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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 09 東アフリカ独裁者打倒せよ!
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第三話

 銃撃戦は、極めて短時間で終了した。

 シオは自分に与えられた目標に、一秒間に二発というハイペースで7.62×39mm弾を撃ち込んだ。事前に射界内の疑似3Dモデルを構築し、その中で割り当てられた目標の位置確定と射距離推定を行っておいたので、目標が動かない限り素早い射撃が可能なのだ。

 シオに狙われた八名は、次々と撃ち倒された。当然ながら、最優先で撃たれた者は銃を手にしている兵士であった。最後の一人は奇襲にうろたえつつも、反撃のために自分の得物を手にしようと試みたが、ガリルARは五メートルも離れた岩に立てかけてあったので、そちらに半歩踏み出したところでシオが放った銃弾を背中に受けて前のめりに倒れた。

 シオは素早く射界内を捜索し、撃ち漏らした兵士がいないことを確認すると、残る二発を自分の目標のうち無力化を確認できない二人……まだ動いており、反撃する可能性がある兵士……に撃ち込んだ。素早く新しいクリップを装着し、指で銃弾を押し込む。

「よし。撃ち方やめ、だ。ベル、周辺警戒と援護を頼む。雛菊、シオ、行くぞ」

 亞唯が隠れ場所から立ち上がった。油断なく56式半自動歩槍を構え、雛菊を従えて歩み出す。シオは56式半自動歩槍を肩付けして続いた。

 スカディも立ち上がると、服についた埃を払った。念のため、落ちていたUZIを拾い上げてから、修道女らしい若い女性のところまで歩む。

 子供たちも動いていた。年長の少年と少女が急いで乱れていた服を整え、より幼い子供たちの面倒を見始めている。子供たちはみな驚いてはいたが、泣き出したりパニックに陥っている子はひとりもいなかった。……人が撃ち殺される様子など、見慣れているのだろうか。

 スカディが近付いてくるのを見て、修道女がぺこりと頭を下げた。

「助けていただいたようですわね。ありがとうございました」

「どういたしまして」

 スカディは、修道女を見上げた。顔だちは若々しく、可愛いと言ってもいいくらい整ったものだ。白い暑熱地用の修道服も、似合っている。ちょっと翳りのある雰囲気を漂わせているのは、まだ十代と思える歳に似合わぬ落ち着きのある物腰のせいか、あるいは纏っている修道服のせいだろうか。

「失礼いたします。子供たちの面倒を見ないといけませんので」

 再びスカディに頭を下げた修道女が、きょとんとしている幼い少年と少女の手を引いて、他の子どもたちの処に向かった。

「スール・ソランジュ!」

 少女の一人が叫ぶように言って、修道女に駆け寄る。

「スール! 本物のスールなのであります!」

 シオは感激して思わず叫んだ。

「ごきげんよう、シオさん」

 雛菊が、さっそく乗っかる。

「ごきげんよう、雛菊さんなのであります!」

「そこ、昔懐かしい『マリ〇て』ごっこはおやめなさい。この場合のスールは単に修道女を意味するだけで、英語のシスターと同じことですわ」

 スカディが、たしなめる。

「おおっ、スカディお姉さまに怒られてしまったのですわ」

「それはともかく、この後始末どうする?」

 亞唯が、シオのボケを無視してスカディに訊いた。

「そうね。厄介ごとを背負い込んでしまったかもしれませんわね」

 暗い表情で、スカディが答えた。

 どう見ても、この修道女……スール・ソランジュと七人の子供たちは無力な存在であり、庇護を必要としている。今回図らずも、AI‐10たちがそのピンチを救ってしまったわけだが、今後もスール・ソランジュたちは誰かの庇護が受けられなければ、早晩同じような危機に晒されるであろう。

