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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第十九話

 警備司令室の電話が鳴った。

「こちら警備司令室」

 素早く受話器を取った当番兵が、きびきびと応答する。

「日本のロボットが、罠に掛かりましたかな」

 紅茶を啜りつつ、アナトリー・サンキ大尉がほくそ笑んだ。

「だといいんだが」

 マクシーム・トグア少佐は辛気臭い表情で応じた。

 第526地域警備中隊は、すでに警戒態勢に移行していた。通常、夜間の警備当直は一個小隊だけだが、今夜はもう一個小隊が待機状態に置かれている。トグアもサンキも、徹夜覚悟で司令室に詰めていた。

「なんだと!」

 当番兵が、椅子を蹴倒して立ち上がった。サンキ大尉が、顔をしかめてカップを置く。

「どうした、フィン?」

 トグア少佐は、ヘルメットを手につかんで問うた。どうやら、悪い予感が当たったと思いながら。

「第一検問所がトラック一台によって突破されました。死傷多数」

 いささか慌てた様子で、当番兵が報告する。

「やれやれ。少佐の勘が当たったようですな」

 サンキ大尉が、自分のAKMS突撃銃を取り上げた。

「フィン、警報を鳴らせ。総員非常呼集。戦闘準備だ」

 ヘルメットを被りつつ、トグア少佐は告げた。



 AM‐7を幌の上から飛び出させたまま、ZIL‐151は舗装道路を疾走した。すでに、目立つヘッドライトは消灯してある。

「第二の検問所。千メートル先」

 シンクエンタが、冷静な声音で告げる。

「今度は、簡単にいきそうにないわね」

 スカディが、つぶやいた。

 すでに警報が伝わっているらしく、第二の検問所はトラックの迎撃態勢を整えていた。警備小屋とふたつの機銃座、頼りなさそうな金属柵は第一の検問所と同じだったが、BRDM2四輪装甲車が、柵の後ろで待ち構えている。警備小屋のサーチライトから発する光の輻が、接近するトラックの方に向けられた。

 BRDMが、銃塔の14・5ミリ機関銃を撃ち始めた。

 シンクエンタが、トラックを蛇行させ始めた。KPVT/14・5ミリ機関銃が発射するB‐32焼夷徹甲弾は、射程千メートルで二十ミリ鋼板を撃ち抜く威力を持つ。一連射喰らっただけで、トラックは動けなくなってしまうだろう。

 AM‐7が、01式軽対戦車誘導弾を発射した。ぼしゅっという迫力のない発射音と共に、低伸弾道モードでミサイルが飛翔してゆく。40ミリ擲弾がそれを追い抜いてゆき、警備小屋のサーチライトを吹き飛ばした。96式自動擲弾銃が使用するのは40ミリ×53である。歩兵用ライフルの下部に取り付けられたランチャーから発射できる40ミリ×46と比べれば、初速、有効射程、破壊力いずれもが大幅に上回っている。

 どかん。

 BRDMが、対戦車ミサイルを喰らって爆発した。撒き散らされた破片が、周囲の兵士を殺傷する。

 40ミリ擲弾が、次々と炸裂して機関銃座を潰し、AKMを構える兵士をなぎ倒してゆく。74式車載機関銃も、路肩に伏せた兵士を血祭りにあげてゆく。

 だが、第二検問所に集まった兵士の数は多く、そして勇敢であった。基地本体を守る第526地域警備中隊ほどのエリートではないが、一応枢要な軍事施設の守備を任されているのだ。首都警備師団並みの錬度と、大統領に対する忠誠心は持ち合わせている。

 PK汎用機関銃が、路肩から放たれる。緑色に光る曳光弾が、トラックに迫った。数発がフロントガラスに着弾し、これを粉々に打ち砕いた。ガラスの細片が、スカディと夏萌の頭部に降り注ぐ。

「やってくれたね!」

 夏萌が、お返しに機関拳銃を撃ち始めた。

「つかまれ」

 シンクエンタが、告げた。

 次の瞬間、トラックは車体を傾けながら路肩を乗り越えた。

 路上で爆発が起こる。兵士の一人が、RPG‐7を放ったのだ。

 シンクエンタがハンドルを戻し、トラックも路上に戻った。

 AM‐7が、RPGを発射した兵士を撃ち倒す。PK汎用機関銃も、40ミリ擲弾を喰らって沈黙する。撃ち漏らした兵士も、荷台から顔と右腕を突き出した二組の面々に狙撃され、倒れた。

