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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 14 国宝『黒松』確保せよ!
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第十一話

 トラブルは、休憩終了直後にやって来た。

「東側より敵接近! 車両五!」

 岩山の上で見張っていたメンバーの一人が駆け下りてきて、アスミルとズラータにそう報告する。

「戦闘準備! この岩山を盾にするぞ!」

 アスミルが、素早く決断した。『СС』のメンバーたちが、それぞれの武器を手に、小グループに分かれて散る。

 AI‐10たちも、畑中二尉の許可を得ると、岩山の裾に陣取った。頭だけを出して、東側を窺う。

 灰色に塗られた、内務省公安部隊らしい車両群が見えた。四輪駆動車ラーダ・ニーヴァが二台、六輪トラックのウラル4320が二台、それにBRDM2偵察装甲車が一台。

「この敵はヤバいのでは?」

 シオは焦り気味に言った。兵員数は一個小隊程度と思えるので、こちらと同等だが、BRDM2装甲車はまずい存在である。旧式で軽装甲ながら、上部の銃塔に装備されているKPV14.5mm重機関銃は、当たり所によっては重装甲車の装甲すら撃ち抜く威力を持っているのだ。

「なあ。RPGくらい持ってるだろ?」

 亞唯が、すぐそばで双眼鏡を使っていたズラータに訊いた。

「ない。機動性重視の任務だったから、持ってこなかった」

 双眼鏡を眼から離さずに、ズラータが答えた。

 内務省の車両が停止する。こちらとの距離は、五百メートルほどか。トラックから降りた兵員が、分隊編成に分かれ、交互躍進を開始した。トラックの上から、RPK‐74軽機関銃が支援射撃を開始し、BRDMからも同軸のPKT機関銃の射撃が始まる。

「この地形では、逃げるわけにもいきませんわね」

 スカディが、後ろを振り返って言った。起伏に乏しく、植生にも乏しい平地である。逃げ隠れするのは、極端に難しい。南側の疎林に逃げ込んでもあまり意味はないし、北側の丘に立てこもっても退路を断たれればお終いだ。

 『СС』のメンバーが、岩山を盾にして反撃を開始した。AKMやAKMSをセミオートで撃ち、歩兵の前進を阻もうとする。

 BRDM2のKPVが連射を開始した。鋭い銃声と共に、大口径機銃弾が飛来し、岩山に突き刺さる。灰色の石片が榴散弾のように飛び散り、『СС』のメンバーが慌てて身を隠す。14.5ミリ銃弾の威力には凄まじいものがある。充分な予備弾薬と時間さえあれば、この岩山をすべて岩屑に変えてしまえるほどだ。もっとも、その前に銃身の寿命が尽きるだろうが。

「あの装甲車を潰さない限り、厳しいね」

 ズラータが、悔しそうに言った。

「よろしければ、わたくしが吹き飛ばして御覧にいれましょうかぁ~」

 ベルがそう言って、背負った網袋……PVV‐7がたっぷりと入っている……を揺らして見せる。

「いくらロボットでも、重機関銃の銃弾タマは防げないでしょう」

 ズラータが、懐疑的な表情でベルを見る。

「もちろんですぅ~。地雷で吹き飛ばすのですぅ~」

「地雷? どうやって?」

「こちらの望む位置にBRDM2を誘導しますですぅ~。まず部隊を三分してくださいぃ~。一隊は北側の丘の上に、もう一隊はこの岩山の北の方にぃ~。本隊は、西の方へ撤退する準備をしてくださいぃ~」

 ベルが、指差しつつ説明する。

「わたくしたちは岩山の南側で待ち伏せますぅ~。こちらが撤退すると敵の皆さんが思い込めば、BRDM2が追撃してくるはずですぅ~。岩山の北側に回り込むと、岩山と丘の両側から射撃されてしまうので、こちらは避けると思うのですぅ~」

