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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第二十三話

「急げ、スラノ! ラバウ!」

 トグア少佐は、RGPを担いだ上級准尉と装填係りの伍長を急かした。

 手元には、RPG‐7Dランチャーが一基しかなかった。手榴弾では耐爆扉を破るのは不可能だったし、爆薬は装備していない。一発ずつRPG弾頭を撃ち込むしか、方法はなかった。



「時限信管を五分後にセットしたわ。……亞唯、何をするつもり?」

 装甲ランチャーから出てきたスカディが、驚きの表情を見せる。

「どうせ動けないんだ。最後まで、核弾頭の面倒を見るよ。雛菊、悪いけど銃と弾薬を取ってきてくれ」

「せやけど……」

「頼む」

 亞唯が、にこやかに言う。うなずいた雛菊が、急いで床に飛び降りた。

 どがん。

 耐爆扉の穴が、ふたつになる。

「こいつを頼むよ、スカディ」

 亞唯が、ダイアリー・データが入った自分のRAMチップを抜いた。ポケットから取り出した、三本のRAMチップ……ライチ、めー、エリアーヌの分だ……と一緒にして、スカディの手に押し付ける。

「だめです、亞唯ちゃん。亞唯ちゃんは、シオとベルちゃんが引き摺っていくのです! 一緒に日本に、そしてマスターの元へと帰るのです!」

「無理だよ、シオ。あたしを引き摺ってたら、爆発に巻き込まれてプルトニウムを浴びちまうよ。そうなったら、スクラップ処分だ。あんたらだけでも、無事にマスターの元へと帰るんだ」

「亞唯ちゃん……」

 シオは言葉を失った。

「亞唯ちゃん、取ってきたでぇ」

 雛菊が、AKMSと数本の弾倉を亞唯に渡す。

「シオ、ベル。すまないけどあたしを装甲ランチャーの中へ押し込んでくれ」

 シオとベルはしぶしぶ亞唯をハッチの中へと入れた。

「なかなか居心地がいいね。マスターが飼っていた猫を思い出したよ。あいつも、狭いところ好きだったから。……早く行くんだ、みんな。爆発の前に、少しでも遠くへ行ってくれ」

「亞唯。頼んだわよ」

 スカディが、亞唯の手を握った。

「任せろ。シオ、ベル。じゃあな。雛菊、今からお前が二組の組長だ。しっかりな」


 亞唯はスカディと雛菊が仕掛けた爆薬を点検した。

「なんだよ素人が。信管はふたつが基本だろうに」

 ぶつぶつ言いながら、亞唯はベルトのケースから電気信管を取り出すと、指でC4に穴を開けてから突き刺した。コードを、二の腕のポートに繋ぐ。

「残しておいても仕方ないな」

 ペンシル型の時限信管も取り出した亞唯は、それをC4に突き刺した。タイマーは、三分にセットしておく。それだけあれば、みんな安全圏まで脱出できるはずだ。そのうえで、玄人っぽくC4の位置をずらし、念のために時限信管が見つかりに難いようにする。

「備えあれば、憂いなし、と」

 満足した亞唯は、装甲ランチャーのハッチから右腕の機関拳銃を突き出した。


 四発目のRPG弾頭が、装甲シャッターを大きく抉る。

「もう一発だ、スラノ!」

 トグア少佐は命じた。もうすでに、人ひとり通れるだけの穴は開いていたが、この程度の破口から部下を突っ込ませても、待ち構えているロボットに狙い撃ちされてしまうことは眼に見えている。


 四体のAI‐10は、外へと通じているトンネルを走った。一分ほど走ったところで、一枚目の装甲シャッターに、行く手を阻まれる。

「開けますよぉ~」

 背伸びしたベルが、壁のテンキーパッドを叩いた。装甲シャッターが、やかましい音を立てながらゆっくりと上昇してゆく。

「あと二分!」

 スカディが、告げる。

 いきなり、銃撃が始まった。装甲シャッターの下端とコンクリート床とのあいだから、何発もの銃弾が飛び込んでくる。

「うわぁぁ! ベルちゃん! 閉めてください!」

 シオはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喚いた。ベルが、テンキーパッドを叩く。開き始めた装甲シャッターが、ゆっくりと降りはじめた。銃弾が命中し、かんかんと弾けるような音がする。