 トラックのフェンダーが、金属柵を跳ね飛ばした。シンクエンタが巧みなハンドル捌きで、炎上を続けるBRDMの残骸を避ける。

 臨時ロボット302分隊は第二の検問所も突破した。


「第二検問所、突破されました」

 当番兵が、告げた。

「とにかく、一兵でも多く呼び戻してください。特にヘリコプターを急いで。ああ、越権行為だというのは重々承知です。しかし、第68大隊が出払っている現状では、中佐の大隊だけが頼りなんです。頼みましたよ」

 トグア少佐は、乱暴に受話器を置いた。

「政治的に正しいだけで、軍人としては無能な奴が多くて困りますな」

 装備を整えたサンキ大尉が、冷たく笑う。

「今の発言は聞かなかったことにしておいてやる。おそらく、日本のロボットどもは最終検問所も突破するだろう。君は第1小隊を連れて、物資搬入口を固めるんだ」

「お任せ下さい」

 AKMSを掴んで、サンキ大尉が大股に司令室を出てゆく。


「シオ、アクセルを緩めて。二組が飛び降りるわ」

 スカディが、指示する。

 シオは先ほどから目一杯踏み込んでいたアクセルを大きく緩めた。サイドウィンドウから身を乗り出した夏萌から、五体全員が降りたとの報告を受けてから、再びアクセルを踏み込む。

「最終検問所は難関よ。気合を入れていきましょう。このまま、力押しで突っ切ります」

 スカディが、眉を逆八の字にして告げる。

「あんまりエレガントな方法ではありませんねぇ~」

 ベルが、突っ込んだ。

「ここまできたら、手段も方法も選んでいられませんわ」


 最終検問所の作りも、第一、第二検問所と大同小異ではあったが、そこに集結している戦力は桁違いであった。

 路上にBTR‐60PB装輪装甲兵員輸送車二両。左の路肩にMBT(主力戦車)一両。集まっている歩兵は、百名を越えているだろう。

「MBTはT‐55ね。物持ちがいいわね、REAは」

 スカディが、皮肉っぽく言う。

 何本ものサーチライトがきらめき、接近するトラックを捉えようとする。

 と、上空にいくつもの光の華が開いた。照明弾だ。やや黄色がかったいくつもの白い光が、揺れながらゆっくりと降りてくる。

「これじゃあ、不利だよ」

 夏萌が、うめく。AM‐7を含め全員が、闇夜を苦としないことが、臨時ロボット302分隊側のもっとも有利な点であったのだ。照明弾下では、その利点が相殺されてしまう。

 敵が射撃を開始した。BTR‐60が14・5ミリ搭載機関銃を撃ち出す。大きく外れたオレンジ色の曳光弾が、道路脇の林に吸い込まれた。T‐55も、明るい砲炎をあげて100ミリ主砲を発射する。砲弾は疾走するトラックの後方に着弾した。

 AM‐7も射撃を始める。96式40ミリ自動擲弾銃の有効射程は、千五百メートルある。むろん遠距離では、命中精度はそれほど期待できないが、敵が密集している状態なので問題はない。

 炸裂した対人対装甲擲弾が、兵士をなぎ倒す。BTR‐60に命中した一弾は、その装甲を貫いた。BTR‐60の装甲板は、最大でも十ミリ程度である。垂直面であれば五十ミリ鋼板を撃ち抜ける対人対装甲擲弾の敵ではなかった。

 KPVT機関銃の一門が、沈黙する。AM‐7が放った01式軽対戦車誘導弾も、正確にT‐55に命中した。防楯ぼうじゅんを別格とすれば、もっとも装甲の厚い砲塔前面への着弾だったが、01式のタンデムHEAT(直列式成型炸薬)弾頭は百ミリ程度の装甲板など問題にしなかった。吹き込んだメタルジェットが車内の砲弾を誘爆させ、火柱と共にT‐55の砲塔が宙に舞う。

 REA兵士たちの反撃も凄まじかった。擲弾攻撃を生き延びたサーチライトが、数秒だがトラックの上のAM‐7を照射した。数丁のPK汎用機関銃からの銃弾が、一斉にAM‐7に集中する。ボディ前面を襲った百発を越える銃弾は、表面の超々ジュラルミンを貫いたが、その内側のザイロンに絡め取られ、AM‐7の内部機構に損傷を与えることはできなかった。しかし、74式車載機関銃と並んで設置されていた予備センサー群は、銃弾によってずたずたに引き裂かれ、その機能を失った。

