネームSA‐18グロース……を数基有しており、ヘリコプターに対抗する能力を十分に備えている。

『奇襲効果がいつまで続くか、が鍵だな』

 スカディの説明を聞き終えた亞唯が、言った。

「同感ね。効果を持続させるために、せいぜい暴れ回ってくださいな」

 スカディはそう告げた。

『任せてや。暴れるのは、けっこう得意やで』

 雛菊が返し、ひひひっ、と笑った。



 別荘までの距離が二十キロメートルを切ったところで、Mi‐17のコックピットに潜り込んでいたズラータが、副操縦士席に着いているギョルTVのパイロットに、航空無線のチャンネルを別荘との交信用周波数に切り替えるように指示を出した。

「こちら『ラトゥーニ』 『ユピーチル』応答願います」

 スカディが、無線で別荘の航空管制……と言っても、給油可能なヘリパッドを空軍の要員が管理しているだけだが……に呼び掛ける。声は、本来のMi‐17の機長である空軍大尉のものだ。スカディの『声まね』能力を知らなかったパイロット二人が、ぎょっとした表情で彼女の方を見たが、ズラータに睨まれてすぐに正面に向き直る。

『こちら『ユピーチル』 事情は聞いています。識別符号をどうぞ』

 スカディが『耳』に押し付けているヘッドセットから、即座に返答が返ってくる。

 スカディは、手帳に書いてあった一連の数字をゆっくりと告げた。

『確認しました。着陸進入を許可します。進入方向、編成はいつも通りでよろしいですね?』

「はい。0‐9‐0よりの進入。随伴機はMi‐24二機です」

 スカディは、後ろで見守っている人々に向け親指を立てながら答えた。無線に出た男の声に、顕著なストレスは検出できない。偽りを言ったり、何かを隠していたりする気配は皆無だ。

 どうやら、奇襲は成功したらしい。



曹長スタルシナ、航空管制より連絡です。方位0‐9‐0より大統領専用機および随伴機二機、合計三機が進入中。直ちにレーダー照射中止。兵装作動不可を確認せよ、とのことです」

 別荘内に張り巡らせた内線電話を受けた伍長が、上官である曹長にそう報告した。

「了解した」

 曹長はそう返答して2K22の車内に潜り込んだ。砲塔後方にある捜索レーダーは、スタンバイ状態のままである。付近にある空軍のレーダーサイトから警告がなされた場合にしか、稼働させない決まりなのだ。砲塔の前部にある目標追尾/射撃統制用レーダーに至っては、警備責任者である陸軍中佐か、その代行者が命令しない限り稼働させない決まりである。……大統領の別荘から誤射されて民間機が撃墜された、などという事件が起きれば、さしものラザエヴァも支持率の大幅低下は免れない。

 曹長は目標追尾/射撃統制レーダーが動いていないこと、そして捜索レーダーがスタンバイ状態にあることを確認した。次いで、機関砲と対空ミサイルの兵装マスタースイッチがいずれも切られていることを二重に……パイロットランプが点灯しておらず、スイッチも押し込まれていないことを確認する。2K22は、自動化が進んでいる。全自動状態であれば、勝手に目標を識別追尾し、ミサイルや機関砲を指向するところまで自力で行ってしまうのだ。こんな状態でうっかり発射スイッチに触れてしまえば、狙われた航空機は即座に撃墜されてしまう。



「ここがあの女のハウスね」

 別荘が視界に入ってくると、スカディがそうつぶやいた。

 貧相な森……降水量が少ないので、温帯や亜寒帯によくみられる鬱蒼とした濃密な森と比べると、樹間も広く、付けている葉も乾燥を防ぐために厚く小さめなので、そう見えてしまう……に囲まれた広い敷地のど真ん中に、総二階建ての灰色の屋根の大きな主棟が見える。手前には庭園が広がっており、そのさらに手前にはヘリポートと小さな格納庫。敷地の中には、鮮やかな色の屋根を持つ数棟のゲストハウスが散らばっている。朝日はまだ昇っておらず、辺りは薄暗いままだ。

「亞唯、雛菊。手筈通り頼むわよ」

 スカディが、内蔵無線機で告げた。

 Mi‐17の機内では、すでに襲撃準備が整っていた。『捕虜』の面々は、キャビンの壁に繋がれて身動きができない状態に置かれている。最初に降りるヘリポート確保組の四人は、それぞれの武器を抱えて待機中だ。スライドドアの前には、75発入りドラムマガジンを装着したRPK軽機関銃を抱えた大男が陣取っている。ドアガナーの代わりである。



 Mi‐24二機が先行する。高度は約二百メートル。

 亞唯の鋭い『眼』は、ヘリポートの脇に居る2K22自走対空車両を見つけていた。こちらのレーダー警戒受信機に反応はないので、捜索レーダーも射撃統制用レーダーも停止中のようだ。

「雛菊。ヘリポートのツングースカを頼む。そのあと主棟の右側から突っ込んでくれ。あたしは左側から先行する」

『了解や。まかしとき』

 亞唯からの無線に、雛菊が軽快に返答する。



 目標までの距離1500m。

「にーちゃん。減速や」

 雛菊は、若いパイロットに指示した。

 すでに、目標である2K22は照準器の真ん中に捉えている。9M114は無線方式のSACLOS……半自動指令照準線一致方式なので、照準器の中央に目標を捉え続けていれば、必ず命中する理屈である。

 距離1000mで、雛菊は9M114を発射した。ばしゅ、っという発射音と共にチューブランチャーを飛び出した細長い弾体が、三秒ほど掛けて飛翔し、2K22の砲塔に突き刺さる。

