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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 08 インド洋武器密輸船捕捉せよ!
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第十六話

「どうやら行ったようね」

 遠ざかってゆくキファリア艦隊を見送りながら、スカディが安堵のため息をついた。

 五体のAI‐10は、西脇二佐特製の『AI‐10専用救命浮き輪』を使って、海上に漂っている四十フィートコンテナの側にぷかぷかと浮いていた。シャオミンも、そのすぐ近くで救命胴衣によって浮かんでいる。

「さすがリーダー! 囮ボート作戦は大成功だったのであります!」

 シオはスカディを誉めそやした。

 『宝鶏』から逃げ出した救命ボートに乗っていたのは、実は鶴一電子のパンダロボットたちであった。スカディの指示で雛菊とベルが救命ボートの準備をした際に、起動させておいたのだ。その後、『宝鶏』が爆発炎上し始めたところで、スカディ、雛菊、ベルの三体でパンダロボットに対し船が沈みかけていることを認識させ、救命ボートへの移乗を促したのである。事故からの避難は、純然たる『自己防衛』だから、プロダクトキーの入力が無くても、パンダロボは自主的に動いてくれる。あとは、船外機の操作を教え、逃げる方向を指示し、ボートダビットを操作してボートを海面に降ろしてやるだけで良かった。

「パンダさんはちょっと気の毒だったのですぅ~」

 ベルが、あまり気の毒そうには聞こえない明るい声で言う。

「パンダは犠牲になったのだ、であります!」

 シオはそう応じた。

 やがて、上空に『マカロン』……ブリッジス大尉が指揮するMV‐22B二機が飛来した。スカディが無線交信を行い、位置を説明して救助を要請する。

 五体と一人は、二手に分かれてMV‐22Bに救命浮輪で吊り上げられ、無事収容された。全員が機内に納まったところで、MV‐22Bがすぐに引き返し始める。

 サンアントニオ級ドック型揚陸艦〈メサ・ヴェルデ〉に着艦すると、AI‐10たちはすぐにHH‐60Hに乗り換えるように指示された。シャオミンは、この艦に留まって保護されるようだ。

「ここでお別れのようだな」

 シャオミンが、笑みを見せて五体それぞれと握手をする。

「任務の邪魔をしてしまい、申し訳なく思っていますわ」

 スカディが、にっこりと微笑んで言った。

「もうお会いすることもないでしょうが、お元気で!」

 シオはそう挨拶した。

 離艦したHH‐60Hは、すぐに〈ガンストン・ホール〉へと飛んだ。フライトデッキで待っていたメガンとアルが、笑顔でAI‐10たちを出迎えてくれる。

「よく無事だったな! まあ、お前さん方なら切り抜けられると思ってたが」

 心底嬉しそうに、アルが言う。

「とりあえず、ドリスコル大佐に報告をしてちょうだい。わたしも詳細を上に伝えないと」

 メガンが言って、歩き出す。

「シャオミンはどうなるんだい?」

 並んで歩みながら、亞唯が訊いた。

「この戦隊は、このまま南下を続ける予定だから、彼女が希望すればモザンビークで解放ね。ベイラか、マプートでしょう」

「できれば、わたくしたちも報告などせずにこのまま消えてしまいたい気分ですわね」

 うんざり顔で、スカディが言った。他のAI‐10たちが、うなずきや唸り声で同意する。『海戦』でキファリア海軍を撃退し、こうして無事帰還したものの、任務自体には失敗しているのだ。

『みなさん。コンテナ船沈没の原因は、あくまでキファリア海軍フリゲートによる砲撃ですからね。お間違えないように』

 赤外線通信で、スカディが念押しする。……63式107ミリロケット砲による『誤射』は黙っていよう、という魂胆である。

『リーダー! 嘘はいけないと思うのであります!』

 シオはそう意見した。

『嘘をつくつもりはありませんわ。詳細を省くだけです』

 しらじらしく、スカディが言い放つ。

 通常の民生用ロボットも、ある程度の嘘をつくことはできる。『虚偽の情報』を他者に与えることができなければ、マスターを始めとする関係者のプライバシーや秘匿情報を守ることができないからだ。そして、シオたちに与えられている軍用プログラムなら、もっと高度な嘘をつくことも可能だ。……軍事において、秘匿、欺瞞、偽装、陽動、奇襲といった『嘘』を含む事柄は極めて重要である。



「……以上が、作戦の経緯です」

 説明を終えた首席補佐官が、固い表情のまま口をつぐんだ。

 一言も口を挟まずに聞いていたタッカー大統領が、体重を預けていた椅子の背もたれから上体を起こした。

「では、作戦は失敗だった、ということだな?」

「CIA、海軍ともにそう評価しています」

 大統領の問いに、首席補佐官がうなずく。

 作戦名『オーヴァーアーチ』の主眼は、合衆国海軍により密輸兵器を積載した中国籍コンテナ船に対する臨検を行い、中国による国家ぐるみの兵器密輸に関する確実な証拠を押さえるというものであった。

