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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 13 怪しいファミレス内偵せよ!
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第二話

「おはよう、諸君」

 長浜一佐が、にこやかに挨拶する。

 いつもの岡本ビルの一室である。パイプ椅子に座ったAI‐10五体。長テーブルのノートパソコン前に座る畑中二尉と三鬼士長の凸凹コンビ。立ったままの石野二曹、といったお馴染みの面子だ。

「早速だが、お客さんが来ている。入ってもらおう」

 長浜一佐が、石野二曹に向かってうなずく。

 石野二曹が扉を開けると、すぐに小柄な体が滑り込んで来た。女子校の制服を思わせるチェック柄のミニスカートと喉元のネクタイ。CIA所属のAI‐10、ジョーである。

「またジョーきゅんでありますか」

 シオはうんざり顔で言った。

「CIAの下請け仕事は飽きたで」

 同じく不満顔で、雛菊が続ける。

「やあみんな! 久しぶりだね!」

 不満の声を意に介さず、ジョーが元気よく挨拶し、長浜一佐の横に立つ。

「あー、今回の任務は、CIAの依頼ではあるが、下請け仕事ではないぞ。詳しくはジョーから説明してもらうが、日本の安全保障にも大いに関連する……と思われる事案だ。ではジョー、頼んだよ」

 長浜一佐が言い訳じみたことを言ってから、ジョーにあとを任せる。

「どうにも不安ですわね」

 スカディが、ぼそっと言った。

「スカディちゃんに同感なのですぅ~」

 ベルもそう応じる。

「ま、とにかく話を聞こうじゃないか」

 亞唯が、前向きにそう発言した。

「ありがとう、亞唯。じゃあ、始めるよ。実は数年前から、CIAは外国の情報機関と協力して、複数の個所である作戦を展開していたんだ。ちなみに、この作戦に日本の情報機関は関わっていないよ」

「ある作戦。怪しいのであります!」

 シオはさっそく茶々を入れた。

「別に怪しくはないよ。CIAが現地情報機関と協力し、偽の武器商人をでっち上げる、という作戦さ。高性能兵器を格安で誰にでも売るという評判を流布して、反米テロリスト、反体制左翼運動組織、麻薬カルテル、海賊、その他犯罪者集団などを引き寄せる。商品を売るふりをして相手の情報を集め、適当なところで現地情報機関が強襲、一網打尽にするという寸法さ。ま、古典的なやり口だけどね」

 少しばかり自慢げに、ジョーが説明する。

「ほう。戦果は上がってるのかい?」

 亞唯が、訊いた。

「詳細はもちろん言えないけどね。そこそこ、かな」

 ジョーが、口を濁す。

「ひとつ疑問がありますわ。親米の武装勢力や、反米国家の反体制組織が接触してきた場合は、どうしますの? そちらも壊滅に追い込むのですか?」

 スカディが、訊いた。

「えーと。まあ、それは状況に応じて上の方が適切に判断するんじゃないかな」

 あからさまにとぼけた口調で、ジョーが答えつつ視線を逸らす。……おそらく、それら親米組織には素直に武器を売り渡してやるのだろう。ひょっとすると、情報や資金の面で援助すらしているかも知れない。

「さすがCIAですぅ~。やることがえげつないのですぅ~」

 ベルが、からかう様に言う。

「そんなことより、ブリーフィングを続けるよ。東アジアでは、マニラでこの作戦が行われていたんだ。NICA(フィリピン国家情報調整庁)とNBI(フィリピン国家調査局)と協力してね。ところが、武器商人に成りすましていたNICAのエージェントが、先日殺害されてしまったんだ」

「それは、お気の毒やな」

 雛菊が、言う。

「フィリピン側が捜査しているが、犯人はまだ判明していない。だがまず間違いなく、兵器取引絡みの殺人だよ。CIAが追っている手掛かりは二つあるんだ。ひとつは、彼がMoAと取り引きを進めていた、と報告していたことだよ!」