「外からも敵が迫っていたのね」

 スカディが、言った。

「挟み撃ちにされてしまったのですぅ~」

「これは、ひじょーにまずいのであります!」

 シオは頭を抱えた。

 内側から攻撃され、外へ逃げようとしたら今度は待ち伏せされていた。核弾頭に仕掛けた爆薬は、あと百秒足らずで爆発し、プルトニウムを撒き散らしてしまう。

 逃げ場も、隠れるところもない。武器も、ろくに残っていない。

「あそこなら、何とかなるかもしれんで!」

 雛菊が、一点を指差した。

 天井にほど近い壁に、換気口らしい大きな四角い穴があった。金網が張ってあるが、すぐに外せそうだ。

 問題は、その高さだった、下端まで、床から三メートル半はある。身長一メートルのAI‐10にしてみれば、とてつもなく高い位置だ。

「なにか道具を探すのです!」

 シオは焦ってあたりに視線を配った。だが、トンネル内部はきれいに片付いており、棒切れ一本落ちていない。


 亞唯はAKMSを撃った。

 突入してきたREA兵が、次々と撃ち倒される。

 すでに、機関拳銃の弾薬は撃ち尽くしている。AKMSは大きすぎて撃ちにくかったが、装甲ランチャーのハッチの縁に弾倉を引っ掛けるようにして、少し手前に引き気味にして撃つと、安定した射撃ができることを、すでに亞唯は発見していた。

 飛んできた一弾が、亞唯の右眼の上を撃ち抜いた。右側CCDカメラが損傷し、亞唯のステレオ視覚映像が損なわれる。

 ……問題ない。

 亞唯は射撃を続けた。すでに、射界内の3Dマップ化は済んでいる。単眼映像でも、標的の見かけ上の位置さえ判明すれば、正確に射弾を送り込むことができる。

 AKMSが一弾倉撃ち尽くす。亞唯はマガジンキャッチを押し、弾倉を外した。新たな弾倉をはめ込み、コッキングハンドルを引く。

 あと六十秒足らずで、C4が起爆する。そうすれば、日本は救われる。亞唯のマスターも、助かる。

 亞唯は幸せだった。家事兼愛玩ロボットゆえ、その行動原理はかなり単純である。すなわち、マスターの幸せはロボットの幸せ。

 RPKから放たれた数発が、亞唯の頭部を貫いた。直撃を受けたAIが、その機能を停止する。力を失った亞唯の身体が、ずるずるとハッチの中に崩れ折れた。



「なんとかしないと、みんな日本に帰れないのであります!」

 シオは必死に頭を絞った。四体がお互いの肩に乗れば、一体は換気口によじ登れるだろう。だが、AI-10の能力では、他のAI-10を引っ張り上げるのは無理だ。残った三体は、助からない。

 各人が身につけているベルトやサスペンダーを繋げれば、それなりの長さになるだろうが、細すぎるのでAI‐10の自重は支えきれないだろう。ポンチョはそれよりも丈夫だろうが、こちらも五十キロの重さには耐えられないし、長さも足りない。何枚かをまとめて上手く繋ぎ合わせることができれば、ロープ代わりになるかもしれないが、器用とは言えぬAI‐10の手でそれを行うには何分もの時間が掛かるはずだ。そんな暇は、ない。

「仕方ないわね。誰か一人でも助かりなさい」

 スカディが、換気口の下に立った。手を壁面につけて、身体を安定させる。

「だめです、スカディちゃん! ここまできたら、みんなで助かるのです!」

 シオはそう叫んだ。

「そうですぅ~。死ぬも生きるも、みんな一緒ですぅ~」

 ベルも、言う。

「せや。ひとりだけ逃げたりしとうないわ」

 雛菊が、腕を振り回して叫ぶ。ポンチョのあいだから、浴衣の裾が見えていた。

 ……浴衣。

 シオのAIが、アイデアをひねり出した。

「雛菊ちゃん! 脱ぐのです!」

「な、なんやてえええっ!」

 雛菊が、悲鳴をあげた。

「シオちゃん、こんな時に不謹慎なのですぅ~」

「不謹慎ではないのです! 雛菊ちゃん、帯を貸すのです!」

「お見事ですわ、シオ! 雛菊、早く帯を!」

 スカディが、叫ぶように命ずる。

 うなずいた雛菊が、するするっと浴衣の帯を解き始める。シオは、その端をつかんでむりやり引っ張った。

「あ~れ~」

 帯を解かれながら、雛菊がくるくると回転する。

「遊んでいる場合ではないのですぅ~」

 ベルが、突っ込む。

 シオは、解き終わった帯を検めた。長さは、三メートル近くある。十分な長さだ。質も良く、幅広なので、強度も充分ありそうだ。

「雛菊ちゃん、来るのですぅ~」

 ベルが、浴衣の前をはだけてピンクのパンツを見せている雛菊を引っ張った。壁際のスカディの肩に載り、さらに雛菊を自分の肩によじ登らせる。

「シオちゃん、頼むのですぅ~」

「合点承知です!」

 雛菊の帯をサスペンダーに引っ掛けると、シオは仲間たちの身体をよじ登った。雛菊の肩に足を掛け、背伸びする。手は、楽々と換気口の金網に届いた。指を引っ掛け、力を込めると、あっけなく金網が外れる。

 金網を投げ捨てたシオは、換気口に手を掛け、身体をずり上げた。膝まで入ったところで方向転換し、帯の一端を換気口の床面に置く。その上に腹這いになって自重を重石としたシオは、さらに帯の左右の端を両手でしっかりと掴んでから、下に投げ落とした。

