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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 10 ロボットサッカーワールドカップ優勝せよ!?
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第十三話

 時間はわずかに遡る。

 ロボット・サッカー・ワールドカップ運営もロンドン警視庁も、今回のロンドン・スタジアムにおけるテロに関し、マスコミによる報道に制限を加えることは、様々な面で利益をもたらさない、とすでに判断していた。テロとの戦いを宣言し、一般大衆を味方にするという方針を決めた以上、行き過ぎた報道管制はテロに対して『負けている』印象を与え易いし、情報供給不足はせっかく支援してくれている大衆の関心と支持も失いかねない。

 そのようなわけで、正午前に発生した第一回テロの直後から、ロンドンの報道関係者がロンドン・スタジアムにも大挙して訪れていた。テレビ各局も同様で、BBCとBBCニュースチャンネル、ITV他民放局、スカイ・ニュースなどが中継車を送り込み、マイクロ回線や衛星回線を通じて取材を行っていた。

 ロンドン警視庁が増援として新型ロボットを送り込んでくる、という情報は、あっというまにマスコミ関係者に伝わった。テレビ各局は、『画になる』新型ロボット到着の模様を撮影しようと続々とカメラクルーを警備関係者専用ゲートに送り込んだ。BBCニュースチャンネルとスカイ・ニュースは、生中継を予定してRFカメラ(無線周波帯カメラ。マルチケーブルを無線で置き換えたもの。これにより、ケーブル配線を経なくてもカメラが撮った映像と音声を中継車のアンテナで受信できる)を送り込む。両局とも、ロンドン・スタジアムで動きがあれば即座に回線を切り替え、生中継を行うと視聴者に予告済みであり、多数の人々が事態の推移を見守るため……一部の人々は不謹慎ながらもっと『派手な』展開になることを期待して、テレビ画面を注視していた。



「……注意しろって、どういう意味ですか?」

 若い警官が訊いてくる。

「おれにもよく判らんよ。とにかく、上がそう言ってるんだからな」

 少しばかり苛ついた口調で、ダドリー警部は答えた。

 『ゲートで到着するPARKER五体を出迎え、指揮下に入れろ。なお、PARKERがテロリストによりクラッキングされている可能性あり。注意されたい』

 これが、ダドリー警部が上司から口頭で受けた命令であった。

「クラッキングって、簡単にできるんですか?」

 ダドリー警部の不機嫌に気付いているのか気付いていないのか、軽い口調で若い警官が続けて訊いてくる。

「警察用ロボットに対するそれは事実上無理だ。厳重にプロテクトされているからな。製造企業のソフトウェア開発責任者でも、単独じゃ不可能だ。最上位のソースコードを書き換えるには、重役クラスしか知らないパスコードが必要だからな。ソフトウェア製作部門が全員ぐるだった、というのなら別だが。……おい、ケンプ。しゃんとしろ。テレビに映ってるんだぞ」

 ダドリー警部は、近くにいた中年巡査部長に注意した。警部たちの後ろには、十数人におよぶマスコミ関係者が集まっており、何台もの肩乗せカメラがすでに撮影を開始している。納税者に、無様な姿を見せるわけにはいかない。

「来ました」

 警官の一人が言って、指をさす。

 オリンピック・パーク内を一周する道路、ループ・ロードを、側面を黄色と青のチェッカー模様に塗り分けたライトバン、メルセデス・ベンツ・スプリンターが走ってくる。

 減速したスプリンターは、スタジアム外周へと乗り入れた。待ち受けるダドリー警部たちの前で、ぴたりと停車する。

 側面のスライドドアが開き、四体のPARKERが次々と降り立った。運転席からも、ハンドルを握っていた一体が降りてくる。全員が、対テロ用の標準装備であるH&K G36C突撃銃 (コンパクトタイプ)装備だ。さらに二体が、背中にフィロン・グループの小火器部門、フィロン・スモールアームズ製のRB‐1『スティレット』を装備していた。見た目はフォアグリップの付いた長銃身の散弾銃といった感じだが、実際は三発入り箱弾倉のボルトアクション式ライフルの一種であり、12.7×99ミリ弾を使用する。AP(徹甲弾)を発射するロボット対策用に特化した銃で、通常のアンチマテリアルライフルよりもはるかに軽量かつ安価である。その形状ゆえに有効射程は短く、軍用には適していないが、公安/警察の対ロボット用装備として最近各国で普及が進んでいる製品だ。

