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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 08 インド洋武器密輸船捕捉せよ!
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第十五話

 スカディの発射したHJ‐8も、右舷側から接近してきた〈シュライク〉のブリッジを正確に潰していた。火災が発生し、甲板に飛び出して来た乗員が慌てて消火活動を開始する。

 ベルが、無線でスカディに目標への命中と損害効果判定を報告する。

『結構。では、二発目を撃ち込んでちょうだい』

 スカディの指示が、届く。

『リーダー。ミサイル艇は速度も落ちているし攻撃も中断しているのです! もはや脅威ではないのであります! 過剰殺戮は良くないのであります!』

 シオは無線を通じて意見した。

『敵戦力を分散させるのが狙いよ。あの程度の損害では、艇単独でもダメージコントロールが可能だわ。もっと被害を拡大させて、他の艦艇が救助に向かわざるを得ないようにしてちょうだい』

『はっと! そのような意図でありましたか! ではご命令通り射撃するのであります!』

 シオは照準器にホウシン級ミサイル艇を捉え、HJ‐8を発射した。後部のC‐801ランチャーの下あたりの船腹を狙う。

 有線誘導ミサイルは狙った位置に正確に命中した。破口から、どっと海水がなだれ込み、ミサイル艇が左へと傾く。



「〈アイビス〉は〈スワロー〉を。〈カイト〉は〈シュライク〉を救助せよ。本艦は目標の追尾を継続する」

 ユイニャ少将が固い声で命じた。

 シュ中佐は、双眼鏡で〈シュライク〉を見た。一発目のミサイルはブリッジを炎上させ、二発目のミサイルは左舷に大穴を開けている。オレンジ色の救命胴衣を着た乗員が、応急作業に走り回っているが、どう見ても統制の取れた動きではない。半ばパニックに陥っているようだ。

「艦長。主砲発射準備。距離五千で半自動モードを選択。目標の船尾を狙え」

 ユイニャ少将が、命令を続けた。

「閣下」

 双眼鏡を下げたシュ中佐は、慌てて口を挟んだ。〈シーガル〉の主砲は船橋前方艦首部に据えられた79式56口径100ミリ連装砲である。37ミリ機関砲に比べれば、その威力は文字通り桁違いだ。十数ミリしか厚みのない商用船の外鈑などあっさりと突き破り、内部で炸裂するだろう。……一発命中しただけで、コンテナ船が沈みかねない。

「これ以上損害を出すわけにはいかん!」

 ユイニャ少将が声を荒げた。一瞬ひるみかけたシュ中佐だったが、すぐに気を取り直した。こちらは人民解放海軍が派遣した軍事顧問なのだ。相手は海軍司令官とは言え、三流海軍ごときに嘗められるわけにはいかない。

「しかし閣下、あの船は中華人民共和国のものであります。人民解放海軍としては、重要な積み荷を失う危険を……」

 強い口調でそこまで言い掛けたシュ中佐は、ブリッジの雰囲気に急に気付いて口をつぐんだ。

 艦長以下ブリッジ要員の全員が、じっとシュ中佐を見つめていた。冷ややかな視線が、突き刺さるかのように注がれている。

 不意に、シュ中佐はブリッジの中で自分だけが異なる肌の色をしていることに気付いた。……さながらコーヒー豆の中に紛れ込んだ、一粒の乾燥大豆のように。

 急に固さを増したかのようなブリッジの空気に気おされたシュ中佐は、思わずたじろいだ。

「奴らは絶対に逃がさん。たとえ、積み荷をすべて失うことになってもな」

 シュ中佐に視線を据えたまま、ユイニャ少将が宣言した。



「SSN(攻撃型原子力潜水艦)を投入すべきだったな。コンテナ船団に対し密かに追随させておけば、こんな事態にはならなかったはずだ」

 ドリスコル大佐が、愚痴るように言った。むろん、後の祭りである。

「しかし、いまだに信じられませんな。これほど短時間で、あれだけの戦果を挙げてしまうとは」

 ドリスコル大佐が、続ける。

 AI‐10たちの戦いぶりは、随時行われているシャオミンの電話報告により、〈ガンストン・ホール〉でも把握していた。短時間でヘリコプター一機撃墜、ミサイル艇二隻中破の戦果を挙げたことに、ドリスコル大佐はいまだに信じられない思いであった。スカディらの実力を知っているメガンとアルは、もちろん驚いていなかったが。

「あの子たちなら、ちんけな国なら丸ごと乗っ取れるくらいの経験を積んでますからね」

 アルが、まんざら冗談ではない、といった口調で言う。



 〈シーガル〉から飛来した100ミリ砲弾が、船尾至近で大きな水柱を立てた。

『まずいな。本気で撃って来たみたいだ』

 コンテナの上で見張りを続ける亞唯が、報告する。

「距離は五千メートルはあるわね。HJ‐8では届きませんわ」

 スカディが、悔し気に言う。

「こんなこともあろうかと、63式を準備してあるのです!」

 シオはさっそく得意げに反撃を提案した。

「他に手もなさそうね」

 スカディが、消極的に賛同する。

 四体は63式107ミリロケット発射器の準備に掛かった。パイプ状の支持脚を甲板上に据え、安定のために側のコンテナから出した中国産米の米袋で押さえる。ロケット弾の先端に信管をねじ込み、円筒形ランチャーに一本ずつ後方から装填する。