「このまま見捨てるのは、忍びないのであります!」

 シオはそう意見した。

「車に轢かれそうになった子猫を助けたせいで、飼う羽目になったようなもんやね」

 雛菊が、適切な例えを口にする。

 修道女が、身づくろいを終えた子供たちを連れて戻ってきた。いつの間にか、アイリッシュ・セッターも姿を見せて、子供たちを率いるかのように前を歩いている。

 修道女が、全員を並ばせお辞儀をさせた。アイリッシュ・セッターは、子供たちの列の端できちんとお座りの姿勢となる。

「わたくしはソランジュと申します。まだ修練中の身ですが。この子が……」

 スール・ソランジュが、子供たちを紹介する。十歳くらいの少年がジルベール、八歳くらいがエタン、六歳くらいがジュール。女の子は、十歳くらいがアラベル、七歳くらいの二人がコゼットとエリーズ、一番幼い五歳くらいがマリエル。そして、ワンコがレオ。

「この子たちはみんな孤児です。近くにある教会で預かり、わたくしが世話しているのです」

「そこを、連中に襲われたのね?」

 スカディが、兵士たちの死体にちらりと視線を送って訊く。

「そうです。今までは、FPAも南部軍管区もわたくしたちをそっとしておいてくれたのですが、この人たちはどうやら正規の指揮系統に属さない方々だったようです」

 同じように死体に視線を送りながら、ソランジュが答えた。

「強い子たちだな。あんな目にあっても、動じていないじゃないか」

 亞唯が、褒めるように言う。

「この子たちは、何度も地獄を見ていますから……おっと、いまのは神に仕えるものとしては失言でしたわね。忘れて下さいな」

 ソランジュが、暗い笑みを見せる。

「ところで……失礼ながら、みなさんはどのような素性の方々なのですか?」

 遠慮がちに、ソランジュが訊いてくる。子供たちも、不思議そうな表情でAI‐10たちを見つめている。

「ある事情で、たまたま通りかかっただけです」

 スカディが、軽い調子でごまかそうとする。

「武装して?」

 ソランジュが、亞唯と雛菊、それにシオが持っている56式半自動歩槍を見つめる。

「そこは深く突っ込まないで欲しいのです!」

 シオはストレートにはぐらかした。

「そうでしたか。では、これ以上問いませんわ。わたくしたちは教会に戻りたいと思います。よろしいですか?」

 あっさりと引き下がったソランジュが、そう訊いてくる。

「もちろん結構ですわ」

 スカディが、答えた。

「待った。スール・ソランジュ。その教会に、発電機とか置いてないか?」

 亞唯が、期待を込めて訊く。

「有りますが、しばらく前から壊れていて使えません」

 残念そうに、ソランジュが言う。

「何を燃料に使う発電機かな? ガソリン? 軽油?」

 亞唯が訊く。

「ガソリンですわ」

「ガソリン。余ってないかな?」

「そうですね。二十リットルほど仕舞ってあるはずですが……何にお使いになるのです?」

 ソランジュが、首を傾げた。

「わたくしたちは、電気で動いているのです。ですから、充電がしたいのですわ。幸い、体内に小型の発電機が内蔵されているから、ガソリンがあれば充電できるのです。よろしければ、分けていただけませんこと?」

 スカディが説明しつつ、頼んだ。

「発電以外に使い道がありませんから、今は教会にあっても無用の長物ですわ。今日のお礼に、すべて差し上げます」

 ソランジュが、そう言ってくれる。

「これで一安心やな」

 雛菊が笑った。

「では、教会にお邪魔するとしましょう。ところで、スール・ソランジュ。わたくしたちがこの兵士たちの持ち物を調べて幾許か私有物に加えるというのは、道義的または宗教的にみてまずいでしょうか?」

 スカディが、遠回しな言い方で『略奪』を見逃してくれるように頼む。

「あなた方は、武器が必要なのですね。武装したあなた方に救われた以上、武器を手に入れることを邪魔するわけにはいきません」

 ソランジュが、即答した。

 ベルを呼び寄せたAI‐10たちは、さっそく略奪を開始した。銃器、銃弾、予備弾倉を全部回収し、一か所に集める。ベルは例によって爆薬を探したが、誰も所持しておらず、手に入れたのは手榴弾……アメリカ製M26のイスラエル版コピーだけであった。

 スカディは兵士のポケットを漁り、現金を回収したが、こちらの収穫は少なかった。少額紙幣と硬貨で、四千アマニア・フランほどが集まっただけだった。

 シオは防水シートを被せてあった補給品を調べ、コーンミール1kg入りのビニール袋を六個見つけた。三十個ほどの缶詰も、手に入れる。紙巻煙草が詰まったブリキ缶も見つけたが、こちらは放置する。もちろんAI‐10には必要ないものだし、聖職者であるソランジュも子供たちも吸わないだろう。