 だが、肝心の物証はコンテナ船とともにインド洋に沈んでしまった。AI‐10とROCHIが撮影した画像データだけでは、証拠としては充分とは言えない。中国側を引き下がらせるには、国際社会が納得するに足るだけの物証が必要なのだ。

「コンテナ船を沈めた、という結果の点だけをみれば、一見プランC成功と同様の成果を挙げられたようにも思えますが、そうではありません」

 国家情報長官が、説明を始めた。

「コンテナ船団の突然のミャンマー寄港と特殊部隊の投入、キファリア海軍の介入、そして洋上における特殊部隊の捜索開始。詳細はいまだ不明ですが、中国側は我々の計画を何らかの形で察知していた、と思われます。結果的にこちらの損害は僅少、中国側およびキファリア側に多大な損害を与えたことから、成果が上がったように錯覚しがちですが、作戦目的はほとんど達成しておりません。作戦は、失敗です。その一方、中国側は手痛い打撃を被りましたが、こちらの作戦阻止には成功しているのです」

「そうだな。では、中国は今後もアフリカへの兵器密輸を継続するという判断なのかね?」

「CIAの中国アナリストはそう判断しています。おそらく、次回からはより用心深くなるでしょうが、密輸自体は確実に行われるはずです」

 大統領の問いに、国家情報長官が深いうなずきで応じながら言う。

「とすると、もう一度『オーヴァーアーチ』を行うのは難しいのですね?」

 女性国務長官が、口を挟んだ。

「はい。現実的に見て、まず不可能でしょう」

 国家情報長官が、国務長官を見据えて答える。

「ケヴィン。意見を訊こうか」

 大統領が、国家安全保障問題担当大統領補佐官に振った。

「プランBの実行をお勧めします。それも、可及的速やかに」

 即座に、かつ断固たる口調で、国家安全保障問題大統領補佐官が進言した。

「プランAの再実行はまず不可能。そして、今回コンテナ船を喪失したことで、今後プランCを実行しても中国側に与えるインパクトは大幅に減じることとなります。中国およびキファリア側が、近いうちに警戒を強めることが確実視されている現状では、速やかにプランBを実行することが、最善の選択肢でしょう」

 キファリア共和国が中国からの密輸兵器の『配送センター』として利用しているヒンメルハーフェン海軍基地に合衆国海軍特殊部隊SEALsを潜入させ、集積されている兵器類を爆破して、大きな損害を与えると共に中国とキファリアに対し強い警告メッセージを送る、というのがプランBの骨子である。

「わたしもケヴィンに賛成です」

 首席補佐官が、言った。

「ご指摘しておきたい利点が、三つあります。本来プランB単独では、中国に対するメッセージ効果が不十分ではないかという懸念がありましたが、今回の失敗に終わったプランAと連続して行うことにより、より強いメッセージを中国側に与えるという効果が生まれます。第二に、今回日本のロボットたちによって撃退されたキファリア艦隊はヒンメルハーフェン海軍基地の所属であり、現在母港に向け航行中ですが、損傷艦に随伴しているためにその速度は十ノット前後であり、帰還は四日後になる見込みです。当然、その間ヒンメルハーフェン海軍基地の防備は薄くなります。第三に、プランAによる艦隊の損害と、プランBによる基地の損害により、中国とキファリアの軍事的協力関係に楔を打ち込む効果も期待できます」

「ここで手を引くのは愚策か。で、プランBは実行可能なのか?」

 厳しい表情になった大統領が、国家安全保障問題担当大統領補佐官を見据えた。

「主役たるSEALsは、今回は実質的に出番なしだったので、問題ありません。プランBの策定も終わっていますし、装備も揃っています。バックアップ用の無人機の手配もすぐに可能です。ですが、作戦自体の多少の手直しは必要ですので、幾許か時間が必要です」

「手直しというと?」

 大統領が、訊いた。

「状況が変化したので、作戦の延期や中断は絶対に避けねばなりません。当初プランでは、爆破を行う侵入チームは一つだけでしたが、念のため二チームに増やすべきでしょう。足りない人員は、ドリスコル戦隊に帯同している海兵隊で補えます」

「いつまでに実行できる?」

 壁のカレンダーに視線を走らせながら、大統領が訊いた。

「キファリア艦隊寄港前に行うとすると、現地時間で三日後の深夜が適切でしょう。これならば、充分に準備時間を取れます」

「よかろう。実行はまだ保留するが、作戦準備は進めて構わない」

 大統領が、ゴーサインを出す。

「このような任務ならば、軍用ロボットの方が適任ではありませんか?」

 国務長官が、国家安全保障問題担当大統領補佐官を見た。

「本作戦は、秘密作戦です。星条旗を掲げて殴り込むわけではないのです」

 国家安全保障問題担当大統領補佐官ではなく、首席補佐官が説明口調で言った。

「キファリアはならず者国家ではありません。巡航ミサイル攻撃や戦略爆撃機の派遣、海軍の空母艦載機による航空攻撃では、国際世論の支持は得られません。もちろん、キファリア側も中国側も、この作戦が合衆国によって行われたことを確信するでしょうが、国際社会で糾弾されるような証拠を残すのは避けるべきです。陸軍の軍用ロボットを投入すれば、その特徴から我が国の作戦であることは明白となってしまいます。ですが、英語を喋る少人数の特殊部隊ならば、世界中いたるところにいます。我が国は、表向きは無関係であるふりをすることが可能なのです」