 そのあいだにも、100ミリ砲弾は飛来し続けていた。一発が至近弾となり、コンテナの上に立っていた亞唯に水しぶきが浴びせられる。

 十二本すべてに装填した四体は、発射準備を整えた。雛菊が観測員として舷側に位置し、シオとベルが発射器の両脇に張り付き、操作要員となる。スカディが、長いフレキシブル金属ホースの先端にある発射スイッチを手にし……これにより、砲手は離れた位置から発射管制ができる……少し離れた処に陣取った。

「では、発射するわよ」

 ばしゅー、という音と共に、一発目のロケット弾が発射された。盛大なバックブラストを残して、ロケット弾が飛んでゆく。方向はだいたい合っていたが、射距離は大幅にずれていた。近付き過ぎないように二十ノット程度まで減速したフリゲートの手前五百メートルほどの処に、大きな水柱が立つ。……本来ならば、砲兵用の照準器を使って目標の位置を測定し、射撃統制を行わねばならないのに、目分量で適当に撃ったのだから、外れるのは当然である。

「もう少し角度を浅くすればいいのですね!」

 シオは通常の火砲と同じような回転式のハンドルをくるくると回して射角を変更した。

「二発目、発射!」

 スカディの声と共に、盛大な騒音を残してロケット弾が飛んでゆく。今度は、フリゲートの艦首向かって右斜め前方百メートルほどの処に、水柱が立った。

「ええで。もうちょい浅く、もうちょい左や」

 雛菊が、身振りを交えてアバウトに修正値を告げる。

 シオとベルは雛菊の言葉に従い、ハンドルをくるくる回して適当に射角と方位角を修正した。

「リーダー、修正完了であります!」

「では三発目、発射!」

 スカディが、手の中の発射スイッチを押した。



 ロケット弾が飛んでくるのを、〈シーガル〉の艦長はブリッジから見守っていた。飛翔速度は毎秒三百八十メートルほどなので、充分に眼で追うことができる。

 ……まずい。

 船乗りは、速度と進行方向が異なる『相手』の未来位置を予測し、それとの『衝突』を避けることに長けている。さすがにロケット砲撃を受けた経験はないが、長年艦艇を指揮してきたので、〈シーガル〉艦長はその能力には自信を持っていた。その彼の『勘』が、この一発は至近弾になることを告げていた。落下に入ったロケット弾が、急速に艦に近付いてくる。

「取り舵いっぱい!」

 艦長はとっさに告げた。



 艦長の勘は正しかった。ロケット弾の弾着までに、フリゲートはわずかに左に回頭しただけだったが、その艦首右側に大きな水柱が立つ。そのまま前進を続けていた場合、命中したかどうかは神のみぞ知る事柄だが、最低でも至近弾になっていたことだろう。

 だが、急転舵のせいで主砲の照準は乱されていた。わずかにずれた照準のまま、100ミリ艦載砲が火を噴いた。約五千メートルの距離を五秒半ほどで駆け抜けた砲弾は、『宝鶏』の右舷後方舷側に突き刺さり、外鈑を突き破って船倉内のコンテナ内部で炸裂した。



 どかん。

 荷下ろしの都合上、船倉内のコンテナはすべて通常の貨物が積載されており、100ミリ砲弾が命中したコンテナも、その中身は商用発電機であり、幸いにも誘爆するようなことはなかった。だが、衝撃を吸収するには至らず、炸裂した砲弾により、『宝鶏』の甲板は一瞬海面から持ち上げられたように弾んだ。

 バランスを崩したシオとベルは思わず63式ロケット発射器にしがみついた。発射器が、斜めに傾く。

 スカディも、バランスを崩して尻餅をついていた。その手が、うっかりと発射スイッチを押してしまう。

 一発の107ミリロケット弾が、ランチャーから飛び出した。

 どかん。

 デッキ上に積まれたコンテナのひとつに、ロケット弾が飛び込んだ。爆発でスチールパネルが引き裂かれ、中身が盛大にまき散らされる。

 まことに運が悪いことに、そのコンテナには74式37ミリ対空機関砲用の砲弾が収められていた。爆発によって引きちぎられた対空榴弾がばんばんと音を立てて弾け出し、それが他の砲弾を次々と誘爆させる。爆発が隣接するコンテナに穴を開け、飛び散った砲弾が随所で小爆発を引き起こす。