 自動車の普及に伴い、警察が自動車を使った犯罪に対処するための様々なアイテムを開発、装備したように、民生用ロボットの普及に伴い、各国の警察は対ロボット用銃器をその装備に加えていた。通常の民生用ロボットならば、その外殻は薄い金属か強化プラスチックの類なので、拳銃弾でも易々と貫通させる可能だが、使用環境上頑丈でなければならない建機ロボなどが普及すると、すぐに各国警察はより強力な武器を装備する必要に迫られた。西側諸国の警察で広く使われている5.56×45ミリを使用する突撃銃ならば、近距離であればかなりの貫通力があったが、一般の警察官がこれら見た目が軍用兵器と同一で『攻撃的』と誤解され易い武器を常備するのは、対市民感情の点からするといささかまずいと言える。

 そこで採用されたのが、散弾銃で使用できるAPHE(徹甲榴弾)のスラッグ(一粒弾)であった。これは、今現在世界中の警察で対ロボット武器として広く使われており、散弾銃の装備を頑なに拒否していた日本の警察も、民生用ロボット制圧専用として、ミロクがライセンス生産しているブローニング・アームズの中折式単発散弾銃、BT‐99を近頃制式装備に加えていた。

 RB‐1『スティレット』が使用する軍用12.7×99ミリAPは、基本的にはアンチマテリアルライフルに使用される物と同一であり、銃身長が短いゆえに若干貫通力が劣るものの、12ゲージ散弾銃のAPHEスラッグよりもはるかに強力である。こちらも日本の警察が導入するという噂はあるが、いまだ正式発表はない。

 ……話を元へ戻す。

 五体のPARKERが、制服記章からダドリー警部がその場における指揮者だと判断し、その前に一列に整列した。

 ……クラッキングなんて、やはりデマか。

 ダドリー警部は、機嫌を直すと一歩進み出た。

「ダドリーだ。諸君らは、ただいまよりわたしの指揮下に入る。了解したか?」

「お断りします」

 向かって左端にいたPARKERが、即答する。

 思いがけぬ返答に目を剥いているダドリー警部を始め、そこにいた全員が何も反応できないでいるうちに、PARKERたちが素早く動いた。

 全員が、G36Cを構える。次の瞬間、五丁が一斉に火を噴いた。ダドリー警部、その部下たち、そばで見守っていた民間の警備員。全員が、その場に転がる。

 テレビカメラは、その光景を余すことなく撮影していた。



 同時刻、ロンドンの南、クローリー市内のとあるホテルの一室では、二人の男が会心の笑みを浮かべていた。

 『ウォーム・ハンズ・ソサエティ』幹部の一人、ジャックと、アーサーと名乗っている、眼鏡の小男である。

「やったぞ。大成功だ」

 スカイ・ニュースの生中継を見つめながら、ジャックが拳を握る。

「BBCニュースチャンネルでもほぼ同じ映像が流れています。すぐに、BBCワンでも流れるでしょう」

 机上のノートパソコンで、同時ネット配信されているBBCニュースチャンネルの映像をチラ見しながら、アーサーが言う。

 彼の本当の名前は、トニー・カース。レッドフィールド・システムズの技術者で、PARKERのAI開発班の一人である。

 トニー……アーサーがウォーム・ハンズ・ソサエティの協力者となったのは、ほぼ一年前のことだった。

 元々、アーサーはレッドフィールドのAI技術者として、非ヒューマノイド・ロボットの開発に携わっていた。厳格なカトリックでもあるので、ヒューマノイド・ロボットに対しては反感を持っており、入社当初からその開発、生産などには極力関わらないようにしていた。