「なるほど。よくわかりましたわ」

 国務長官が、納得顔となる。



 ホワイトハウスの決断を受けて、ドリスコル戦隊は新たなプランB……作戦名『タッドポール』実行の準備に入った。

 ヒンメルハーフェン海軍基地に特殊部隊を潜入させるためには、戦隊がキファリア近海に接近する必要がある。検討の結果、戦隊は速力を落としてこのまま南下、モザンビーク北部沖で第五艦隊司令部より『中東某国に不穏な動きあり』との緊急命令を受けて反転北上、キファリア沖約五十海里を通過する、という計画が立てられた。SEALsが潜入と離脱に使用する複合艇(RHIB/硬式ゴムボート)なら、最高速度は四十ノット出せるので、二時間あれば余裕で往復できる。

 問題が生じたのは、その後であった。



「スカディと申します。国務省の方に呼ばれて参りましたわ」

 〈ガンストン・ホール〉の奥深く、とある一室の前に立つ合衆国海兵隊の警衛に、スカディはそう名乗った。艦内であるにも関わらず、腰にM9拳銃を吊っている警衛が、扉をノックする。ノックに応えて扉を開けたSEALsの中尉が、スカディの姿を認めてうなずき、中へと通してくれる。

 部屋の中で待ち受けていたのは、メガン、アルのCIAコンビ、ドリスコル大佐と海軍の少佐、SEALsのブリックス大尉と、その部下らしい中尉二名……そのうちのひとりは、扉を開けてくれた人……、それに上級上等兵曹であった。

「よく来てくれた、スカディ。部下を紹介しよう。情報担当のオメーラ少佐だ」

 ドリスコル大佐に紹介された少佐が、スカディの手を取る。

「改めて紹介しよう。マカリスター中尉、カーヴィル中尉、それに副長のスタンプだ」

 ブリックス大尉が、スカディも顔は見たことはあるが名前までは知らなかった部下を紹介してくれる。どちらも背が高く、若い中尉……マカリスターは金髪で、カーヴィルは黒髪だったが……と、背は低いがいかにもタフそうな面構えの四十を超えていそうな兵曹がスカディにうなずいて見せる。

「単刀直入に言おう。次回の作戦に、AI‐10も参加して欲しい」

 ドリスコル大佐が、告げた。

「わたくしたちでお役に立てるのであれば、参加はやぶさかではありませんが……」

 スカディは慎重な物言いをしつつ、メガンをちらりと見た。

「大丈夫、ナガハマ大佐の許可は取ってあるわ」

 スカディの意図を読み取ったメガンが、すかさず言う。

「少佐。説明してやってくれ」

 ドリスコル大佐に指示され、オメーラ少佐がプランBの存在と、それを元にした『タッドポール』作戦の概要を説明する。

「なるほど。よく理解しましたわ。ですが、その作戦のどこにわたくしたちがお手伝いする余地がありますの?」

「失礼ながら、大きな役割を期待してるわけではありませんよ」

 微笑みながら、ブリックス大尉が言った。

「撤退路の警戒と、上陸/回収地点の警戒だけです。潜入チームが二チームに増やされたので、我々の小隊だけでは人手不足なのです」

 SEALsの場合、一個小隊は十四から十六名程度となる。元のプランではその半数……一個分隊を爆破チームとして潜入させ、残る分隊が警戒と予備となる予定だった。

「それでしたら、この艦に乗り組んでいる海兵隊を使えばよろしいのでは?」

 スカディは、首を傾げつつ訊いた。

「要請したよ、もちろん。そうしたら、共同作戦を逆提案された」

 ブリックス大尉が、苦笑する。

「作戦実行までに、あまり時間は残されていない。共同作戦は、論外だ。指揮統制を複雑化させるだけだからな。もちろん、わたしの権限で強制的に海兵隊から人員を出させることはできる。しかし、乗り気でない連中と作戦を行うのは、どうにも不安だし、ブリックス大尉も避けたい意向でね。必要な人員は、四から六名程度。この際水兵で陸戦隊を編成し、使おうと考えていたんだが、国務省側から諸君らの推薦を受けてね」

 ドリスコル大佐が、CIAコンビに視線を送った。アルが、スカディに向けてウインクして見せる。どうやら、推薦したのは彼のようだ。

「中国陸軍特殊部隊一個小隊を殲滅した以上、あなたたちの実力は確かでしょう。ぜひ、協力していただきたい」

 ブリックス大尉が、スカディを見つめる。

「あなたたちなら、万が一キファリア側に捕らえられても、合衆国の関与を否定できるしね」

 メガンが、邪気のない笑顔で冷徹な事実を付け加える。

「仕方ありませんわね。他のメンバーにも諮る必要がありますが、たぶん皆賛成してくれるでしょう。参加させていただきますわ」

 小さなため息交じりに、スカディは承諾した。


 第十六話をお届けします。

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