 すぐさま、雛菊が登ってきた。シオにもたれかかる様な姿勢で、帯を掴む。

 ベルが、帯を手がかりに登ってくる。

「ありがとうなのですぅ~」

「お礼はみんなが助かってからでいいのです!」

 スカディが、下で帯の端を掴んだ。よじ登ろうとするが、帯が短すぎて上手くいかない。

「引っ張りあげるのです!」

 シオは帯を引き上げ始めた。雛菊とベルも、懸命に引っ張る。

 スカディの身体が、ずるずると上がってきた。シオは帯を手放すと、スカディの左手を直接掴んで引っ張った。すかさず、ベルが右手を握って引っ張り上げる。

「もう時間がないわ。早く奥へ行きましょう」

 スカディに促され、四体は腰を屈めると、換気口を奥へと走った。



 光の輪の中に、仰向けに倒れている日本のロボットの姿が入った。

 トグア少佐は、AKMSの銃口でそれをつついた。反応はない。どうやら、機能停止しているようだ。

 安堵しながら、トグアは装甲ランチャーの中へと潜り込んだ。ハンドライトを動かし、ロボットを仔細に調べ始める。

 と、トグアはロボットの腕から細いケーブルが伸びていることに気付いた。ぎょっとして、ライトでケーブルの行方を辿る。

 サーブリャの弾頭部に、白っぽい直方体が載せられていた。ケーブルは、その中の一本へと繋がっている。時限信管らしい棒状の物体も、刺さっている。

 爆弾だ。ロボットどもは、爆破処理しようとしていたのだ。

 ……所詮はロボットか。馬鹿な連中だ。

 冷笑を浮かべながら、トグア少佐は弾頭部ににじり寄った。機能停止したロボットから繋がっているケーブルを、手で引き千切る。

 次いで、トグアは爆弾から突き出ているペンシルタイプの信管にライトを近付け、じっくりと観察した。どうやら、ごく普通の時限信管のようだ。トラップは、ないだろう。

 トグアは時限信管をそっと掴んだ。ゆっくりと、引き抜く。

 爆発は起きなかった。

 安堵しながら、トグア少佐は這い戻った。信管を部下に手渡し、遠くへ投げさせる。

「残りのロボットを追い詰めるぞ」

 AKMSをチェックしたトグア少佐は、生き残った部下に命じた。TELトンネルの外側からは、ヤウン少尉補に率いられた二個分隊の部下が迫っているはずだ。ロボットどもに、逃げ場は残されていない。

 亞唯の仕掛けた二本目の時限信管は、装甲ランチャーの中で刻々と時を刻んでいた。


 換気口内を十数メートル走ったところで、AI‐10四体は行く手を阻まれた。換気口は、縦坑に繋がっていたのだ。

「これでは、無理なのです」

 シオは唖然として上を見上げた。四方とも垂直な壁に囲まれた、高さ二十数メートルはありそうな縦坑である。AI‐10の能力では、よじ登るのは不可能だ。

「爆発まであと数秒ね。ここまでだわ」

 諦念したのか、静かな口調でスカディが言った。

「みんな、固まるのですぅ~。みんな一緒なら、怖くないのですぅ~」

 ベルが、シオとスカディの背中に腕をまわした。

「せや。みんな、死ぬときは一緒やで」

 雛菊の腕も、シオとスカディを抱きかかえる。

 四体のAI‐10は、真っ暗な換気口の奥でしっかりと抱き合った。

「ともかく、任務は成功したわ。一組リーダーとして、みんなにお礼を言います。ありがとう」

 しっかりとした口調で、スカディが言う。

「マスターを守ることができましたぁ~。わたくしは、誇らしいのですぅ~」

 ベルも、晴れやかな口調で言う。

「臨時ロボット302分隊に入れて、みんなと出会えて、雛菊は幸せもんやで」

 雛菊が言って、恥ずかしそうに顔を伏せる。

 ……マスター、シオは頑張って日本を防衛したのであります。マスターもお守りしたのであります。でも、マスターとのお約束は守れそうにないのであります……。無事で元気にマスターの元へ帰るのは、どうやら無理なようです。無念であります……。

 どん、というくぐもった爆発音が、わずかな振動と共に換気口の中に伝わってきた。

 シオは目を閉じた。腕と脚を、仲間たちに……ベルとスカディと雛菊に、ぎゅっと押し付ける。

 次の瞬間、換気口内に白っぽい微粉末を含んだ爆風が吹き込んだ。

 ……マスター、ごめんなさい。シオは、お約束を守れない駄目な子なのです。マスターに、もう一度会いたかったのです……。もっともっと、マスターと暮らしていたかったのです。マスターのお部屋を掃除して、マスターのご飯を作って、マスターとお喋りして、マスターと一緒にテレビを見て、それから……。


第二十三話をお届けします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵な人情ドラマでした。 [一言] 涙もろくなっていけませんね。
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