「まるで戦場稼ぎだな」

 バラの5.56×45mm弾薬をかき集めながら、亞唯がぼやくように言った。

「むしろ場所柄からすると、ハイエナの方が適切やで」

 それを手伝いながら、雛菊が苦笑する。

 亞唯が、集めた武器と弾薬を各人に分配する。スカディだけがUZI短機関銃を持ち、残りの四体がガリルAR突撃銃装備となった。銃弾が残り少ない56式半自動歩槍は、ここに捨ててゆくことにする。各自、予備弾倉数本と予備弾薬三百発程度、それに若干の手榴弾を携行する。さらに、スカディと亞唯は二丁だけ手に入れたチェコ製のCz75自動拳銃も身に着けた。ただし、こちらに予備弾倉はなかった。

 シオが見つけた食料は、子供たちが大喜びで運ぶことを申し出てくれた。一番幼いマリエルでさえ、エプロンドレスのポケットに缶詰をいくつも詰め込んで運ぼうとする。

「集団生活に慣れてるようですねぇ~」

 年長の二人……ジルベールとアラベルが、他の子どもたちに持たせる荷物をてきぱきと割り当てているのを見ながら、ベルがしみじみとした口調で言う。

 準備が終わると、一同は隊列を組んで出発した。念のため、亞唯と雛菊が先を歩き、警戒役となる。シオとベルは、最後部を歩いた。ワンコ……レオが、亞唯と雛菊のさらに先を行き、先導役を務めてくれる。

「教会には、他に誰もいらっしゃらないのかしら?」

 ソランジュと並んで歩きながら、スカディは訊いた。

「サクリスタンのシルヴァンがいます」

 ソランジュが、答えた。

「『寺男』ね」

 スカディはそう日本語に翻訳した。教会の庶務を担当してくれる管理人のような存在で、英語で言うセクストンにあたる。

「司祭様はいないの?」

「内戦に巻き込まれて、亡くなられました。司祭様は、この周辺の孤児を集めて保護されていました。二人いた修道士が相次いで亡くなってしまい、手が足りなくなったので、わたくしが修練中の身ですが、修道会からこの教会に派遣されたのです」

「子供たちをどうやって養っているのかしら?」

「教会は、自給自足が原則ですわ」

 ソランジュが、わずかに笑みを見せる。

「みな農民の子ですから、農作業には慣れています。教会のまわりで畑作をしていますのよ。もっとも、それだけでは足りませんので、援助は受けていますが」

「援助?」

「いくつかのNGOと、ベルギーの修道会からわずかですがお金をいただいているのです。それで、近くの町から米やコーンミールなどを買い込んで、子供たちに食べさせています」

「栄養状態は、良さそうね」

 前を歩いている二人の少女……コゼットとエリーズの背中を見ながら、スカディは言った。

「他に大したこともしてやれませんから、せめて食事くらいは充分に与えてやらないと……」

 そこで言葉を切ったソランジュが、急に声をひそめた。

「皆さんは、FPAと関係があるのですか?」

「いいえ」

 スカディは正直にそう答えた。目の前で多数の政府軍兵士を撃ち殺したのだから、ソランジュがそう考えるのも無理はない。

「南部軍管区とも関係なさそうですし……ひょっとして、国防軍の関係なのでしょうか?」

 ソランジュが、さらに訊いてくる。スカディは、わずかに困惑した。

「国防軍と南部軍管区は違うの? 南部軍管区は、国防軍の一部なのでは?」

「では、ご存じないのですか?」

 ソランジュが、当惑気味に問う。

「実は、アマニアについては良く知らないのよ」

 いつもなら、畑中二尉の詳細なブリーフィングを聞いてから任務に投入されるので、現地に関する情報は充分に持っているのだが、今回はいきなりアマニアに放り込まれてしまったも同然である。AI‐10たちの知識は、不足していた。