「MoAでありますか!」

 シオは俄然興味が沸いて身を乗り出した。

『ミッション・オブ・エイジア』略称MoAは、謎のテロ組織である。東南アジアを拠点とするキリスト教原理主義系組織で、資金力が豊富。おそらく反日で、中国と何らかの関りがある、と見られているが、詳細は誰も……CIAですら掴んでいない、という存在だ。

「なるほど。マニラならMoAの勢力範囲内だろうから、喰い付いてきても不思議はないな」

 亞唯が、納得したように言う。

「もうひとつの手掛かりは、彼だよ! ミズ・ミキ。お願いします」

 ジョーが半ば振り返って、三鬼士長に呼びかけた。三鬼士長がノートパソコンを操作し、ディスプレイに映像を表示する。

「おっさんやん」

 雛菊が、突っ込む。

 映し出されたのは、何の変哲もない中年男の顔であった。顔だちからして、生粋の日本人だろう。頭髪はやや後退気味で、結構白髪が目立つ。

「カジワラ・トモヒロ。漢字で書くと、梶原友洋だね」

 手書きメモをAI‐10たちに示しながら、ジョーが説明する。

「このおじさまが、何かしでかしたのですかぁ~」

 ベルが、首を傾げながら訊く。

「NICAエージェントが殺害される直前に、彼と商談をしているんだ。もちろん、兵器取引についてね。もう一人彼の仲間と思われる男性が同席していたんだけど、こちらの正体はまだつかめていないよ。防犯カメラに偶然映っていた映像からすると、地元のフィリピン人にも見えるけどね」

 三鬼士長が映像を切り替えると、粒子の粗い不鮮明な動画が映し出された。どうやら、防犯カメラの映像を拡大したもののようだ。歩道らしきところを足早に歩んでいる男性を、高い位置から写した映像だが、対象の顔形ははっきりとはわからない。ただし、細身でやや小柄、肌の色が浅黒いことは判別できる。

「この梶原っておっさんはどうやって身元を突き止めたんだい?」

 亞唯が、訊く。

「彼も複数の防犯カメラに映っていたのさ。地理不案内な様子がうかがえたし、フィリピン人に見えないから旅行者と踏んで、足取りから宿泊先らしいホテルを絞り込んで虱潰しに当たって調べたんだ。ホテル従業員の証言から映像に映っていた容疑者に似た男を絞り込み、ニノイ・アキノ国際空港その他を調べて、最終的に日本在住のこの男にたどり着いたのさ。出国、入国記録から見ても、このカジワラ・トモヒロが殺されたエージェントと最後に会った人物であることは、確実だよ」

「ということは、こいつが殺人犯なのでありますか?」

 シオは訊いた。ジョーが、首を振る。

「いや。CIAはそう思ってないよ。殺害推定時刻は、カジワラと会った後だからね。ただし、彼が何らかの事情を知っている可能性はある。つまりは、重要参考人扱いだね」

「じゃあ、ジョーきゅんはうちらに何をさせたいんや?」

 雛菊が、訊く。

「もちろん、カジワラを調べてもらいたいんだ。その前に、もう少し詳しいことを話すよ。CIAは、当然カジワラについて調べたんだけど、実は何も出てこなかったんだ。どこからどう見ても、カジワラは真っ当な市民だった。犯罪歴無し。駐車違反すらしたことが無い。税金の滞納無し。借金無し。暴力団などとのつながりも無し。政治的な集会やデモへの参加記録無し。怪しげな定期刊行物購読契約無し。SNSへの不適切投稿無し。特定宗教への傾倒無し。ギャンブルはやらない。煙草も吸わない。飲酒はワインを嗜む程度。離婚歴はあるが、前妻とのトラブル無し。……どこからどう見ても、マニラくんだりまで出掛けて行って、武器の買い付けを行う人物じゃないんだよ」