「あかん。やってもうたわー」

 こけていた雛菊が立ち上がりながら、叫ぶ。

「こ、これは不可抗力ですわ。皆さん、急いで遮蔽物の陰へ」

 珍しく大慌てで走り出しながら、スカディが命ずる。

 四体は急いで船首方向へ走り、爆発を続けるコンテナから逃げた。

『どうなってるんだ、スカディ? 複数のコンテナが爆発してるぞ!』

 亞唯から通信が入る。

『亞唯、甲板に降りて離船準備を。シャオミンさん、舵固定、全速のままブリッジを離れてください。あなたも離船準備を』

 逃げながら、スカディが告げる。

 弾薬が入った他のコンテナに火が回ったのか、どかどかという大きな爆発音が連続して続いた。黒々とした太い煙の柱が立ち上り、それがまた複数回の爆発で吹き散らされる。甲板は、地震の時のように波打って揺れ続けている。

「雛菊、ベル。一緒に来て。ボートの準備をしましょう。シオ、あなたはシャオミンさんを確保。脱出させて。みんな、この船が沈む前になるべく遠くへ離れるように。あと一時間もすれば『マカロン』が来てくれます」

 スカディがそう言ってボートダビットへ向かった。雛菊とベルが、続く。

 シオは船橋の階段を駆け上がった。すぐに、駆け下りてきたシャオミンと出くわす。

「状況は『フロランタン』に伝えたわ」

 一緒に階段を駆け下りながら、シャオミンが告げる。

「ありがとうなのです! もうこの船はおしまいなのであります! 逃げるのであります!」

 シオとシャオミンはデッキレベルに降りた。

「どうやって逃げるの?」

 シオに手を引かれるようにして走りながら、シャオミンが大声で訊いた。周囲で大小の爆発音が連続しているので、怒鳴るようにしなければ会話もできない。

「リーダーが手を考えてくれたのであります! ご安心を!」



 シュ中佐は、黒煙を上げる『宝鶏』を戦慄しながら見つめていた。またひとつ大きな爆発が起こり、『く』の字に折れ曲がった40フィートコンテナが子供に蹴られたゴムボールのように軽々と宙を舞い、炎を纏いながら海に飛び込んだ。

 すでに、船体は右に大きく傾いている。もともとコンテナを満載したコンテナ船は喫水が深いものだが、それがさらに深くなっている。

 大口径機関砲弾を浴びせられたかのように、船橋のすぐ前で連続して爆発が起こった。それをきっかけにして、いくつものコンテナが爆発し、船の中央部が炎に包まれる。大量に水が入ったのか、急に船尾が下がった。さらに大爆発が三回連続して発生し、ついに船体が中央部で二つに引き裂かれる。後半部は、数回の爆発を繰り返しながら急速に海面下に姿を消した。前半部は黒煙を上げながらなおも浮いていたが、大爆発と共に右舷を下にして横倒しとなり、そのままゆっくりと海面にのめり込むようにして沈んでいった。

 コンテナ船が沈む場合、デッキ上に積載されていたコンテナが海に放り出され、多数が漂流するものだが、今回の場合浮いているコンテナは少なかった、ほとんどのコンテナが爆発により穴を開けられていたからだ。海に浮かびながら炎上したり、なおも小爆発を繰り返しているコンテナもある。

 ……終わった。

 シュ中佐はがっくりと肩を落とした。『宝鶏』奪回に失敗。一億二千万ドルの積み荷をすべて失った。その上、キファリア海軍は大損害を受け、おそらくはユイニャ少将との関係も損ねた。……退役までアフリカ暮らしを強いられてもおかしくない失態である。



「閣下、あれを!」

 双眼鏡を手にした艦長が、海面の一か所を指差す。

 ユイニャ少将が、双眼鏡を目に当てた。シュ中佐も、それに倣った。

 ボートだった。開放型の、船外機つき。黒っぽい影が、いくつか乗っている。艇尾から白い航跡が伸びており、高速で遠ざかっているのが見て取れた。

「逃がすか。艦長、主砲発射用意。目標、方位090の小型ボート」

 ユイニャ少将が、命ずる。

 ……おや。

 シュ中佐は、双眼鏡を覗きながら内心で首を傾げた。どうやら、乗っているのは人間ではないようだ。明らかに、輪郭が違う。それに、色彩も妙だ。……なんだか、白黒に見える……。

 100ミリ砲弾が、ボートを襲った。右前方に、大きな水柱が立つ。

 照準を修正し、二発目が放たれた。今度はほぼ直撃であった。引きちぎられたボートが高々と宙に舞い、乗っていた連中が海に放り出される。

 〈シーガル〉は、救命ボートを沈めた場所で漂泊し、海面を調べた。ボートの残骸である小片はいくつも確認できたが、台湾工作員の死体は見つからなかった。そのうちに、354型対空レーダーが、三百ノットを超える高速で接近してくる対空目標を二つ捉える。方位と速度からして、接近中のアメリカ艦隊から発進したMV‐22だと正しく判断したユイニャ少将は、全艦に対しヒンメルハーフェンへの帰還を指示した。ここで合衆国海軍と事を構えるのは、まずい。

 ハイナン級二隻が、それぞれ損傷したホウシン級二隻に寄り添うようにして西に変針する。その後方を守るように〈シーガル〉が続いた。


 第十五話をお届けします。

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