 ところが、ある些細なことから上司と対立し、実質的に降格されたうえに大嫌いなヒューマノイド・ロボットの開発現場へと左遷されてしまう。意気消沈するアーサーに近付いて来たのが、シャーロット・ワイズであった。彼女は以前からWHSのメンバーであり、社内でヒューマノイド・ロボットのAIに細工を施せる人物を仲間にしようと企んでいたのだ。

 かくして、アーサーはWHSの同志となり、シャーロットと共に反ヒューマノイド・ロボット運動に加わることとなる。

 トゥエルブ・パペッターズのひとつ、レッドフィールド・システムズの最新ヒューマノイド・ロボットのAIに改造を加えることが出来る立場の技術者と、社長室にある金庫を開けられるうえに、社長個人のオフラインパソコンの起動パスワードを知っている人物……。得難い人材を二人も確保できたWHSは狂喜した。早速、この二人を利用したテロを起こそうと作戦を練り始める。

 アーサーとシャーロットが組めば、PARKERを暴走させることなど簡単である。シャーロットが、社長が保管しているソースコード書き換え用の極秘パスワードを盗み出し、これをアーサーが使用して任意の書き換えを行えばいい。

 だが、PARKERをテロに利用できるのは一回限りであろう。PARKERが暴走すれば、当然すべての個体に関し回収措置が取られるはずだ。暴走原因の徹底的な調査も始まるはず。そうなれば、アーサーがAIをいじったことはすぐにばれるし、シャーロットの関与も隠しきれないだろう。

 一度しかないチャンスであれば、もっとも効果的な時期と場所を選ばねばならない。世間の耳目が集まる場所で、一体でも多くのPARKERを暴走させ、一人でも多くの市民を惨殺するのだ。そして、その映像を記録させ、世界中の人々に見せつける。そうすれば、人類は間違いなくヒューマノイド・ロボットが排除された未来を選択するであろう。……駆逐すべき対象に対する恐怖を煽り、人々に憎悪を植え付け、自在に操れる奴隷のごとき存在にするのは、ありとあらゆる政治指導者、政治的団体、宗教指導者、その他が常用してきた効果的手法である。……恐れと憎しみ、そしてそれに起因する怒りほど、理性を鈍らせるものは無いのだ。

 実のところ、ロボット・サッカー・ワールドカップの具体的アイデアを最初に出したのは、シャーロットであった。父フレデリックが、セルパの『サンルカス・ジュニオール』と試合をするために、ロボットサッカーチームを作る、と聞いた時に閃いたのである。各国のロボット・メーカーがヒューマノイド・ロボットでサッカーチームを作り、カップ戦を行えば世界が注目するだろう。そこで大規模なテロを起こせば、抜群の宣伝効果が得られる。そこに集まる連中は、ヒューマノイド・ロボットの支持者ばかりだから、良心も傷まない。

 すでにシャーロットは、ロンドン警視庁がPARKER採用を正式決定したことを耳にしていた。開催場所をロンドンにすれば、お膳立ては整う。

 先進国イギリスの首都であり、誰もが知る大都市ロンドン。そこで、最新鋭の警察用ヒューマノイド・ロボット……しかも、天下のスコットランド・ヤード所属の……が市民を大量虐殺し、その映像が全世界に流されれば、その効果は計り知れないものとなる。

 シャーロットの巧みな『誘導工作』……その対象は父フレデリックだけではなく、レッドフィールド首脳陣、リカルド・セルパ会長、さらには以前からの知己であったソニア・セルパにまで及んだ……もあり、ロボット・サッカー・ワールドカップの準備は着々と進んだ。だが、その前に障害が立ちはだかる。