「兵器マニアではないでしょうかぁ~」

 ベルが、意見を述べる。

「その線もないよ。カジワラはモデルガン一丁すら持っていないし、軍事知識は一般的日本人レベルだ」

「ということは、キャタピラが付いている軍用車両は全部『戦車』だと思っているわけでありますね?」

 シオはそう言った。

「非武装のジェット練習機でも『戦闘機』なんやな」

 雛菊が、続ける。

「空母以外の水上戦闘艦は『戦艦』ですわね」

 スカディが、さらに続けた。

「ミサイルはすべて百発百中なのですぅ~」

 ベルが、笑って言う。

「でもって、短機関銃と軽機関銃の区別がつかない、と。ところでこのおっさん、金は持ってるのかい?」

 亞唯が訊く。武器商人と接触した以上、それなりの資金を持っているはずである。

「そこも不明な点なんだよ。カジワラはレストラン経営者だけど、武器買い付けができるほどの資産家じゃない。どこかにスポンサーがいると思うけど、そちらの正体も掴めていないんだ」

 ジョーが、答えながら首を振る。

「単なる通訳なのでは?」

 シオはそう言ってみた。

「その可能性はあるね。英語はそこそこ喋れるようだし、以前にも海外に行ったことがある。だが、単なる通訳だけなら、一緒に居た東南アジア系らしい男は何なんだ、という話になるね。英語が喋れない外国人が、わざわざ日本から日本語と英語しか判らない日本人を通訳に連れてくる、というのもおかしな話だからね」

「確かに、色々と腑に落ちない話ですわね」

 スカディが、考え深げに言う。

「いずれにしても、このカジワラが兵器買い付けに動いていたのは事実だよ。カジワラは最近のフィリピンへの渡航以外に海外へ行っていないから、活動拠点が日本国内であると断言できる。つまり、買い付けた武器は日本国内へ持ち込むつもりだった、と推定できるよ。彼の最終的な目的が何かは判らないけれど、日本国内で大量の武器を使って何かをやらかそうと企んでいる、という可能性は高いね。これは、君たちとしても看過できないだろ?」

「確かにそうですねぇ~」

 ベルが、同意のうなずきを繰り返す。

「ということで、君たちにカジワラの監視と調査を頼みたいんだ。CIAがこれ以上日本国内で動くのは、日米関係を損ないかねないからね」

「それはそうですが……一佐殿、これは自衛隊よりもむしろ警察の仕事なのでは?

 スカディが、長浜一佐に訊く。

「君たちを起用する理由はいくつかある。まず、警察が動くに足るだけの証拠がない。第二に、警察庁外事課と云えども、CIAが収集した情報をそのまま渡すのはまずい。今回CIAが梶原友洋に対して行った監視および調査行動は、警察庁に通告なしで行ったものだからな。主権侵害に当たる」

「おいおい。一佐は日本に対する主権侵害を許容するのかい?」

 亞唯が、呆れ顔で訊く。一佐が笑った。

「さんざん他国の主権を侵害し、殺人行為まで行ってきた君たちがCIAによる日本の主権侵害を咎めるのかね?」

「確かにそうですわね。他人のことを言えませんわ」

 スカディが、くすくすと笑う。

「話を続けるぞ。第三に、たとえ警察に任せても、梶原友洋に関して新しい情報は得られないだろう、と思われるからだ。内部に潜入して調査すれば何か出てくるかもしれないが、外事課はそこまでやらないだろう。ということで、君たちの出番になるわけだ」

 言葉を切った長浜一佐が、ジョーを見やる。

「MoAの動きも気になるよ! NICAエージェントの報告では、MoAが欲していたのは大量の小火器と爆薬だよ。しかも、東アジアの大都市でテロを計画しているとほのめかしたらしい。この大都市が、東京や大阪の可能性は十二分にあるよ! 何としても、この一件を解明したいんだ!」 