 HEAT弾頭の重量は十二ポンド。六百ミリの装甲板を貫通できる能力を持つ。2K22の砲塔が、爆発であっさりと引きちぎられる。

「よっしゃ! にーちゃん、主棟の右側を航過や」

 パイロットが、機体をわずかに滑らせて進路を変更する。雛菊は対地目標を探した。

「おったで」

 正門近くにあるコンクリート製平屋建ての建物の前に、T‐90戦車が二両並んで停めてある。

「にーちゃん、ホバリング頼むで」

 雛菊は手前のT‐90に照準器を当てながら指示した。このままでは、目標を通り過ぎてしまう。ホバリング中のヘリコプターは脆弱となるが、そこは致し方ない。奇襲効果が薄れる前に、最大限の戦果をあげておきたい。

 雛菊は二発目の9M114を発射した。パイロットがMi‐24の操縦に慣れていないせいで、ホバリングの安定性が悪く、照準器内で目標がぐらぐらと揺れていたが、雛菊は何とか照準を維持した。

 T‐90は、ロシア製の優れた爆発反応装甲を装備しているが、それは被弾する確率の高い車体前面、砲塔全面と側面、それに車体側面だけである。砲塔上面や車体後部上面は、通常の複合装甲だ。

 雛菊が狙ったのはそこであった。角度が悪いから撃破とはいかず、装甲を貫通して損傷を与えるだけに留まるかもしれないが、作戦のあいだだけ使用不能に出来れば目的は達成できる。

 9M114はほぼ狙い通りの箇所に命中した。オイルに引火したのか、小さな炎が上がる。

 雛菊は次弾も発射した。もう一両のT‐90にも命中し、エンジンルームから黒煙が噴き出す。



 亞唯が発射した9M114が、狙い通り2K22ツングースカを破壊する。

「おっさん、左三十度」

 亞唯はホバリングを続けているパイロットに、機首を左に振るように指示した。それに応じてパイロットがアンチトルク・ペダルを踏み込んだが、慣れていないせいで亞唯が意図したよりも機首が左に向きすぎてしまう。

 構わずに亞唯は9M114を発射した。誘導ミサイルなので、多少のずれならば問題ない。

 どかん。

 9M114はBMP‐3の砲塔側面に着弾した。あっさりと装甲を貫通し、小爆発が起きる。一瞬の間をおいて、主砲弾薬に引火したらしく、大爆発が起こって砲塔がリングから外れて宙に舞う。

 続いてもう一両のBMP‐3に9M114をお見舞いしようとした亞唯だったが、付近の建物からばらばらと歩兵が数名走り出てきたことに気付いて考えを変えた。その中の二人が、細長い棒状のランチャーらしき物を携えていたからだ。

 全長1メートル半程度。対戦車ロケットランチャーにしては長すぎる。陸軍が装備している9K38イグラ地対空ミサイルだろう。……乗員がまだ乗り込んでいないBMP‐3よりも、はるかに危険な代物である。

「おっちゃん、右四十五度、機首下げ五度!」

 亞唯はとっさに指示を出した。散開し始めている歩兵を屠るには、ロケット弾を使うしかない。無誘導なので、機首を目標に指向する必要がある。

 パイロットが、アンチトルク・ペダルで機首方向を変更しつつ、サイクリックを操作して機首下げしようとする。

 がくがくとMi‐24が揺れた。機首はなんとか右方向に振られ、四十五度近く……亞唯の見たところ、四十二度、といったところか……に向いたが、下げ角の方はいささか深すぎて、八度近く下を向いてしまう。

 亞唯は八発斉射を選択した。すでに歩兵は散開し、9K38を持った兵士二人は肩に担いだ射撃姿勢を取っている。頑健さを誇るMi‐24と言えども、直撃を喰らえば大破しかねない。姿勢を修正している時間はない。

 UB‐32A‐24ロケットポッドの一基が、三十二発収納するS‐5ロケット弾のうち八発を一斉発射……厳密には同時発射ではないので、『超速射』状態だが……した。

 S‐5は基本設計の古いロケット弾であり、その命中精度の悪さには定評がある。そのうえ、照準……機首方位がずれていたので、発射されたS‐5は全弾が目標とされた歩兵たちの手前に着弾して、炸裂した。弾頭はすべて破片効果榴弾であり、多数の断片を撒き散らしたが、歩兵たちは全員が着弾前に伏せたり手近の遮蔽物の陰に隠れたりしたので、負傷した者も居なかった。

 攻撃の物理的効果は皆無であった。だが、心理的効果はあった。目の前の攻撃ヘリから撃たれて、動揺しない兵士はごく少数だろう。

 ほとんどの歩兵が、逃げ出した。9K38を担いで来た兵士の一人は、それを放り出して慌てて走り出す。

 逃げなかったのは三人だけだった。二人が、AK‐74Mを肩付けにしてMi‐24を撃ち始める。残る一人が、改めて9K38を構え、狙いを付けた。

 5.45×39弾がぱらぱらと機体に当たったが、亞唯は気にしなかった。その程度の銃弾であれば、丸一日浴び続けてもまったく影響がないほどの装甲を、Mi‐24は有しているのだ。

「おっちゃん、もうちょい機首あげて!」

 亞唯の指示を受け、Mi‐24がわずかに機首を持ち上げる。

 再び、亞唯はS‐5を八発放った。今度は目標をまともに捉え、9K38を放とうとしていた一人を含む三人の兵士が、爆炎の中に消える。

「いいぞ! 次は左二十度、機首水平。もう一両のBMP‐3を仕留めるぞ」

 亞唯は彼女にしては珍しいはしゃぎ気味の声で指示を出した。今のところ、作戦は順調に推移しているようだ。


 第二十一話をお届けします。

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