「南側って……たっぷり三百メートルはあるよ?」

 ズラータが、南方を見やる。南側に広がる疎林と、岩山の南端のあいだには、まばらに丈の低い草が生えているだけの平地が広がっている。地雷原でも構築しない限り、BRDM2を仕留めるのは確率的に不可能だろう。

「動く地雷を作りますですぅ~」

 ベルが、自信ありげに言う。

「わかった。任せるよ」

 ベルの爆発物取り扱い技術の高さを目の当たりにしているズラータが、そう決断してベルの手を握った。ベルが、嬉しそうに握り返す。

「連絡役に雛菊ちゃんを置いていきますぅ~。何かあったら、雛菊ちゃんに言ってくださいぃ~」

「わかったよ」

 ズラータがさっそく、手近の『СС』メンバーの肩を叩き、アスミルへの伝令任務を命ずる。

「では皆さんは、わたくしを手伝ってくださいぃ~」

 ベルが走り出す。スカディ、亞唯、シオはそのあとに続いた。岩山の南端に着いたところで、ベルが脚を止める。

「わたくし、ここで地雷を作成しますですぅ~。では、作戦を説明いたしますですぅ~」

 PVV‐7が入った網袋を地面に下ろし、作業を開始しながらブリーフィングを始める。

「わたくしの予想通りならば、BRDM2は若干の歩兵を随伴してこちらへ回り込んでくるはずですぅ~。即製地雷にシオちゃんの持っている電線を取り付け、引っ張れば動くようにいたしますですぅ~。起爆は遠隔で行いますぅ~。皆さんはここで射撃して、随伴歩兵を牽制し、BRDMがなるべく疎林に近いところを通るように仕向けてくださいぃ~」

「理解したのであります!」

 シオはずっと背負っていた巻いた電線を下ろした。

「指向性を持たせるように成型するには時間が掛かるので、ちょっともったいないですがこのままにしておきますぅ~」

 ベルが言いながら、電気信管に持参の小型受信機を接続した。特定周波数を受信すると内蔵電池により通電するだけの代物で、持ち歩いていても法律法規に触れることはないが、電気信管とAI‐10の通信機能を組み合わせれば、短距離ならば無線方式の起爆装置として利用できる。難点は、周波数が一致すれば他所からの電波を拾っても起爆してしまうことだが、短時間であれば大丈夫だろう。

「こんなところでしょうかぁ~」

 ベルが、地雷を完成させた。PVV‐7の四百グラムブロックをほぼ正方形に並べ、パラコードで縛り上げて板状にしただけの代物である。

 シオはベルに指示されるままに地雷に電線を取り付けた。試しに引っ張ってみて、地雷がずるずると動くことを確認する。

「では仕掛けに行きますぅ~。スカディちゃんは見張りをお願いしますぅ~」

 ベルと亞唯が地雷を持ち、シオがまだ大部分を巻いたままの電線を持つという格好で、三体は走り出した。約百メートル進んだところで、地雷を地面に置く。シオは電線を繰り出しながら、疎林まで走った。

 亞唯はベルに指示されて、地面から乾いた土を掬い上げると電線に振り掛けた。ベル自身は、地雷に同じように土を振り掛けてカムフラージュを施す。これで、よほど接近しない限り、地雷は単なる地面の盛り上がりにしか見えないだろう。