「では、教会までたどり着くあいだに少しお話しておきましょうか」

 ソランジュが、説明を始めた。



 チシャ族とニラ族。

 古来より、この地はこの二大部族の闘争の場であった。現在のアマニア共和国における両部族の割合は、チシャ族四十五%に対しニラ族四十三%。この比率は、有史以来ほぼ一定であると推定されている。それぞれ部族国家を作り上げた両族は、時に争い、そして時に和睦し、長年にわたって競ってきた。

 その状況を変えたのは、一人の女性であった。少数民族メキ族の貴族娘として生まれたアシャーペは、その美貌と知性、巧みな話術、そして地母神信仰を礎とするシャーマンとしての能力を活かし、わずか数年でチシャ族、ニラ族を含む全域の部族の信頼と尊敬を勝ち取り、国家統合を成し遂げ、自ら女王の座につく。

 だが、ヘドア王国と呼称されたこの国家の平和は長くは続かなかった。女王の死後その玉座を継いだ息子は国をまとめ切れず、再びチシャ族とニラ族の争いが始まったのだ。それを鎮めたのは、急遽即位したアシャーペの孫娘だった。だが、新女王が死ぬと、再びこの地は戦乱状態となる。

 平和をもたらしたのは、皮肉にも侵略者であるドイツ人であった。圧倒的軍事力を以ってヘドアを制圧し、ドイツ領東アフリカに組み込んだドイツ人は、この地の政治的独立性を認め、ここをアシャーペ女王の血を引く女性を首班として、ある程度の自治を許して統治させることにした。その際、チシャ族とニラ族の紛争を抑制するためにドイツ人が目をつけたのが、第三の部族ヘミ族だった。人口はチシャ族やニラ族の五分の一程度だが、他の少数民族よりははるかに大きな人口集団であるこの部族に近代兵器を与えたドイツ人は、これを女王直属の軍事力として与え、強制的にチシャ族とニラ族の争いを止めさせたのである。

 この自治領に、ドイツ人が期待を込めて付与した名称が、アマニアであった。スワヒリ語で平和を意味する『アマニ』という単語を由来とする地名である。

 ドイツ人考案の強制的平和維持方法は上手く行き、チシャ族とニラ族の抗争は影をひそめた。アマニアは、その名の通り平和な地となる。

 その後、第一次世界大戦の結果この地がベルギー領になっても、ベルギーはこの『ドイツ流統治』を受け継いだ。六十年代になって、形骸化していた王政を廃し、ベルギーから独立して共和国として生まれ変わったアマニアも、同様の形態を受け継ぐことになる。かつてのヘミ族主体の女王直属の軍隊は、大統領警護隊と名を変えて存続し、チシャ族とニラ族に睨みを利かせたのだ。政治体制においても、大統領がチシャ族の場合は副大統領がニラ族、といった具合に両部族が協定を結んで共存を図り、極力衝突を避けるといった工夫が凝らされ、辛うじて平和を保つことに成功する。

 当初、アマニア共和国は旧宗主国のベルギーとの関係を重視し、国内にベルギー軍の駐屯を認めていた。ベルギーの軍事力の存在が、チシャ族とニラ族の抗争に対する抑止力となることを期待しての措置である。だが、七十年代になってベルギーが駐留予算節減を理由に軍の引き上げを画策し始めると、安全保障上の理由からアマニアも軍事力の強化を図らざるを得なくなる。だが、大統領警護隊を拡充して国防軍を設立すれば、その人員の大多数はチシャ族とニラ族にならざるを得ず、そして今まで軍事力の蚊帳の外に置かれていた両族に近代兵器が渡れば、わずかなきっかけで深刻な紛争が発生しかねない。

 そのような状況下において取られた方策は、大統領警護隊は従前の役割を果たすために存続させるとともに、新たに徹底的に政治色を廃した中立的立場の国防軍を新設する、というものであった。国防軍は、外敵に備えることのみを任務とし、国内における政治的な任務……治安維持活動などを含む……は一切行わない。国防軍軍人および兵士は、その出身部族を超越した存在とならねばならず、大統領と軍への忠誠心は親兄弟へのそれを上回るものでなければならない……。

 同僚の出身部族を尋ねることすらタブー視される、という徹底した部族主義の排除、政治への不介入主義を貫いたおかげで、アマニア国防軍は各部族の寄せ集めでありながらも、高度に一体化した非政治的武力装置として存続し続けている……。


 第三話をお届けします。

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