「よーしおまいら謹聴しろー。梶原友洋調査作戦について、説明するぞー」

 ジョーが退場し、畑中二尉がAI‐10たちの前の長テーブルに移動する。三鬼士長も、ノートパソコンを机上に置いてパイプ椅子に座った。

「まずは梶原友洋について説明するぞー。千葉県生まれの四十八歳。父親は食堂経営者の梶原拓洋。母親は由美子。父親は少し前に七十過ぎで病死。母親は存命で、友洋の妹夫妻と同居しているー。梶原友洋は数年前に離婚。ちなみに、円満離婚で、離婚後にトラブルはいっさいないー。子供はいないー。現在、一人暮らしだー。千葉県の初富はつとみ市在住ー。自宅が付随した店舗で、個人経営のファミレスを営んでいるー。まー、かっこよく言ってしまえばオーナーシェフだなー。以前はステーキハウスだったが、ファミレスに業態転換したそうだー。立地の良さから、経営状態は良好ー。そんなところだなー」

「確かに、武器を買い付けそうな人物には思えないのであります!」

 シオはそう言った。

「むしろ、ファミレス経営ならフィリピンにマンゴスチンやランブータンを買い付けに来そうやな」

 雛菊が、笑う。

「店の名前は、『アランチャ』 イタリア語で、オレンジのことだー。外観は、こんな感じだなー」

 畑中二尉の説明に応じて、三鬼士長がノートパソコンに画像を表示する。広めの駐車場がある、二階建ての建物だ。一階に厨房とホール、二階に個室とオーナーの住居がある造りのようだ。

「すでに、潜入捜査の手筈は整えてあるぞー。おまいらは、ここでしばらくアルバイトをするのだー。そして、梶原友洋の監視を行えー」

「おおっ! ファミレスでバイトでありますか! これは面白そうなのであります!」

 シオは俄然乗り気になった。

「アサカ電子の協力を得て、飲食店業務用ロボットの適性調査名目で、AI‐10の無料貸し出しを『アランチャ』に提案した、という形にしたー。人件費が高騰しているから、オーナーは飛びついてくれたぞー。ちなみに、これが特注した制服だー」

 畑中二尉が、紙袋からファミレスの制服を取り出す。ワインレッドのミニスカートと、半袖白ブラウスの組み合わせに、スカートと同色の蝶ネクタイ。それに、淡いパステル調のオレンジ色のショート丈のサロンエプロンを腰に巻く。やや古風だが、可愛らしい制服である。

「これは着てみたいのですぅ~」

 ベルも、乗り気となる。

「全員分ありますよー」

 AI‐10たちが喜んだのを見て、三鬼士長が笑顔で次々と紙袋を引っ張り出す。

 長浜一佐が気を利かせて席を外してくれたので、AI‐10たちはさっそく着替えてみた。

「おおっ! リーダー、その服に金髪縦ロールは似合い過ぎなのです!」

 シオはスカディを褒めた。

「シオ、ポニーテール姿も本職の方のようで似合ってるわよ」

 満更でもない、といった表情のスカディが、シオを褒め返す。

「いいぞーおまいら。可愛い可愛い」

 畑中二尉が、結構本気で褒めてくれる。

「二尉殿、ファミレス接客マニュアルとか、ROMでくれないのかい?」

 亞唯が、訊いた。

「いやいや。完璧な接客とかできたらまずいだろー。適性調査名目で働くんだから、怪しまれないようにしろー。少しはドジって、それらしく偽装するのだー。石野二曹がアサカ電子の技術者を装って定期的に通い、蓄積データをダンプすることになっているー。報告はその時にまとめて行えー。緊急時の通信方法はここに電話しろー。日本国内だから、問題ないはずだー。あたしと三鬼ちゃんも、時折様子を見に行ってやるから、心配するなー」

「税金で昼飯代を浮かそう、とかせこいことを考えてないやろなー」

 雛菊が、ぎろっと畑中二尉を睨んだ。

「な、何を言うかー。営業時間中にファミレスを訪れて、何も注文しなかったら不審に思われるだろー。偽装のための必要経費だー」

 畑中二尉が、抗弁する。


 第二話をお届けします。

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