 動力源遮断装置である。

 テロ防止のために、スタジアム内のすべてのロボット……ロンドン警視庁が装備する警察用ロボットも含む……にこれが取り付けられると知った時は、さしものシャーロットも一時テロの実行を断念しかけた。だが、これもアーサーの工作……ロンドン警視庁納入PARKERのAIに些細なトラブルを頻発させて、実働配備時期を若干遅延させ、ロボット・サッカー・ワールドカップの警備には間に合わないようにする……によってクリアする。

 しかしそのせいで、WHSのテロ計画は複雑なものとなってしまった。

 当初計画は、単純であった。ロンドン警視庁配備のPARKERが一斉にスタジアムで暴れ出し、観客を一人でも多く死傷させる。テロに限らず、あらゆる『計画行動』は、単純なほど成功し易いのは、道理である。

 新たな計画では、事前準備としてロンドン警視庁の予備人員を枯渇させるべく、市内で複数個所のテロ予告を行うこととなった。これはもちろん、後にスタジアムの警備増強を行わせる際に、その方法がPARKERの投入しか選択肢がない、という状況を現出せしめるためである。

 そして作戦当日では、スタジアムでテロを複数回起こすことになった。これは、世間の耳目を集めるとともに、ロンドン警視庁にPARKERの投入を最終的に決意させるという目的があった。テロが爆弾などの『危険』なものであれば、観客が避難してしまい、大会も中止になってしまう。そこで選択されたテロ手段が、悪臭であった。死人が出なければ、中止にはならないだろうという思惑である。シャーロットは、現場でワイズ社長らを煽り、大会の続行、警備の増強要請、マスコミへのアピールなどを行わせる役目を担う。

 PARKERが到着する寸前に、シャーロットと悪臭テロ実行犯であるライナスは、スタジアムを離れる。もちろん、テロに巻き込まれるのを避けるためである。PARKERは、アーサーの手で、無抵抗の市民であっても容赦なく殺傷するようにプログラムされているのだ。ただし、テレビカメラないしそれに類するものを所持し、撮影を行っていると思われる人物だけは、無抵抗の場合に限り目標としない、という縛りが加えられている。

 かくして、WHSによる前代未聞のテロが開始された。



 スタジアム警備の警察官、SCO19(ロンドン警視庁対テロ特殊部隊)の隊員たち、警察用ロボット・シルフィードらが、続々と駆け付ける。

 五体のPARKERは、彼らにも容赦なく銃弾を見舞った。SCO19は高度な訓練を受けた優秀な部隊であるが、その装備はSIG MCXやSIG 516などの突撃銃であり、抗弾仕様のうえに防弾衣まで付けているPARKERを撃ち倒すことはできない。

 一方のPARKERは、SCO19隊員の着用する防弾衣を避け、顔面や脚部を狙って狙撃を行った。拳銃を装備していた数少ない警察官も、果敢にPARKERに立ち向かったが、グロック17ではPARKER相手にはまったく歯が立たない。軽装甲のシルフィードも、5.56×45ミリを喰らって次々に倒される。

 ようやく三体のサラマンドラが駆けつけたが、警察用なのでその装備は散弾銃だけであり、たとえAPHEを使ったとしてもPARKERを阻止することは不可能であった。装甲だけは軍用に準じているので、G36Cの銃弾は弾いたが、狙い澄ましたRB‐1の射撃を受け、沈黙する。

 銃撃戦は三分と続かなかった。生き残った警察官が、負傷者を引きずって退却する。安全を確認したPARKERたちは、次なる獲物……観客たちを求めて、移動を開始した。


 念のため注釈。フィロン・スモールアームズのRB‐1『スティレット』は、フィロン・グループを含め架空の存在です(架空兵器はなるべく出さない方針で書いてきましたので、勘違いなさる方がいらっしゃるといけませんので) ある程度耐久力があり、通常の警察用装備では対処できないレベルのロボットが多数存在する状態では、このような警察用装備が皆無というのはリアリティがありませんので創案しました。……いくら何でも警察官にM82持たせたりパトカーにM2HMG積んだりするわけにはいきませんからね(笑)

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