 電線を敷き終えたシオが、反対側から土を振り掛けつつ戻って来くる。

「では、作戦開始なのですぅ~。あ、亞唯ちゃん。これをお渡ししますぅ~」

 ベルが、持っていたPP‐19と予備弾倉を渡した。

「じゃあ、こいつを持っていろよ」

 亞唯が、ズラータから借りっぱなしになっているP9Rを代わりに渡す。

 ベルは、無線で雛菊に『開始』を告げた。亞唯とシオが岩山へと戻ってゆくのを確認してから、地雷に取り付けた受信機の電源スイッチを入れる。



「後退開始!」

 アスミルが、命じた。

 畑中二尉と三鬼士長を含む十四人が、岩山から走り出した。内務省側の射線を避けつつ、なおかつ視認はされるようなルートを選び、東へと向かう。

 すぐに、内務省側が反応した。指揮を執る中尉が命令を怒鳴り、一個分隊の兵士がBRDM2の陰に入る。

 動き出したBRDM2が、同軸機銃から牽制射撃を行いながら、南西方向へと向かい始めた。一個分隊の兵士が、駆け足でその後ろを走る。



「よし。ベルが予測した通り、こっちへ来るぞ」

 隠れ場所から頭を突き出した亞唯が、BRDM2の接近を見て言う。

「もう少し引き付けましょう」

 PP‐19のセイフティを外しながら、スカディが言った。



 BRDM2は、かなり南側に寄った位置を進んでいた。『СС』側が対戦車ロケットなどを持っていないことはすでに気付いている……あればとっくに撃ってきているはずである……が、射程の短いライフルグレネードなどで射撃されることを警戒しているのだろう。

 疎林の中でくぼみに伏せているベルは、地雷に取りつけた電線をゆっくりと……秒速一メートルくらいか……で引っ張った。このままBRDM2が直進すれば、疎林の際から五十メートルほどの位置を通りそうだが、急に針路を代える可能性もある。車長がせっかちかつ大胆な性格であれば、大回りして岩山の東側に出て背後から攻撃するよりも、岩山南端に正対して射撃しつつ突っ込むことを選ぶかもしれない。そうなった場合、地雷を南へと引っ張り過ぎたら、その北側を通過されてしまう。

 岩山南端から、スカディたちが射撃を開始した。随伴歩兵が慌ててBRDM2の陰に固まる。銃塔から、KPVと同軸機銃が反撃を開始した。速度と進路には変化がない。ベルは、目標がこのまま通過すると判断し、地雷を引く速度を速めた。

 BRDM2がずんずんと近付いて来る。ベルは微調整に入った。引きを緩め、目標が急変針しても対応できるようにする。

 あと五十。四十。三十……。

 ベルは全力で電線を手繰った。あと十メートルの位置にBRDM2が達したところで、はぼ真正面に地雷を置くことに成功する。

 地雷が車体の下に消えた瞬間、ベルは送信した。

 どん。

 二十五個の四百グラムPPV‐7ブロックが起爆した。一両四十トンを超えるED4型の電車を吹き飛ばす目的で仕掛けられた量の爆薬である。全備重量がわずか七トンしかないBRDM2は、爆発によって文字通り宙を舞った。空中でくるりと裏返しになり、そのまま地面に叩き付けられる。衝撃で、外部装備品が一斉に外れて周囲に撒き散らされる。

 随伴歩兵も、全員が爆発に巻き込まれていた。爆風で数メートル吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。

「成功ですぅ~」

 ベルは嬉々として拳銃を抜くと、岩山に向け走り出した。



 内務省部隊を振り切った『СС』の小部隊は、さらに徒歩で西進すると、とある丘のふもとで迎えに来た幌付きトラック三台……いずれも古いカマズの六輪コマーシャル・モデルであった……に分乗した。日本勢……畑中二尉と三鬼士長、それにAI‐10五体は、アスミル、ズラータ、それに他の『СС』メンバー五人と共に、同じトラックに乗せられる。

 三台のトラックはそこで別れ、別々の方向へと走り出した。シオらの乗ったトラックは、埃っぽい田舎道……乾燥しているので、本当にすさまじい量の砂埃がトラックの後方にたなびいている……を低速でおおよそ北の方角へ向かう。

「どこへ向かうのですか?」

 畑中二尉が、アスミルとズラータに尋ねる。

「拠点のひとつだ。悪いが正確な場所は明かせないんで、あんまり外は見ないでくれ」

 アスミルが答えながら、後部のあおり板ににじり寄って外を眺めていたシオとベルに注意を促す。シオとベルは、大人しく指示に従い、あおり板に背を向けて膝を抱えた。

 『СС』メンバーの一人が、荷台に積んであった段ボール箱から五百ミリリットル入りのミネラルウォーターのペットボトルを出して、各人に配り始めた。畑中二尉と三鬼士長も一本ずつ貰い、さっそく飲み始める。