 ほぼ時を同じくして、いまだ生き延びているBTR‐60BPから放たれた14・5ミリ機関銃弾は、ZIL‐151トラックのエンジンブロックを撃ち抜いていた。

「アクセルに反応がないのです!」

 シオはわめいた。幾ら踏み込んでも、回転数が上がらない。

「エンジンが被弾して、止まってしまったのですぅ~」

 ベルが、言う。

「みんな、降りる準備を!」

 スカディが、命ずる。トラックが止まれば、集中砲火を浴びることは目に見えている。

「シンクエンタ! 道路を外れて! シオ、合図したらブレーキを」

「合点承知なのです!」

 シンクエンタが、大きく右にハンドルを切った。路肩を乗り越え、トラックが草地に入り込む。

「止めて!」

 スカディの合図で、シオはブレーキを踏み込んだ。どすんとトラックが揺れ、停車する。

 右扉を開き、夏萌とスカディが転がるように飛び出した。ベルとシンクエンタが、続く。シオはダッシュボードの下から這い出すと、仲間のあとを追った。トラックが小刻みに揺れているのは、敵弾を浴びせ続けられているからだろう。銃弾が金属に食い込む鈍い音も、間断なく聞こえている。

「みんな、無事かしら?」

 道路脇の林の中に伏せたまま、スカディが問う。

「あたしは大丈夫だよ」

「生きている。問題ない」

「無事なのですぅ~」

「いまだ絶好調なのです!」

 と、背後にAM‐7がぬっと現れた。

「迂回する。乗れ」

「お兄さんに乗るんですの?」

「急げ」

 AM‐7に急かされ、五体はそのボディによじ登った。予備バッテリーを取り付けてあった後部の金具を足場に、シオ、ベル、夏萌、シンクエンタがかじりつく。その四体に支えられるようにして、スカディがセンサーマストの後ろに陣取った。

「あ、スカディのパンツ、黒なんだ」

 ピンクのドレスの中を覗き込みながら、夏萌が言う。

「マスターの趣味ですわ……って、こんな時に何を言わせるのですか、恥ずかしい」

 スカディが、困り顔で応ずる。

「お兄さんにみんなで乗るなんて、まるでタンクデサントなのです!」

 シオは、戦争映画で見た知識からそう評した。

「シオちゃん、やめてくださいですぅ~。それは死亡フラグなのですぅ~」

 ベルが、突っ込む。

「移動する」

 AM‐7が、姿勢を低くして林の奥へと踏み込んでゆく。


「ヘリコプターが飛んでいるよ」

 夏萌が、指差す。

 シオは音源を捜して空を見上げた。二機のMi‐24攻撃ヘリが低空を旋回しているのが、枝葉のあいだから見えた。

「あれに見つかると、厄介だわ」

 スカディが、言う。対空兵器は、何も持ってきていないのだ。

「地下に入ってしまえば、問題ないのです!」

 シオはそう主張した。

「もっともな意見ですわね。お兄さん、急ぎましょう」

 スカディが言いながら、AM‐7のボディをぺたぺたと叩く。

 先ほどから、照明弾が間断なく上がっていたので、あたりはかなり明るかった。第三検問所のある方角からは、いまだ爆発音や銃声が聞こえてくる。シオたちが迂回したことを気付かないまま、攻撃を続けているのだろうか。

「こちら亞唯、聞こえるかい、一組」

 不意に、二組から通信が入った。

「こちらスカディ。現在物資搬入口に向け移動中。トラックは失ったけど、損害僅少」

「こっちは損害なし。TEL出入口の前まで来た。そちらの攻撃と同時に、爆破突入したい」

「了解。ちょっと待って。お兄さん、物資搬入口まであとどれくらい掛かりますの?」

「五分以内」

「亞唯。五分後に開始でどう?」

「了解。爆薬を仕掛け始めるよ」

 亞唯からの通信が、切れる。

「順調のようですね! さすが、二組です!」

 シオは単純に喜んだ。

「予想より、敵の数が少ないように思えるのですがぁ~」

 ベルが、言う。スカディが、うなずいた。

「わたくしたちに恐れをなして逃げた、というわけでもないでしょうにね。まあ、こちらに有利な点は素直に喜びましょう」


第十九話をお届けします。

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