「うわ。炭酸入ってますね、これ」

 一口飲んだ三鬼士長が、口からペットボトルを離し、ラベルをしげしげと眺める。

「旧ソ連の連中は炭酸が好きなのだー。もともとクヴァス(伝統的発酵飲料/微炭酸)が飲まれていたし、ピョートル大帝が広めたレモネードを、後にボトリングして炭酸飲料にしたらこれが大人気となったー。いまでもレモンを使っていなくとも、果汁入り炭酸飲料のことをまとめて『レモネード』と称するくらいだー。おばーちゃんがフルーツ系炭酸飲料のことを全部『ファ○タ』と言うようなものだなー」

 畑中二尉が、笑いながら言う。

 三十分ほど走ったところで、トラックが停止する。アスミルに促されて降りたそこは、山間の小さな村であった。小川が村の只中を流れており、両側に作られた畑や果樹園に澄んだ水を供給している。

 ロボットが珍しいのか、サンダル履きの子供たちがこちらを注視していたが、アスミルに睨まれるとこそこそと逃げて行った。

「とりあえず、電気は来ているようですわね」

 傾いて立っている木製の電柱と架空電線を見て、スカディが安堵する。

「こっちだ」

 アスミルが、日本勢を一軒の家に案内した。ズラータと他の『СС』メンバーは、別の家に厄介になるようだ。

 家は壁が石積みになった古い家であった。あとから付け足したらしい窓は白く塗られた桟の多い木枠で、小さなガラスがはまっている。

 屋根はスレート葺きであった。穴が開いたのか、二か所ほど波板トタンで補修されている。

 内部は狭いが快適そうであった。板張りの床には、手織りらしい絨毯が敷かれている。調度は少なく、古びた木のテーブルと椅子しかない。

「ここは?」

 畑中二尉が、アスミルに訊く。

「おおよその位置は、スミヤ市の南西。そうだな、九十キロメートルくらいのところかな。とにかく、安全な場所だ。しばらくここに居るといい」

「判りました。早速ですが、紙とペンを貰えますか? 日本大使館関係者に渡す手紙を書きたいのです」

 うなずいた畑中二尉が、アスミルにそう依頼する。

「いつ頃書き上がる?」

「今日中には」

 窓から差し込む日差し……もうかなり弱まっている……を確認してから、畑中二尉が答えた。

「よし。そちらの手配もしておこう。明日の朝、手紙をスミヤ市の仲間に届ける使者を寄越してもらう。委細を説明した手紙を俺が書いておくから、一緒に持っていかせる。あとは、スミヤ市の連中に任せる形になる」

「ビザ取得のふりをして大使館内に入って、日本人の大使館員に表書きを見せるように指示していただけますか」

「判った。その旨しっかり書いておこう」

 アスミルが請け合う。



 筆記用具が届けられる前に、夕食が運ばれてきた。

 パンと羊肉入りの野菜煮込みという簡素なものだったが、羊肉はまったく臭みがなく……おそらく屠殺してから間もないのだろう……かなりおいしい夕食であった。

 夕食の皿が片付けられたところで、一人の少女がばらの紙を十数枚と、鉛筆二本を持って来てくれた。畑中二尉が礼を言って、受け取る。

「TMって、なんですか?」

 緑色に塗られ、金色のキリル文字が記されている鉛筆を珍し気に眺めながら、三鬼士長が訊いた。鉛筆の尻の方に、『TM』とくっきり表示されているのだ。メーカーロゴだろうか。

「あー、それは硬度表記だー。日本やヨーロッパの表記だと『HB』に相当するー。BがロシアだとMで、HがTなのだー」

 ざっと説明した畑中二尉が、テーブルの上に紙を広げると、なにやらぶつぶつと呟きながら暗号手紙作成を開始した。


 第十一話をお届けします。

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